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 クラスの皆と図書室でテスト猛勉強。個室を借りることができ、皆中間テストの時より順位を上げるんだと意気込んでいた。

 こうやって皆と勉強するとやる気も出るし、教え合えて楽しいよね。

 参考書を探しに図書室内を歩き回っていると、もさもさっとした髪型の人が目に入る。あの人は……


「神代くん」

「……篠、塚さん」


 振り返りこてんと首を横に傾げる神代くんは、いつもと変わらずのゆっくり口調。私より大きくて男の人なのに、その仕草が可愛いと思ってしまうのは何故だろう。


「テスト勉強ですか?」

「ん」

「今度は神代くんに負けませんよ」

「ん」


 どんな本を読んでいたのか、神代くんは何の教科が好きなのか話していると、通り掛かった男子生徒の声が耳に入る。


「おい、あれ神代じゃね?」

「ホントだ。オールの神様が図書室に何の用だよ。勉強する必要ねぇだろ」

「いいよなー、勉強しねぇで教科書読んでりゃ覚えられんだから。あんなのカンニングと一緒だろ」


 こんな至近距離でなんて事言うの!?

 確かに読んだだけで覚えられるのはすごい事だと思う。だけどカンニングは言い過ぎだよ。

【オールの神】との呼び名の神代くん。覚えるだけじゃ出来ない計算やリスニングを満点で取った事があるということ。努力あっての結果だよ。


「神代くんはすごいです。自分の力に傲らず努力を怠らない姿勢は尊敬に値します!」

「……?」


 首をまた傾げ不思議そうにしているのを見ると、さっきの言葉は聞こえなかったみたい。よかった。

 男子生徒は舌打ちしその場を後にしたのを見てホッと一安心。言った後、ちょっとあからさまな言い方だったかなって思ったから、もし彼らが怒ったら神代くんに迷惑かけちゃう。


「……ああ、気にしなくていいのに」

「え」

「慣れてるから」


 慣れてるって、さっき言われたこと? もしかしてずっと前から物覚えがいいせいで妬まれていたの?

 そんなのなんか……違うよ。慣れちゃいけない。

 ……でもその言葉は私もよく使うんだよね。悪口を言われ慣れているのは私も同じで、知らない人に何を言われても本当に気にならないから気にしない。だから神代くんの気持ちもわかる。わかるけど……なんか納得できない。

 我が儘だな、私。


「あれ、お菓子作るんですか?」


 最近答えの出ない悩みが増えるなぁと考えていたら、神代くんが持っている本の中にお菓子作りの本があった。


「ん、もうすぐ妹の誕生日だから」

「おおっ、妹さんがいるんですか。私にも優しくてカッコよくて可愛い弟がいます」


 妹さんの為に手作りのケーキを作ってあげるんだそうだ。見習わなければ。私も悠哉くんの誕生日に手作りのケーキを作ってあげたい。誕生日教えて貰って練習だ!

 誕生日で4歳になる妹さんは兄妹で一番の末っ子。そういえば神代くんは兄妹がたくさんいるって聞いたことがあったけど、いったい何人兄妹? 大家族には憧れがあるから聞いてみた。


「6人、兄妹」

「ろくっ!?」


 少子化のこの時代に、6人兄妹なんてすごいことだ。家の中は賑やかに違いない。入院していた時を思い出すなぁ。検診に来ていた子供達と遊んでいた時が一番楽しかった。絵本を読んであげたり、玩具で遊んだり。皆元気だろうか。

 神代くんの兄妹の話を聞きながらお目当ての参考書を手に取ると、神代くんからの視線が。


「……わからないとこ、あるの?」

「え? あ、はい。ちょっと気になった所があって」

「どこ?」


 参考書を覗き込みわからない所を分かりやすいように教えてくれる。さすがたくさんの兄妹のお兄ちゃん。教え方が上手い。


「なるほどー」

「俺も、ここよく、引っ掛かる」

「あ、いた。篠塚さ……あれ神代?」


 ついついわからない所を聞いてしまい、気付いたら随分時間が経っていたみたい。心配して探しに来てくれた田中くんが、神代くんに驚いたように目を見開く。


「神代くんに教えて貰っていました」

「え、神代が? ……そっか、遅いから迷ったのかと思ってた」


 いくら図書室が広いからといっても、さすがに迷子にはならないよ。多分。


「そうだ。神代くんも一緒に勉強しませんか? 今クラスの友達と個室を借りて勉強してるんです」

「………いい。じゃ」


 折角勉強しに図書室に来たのなら皆としようと提案するも、拒むように神代くんは小さく首を振り受付へと行ってしまう。

 1人で集中して勉強をしたいタイプなのかも。


「あいつはさ、物覚えがいいせいか妬まれる事も多くて人と関わるのが苦手なんだ。だから余程親しくないと勉強を教えたりしないんだけど、篠塚さんには苦手意識がないみたいだね。仲良くなってくれて嬉しいよ」

