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 慌ただしかった合宿が終わり、いつもの学校生活。 あの合宿の後から、御子柴くんとご飯を食べる事が増えました。最初は食券の自販機の前で会って、一緒に食べようと言ってくれて2階で食べていると、他の生徒会の皆も自然と同じテーブルで食べるので、賑やかなお昼ご飯が楽しいです。

 それ以来御子柴くんは私を見掛けると誘ってくれて、時々真由ちゃん達と食べたりと、充実な日々を過ごしていたある日。


「あ、篠、塚、さん」


「はい?」


 聞き覚えのあるゆっくりとした口調で話すのは、同じボランティア部でライバルの神代くんだった。

 おずおずといった様子で手渡された1枚の紙。そこには神社の掃除の日程及び必要な物が書かれていた。

 掃除の日は次の日曜日。これってもしや!


「ボランティア活動ですか!?」


 待ちに待ったボランティア活動。確か日程表にも日付が書いてたはず。お父さんの事とか合宿とかがあってすっかり忘れてた。なんてこったい、ボランティア部失格だ。

 動きやすく汚れてもいい服で、必要な物は軍手とタオルと飲み物。集合場所は神社の前。午前中で終わるのが残念だな。どうせなら1日中掃除をしていたいのに。


「予定……あったりしたら、手伝わなくてもいいよ。あくまで……ボランティアだから」


 そう言った神代くんの顔は、見えないはずなのにどこか悲しげに見えて。

 初めて会った時も、1人でベルマークの仕分けをしてたのを覚えてる。もしかして今まで1人でボランティア活動をしてた事が多かったんじゃ。だからきっと寂しいのかもしれない。


「安心してください! 絶対に行きます。雨が降ろうとも台風が来ようとも、必ず行きます!」

「……それは、さすがに中止、かな」


 中止は困ります。てるてる坊主作らなきゃ。

 掃除道具はボランティア部の顧問の先生が運んでくれるらしいけど、顧問の先生って誰なんだろう。


「それ、じゃ」

「はい、お掃除楽しみにしてます」


 神代くんと別れた後、自分の教室に戻ると廊下で田中くんを見掛けた。


「ほんとですかー? 田中先輩って優しいんですねー」


 一緒にいるのは柔道部のマネージャーの関さん。そういえばあの合宿から、2人が話しているのを見掛けるようになった。仲良くなるのは良いことだよね。


「あ、篠塚先輩こんにちはー」


 私に気付いた関さんがニコニコと手を振り、2人の輪に入る。


「こんにちは関さん」

「聞いてくださいよ先輩。さっき廊下で転けちゃって、ふでばこの中身ばらまいちゃったんですよー。そしたら、偶然通り掛かった田中先輩が拾ってくれてー。田中先輩すっごく優しいんですよねー」


 すごく同意します。相槌を打ちながらそうですね、と言うとチャイムが鳴った。


「もう行かなきゃ。あーあ、私も篠塚先輩みたいに田中先輩と同じクラスだったらもっと仲良くなれるのに。またお話しましょうね、田中先輩!」

「う、うん。じゃあまた」


 自分の教室に走って戻ろうとした時、一瞬振り替えって見せる笑顔が輝いていて。その笑顔に田中くんは戸惑いつつ手を振った後、教室に入り男の子達に詰め寄られる。


「おい、あの子1年の関ちゃんじゃねーか! 可愛いって噂されてる。お前いつの間に」

「可愛かったなあの笑顔」

「偶然知り合っただけだよ」

「そんな偶然俺も欲しいわ!」


 田中くんの周りが賑やかになり始めた時、先生が来たのでお開きに。関さんは男の子達に人気があるようで、恨めしそうに田中くんを見ている。

 可愛いもんね、関さん。


「あのさ、本当に偶然会っただけで、関さんとはなんでもないから」

「? お友達じゃないんですか?」

「あ、うん。そう、友達。ただの友達」


 どこかホッとしたような、それでいて落ち込むような。眉を下げた田中くんが苦笑いをする。

 友達。そう、友達と話すのは普通の事。なのに、


「田中せんぱーい。ちょっと聞きたい事があるんですけどー」


 楽しそうに話している2人を見ると、胸がチクッと何かに刺さったような痛みを感じた。








 神社のお掃除当日。持ってくる物の他に、熱中症にならないよう帽子を。汗をかくだろうから塩分補充の為の塩飴を持って、虫除けスプレーも忘れずに、転んだ時の為の絆創膏も欠かせない。

 掃除の邪魔にならないよう、鞄は腰に付けるウエストバック。準備はバッチリです!


