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番外編 生徒会サンタさんは大忙し

 クリスマスという事で番外編です。本編に全く関係ないのでサラッと気楽に読んで頂けたら幸いです。


 前半は一ノ瀬視点、後半は主人公視点です。



  


  

  

 肌寒い季節になり、後数日で2学期が終わりを迎える頃。食堂で昼食を食べる生徒会メンバーの中に、珍しく愛花もいた。普段は1階で食べる事が多いが、今日は健人が誘ったらしく、美味しそうに頬袋を作りながら鍋焼うどんを食べている。実にいい表情だ。

 そんな時、愛花が何かを思い出したのか急にわくわくしだし、にんまりと微笑んだ。何かあったのか? と聞けば衝撃的な事を口にした。


「もうすぐクリスマスだなと思いまして。今年もサンタさんが来てくれるかもしれないかと思うと、わくわくしちゃいます」


 愛花以外の生徒会メンバー全員が固まる。1人はきんぴらを食べようと箸を口に運ぶ途中で。1人は牛丼を口にかけ込む途中で。1人はヘラヘラとした笑顔のまま。

 空耳……だったかもしれない。よく聞き取れなかったと言ってもう一度聞き返せば、


「クリスマスのプレゼントですよ。一ノ瀬先輩はサンタさんに何をお願いしたんですか?」


 愛花は微笑む。無邪気な無垢の笑顔で。

 ……って、いやいやちょっと待て。そんなバカな。サンタ? 嘘だろ? 冗談を言っているようには見えない愛花の笑顔。まあ、愛花は冗談を言えるような子じゃないけど、それにしたってサンタ!? まさかまだ信じているのか?

 はっ、そうだ。サンタ=両親という解釈なのかもしれない。きっとそうだ。


「そうだな。新しいパソコンが欲しいと思ってたから、当日親と買いに行くと思う」

「??? どうしてご両親とお買い物に行くんですか? サンタさんにお願いしないんですか?」

「………………」


 俺の表情は笑顔のまま固まった。


「え、もしかして愛花ちゃん……サンタ信じてっ、ぐはっ!?」


 俺が固まっていると、隣にいた啓介が肩震わせ頬をヒクヒクさせ今にも大笑いしそうだった。すかさず横腹に肘打ちを喰らわせ黙らせる。危ない所だった。

 愛花のサンタ発言にまだ困惑している健人と新に、何も言うなと訴えかけるように視線と首を左右に軽く振れば、了解とばかりに頷く。


 キラキラとした目でサンタの話をする愛花に、無慈悲な事を告げるのはどうなのだろうか。いずれはわかる事なのだから、今真実を教えれば傷は浅い。その方がきっと愛花の為だ。だが本当にそれでいいのだろうか?


「ぐっ……愛花ちゃんは、サンタにぶっ、何をお願いするの?」


 どうしたものかと悩んでいると、横腹を擦りながら笑いをこらえる啓介が、プレゼントは何が欲しいのかと聞く。唸りながら悩み、照れたようにはにかむ愛花を、健人は食い入るように見ていた。当の本人は気付かないまま。

 わかりやすい奴。


「うーん、欲しい物はないんです。今の生活が本当に楽しくて申し訳ないぐらいで。だから皆が幸せになりますようにってお願いしたいです。皆が笑ってくれると私も嬉しいから」


 それクリスマスじゃなくて七夕。

 ツッコミたくはなるが敢えて沈黙。皆が幸せにか……愛花らしいな。

 その後は他の奴がなんのプレゼントが欲しいかという話題に変わり盛り上がる。話しを聞いている間ずっと考えていた。別に今すぐ教える必要はないんじゃないかと。確かにいつかは真実を知る事になるだろう。だけど、今は純粋なままの愛花でいいんじゃないかと思う。


 昼食を食べ終わると愛花は先に教室へと戻り、残った俺達は輪になって集まる。


「いや〜、まさか本当にサンタを信じてるとはね。聞いたさっきの? 真顔で靴下用意しなきゃって言ってたよ」

「いくらなんでも高校生にもなってサンタはないでしょう」

「篠塚らしいと言えばらしいがな」


 戸惑いは当然の反応。愛花がサンタを信じているのは間違いない。

 だがそれは記憶喪失だからなんじゃないかと思う。去年は父親にブランド物の限定バックを買って貰うのだと意気込んでいたのを覚えている。

 今年も愛花の父親がプレゼントを用意するだろう。サンタの格好でもして。しかし今の愛花は物を欲しがったりはしていない。そうなると困るのが愛花の父親だ。何を送ればいいのか迷うはず。きっと今の愛花なら何でも喜ぶだろうが、どうせなら愛花の願いを叶えてやりたい。


