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 ピリピリした空気の中、間宮先輩との約束がある私は此処でさよならしようと声を掛けようとした。だけど私が声を発する前に、西嶋さんが関さんの前に立つ。


「なんか用?」

「勘違いしないでくれる? 私が用があったのは篠塚先輩であんたじゃないの。自意識過剰じゃなぁい?」


 小馬鹿にしたようにクスクスと笑う関さんに対し、ギリリと聞こえそうなぐらい歯を噛みしめる西嶋さん。睨み合う2人が何かに似てる。あ、あれだ。ハブとマングース! 


「篠塚先輩に噛み付いていたみたいだけど、あんまり醜い姿は晒さない方がいいわよ? 間宮先輩の品位が下がるだけだから」

「どこも噛み付かれていませんよ?」


 私の体にはどこも外傷はない。不思議に思い首を傾げるも、関さんは私に視線を向ける事なくさらっと流し、西嶋さんに向けて楽しそうに目を細める。


「それともそれが目的なのー? 慕う振りをして間宮先輩の株を下げるなんて策士ねー」

「なっ、違うわよ!」

「あれぇ? 慌てるなんて図星? 西嶋さんって酷い人みたいですねぇ、篠塚先輩」

「へ?」


 急に話を振られポカンと口を開ける。西嶋さんは違う違うと否定する程、怪しいと言われ黙るしかなかった。

 本当に間宮先輩の評判を下げる為に傍にいるのだろうか? そんな訳ない。西嶋さんは本当に間宮先輩の事が大好きだ。

 だからこそ、必死に私を一ノ瀬先輩から引き離そうとするし、私がもう付きまとうような事をしていないと知った時、本当に安心した顔をしていた。


「そんな事ないです」

「え」

「西嶋さんは間宮先輩の事が大好きです。間違いないです」


 誰がなんと言おうと、私はそう思う。本当に好きなのにそれを疑われたら辛いはずだもん。否定すると真っ先に西嶋さんが目を見開いて驚き、関さんが一瞬目を細めた気がしたけどすぐに元の笑顔に戻る。


「篠塚先輩やっさしー。友達1人もいないぼっち女にまで優しいなんて、さすが八方美人ですね。でも、あんたが間宮先輩を好きでも間宮先輩はどうなのかなー?」

「はぁ? どういう意味よ」

「あんたの事そんなに好きじゃないんじゃない? だってあんた信頼されてないじゃん」


 ピクりと肩が揺れる。


「だってあんた何も知らないじゃない。婚約者がいるのに一ノ瀬先輩タブらかして、皆の前で告白したのに返事は保留。おまけに榊先輩とも色々噂があるみたいだしぃ? 間宮先輩が一ノ瀬先輩を好きなら、さっさと付き合っちゃえばいいのに。色々噂されて否定しないのはどうしてって聞いたよね?」

「あんたに教える必要がないからよ!」


 私が不思議に思っていた事は他の人も同じように思っていたらしく、実は裏で間宮先輩の悪い噂が流れていたらしい。2人が両想いなのは明らかだと思う反面、付き合う訳でもなく傍にいるだけで、幼馴染みの榊先輩とも仲良さげに2人でいる所を目撃されている。

 端から見たら悪女。そんな噂を流されたら、間宮先輩が大好きな西嶋さんが黙ってられるはずがない。だけどいつものように言い返せなかった。

 何か理由があるからだと訴えても、じゃあその理由はなに? と返されたら何も知らない西嶋さんはそれ以上反論出来ず、ただ怒鳴るしかなかった。そんなはずない。間宮先輩はそんな事をする人じゃないと。

 元々好感度が高かった間宮先輩は、他の人からも言えないけど何か理由があるんじゃないかと、思ってくれている人はいた。でも好感度が高かった分、嫉妬される事も多く、しかも一ノ瀬先輩は人気者。ファンの人から見たら許せないと思うのが心情で。


「大事な後輩にも言えないとか都合良すぎ。本当に理由があるんだとしたら、あんたは教える価値もない、どうでもいい存在なんじゃないのぉ?」


 唇を噛み締めたまま立ち尽くす西嶋さんの周りをぐるりと回り、クスクスと可愛らしく笑う。でもなんでかな? ムカムカしてきた。


「子供みたいに癇癪起こしてばっかりで、さすがの間宮先輩もあんたの事、鬱陶しいと思ってると思うわよ。ね、友達の1人もいないぼっち女さん」

「います!」

「はぁ?」

「私は西嶋さんのお友達です。だから西嶋さんはぼっちじゃないです」


 高く手を上げ、宣言するかのようにはっきり大きな声で言う。驚きに目を開けた西嶋さんの目尻にはうっすらと涙が。悔しかったんだ。友達がいないと言われたからじゃない。間宮先輩ついて何も知らされていない事が事実だから。