 予定の時間より早め行こうと電車に乗って、地図を頼りに神社へと向かう。商店街を抜け、住宅街の一角に赤い鳥居がいくつも続いている長い階段。その上に神社があるみたい。


「うわー……何段ぐらいあるんだろう?」


 見上げる程の長い階段を眺めていると、車のクラクションが鳴った。


「早いな篠塚」

「須藤先生!?」


 ワゴン車の窓から顔を出したのは須藤先生。どうして此処に須藤先生が? 驚く私を他所に、助手席に座っていた神代くんが車から下りる。


「おはよ、篠塚、さん」

「おはようございます神代くん。どうして須藤先生と一緒なんですか?」

「え……? どうしてって、須藤先生は……顧問、だから」


 ええええぇぇえっ!?

 まさか須藤先生がボランティア部の顧問だったなんて! 失礼かもしれないけど意外だ。あれ、でも待って。確か須藤先生はバレー部の顧問だったような……? クラスのバレー部の子と話しているのを聞いた事がある。


「須藤先生はバレー部の顧問じゃないんですか?」

「バレー部の顧問であり、ボランティア部の顧問もしている。要は兼任だ」


 なるほど。元々ボランティア部の活動は少ないから、忙しいバレー部の顧問をしながらでも出来るらしい。知っている先生でよかった。

 集合時間までに来たボランティア部の人達は5人。1年生の子が3人、2年生が2人で3年生は誰も来なかった。受験勉強で忙しいらしい。

 私と神代くんを合わせて7人という少ない人数。それでも初めての部活活動に、わくわくが止まらない。初対面なので簡単に自己紹介しつつ、掃除開始!


「よーしお前ら、車から掃除道具持って上がれ」

「えー、先生持ってよ」

「俺は車を止めに行かなきゃならないんだよ。さっさと持っていけ」


 ブーイングが飛ぶ中、須藤先生は気にする事なく箒や塵取り、ごみ袋等を車から下ろし駐車場へと車を走らせた。


「これ持ってこの階段上がるのかよ……」

「絶対無理ー」

「あ、女子は……先、上がって。ごみ袋だけ、持って行ってくれればいいから」

「ホントですか神代先輩! ありがとうございまーす」


 1、2年生の女の子が嬉しそうに箒等を渡し、階段を上がっていく。溜め息混じりで男の子達も掃除道具を持って後を追う。各々が箒と塵取りを持って。

 残されたのは女の子達の掃除道具とゴミ拾い用のトングが3つ。これは誰が運ぶの?


「篠塚さんも、塵取りだけ、持ってくれたら、後は俺が運ぶから」

「神代くんが全部ですか!?」


 先に行ってしまった女の子は全部で3人。箒と塵取りが3人分のうえ、私の分の箒まで持つなんて……


「往復すれば、いいだけだから」

「そんな事はさせられません!」


 神代くんにだけ負担させるなんて持っての他。自分の分ぐらい自分で持ちます。次いでにゴミ拾い用のトングが入った袋と、塵取りは女の子達のを重ねて持って、いざ階段へ!


「………な、長い。この階段は何段あるんですか?」


 頂上はもうすぐなんだけど、なかなか辿り着けなくて息があがってきた。体力付いたと思ったのに、まだまだみたい。


「確か……100、ぐらいかな? もうちょっと、あったかも」


 ひゃくっ!?

 電車からよく見えて当たり前だよ。それだけ高いんだもん。

 荷物まであるから余計に体が重い。それなのにっ!


「………ん、どうしたの?」


 チラリと振り替えれば、私のペースに合わせてくれる神代くんが、平然と階段を上っている。掃除道具を抱えたまま。女の子の分と自分のを合わせて箒を4本。それに加えて途中から、私の箒とトングの袋まで持っているのに平然としてるなんて……見た目以上に体育会系なのかも。


「すごいですね、神代くんは。息が乱れてないなんて」

「バイトで、鍛えてる、から」


 以前に、家族の家計を支えるためにバイトをしていると聞いた話を思い出した。くぅー、家族の為に付いた体力。そう思うと涙が出ちゃうよ。


「つ、つ、着いたーー」

「お疲れ。少し、休むといいよ」


 神社の入り口で倒れ込むように座り、持ってきた水筒のお茶を飲む。掃除をする前から汗だくだよ。

 先に着いた他の皆はもう掃除をしてるんだろうな。息を整えたら遅れを取り戻す為に頑張ろう。

 そう思って正面を見れば、古き時代を感じさせる神社とその後ろには巨大な大木。神社へと続く真っ白な石で出来た道。風によってたくさんの木から聞こえる葉が揺れる音。


「わぁぁ……」


 本物の神社は神秘的で。此処だけ空気が違うと思ってしまう程、綺麗な場所だった。

 その綺麗な景色の中に、


「あははは、これ見て受けるー」

「え、やばーい」


 神社のお賽銭箱の前に座り、スマホを見ながらお喋りする女の子達。


「なーこの後どっか行かね?」


 箒は持っているけど立ったままお喋りをして、一向に掃除をする気配がない男の子達。

 そして神代くんだけが黙々と箒を掃く。



 え、なにこれ。





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[気になる点] 脱字:に 予定の時間より早め行こうと電車に乗って、 余字:の そう思って正面のを見れば、
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