「同じボランティア部だからでしょうか?」


 ベルマークを仕分けしたり神社のお掃除をしたりと、一緒に部活を満喫したから友情が芽生えたのかも。そうだったら嬉しいな。


 でもやっぱり妬まれることあるんだ。悪意の籠った目は怖い。だから前髪を隠して人と距離を置こうとするのかも。ずっと覚えているなんて苦しいもん。






 期末テスト前の日曜日。約束通りお母さんと水着を買いにデパートへ。サマーシーズンとあって、海水浴用品が勢揃い。

 テントにバーベキュー用品に花火。うわぁ、見てるだけで楽しくなってきた。花火してみたい!


「愛花はどんな水着がいいの?」

「あまり大胆なものでなければなんでも」


 水着を着れるだけでも嬉しいからそんなに拘らない。愛花ちゃんが持ってるのは流石にちょっと……だけど。

 お母さんは「そうね〜」と言いながら、水着を選んでいく。私も鏡の前で色々と自分に合わせていく中、水着より引かれるものが。

 浮き輪とイルカの乗り物。泳げないから浮き輪は欲しいし、あのイルカさんをプールに浮かべて遊んでみたい。お家にあるかな?

 導かれるようにイルカさんの前に行くと、隅っこにちょこんと座っている麦わら帽子の女の子がいた。


「………………」


 私の気配に気付いた女の子が顔を上げる。前髪が鼻先まで伸びて表情がよくわからない。背格好から4、5歳ぐらい?

 目は見えないけど私の方を見上げたままだから視線は合ってるはず。だけど何も話さないどころか微動だにしない。初めて会う人に緊張してるのかも。緊張を解そうとにっこり微笑んでみたけど、全くのノーリアクションでちょっと切ない。

 それにしてもこんな小さな子を1人にさせるのは危ないよ。近くを見回してもご両親のような人は見当たらない。あれ、もしかして……


「迷子さんですか?」

「……………っ」


 近付こうとした瞬間、ビクリと肩が揺れ動く。これは緊張じゃなくて、警戒されているんじゃ。


「私篠崎愛花といいます。聖琳高等学校の2年生です。決して怪しい者じゃないですよ!」


 誘拐犯と間違われたら大変だ。慌てて自己紹介をするも、固まったまま動かない。

 そうだよね、警戒するよね。こんな小さな子が迷子になったら心細くて泣いちゃうよ普通。


「………聖琳。お兄ちゃんと、一緒」

「え!? あなたのお兄さんも聖琳の学生さんなんですか?」


 こくんて小さく頷く。

 初めて聞けた女の子の声は、小さいけどとっても可愛い。可愛いこの子! この子みたいな妹欲しい!

 はっ、いけないいけない。つい興奮しちゃうところだった。折角声を出してくれたんだから怖がらせちゃいけないよね。


「お兄さんと同じ学校なんて奇遇ですね。ご両親とはぐれたんですか? 一緒に迷子センターまで行きましょうか」


 こういう人込みの中で迷子になった時の対処方は経験済みです。地図を探して迷子センターに行けばきっと呼び出してくれる。

 だけど女の子は、ふるふるっと首を左右に振り動かない。


「……迷子、動かない。約束」


 迷子になった時は無闇に動かず待つ。それも鉄則。こんなに小さいのにしっかりしてるなぁ。偉いです。

 だけどこのままにしておくなんて出来ない。少しずつ仲良くなって心を開いてくれたら、迷子センターに行くようお願いしてみようかな。それともお母さんに相談してみる?


「……お兄ちゃん、来てくれるもん」


 ぎゅっとスカートを握りしめる手は震えている。どのくらいこの場所にいたんだろう。約束を守るのはいいことだけど、寂しくて怖かったはずだ。


「じゃあお姉ちゃんも一緒に此処で待ちます」

「……え」


 お母さんが来たら夕飯のお買い物して来て貰おう。その間この子と一緒にいてお兄さんが来ればよし、お兄さんが来なかったら嫌だと泣いても従業員さんに任せよう。1人にはさせられないよ。

 警戒心は薄れず、何を話し掛けても笑うことはなく口数は少ない。なんだか誰かと似てるような……

 前髪が長くて口数が少なくゆっくり口調。あれ、もしかしてこの子!?


「ねぇ、もしかして神し…「柚希!」…え?」

「お兄ちゃんっ」


 私の質問を遮るように叫んだ男の人の声。振り向くと同時に女の子が飛び出す。

 駆け出した拍子に麦わら帽子が落ち、女の子を抱き止めるように抱っこしたのは、


「神代くん!!」

「篠、塚さん?」


 黒のTシャツにジーパン姿の神代くんだった。





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