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黄金に輝く妖精

聖蘭の薙定晴道の視点になります。


今回短いです、ごめんなさい。



 

 俺の名前は薙定晴道。聖蘭高等学園2年の柔道部員だ。

 宿敵、御子柴の野郎に勝ってやると意気込んで聖琳に来てみれば、そこには天使がいた。見た目だけじゃない。性格も可愛くて優しくて、本当に天使みたいな人。

 彼女の名前は篠塚愛花さん。俺と同じ2年生で生徒会に入っていて、今回の合宿を手伝ってくれている。

 運命の人だと思ったんだ。俺にはこの人しかいないって思ったんだ。それなのに……


「………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ため息ながっ」

「幸せが逃げるぞ晴道」


 幸せなんてとっくに逃げている。俺の運命の恋は1日にして終わったんだ。

 昼飯時に、あまり食べていなかった俺を心配してくれてか、先輩達が何があったのかを聞きに来た。

 正直言いたくない。だけど先輩達から逃げきれる気がしない。しつこいんだよな、体育会系は。


「篠塚さんには彼氏がいたんですよ」

「なんだ彼氏いたのかあの子。まあ、あれだけ可愛かったらな」

「可愛いけど一ノ瀬と別れてすぐ彼氏作るとか、ビッチじゃね?」


 なんて事言うんだこの野郎!? 先輩じゃなかったらぶん殴ってる。

 いくら失恋したからといっても、好きな女の子の悪口は許せない。不機嫌になった俺は、先輩達が喋ってる間無言になっていた。


「晴道ー」

「……なんすか」


 昼休憩も終わり、午後から聖琳と練習試合が行われる。松栄さんとコーチに、俺が御子柴と闘えるよう頼んだ。どういう組み合わせになるかはわからないが、御子柴とは闘いたい。その気持ちは変わらないのに……

 体が重い。思い出すのは篠塚さんの事ばかり。彼氏の隣で楽しいそうに笑う姿。満面の笑みで彼氏が大好きと言ったあの笑顔。

 …………鬱だ。


「あの聖琳の子がまだ好きなら、惚れさせちゃえばいいんじゃないか?」


 何気ない先輩の一言。目から鱗というやつだ。


「惚れ、させる?」

「そそ。練習試合で晴道が勝つとことか見せたら、案外コロッと惚れちゃうんじゃないか? お前が柔道してる所はそこそこいけてると思うぜ」


 惚れさせる。そんな事考えた事もなかった。

 彼氏がいたら諦める。それがいつもの俺。好きな人が好きな人と幸せなら、俺は身を引いていた。だけどっ、


『薙定くんカッコいい! 大好きです』


 言われてみてぇぇぇっ!!


「先輩! 俺頑張りますよ!」

「おー、頑張れ頑張れ。その意気だ」


 背中を叩かれ、さっきまでの鬱憤がなくなった。視界が明るくなっていく。

 そうだ、諦める必要なんかないんだ。彼氏がいようが惚れさせちまえばいい。奪略愛ってやつ。やべぇ、燃えてきた!


 試合相手が誰なのか確認しに行くと、相手は御子柴。まさかの御子柴だった。此処で彼奴に勝てば一石二鳥。待っててくださいよ、篠塚さーん!



 結果は惨敗。有効の1つも取れずに、対策を練りに練った御子柴との試合は、御子柴の1本勝ちに終わった。

 良い所も見せれず、何故か篠塚さんに俺が御子柴と友情を深めたと思われている。断じてありない。彼奴と友情とか、そんなもんないから。

 彼奴は、御子柴は……俺のライバルだ。


 敗者は敗者。俺は黙って合宿所のシャワー室に向かう。また長いため息が出そうだ。

 合宿所に向かう途中、聖琳のマネージャーを見掛けた。1年生の方の。電話してるみたいだな。先輩達は可愛い子だと言っていたが、なんか胡散臭いんだよな。俺の勘だけど。篠塚さんの方が絶対可愛い。


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 篠塚さんの事を思うとため息が止まらない。このどんよりした気持ちを洗い流そうと、合宿所へ走った。