 でも大丈夫だよ。私はちゃんと間宮先輩から聞いてるもん。


「それに、間宮先輩は西嶋さんの事が大好きだって言ってました。自分の気持ちに正直な所が好きだって。だから西嶋さんをそれ以上追い詰めないでください」


 憶測だけで惑わせちゃいけない。間宮先輩が言えないのもきっと事情があるんだ。私が天使さんと約束した時のような、人には言えない事情が。


「………私、あんたと友達になった覚えなんてないけど」

「うぇぇえっ!? な、ならお友達になってください!」


 まさか西嶋さんに否定されるなんて。でも嫌われていたんだよね、そういえば。怒鳴られても悪態つかれても、あんまり嫌な気にならなくなってきたからなぁ。

 堂々と友達宣言したくせに、本人から否定されるなんて恥ずかしすぎるぅっ。祈るように友達になって欲しいと手を組んでお願いすると、西嶋さんの表情が変わっていく。

 頬を少し赤らめて眉間に皺を寄せ、下唇を突き出した変な顔。あれ? これって……


「あんたが……あんたがどうしてもって言うなら」

「どうしても! どうしてもお友達になりたいです!」


 プルプルと肩を振るわせ俯く。幻かな? 西嶋さんの頭から湯気が出てるような。どうしたのかと近寄れば、1歩後ろへと後退られる。また1歩近寄れば1歩後ろへ。なんだか面白い。


「と、友達になったからって、ベタベタしないでよ!」


 顔を林檎のように真っ赤にさせた西嶋さんは、顔を見せないよう後ろを向き、


「……別にあんたから話し掛けてもいいけど」


 耳に届くか届かないかの小さな声でそう言った後、猛スピードで走り去ってしまった。廊下を走ると危ないですよ。

 怒っていたように感じたけど、あの変な顔は照れてる顔のはず。わかりづらいけど、喜んでくれてるんだよね? うん、そう思うことにしよう。

 ベタベタしないでとは言ったけど、話し掛けてもいいならドンドン話し掛けよう。西嶋さんと友達になりました。やっほい。


「篠塚先輩も物好きですね。あの子と友達になったら、折角上がった先輩の好感度がまた下がっちゃいますよ?」

「そういうのは気にしないです。元々嫌われてましたし」


 愛花ちゃんになったばかりの当初は、周りからの悪意の眼差しでいっぱいだった。今は友達も出来て、あからさまな態度を出す人は少なくなったけど、それがまた増えた所で別になんとも思わないわけで。


「はぁぁあ。やっぱり先輩そういう人かー」


 色々思い更けていると、大きなため息と共に天井を眺める関さん。「んー」と何回かうねりながら目を閉じていると思ったら、急に私の方を見てにっこり笑う。


「じゃあ私とも友達になってください。あの子はよくて私はダメとか言っちゃ嫌ですよぉ?」


 首をこてんと横に倒し頼む姿は、男の子ならきっとメロメロだ。西嶋さんと友達になった今、過剰に追い詰めようとしていた関さんから友達にと言われても、すぐに頷く事が出来ない。

 でも関さんが言うように、西嶋さんと友達になったのに関さんはダメなんてダメだ。自分が同じ立場だった悲しすぎる。


「はい、私でよければ」

「本当ですかー、嬉しいです。ねぇ、先輩。友達になったんですから困った時は助け合いましょうね」


 両手を繋いで嬉しそうに喜ばれる。私と友達になって、そんなに嬉しいと思ってくれるとは。照れちゃいます。


「はい。困った時はお互い様ですから」

「絶対ですよー。じゃあ私はこれで。さよならー」


 ヒラヒラと手を振って、西嶋さんが去っていった廊下を歩いていく。あれ? 関さんは私に用事があったんじゃ?

 首を傾げつつ、間宮先輩との待ち合わせをしていた玄関へと急ぐ。遅くなっちゃった。絶対待たせてる。

 早足で下駄箱にたどり着きローファーに履き替えると、


「遅いぞ、愛花」


 口振りは怒っているのに、その表情は穏やかで。でもどこか疲れた様子の間宮先輩だった。






ツンデレ西嶋はついに愛花に毒された。愛花はツンデレ西嶋と友達に。

不穏な空気は未だに収まらず、次は間宮先輩と一ノ瀬先輩の事情に迫ります。


誤字脱字報告ありがとうございます。年始のお休みの間に直します。

次回は31日予定です。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脱字:に 。間宮先輩ついて何も知らされていない事が事実だから。
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