『皆が笑ってくれると私も嬉しいから』


 皆の笑顔。

 ならあれしかない。


「御子柴。生徒会室に行ってデジカメを持ってきてくれ」

「ん? わかった」

「新はネットで愛花が好きそうなアルバム用の本を探してくれ」

「え、どうしてですか?」

「なになに? なにする気〜?」


 一斉に俺に注目が集まる。



「俺達がサンタになるんだよ」







 新が生徒会室のパソコンで検索している間、残りの休み時間の間に数枚は写真を撮っておきたい。なにせクリスマスまで時間がないからだ。


「和樹の考えはわかったけどさー、皆にどう説明して写真を撮らせてもらうつもり?」

「適当に生徒会の仕事でって言っておけば大丈夫だろ。学期毎にしおり用の写真を撮ったりしているから、怪しまれたりしないさ」


 啓介が何か騒いでいるがスルーだ。

 手始めに愛花の友人である瀬田と内村に会いに、2年の教室へと向かう。教室から2人を階段の踊り場へと呼び出す。不可解そうに首を傾げる2人に、愛花にクリスマスプレゼントとして写真を送る為にと伝えれば、納得してくれた。


「この事は愛花には内緒にしておいてほしい」


 愛花と仲がいい2人ならきっとわかってくれるだろう。この意味を。今は不思議に思っても、写真で喜ぶ愛花を見ればわかるはずだから。


 次に愛花のクラスで普段の教室の雰囲気を撮ると言ってシャッターを押す。最初は戸惑いぎこちなく笑うが、3枚目には皆いい笑顔で笑ってくれた。どさくさに紛れて田中の笑顔もアップで撮ったのは、愛花へのサプライズだ。


「あとA組の神代とも仲がいいな」

「え、2年の神代ってあのもさもさの? 笑顔とか無理じゃない?」


 成績優秀ということで、2年の神代の噂は俺の耳にも入っている。前髪が長く表情を読み取りにくいとも言われていて、あいつから笑顔の写真を撮れるのだろうかと悩む。

 しかしそれは難しい事じゃなかった。愛花に送る為だと言えば、雰囲気が柔らかくなり口角が少しだけ上がる。これはもしかして……

 御子柴、ライバルは田中だけじゃないようだな。


 昼休みが終わり、放課後は先生や愛花と関わりのある生徒達の下へと走り回った。クリスマスより前に終業式が来るから、2、3日中に撮り終えなければ。

 翌日も愛花にバレないよう写真を撮りに校内を歩き回る。生徒会の仕事をしていたせいか、思ったより愛花と関わりのある生徒は多い。二手に別れて写真を撮る事にしたが、啓介が何か考え事をして個人行動をすると言い出した。


「校内だけじゃないでしょ。愛花ちゃんの知り合いは」


 そう言って放課後はさっさと帰っていく。サボりかと思ったが、デジカメを片手に駆け足している姿を見ると違うようだ。

 そして漸く撮り終えた俺達は生徒会室に集まる。いいアルバムが見つかったと新が言い、パソコンの画面を見れば、


「うわぁ……」


 啓介が若干引いているのも仕方がない。真っ白のアルバムには、ピンクの薔薇やリボン、メルヘンちっくな絵柄が描かれたロリータ系の物。確かに愛花が好きそうだ。

 ……よく見つけたな新。


「先輩の好みがわからなかったので、先輩の友達に聞いてみたらこういう感じのが好きなんだそうです」

「そうか、ありがとう新。お金は俺が出すから俺の家宛に購入しておいてくれ」

「え、ワリカンじゃないの? これ結構するよ?」



 値段は普通よりかなり高めだが、クリスマスプレゼントだと思えば構わない。だが健人が自分も出すと言って譲らず、最後は4人で出しあう事となった。

 アルバムが届くのは明日。それまでにどの写真を送るか選ぶ事にした。写真に写っているのは顔見知りの奴もいれば、誰だ? と俺の知らない奴もいる。

 記憶喪失になる前の愛花は大概俺の傍にいたから、それほど交友関係は多くなかったと思う。だけど今の愛花はかなり交友関係が広くなったはずだ。明るい性格もあって、学年が違う生徒とも仲良く話している場面を何度も見た。

