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凄く短いです。ごめんなさい
間宮先輩と話したくて連絡をすると、放課後に会おうと返事をくれた。授業中はずっともやもやした気分で、先生の話す内容が頭に入って来なかった。手が無意識に動いてくれたおかげでノートを取れたけど、お家に帰ったら復習しなくちゃ。
漸く放課後になり待ち合わせの玄関に向かおうとした時、須藤先生から呼び止められる。
「さっきボランティア部の部長から、今度の祭りの手伝いは3年生全員が参加すると言ってきた。どんな魔法を使ったんだ?」
3年生の男子生徒が参加するのは稀だと驚いていた。榊先輩効果は抜群だ。
……だけど、あの階段の踊り場での事を思い出すと素直に喜べない。榊先輩は、何を考えているんだろう。
悩みながら玄関へと続く廊下を歩くと、仁王立ちしている女の子がいた。ものすごい形相で。
「待ちなさい篠塚愛花!」
ツインテールの可愛い女の子、西嶋さんだ。アイスを食べに行った時以来、ずっと会わなかったから懐かしい。相変わらずツンツンした雰囲気で、嫌われているのがわかっているから、なんだかホッとする。嫌われてるのにホッとするなんておかしいのにね。
仁王立ちして此方を指差す西嶋さんは、初めて会った時と変わらなくて、睨まれているのについ口元が緩んでしまう。
「なに笑ってんのよこの悪魔! あんたのせいで間宮先輩が苦しんでるんだからね。さっさと消えなさいよ!」
いきなり暴言。慣れているとはいえビックリだ。だけど気になる事が1つ。
「間宮先輩が苦しんでる? どういう事ですか?」
「言葉通りよ。あんたのせいで間宮先輩が辛い思いしてるの。わかんないの? あんたが一ノ瀬先輩の傍にいる限り、間宮先輩は苦しみ続けるのよ。だからあんたは一ノ瀬先輩の前から消えてよ!」
「それです! その苦しんで事を教えてください」
「は、はぁ!?」
どうして苦しんでるのかわからない。私は間宮先輩の太陽みたいにキラキラした笑顔が大好き。あの明るい間宮先輩の表情を曇らせたくはないから理由が知りたい。
「私が一ノ瀬先輩の傍にいると苦しい思いをするのは、私が一ノ瀬先輩への想いがあったからですよね? でも今はありません。それでも一緒に生徒会のお仕事を頑張ってはいけないんですか?」
「ダメよ!」
「どうしてですか?」
「あんたが嘘つきだからよ! 一ノ瀬先輩への想いがないなんて嘘! 2人がこっそり会ってる事ぐらいわかってるんだから!」
え、私一ノ瀬先輩とこっそり会ったりした事ないよ?
どうしてそんな誤解をされているのかわからず、混乱して目を丸くする私を西嶋さんは鼻で笑う。
「図星を突かれて驚いてるのね。やっぱりあんたは大嘘つき女よ、この悪魔!」
「ちょちょ、ちょっと待ってください。私がいつ一ノ瀬先輩とこっそり2人で会ったって言うんですか? 何かの間違いです」
見に覚えもないのに非難される訳にはいかない。きっと西嶋さんも間宮先輩も誤解してるんだ。此処で勘違いだった事を伝えれば、きっとわかってくれるはず。
だけど西嶋さんは証拠はあるんだとばかりの余裕の笑みで、本当にこっそりと会ったりなんてしていないのに不安になってきた。
「私聞いたんだから。学校帰りに間宮先輩が私の家で勉強を教えてくれた時、一ノ瀬先輩と電話してたの。最初は楽しそうに話してたのに、最後は驚いてショックを受けたみたいに呟いたのよ。『愛花と一緒なんだ……』って」
「えっ、えぇえええっ!? いつ、いつの話ですか、それ!?」
学校帰りって事は夕方過ぎ。そんな時間に一ノ瀬先輩とこっそり会った事なんてない。絶対誤解してる。
「まだシラを切る気? 5月の終わりよ。雨の降ったあの日、傘を持っていなかった私を間宮先輩が家まで送ってくれたの」
5月の終わり、雨の日……ダメだ。全然思い付かない。絶対勘違いのはずなのに、西嶋さんの核心めいた目がそれを揺るがす。
私が認めない事に苛立ち、止めと言わんばかりに廊下に響く声で西嶋さんが叫んだ。
「後で榊先輩に相談したら凄く怒って、直接一ノ瀬先輩に直談判したわ。そしたら何でもない事のように一ノ瀬先輩は認めたんだから、最低よ。さあ、あんたも白状しなさい!」
「一ノ瀬先輩が!?」
一ノ瀬先輩が嘘を言うはずかない。言う必要がない。なら、私が知らないうちに2人で会ってたの? なんでそんな事したの私?