「あ、美織先輩ですか? 相談したい事があるんですけど……」





 シャワーを浴びて、人目につかない所で休憩を取った。御子柴に負けて茫然となっていたけど、体がスッキリしてもう1度試合の事を振り返る。

 もっと攻め込めたんじゃないか、なんであそこで裏投げの警戒をしなかったのかとか、試合内容を反省してると自分に対して苛立ちが溢れた。

 悔しい。すげぇ悔しい。なんで俺弱いんだ。

 松栄さんに憧れて始めて始めた柔道。松栄さんは御子柴に注目してばかりで、俺は視界にも入っていない。ただの後輩の1人だ。悔しいだろ、そんなの。


「あーーーっ!!」


 溜まっていた何かを発散するかのように叫び、芝生に寝転んだ。空はムカつくぐらい青く清みきっていた。


「…………強くなりてぇ」


 情けなくて、悔しくて。ふいにこぼれた涙を隠すように、腕で目元を隠す。

 篠塚さん、幻滅したよな。あんな投げられかたしたら仕方ないよな。くそ、御子柴の野郎。篠塚さんの前で、あんな投げ方しなくてもいいだろうが。

 色んな思いが溢れて、声を殺していると、茂みが動く音がした。


「っ!?」

「……え」


 大方先輩だろうなと思って起き上がってみれば、茂みの中から現れたのは……


「…………妖精フェアリー


 黄金に輝くふわふわの髪。目がクリクリっと大きく、唇はさくらんぼみたいに可愛らしく小さい。色白の肌が儚げに感じて、思わず抱き締めたくなる。

 こんな美少女見た事ねぇ!? 本当に人間? 妖精じゃないのか?


「…………」


 妖精はジッと俺を見たまま話さない。まさか俺に一目惚れとか? いやまさかそんな……

 そこでふと気付いた。俺さっきまで泣いてたんだ。目が赤くなってんじゃねぇのか?

 涙の跡を消すかのように慌てて目を擦る。やべぇ、カッコわり。泣いていたのを妖精にバレるなんて。


「…………」

「え?」


 無言のまま差し出されたハンカチ。混乱して妖精とハンカチに目がいったり来たり。そのうち妖精は、その場から離れようと背中を向ける。

 もしかしてこのハンカチ、慰めようとしてくれたんじゃ……


「ありがとう!!」


 追い掛けようにも、何故か足が動かず叫んだ。すると、妖精は振り返り軽く頭を下げそのまま小走りで去っていた。人目に隠れるかのように。

 首に巻かれた白いショールが羽根のようにヒラヒラと舞い、太陽によってキラキラと輝く黄金の髪。そう、まさしく彼女は、


「……妖精」



 妖精と別れてからの記憶がない。気付いたら食堂にいて夕飯を食べていたけど味がしない。

 頭に浮かぶのは妖精の事ばかり。ぼんやりとしていたら、先輩が何があったのかと聞いてきたが口が思うように動かない。

 あまりに突然の出会い。話す事なく走り去ってしまった。夢だったんじゃないのかと思うぐらい、幻想的な姿。でも、確かに出会ったんだという証が手元に。

 薄い水色のハンカチ。すっげぇいい匂いがする。このハンカチが、夢じゃない事を証明してくれてるんだ。あれは夢じゃない、本当に会ったんだ。

 御子柴に負け、篠塚さんに失恋した俺の前に現れた妖精。これは神様が俺に与えてくれた最後のチャンスなんじゃないのか? 次こそは頑張れっていうチャンスを。

 そう思ったら俄然燃えてきた!


「よっしゃぁぁっ、俺はやるぞぉ!!」

「うおっ、いきなりなんだ晴道」

「次こそは御子柴に勝って、妖精に、彼女にこのハンカチを返すんだ!」


 姿は妖精でも、聖琳の制服を着ていた。この学校の生徒ならまた会えるはず。明日篠塚さんに彼女の事を聞いてみよう。あんなに美少女なら有名人なはずだし、名前ぐらいは聞けるかもしれない。


「君に必ず会いにいくらから! 打倒御子柴ぁぁ!」


 決意を新たに、窓を開けて叫ぶ。きっと同じ星空の下にいるであろう妖精の為にも、此処で凹んでられねぇ。明日から猛特訓だ!


「なんだ、また晴道の一目惚れか」

「はやいなーお前の恋愛」

「天使の次は妖精か。その前は天女じゃなかったか? レパートリー多いな晴道」

「ま、何にせよ元気になったんなら早く寝ろ! 何時だと思ってんだ!」


 先輩から軽く背中を蹴られ、布団の中に入る。枕の横に置いたハンカチ。今日はいい夢が見れそうだ。





妖精は誰でしょうか?(笑)


真実を知った時の晴道の心境がどうなる事か……

次で合宿編は最後になります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 余字:楽しそうに 体が重い。思い出すのは篠塚さんの事ばかり。彼氏の隣で楽しいそうに笑う姿。余字:ら 「君に必ず会いにいくらから! 打倒御子柴ぁぁ!」
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