 ただ問題もある。



 以前駅の改札口で愛花を見掛けた時の事だ。中年の男性と楽しそうに話している愛花が俺に気付き、手を振ると男性は俺を見た途端逃げるように立ち去った。怪しいだろ。


「知り合いか?」

「いえ、今日初めて会いました」


 危ない。危機感というか警戒心が無さすぎる。

 無闇に知らない人と話しすぎるのはやめておけと忠告すると、本人はなぜ? と言わんばかりに首を傾げるだけ。幼稚園の子供に言い聞かせてる気分だ。


「もし悪人だったらどうする。連れ去られるぞ」

「でも今の人は優しそうないい人でしたよ?」


 本当の悪人はいい人を装っているんだぞ愛花。

 ご両親も心配するからと言えば、心配かけたくないのかすぐに頷いた。これで少しは警戒心を持ってくれるといいのだが。



 愛花は人を変える。

 健人は我が道を行くような男に見えるが、実際は周りをよく見て問題が起こればフォローしてくれる出来た男だ。後輩に慕われるのもわかる。だが恋愛面ではからっきしで、初恋もまだだった。

 その健人がまさかの恋。それも愛花に。愛花に対しては過剰なぐらいのスキンシップをしだす始末。そのうち押し倒すんじゃないかと心配だ。

 新と啓介は雰囲気が丸くなった。毒舌で問答無用で相手を非難していた新が、今は言い過ぎた時は謝り、嫌いな相手でも気遣うようなってきた。

 啓介は……時折鋭いナイフのような空気を纏う啓介。誰かを傷付ける事に躊躇する事なく、自分の大事なものの為なら容赦しない。その冷酷さの裏にある思いを、俺はなんとなくわかっている。その大事なものが何なのかも。一度その事に触れたら笑って逸らされ、踏み込ませてくれなかった。

 その啓介があんなに嫌っていた愛花の為に、一生懸命走り回ってくれた。最近じゃ2人で笑いあっているのも見掛ける。前よりずっと柔らかくなっていると思う。

 愛花は人を変える。柔らかくする。それは凄い事だ。

 しかしたまに胃を潰しかねないぐらいの心配事を持って来るのはどうにかならないものか。まあ、それも愛花の個性なのかもしれないが。……そんな個性は勘弁して欲しい。


「あれ、これって先輩の弟さんですよね?」


 考え事をしながら写真を見ていると、野球部のユニフォームを着た悠哉が笑っていた。これ隠し撮りだろ絶対。愛花が見たら発狂するんじゃないか? 悠哉のこと大好きだからな。


「学校だけじゃなくて、家族の写真とか駅員さんのとかあった方が、愛花ちゃん喜ぶでしょー」


 悠哉だけじゃなく、愛花の両親や駅の近くにあるパン屋さんのおばさんの写真まで。これだけの写真を撮るのに、随分時間と手間が掛かったはず。あの啓介がここまでしてくれるとは、俺も思わなかった。


「凄いな啓介。きっと愛花大喜びだな」

「べっつにー? 大した事なかったけど」


 啓介が照れてる時の反応はわかりやすい。ヘラヘラ笑っているが、愛花の為に走り回ったのが想像出来る。

 アルバムに入れる写真を決め、最後は俺達だ。友人や知り合いの人の写真は撮っていても、生徒会メンバーの写真はまだない。


「ほら集まってくれ。新、御子柴、笑顔だからな」

「善処する」

「……わかりましたよ」


 写真を撮られる事が苦手な新と、笑顔が苦手な健人。生徒会室で男が集まって写真とか、結構シュールだがこれも愛花のためだ。

 シャッター音が鳴る度に確認して撮り直し。健人の笑顔が不気味すぎる。はっきり言って気持ちが悪い。


「じゃあさ、デジカメを持ってるのが愛花ちゃんで一生懸命シャッターを押そうとしてるのを想像してみたら?」


 愛花が写真を撮ろうと奮闘しているのを想像して、俺もつい口が綻ぶ。ブレてしまったり、シャッターを押したのに反応しないのを不思議に思いレンズを覗き込む姿が浮かび上がるからだ。

