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 後ろを振り向いても天使さんの姿はなく、視線を元に戻すと、男の子が顔を真っ赤にさせていた。風邪?


「あ、あ、あ、あのっ! 俺薙定、聖蘭高等学園2年、薙定晴道っていいます! 柔道部っす!」

「此処にいる奴全員柔道部だっつーの」

「まーた晴道の一目惚れか」

「いやでも可愛くないかあの子?」


 ビシッと背筋を伸ばし、姿勢を正しくして自己紹介された。視線は空を見つめたままで。

 薙定くんの後ろから、わらわらと他の柔道部員が覗き込むように私の顔を見てくる。山みたいな体格の大きな人ばかりだからちょっと怖い。

 後退りする私を庇うかのように、一ノ瀬先輩が間に入ってくれた。


「気持ちはわかるがあまり見るな。愛花が怖がるだろ」

「お、俺は別に怖がらせようなんてっ!」

「そんないかつい顔した集団に迫って来られたら、普通は怖がる」


 後ろを振り返った薙定くんが慌てふためき、踊ってるかのように手をわたわたさせる。


「ご、ごめん! あの、本当に怖がらせる気なんてなかったんだ!」


 必死に謝ってくれる姿を見て、私の方が申し訳なくなってきた。自己紹介してくれただけなのに、怖がるなんて失礼だよね。


「だから、そのっ」

「ごめんなさい」

「え」


 一ノ瀬先輩の横に立ち一礼。礼儀には礼儀で。


「はじめまして。聖琳高等学園2年、篠塚愛花です。ちょっと驚いてしまっただけなんです。なので、そんなに謝らないでください」

「…………天使」

「篠塚? どっかで聞いた事あるような……」

「晴道がまた自分の世界に入ってるぞ」


 にっこり微笑むと、薙定くんは固まってしまい、他の柔道部員の人はやれやれといった表情。その薙定くんの前に現れたのは、


「薙定の事は気にしなくていい。一ノ瀬からは話は聞いている。俺は主将の松栄だ。合宿の間、世話になるがよろしく頼む」

「……おっきぃ」


 見上げてしまう程の大きな身長。御子柴くんより大きいんじゃないかな?

 体格の大きさもさることながら、前髪を真ん中で分け、全てを見透かされてしまいそうな鋭い目つき。Tシャツの上からでもわかるムッキムキな筋肉は、真由ちゃんが見たら喜びそう。


「よ、よろしくお願いします」


 畏縮してしまいそうになっちゃうけど、挨拶はしないと。別に怒られてる訳じゃないもんね。一ノ瀬先輩は悪い人じゃないって言ってたし。

 見上げ目を合わすと、眉間に皺が寄せられ、ますます目付きが鋭くなる。ひぃぃ、なんで?


「……ふむ。確かに違うようだ」

「だろ。さ、話は後だ。先に合宿所に案内しよう」


 なんの話をしているのかわからない。困惑する私を他所に、柔道部員さん達が自分の荷物を持ち、一ノ瀬先輩の後に続くので、はぐれないよう私も駆け足で追い掛けた。

 合宿所は学校の端っこにあって、公民館のような白い2階建の建物。看板には『運動部第1合宿所』と書かれている。第1ってことは、他にも合宿所はあるんだ。知らなかった。


「各部屋の準備は終えてるから、部屋割りはそっちでやってくれ」

「ああ。去年合宿に来ていた者は、自分の荷物を部屋に運べ。初めての者は一ノ瀬に合宿所内を案内して貰うように」


 半分以下の柔道部員が残り、他の人は自分達の部屋へ。残った部員の中には薙定くんもいた。


「食堂と風呂場に案内する。着いて来てくれ」

「ウッス!」


 私も初めてなので一ノ瀬先輩に着いていく。食堂は学校の食堂より小さいけど、縦並びの机に大きな窓からの差し込む陽射し。此処で皆と食べられたら楽しそう。

 お風呂場は中には入っていないけど、銭湯みたいになってるんだって。いいないいな、私も合宿したいよ!


「あ、あの篠、篠塚さん!」

「はい、なんでしょう?」


 私と同じように初めての合宿所で、心踊らせている他の柔道部員の人とは違って、薙定くんはどこかぎこちない。初めてだから緊張してるのかも。


「篠塚さんはっ、か、か、彼氏。彼氏はいるんでしょうか?」

「えっ? いませんけど……」

「よっし!」


 ガッツポーズをして嬉しそうにしてるけど、どうしてそんなこと聞くんだろう?


「あの、好きな人は?」


 少し顔を赤くし、何かを期待している感じの目を向けられる。首を傾げつつ、いつも通り一ノ瀬先輩ですと答えようとした時、


「篠塚」

「御子柴くん」


 薙定くんの後ろから御子柴くんがやって来た。すると途端に薙定くんの顔が歪む。御子柴くんが嫌いなのかな?