一ノ瀬先輩が認めたのなら真実なんだと思う。だけどさっぱり思い出せず、私は何も言えなかった。
「本当に一ノ瀬先輩が私と会ったって言ったんですか?」
「まだ認めないわけ? 往生際が悪いわよ。確かにはっきり言ったわ。『愛花が雨で濡れていたから服を貸しただけだ』って。一ノ瀬先輩のが勉強用に借りてるアパートにまで押し掛けるなんて、このビッチ女! やっぱりあんたは一ノ瀬先輩を狙ってるんじゃない!」
……濡れた服?
その時、お父さんと喧嘩してお家を飛び出した日の事が脳裏を横切った。
あの日、お父さんに拒絶されて苦しくなってお家に帰れなくなって、途方に暮れていたあの日。公園のブランコで、ずぶ濡れで泣いていた私を助けてくれたのは……一ノ瀬先輩だった。
あれかぁぁぁぁあああっ!!!
頭を抱えて心の中で叫んだ。
確かに、一ノ瀬先輩のお兄さんが使っていたアパートで制服を乾かして貰って、おまけにお風呂まで借りてしまっていた。お風呂から上がった時、一ノ瀬先輩が誰かと電話していたみたいだったけど、その相手が間宮先輩だったなんて!
タイミングが悪すぎるよぉぉっ!
「ふふ、どうやらやっと認めたみたいね。さあ、自分が間宮先輩の害虫だとわかったんなら、とっとと消えなさいよ!」
「ご、誤解なんです! あれはこっそりとかじゃなくて、ずぶ濡れになっていた私を一ノ瀬先輩が助けてくれただけなんです。決して邪な気持ちがあった訳じゃ……」
「犯人はだいたいそう言うのよ。悪気があった訳じゃないって」
「うぅ……でも本当に違うんです」
誤解なのに、何を言っても聞いてくれそうになくて。ドンドンヒートアップしていく西嶋さんを止められずにいると、
「どうしたんですか? こんな廊下の真ん中で騒いじゃったりして」
ひょこっと顔を出したのは、
「関さん」
「こんにちは篠塚先輩。嫌われ者同士、何を話していたんですか? あ、でももう篠塚先輩は人気者ですから違いますよねー。聞いてますよ? 学年問わず色んな男の人に声を掛けまくってるって。さすがですね先輩」
声を掛けまくっていたのはボランティア部の人達だけなんだけど。今はそんな事より、西嶋さんの誤解を解く方が大切。私の噂なんてどうでもいいよ。
西嶋さんが怒ってるんだから、当然間宮先輩も誤解してる訳で。榊先輩に相談したって言ってたから、もしかして榊先輩も? うわぁぁ……誤解が拡散していく。
一先ず西嶋さんに、事のなり行きを話そうと視線を向ければ、苦虫を潰したかのように眉をひそめ、関さんを睨み付けていた。
「安立の犬が……」
睨む西嶋さんに、変わらず笑顔を向ける関さん。2人の間にピリッとした空気が漂う。
もしかしてこの2人、仲が悪いの?