 それは健人も同じようで、今度の写真はとんでもない笑顔が撮れた。普段なら絶対に見られないであろう笑顔。慈しむように、それでいて愛しげに。愛花にしか見せないものだった。

 愛花……健人をここまで変えるとは、恐ろしい。



 取り敢えず写真は選び終わり、後はアルバムが届くのを待つだけ。写真を入れるのは俺がすると言って、生徒会メンバーは一度解散となった。

 後日俺の家に届いたアルバムに写真を入れ、クリスマス用のラッピングをして完成。これだけでも喜んでくれるとは思うが、何かもう1つプレゼントを送ろうかと思う。

 愛花が好きそうな物。喜ぶ物。ふと頭の中に思い浮かぶのは、美味しそうに学食を食べる姿。


「休日お菓子でも買いに行くか」


 クリスマスプレゼントは25日に悠哉に渡す予定だ。明日終業式を終え、イブの日に出掛ける事にした。

 美味しいと評判のケーキ屋で、手作りのクッキーがあった。クリスマスとあって、形もサンタやクリスマスツリーといった可愛いものが多く、これなら愛花も喜ぶと思う。



 こうしてアルバムとクッキーを持って、生徒会メンバーとの集合場所に行くと、全員俺と同じ考えをしていたようで。


「アルバムだけじゃ寂しいかなーて思って。愛花ちゃんが好きな物といったら、あのウマウサちゃんでしょ」


 啓介はバカでかいラッピングに包まれたぬいぐるみを持ってやって来た。以前愛花がウマウサちゃんとやらのリュックを背負っていたのを思い出す。

 何処で見つけたんだそんなもん。


「篠塚が好きな物と言ったら肉だろ」


 それはお前だろ!

 ツッコミたくはなるが、俺も食べ物系だし何も言うまい。国産和牛の上等な肉を取り寄せたらしい。クリスマスに生肉……。腐るから冷蔵庫に入れて置いて貰おう。


「僕は乾燥する時期なので、肌のお手入れセットを。保湿性も高く、凄く良い匂いがするのでお勧めなんですよこれ」


 ……相変わらず女子力高いな新。だが女子にとって乾燥は天敵らしいから、愛花は喜ぶんじゃないだろうか?

 俺のを合わせてプレゼントは5つ。ビックリする所じゃないかもしれない。まあ、嫌がる事はないだろう。


 プレゼントを持って愛花の家に着く前に悠哉に連絡を入れる。前日に家に行くと連絡済みなので、悠哉はすぐ玄関から出てきた。


「……なんすかそれ」


 愛花に気付かれないよう、家から少し離れた場所で待つ俺達を見てドン引きしている。此処に来るまでの間も、通行人からの視線が痛かった。そりゃ大の男がプレゼントを持って歩いていたら目立つよな。


「これを愛花に見付からず、サンタからのプレゼントとして愛花の部屋に置いて欲しい」

「えっ、でも」

「これは悠哉にしか頼めないんだ。頼む」


 此処で断られたら夜に玄関の前に置くしかない。それか愛花のお母さんに頼むしかないのだが、それはかなり恥ずかしいものがある。心情は察して欲しい。


「……はぁ、わかりました」

「ありがとう悠哉」


 渋々というより、半ば呆れ気味で引き受けてくれてひと安心。ほっと胸を撫で下ろし、啓介達も悠哉にお礼を言ってその場を後にした。


「はぁー、サンタって大変」

「同感ですね。来年は御免ですよ」

「とか言いつつ手伝ってくれそうだがな」


 色々と慌ただしかった数日。明日の朝、愛花がどんな顔をするのかと思うと楽しくなる。しかし……いつか愛花も真実を知る日が来るのだと思うと寂しく思えるな。






◇◇◇◇◇◇◇




 ショックです。サンタはいなかったそうです。


 クリスマスイブ前日の夕食。サンタさんにクリスマスプレゼントをお願いしましたか? と悠哉くんに聞きました。悠哉くんの事だから野球関係かも。期待するような眼差しで見ていると、