「よう、御子柴。此処で会ったがひゃ「朝早くから悪かったな」……って、おい!」


 薙定くんに気付かず横を通り過ぎ、私の方へ一直線。怒った薙定くんの声に御子柴くんが気付き挨拶をした。


「久しぶりだな薙定。小さくて気付かなかった」

「なっ! て、てめぇ、人が気にしてる事を……しかも篠塚さんの前でっ」


 ああ、身長のこと気にしてるんだ。大丈夫だよ、男の子は高校生になっても伸びるって聞いたことがあるから。

 わなわなと拳を震わせ、御子柴くんを睨み付けるけど、平然と立っている御子柴くんには全然威嚇になっていない。


「今年はてめぇの名前が出る事はねぇぜ。この俺が、全国を制覇するんだからな」

「そうか、頑張れよ」

「てめぇっ! おちょくってんのか!?」


 なんだろう。多分薙定くんは、御子柴くんにライバル意識を持っているんだと思うんだけど……御子柴くんはそうじゃないのかな? 軽く躱されてる気が。


「松栄さんに気に入られてると思っているんだろうがな、あの人の後を引き継ぐのは俺だ!」

「なんの騒ぎだ?」


 2階から松栄さん達。他の部屋を見回っていた柔道部員も、薙定くんの声に集まってきた。


「篠塚さん!」

「はい!」


 突如名前を呼ばれ、反射的に背筋を伸ばす。


「俺が全国制覇した暁には、俺と。俺と、つ、つ、付き合ってください!!」

「ええっ!?」


 告白された! しかもこんな沢山の人が見てる前で! 一気に皆の視線が私に集まるのがわかって、すっごく恥ずかしい。私も薙定くんも顔が真っ赤だ。

 どう答えたらいいかわからなくて。いつもならちゃんと断れるのに、周りの視線や冷やかすような声と、薙定くんの熱い眼差しがそれをさせてくれない。


「それはできんな」


 しんと静まり返る空気。その言葉を発したのは、御子柴くんだった。


「全国を制覇するのは、俺だからだ」

「おおおおっ、御子柴が宣戦布告したぞ」


 どよめく声と唸る声。面白がるように他の人達が騒ぐ中、薙定くんは目を見開き驚きの顔をする。


「お前っ。まさかお前も篠塚さんの事を……」

「そっちかよ! 色恋沙汰より柔道に専念しろ晴道」

「青春してるなーお前ら」


 バチバチっと火花が飛び交うような睨み合い。ライバル意識をしてないと思ってたけど、やっぱり御子柴くんも全国制覇を狙ってるんだ。応援しなきゃ。


「頑張ってください、御子柴くん!」

「ええっ!? し、篠塚さん……まさか御子柴のこと……」


 顔色を真っ青に変え、信じられないといったような感じで見つめられる。

 私が御子柴くんの事を応援するのが、そんなに驚くこと? 友達だもん、応援するよ勿論。


「あー、晴道の失恋回数更新か」

「御子柴ー、お前も恋愛じゃなくて柔道しやがれ! リア充め!」

「なに? あの2人付き合ってんの?」


 どうして恋愛話になってるんだろう。今はどっちが全国制覇するかって言ってただけなのに。

 ……あれ? そういえば、薙定くんは全国制覇したら俺と付き合ってくださいって言ってたような……これはもしかして、私が御子柴くんを応援するって言っちゃったから、遠回しに断ったことになるのかな? 御子柴くんを巻き込んでしまった。謝らなきゃ。



「篠塚が好きなのは一ノ瀬だろ」

「えええぇっ!?」


 そんなことを考えていた矢先の、御子柴くんの爆弾発言。一気に皆の視線が一ノ瀬先輩へ。


「……御子柴、また騒ぎが大きくなる事を」


 額に手を当て、悩ましげにため息1つ。なんてこったい。このままじゃ、一ノ瀬先輩に迷惑を掛けちゃう。


「違います! あ、違わなくないですけど、ちゃんと振られてますから!」


「篠塚さんを振った!?」

「……愛花」


 騒ぐ声が更に大きくなり、ますます注目を浴びてしまう。

 あれー? なんでー? ちゃんと否定したのに。

 困ったように苦笑いする一ノ瀬先輩に申し訳なく、困り果てた時、


「あー、思い出した!」


 2階から下りてきた人が声を上げ、釣られて顔を上げれば、


「篠塚ってあれだろ。『聖琳の悪女』。確か一ノ瀬の恋人じゃなかったっけ?」



 さすが愛花ちゃん。他校にまでその名前が轟いています。

 今まで1番大きな叫び声が合宿所内で響き、もうどうしたらいいのかわかりません。

 誰か助けて!!




今回短いです。ごめんなさい。

誤字の報告ありがとうございます。時間が取れ次第、直していきます。



次回は火曜日更新予定。ラブコメは書いてて楽しいです。

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