「はぁ? サンタなんかいるわけねーだろうがバーカ。親父にマウンテンバイク頼むつもり」

「……………え」


 あまりの衝撃発言に、悠哉くんの言葉を素直に受け止められなかった。

 サンタがいないなんてそんな……あるはずないです。だって毎年病院のベッドの枕元にプレゼントが置いてあったもん。看護師さんもサンタさんから貰えてよかったねって。


「やーね。愛花ももう高校生なんだからサンタを信じてる訳ないでしょう。お父さんの事を言ってるだけよ。でも懐かしいわね。小さい頃は、毎年お父さんが枕元にプレゼントを置いていたのよ」


 ガラガラと私の中の何かが壊れていく。お母さんの話が本当なら、私の枕元に置いてあったプレゼントは看護師さん達が置いたっていうこと。

 サンタさんはいない。


「おい、顔色わりーぞ」



 ショック過ぎて青くなる所か、サラサラと灰になりそうだった。


「お前まさか……サンタ信じてたんじゃねーだろうな」

「えっ、そうなの愛花!?」


 お母さん達の声が遠退いていく。

 ああ、サンタさんはいなかったんだ。ショックでその夜は落ち込みまくっていた。


 一晩経った朝、よくよく考えると感謝するべきだと思い立った。確かにサンタさんがいないのはショックだったけど、今まで貰ったプレゼントは両親が送ってくれた物で、看護師さんがサンタさんを信じていた私に配慮してくれたんだと思う。

 そう思ったら申し訳ない気持ちと、ありがとうの感謝の気持ちが出てきた。うん、そうだよ。サンタさんはいなかったけど、身近にサンタさんがいたんだ。ありがとう、お父さんお母さん、看護師さん。



 クリスマスイブ当日。お仕事で県外にいるお父さからプレゼントが届いた。以前に電話でクリスマスプレゼントは何が欲しいのかと聞いてきた物。今思えば、この時点で不思議に思えばいいのに、すっかりサンタさんを信じきっていた私は何をお願いするのか聞いてきただけだと思っていた。

 思い込みってすごい。

 お父さんからのプレゼントは『どんな汚れもこれ1本』と話題の洗剤。通販番組で、こびりついた汚れをあっという間に落としちゃった優れもの。これさえあれば年末のお掃除も楽しくなります。

 電話で本当にそれでいいのか? と何度も聞いてきたお父さんが不思議だったな。こんな良い物をプレゼントしてくれて、後でお礼の電話をしなきゃ。

 悠哉くんは新品のマウンテンバイクを嬉しそうに見ていて、私が貰ったプレゼントを見せたら、


「バカじゃねーのお前」


 呆れられた。

 え、なんで?


 真実を知った衝撃的なクリスマスだったけど、周りの人達の優しさを知ったとても楽しいクリスマスだった。



 クリスマスイブが終わり、12月25日のクリスマス本番。本当は今日プレゼントを貰うのが正しいのだけど、すっかりクリスマスイブに貰うのが普通になってしまっていた。それは愛花ちゃんのお家も同じようで。

 クリスマスの朝、いつも通りの時間に目が覚めて背伸びをすると、ベッドの横に沢山のプレゼントが。


「えっ、なんで……まさかサンタさん!?」


 頬っぺたをつねったり叩いたりしても消えない。夢じゃない。頬っぺたがヒリヒリする。

 ということは……夢じゃない!!


「悠哉くん悠哉くん悠哉くん悠哉くーーーん!! サンタさんからプレゼント貰いました! 沢山、沢山貰いました!」


 興奮のあまり悠哉くんの部屋のドアを叩き、寝ている悠哉くんを揺さぶってしまった。寝ている所を起こされ不機嫌度MAX。眉間に皺を寄せて、又も衝撃発言が。


「んな訳ねーだろうが。生徒会の人等が昨日渡してくれって言ったんだよ。後でお礼言っとけ」


 もう出ていけと言って、再び布団の中に潜り込む悠哉くん。

 え、生徒会の人って一ノ瀬先輩の事? どうして先輩達が?

 混乱の中、自分の部屋に戻りプレゼントを見る。これを先輩達が……

 水色の綺麗な包装紙に包まれたプレゼントは、お肌の手入れをするクリームや石鹸の詰め合わせ。肌を傷付けないスポンジ付き。これはきっと千葉くんからだ。

 クスリと笑い、次にオレンジのプレゼントは四角い缶の箱。可愛らしいサンタさんの絵柄が描かれた蓋を開けると、中には色んな形をしたクッキーが。可愛過ぎて食べるの勿体ない! これは誰だろう?

 次に1番大きなプレゼント。リボンをほどき中から現れたのは、


「うひゃーっ! ウ、ウ、ウサウマちゃぁぁああああっん!!」

「うるせーっ!」


 壁を蹴られてしまった。危ない危ない、まだ朝早い時間だから静かにしないと。

 大きなプレゼントは、特大サイズのウサウマちゃんのぬいぐるみ。思わず抱き付き、ほわほわの毛並みが気持ちいい。幸せすぎる。これをプレゼントしてくれた人は誰なの? ありがとうございます!

 興奮しきった私の目に、ウサウマちゃんぬいぐるみの下敷きになっているもう1つのプレゼントが目に入った。

 ずっしりと重みのあるそのプレゼントは、一冊のアルバム。私好みのメルヘンな外装で中を開けると真っ先に、悠哉くんが笑顔の写真が飛び込んできた。

 うひーっ、なにこれなにこれなにこれ! なにこれぇぇぇっ!? こんな笑顔見たことないよ!

 興奮で手の震えが止まらない。なんて貴重な写真。家宝にしよう。もう一生の宝物です!

 震える手で次のページを開くと、お母さんの笑顔。ちっちゃく切り抜きみたいなお父さんの笑顔も。その後に真由ちゃん達や間宮先輩の笑顔も。田中くん須藤先生、皆、皆笑ってる。

 学校の人達だけじゃない、駅員さんやパン屋のおばさんも。私が愛花ちゃんになってから知り合った人達の笑顔沢山このアルバムに詰まっている。

 こんな、こんな幸せな事があっていいの?

 滲んでいく視界のまま、最後のページを開く。そこには、生徒会室で笑っている生徒会の皆。


「ひぐ、うっ……うぅ……」


 笑顔で映る写真に水滴が落ちていく。止められない涙が次から次へと溢れ、それと同時に幸せな気持ちも溢れていく。こんなに素敵な物をプレゼントして貰えるなんて思わなかった。

 時刻なんて忘れてた。この気持ちを今すぐにも伝えたくて、携帯を手に取る。早る気持ちがはやく、はやくとコール音を急がせ、眠たそうな声で一ノ瀬先輩が電話に出た。


「………もしもし?」

「しぇんぱい!」

「愛花?」

「プレゼント、ありがとうございます!!」


 泣きじゃくる私の声に戸惑いつつ、「ああ、バレたのか」と苦笑いする一ノ瀬先輩。本当はもっと色んな事を伝えたいのに、涙と思いが溢れて言葉にならない。


「先輩! 私、今世界で1番幸せ者です」

「そんなに喜んで貰えるなら、送った甲斐があったな。メリークリスマス、愛花」


 こんなに沢山の写真を撮るのは大変だっただろう。感謝してもしきれない。

 何度もお礼を言って一ノ瀬先輩との電話を終え、次は榊先輩達。なんとあの特大サイズのウサウマちゃんのぬいぐるみをくれたの榊先輩だった。ありがとうございまーす!

 御子柴くんから貰ったお肉は夕食で食べました。口の中でお肉が溶けるなんて、初めての体験です。悠哉くんが美味しそうに食べていたのも見れて大満足。千葉くんから貰った石鹸を使って体を洗い、保湿性が高いクリームを塗りました。テカテカです。

 歯を磨く前に、一ノ瀬先輩から貰ったクッキーを1つ頂く。食べるのが勿体ないので、1日1個ずつ食べよう。バターの香りと味がとって美味しく、サクサクした食感が最高です。



 サンタさんはいなかったけど、優しい生徒会サンタさんとお父さんサンタさんに、沢山の感動と優しさを貰いました。


 ハッピーメリークリスマス!






 悠哉に口止めするのを忘れていた一ノ瀬。出来る奴だけど詰めが甘いのでした。


 本編は28日に投稿します。よいクリスマスを。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 人物一人一人丁寧に背景が描かれていること。 現在の自分の幸せを改めて噛みしめられること。 [一言] 一気に読んでいますが、タイトルからしてざまぁあるかと思いましたが、嬉しい裏切りでした。 …
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