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 制服の衣替えを向かえ、季節が本格的に夏になろうとした頃。

 学校の廊下で、榊先輩と千葉くんが何かの紙を貼っていた。


「こんにちは榊先輩。なにを貼ってるんですか?」

「ああ、これ? 今度の土日を挟んで他校が合宿に来るんだよ。そのお知らせの紙」

「他校の生徒が校内をうろついてたら不審に思いますからね」


 合宿!? 青春の匂いがします。


「合宿って運動部のですか?」

「そ、柔道部のね。うちの学校内にある合宿所に寝泊まりするから、生徒会もサポートするんだよ。面倒くさいけど」


 柔道部といえば御子柴くんです。ということは、サポートしながら御子柴くんが柔道をしている所が見れるはず。


「サポート頑張ります!」

「ほどほどでいいから。彼奴ら暑苦しいんだよねー。付き合ってたらこっちの体力が持たない」

「前回も来た学校なんですか?」


 私も千葉くんも、他校の生徒を迎えるのは初めてで興味津々。そんな私達に反するかのように、榊先輩はため息をつく。


「他校といっても姉妹校の1つで、お互いの学校に合宿しに行くのは例年行事なんだよ。今度来るのはスポーツに力を入れてる学校で、基本ノリが体育会系。正直疲れるよ」

「体育会系ですか。熱血なイメージがします」

「それ。マジで暑苦しいから」

「僕とは相性が悪そうな人達ですね」


 そんなに疲れるのかな? 熱血なんて素敵だと思うけど。私がお手伝い出来る事があったらドンドン手伝おう。


「むさ苦しい野郎共の相手なんて御免だけど、あの猛獣の中に愛花ちゃんを入れる訳にはいかないから、新頑張って」

「……先輩も頑張ってくださいよ」


 あれ、お手伝い出来なさそうな雰囲気。


「私は手伝っちゃいけないんですか?」

「しちゃいけなくはないけど、絶対狙われると思うよ」


 んん?? どういう意味なんだろ?

 榊先輩の言いたいことが伝わらず首を傾げていると、千葉くんが掲示板にお知らせの紙を画ビョウで刺している。……いいな。


「先輩?」


 ジッと見ていたことに気付かれ、千葉くんが不思議そうな顔をする。榊先輩の手にはまだ数枚の紙が。


「それ私がやってもいいですか?」

「やるって……この紙貼り?」

「はい。やってみたいです!」


 勢いよく手を上げると、眉に皺を寄せられる。


「いいけど……面白いものじゃないと思うよ?」


 次の掲示板に向かい紙を渡され、画ビョウケースに入ってる画ビョウを1つ手に取る。ツンツンしてて刺さったら痛そう……。

 斜めになっていないか確認しながら、初画ビョウ!


「刺せました!」


 プスッとした感触が手に伝わり、刺せたことの喜びを伝えたら呆れたような声が返ってくる。


「そりゃ刺さるでしょ。まだまだ貼らなきゃならないんだから、さっさと終わらせちゃって」

「はい、喜んで!」


 ウキウキと残りの画ビョウを四方に刺し、曲がっていないか少し離れて確認。曲がってないね、よしよし。綺麗に貼れると嬉しいものです。


「何気に愛花ちゃんって体育会系のノリだよね」

「確かに。以前に行事のスケジュールを見て目を輝かせてましたし」


 全ての紙を貼り終え、生徒会室に行くと一ノ瀬先輩が仕事をしていた。

 お父さんとの件で、一ノ瀬先輩に迷惑を掛けてしまったけど、そのせいか前よりずっと仲良くなった気がする。


「お疲れさまです」

「愛花、いい所に来た。頼みたい事がある」


 ペンの動きを止め、少し疲れぎみに微笑む。生徒会の仕事と受験の勉強で大変なのかな。


「なんでしょう?」

「今度の土日に、姉妹校の柔道部員が合宿に来るんだが……」

「はい、聞きました」

「当日彼らを合宿所と柔道場まで案内して欲しい」

「ええっ!?」


 私より先に驚いたのが榊先輩だった。そんなに驚くこと?

 私としてはお手伝いが出来て、しかも合宿所と柔道場が見れるので是非やりたいところ。地図で見たら柔道場は、校舎から少し離れた場所にあるから、どんな所なのか見てみたかった。御子柴くんが柔道をしてる所も見れるもんね。


「危なくない? あっちの今年の柔道部の部長は松栄しょうえいだろ?」

「松栄はガタイがよくて真面目で、基本優しい奴だ。去年のは啓介が悪い」


 苦虫を潰したように顔をしかめ、そうだけどさと呟く。

 いったい去年何があったんだろ?


「俺は剣道部の練習試合があるし、啓介はテニス部があるだろ?」

「テニス部なんですか?」


 あれ、空手は? 御子柴くんの話だと、かなりの有段者だと思ったんだけど。


「あれ、言ってなかった? 俺はテニス部副部長なんだよね」

「空手部じゃなかったんですか」

「なんで俺が空手部に入らなきゃならないの?」


 声のトーンが下がり、スッと目が細くなり見下ろされる。なんだか怒ってるような……


「前に御子柴くんから聞いたんです。昔、先輩達2人と御子柴くんが空手を習ってたって。榊先輩は御子柴くんより強かったって聞いたのでてっきり……」

「へぇー、そうだったんですか」


 千葉くんは意外そうな顔で榊先輩を見て、それに深いため息をついた榊先輩がいつもの表情に戻る。


「今はやってないよ。空手部暑苦しいからね。テニスの方が女の子の声援聞けるし」

「……榊先輩は榊先輩ですね」

「懐かしいな。次の土日は新も用事があるんだろ?」


 話を元に戻し、千葉くんはその日お家の用事があるらしく、学校には来れない。

 本来なら柔道部の人が迎えに行くべきらしいけど、今年は合宿に来る部員が多いだけじゃなく、いきなりの合宿要望だったので、うちの柔道部は皆用意に忙しいんだって。


「柔道部員は合宿所の掃除。手の空いてる先生方は、予備の布団などを用意している。俺も抜けられそうだったら様子を見に行くし、御子柴にも頼んでいるからそんなに長く案内する必要はない」

「連絡をするのが遅すぎますよ。合宿の話がきたのは今日ですよ?」

「あっちの学校の先生もノリが強いからな」

「合宿するか。よし明日行くぞ。みたいなノリ、本当に止めて欲しいよ。こっちはいい迷惑」


 急な話だったんだ。

 先輩の話では、本当は今日にでも来るつもりだったらしいけど、いきなりの話で断ったんだって。なら土日に、と言って引かなかったらしい。

 ……強引すぎます、その学校。

  

「わかりました。引き受けます」

「……俺も様子見に行くから。危ないと思ったらすぐに逃げてよ」


 榊先輩が心配してくれてる。そんなに怖い人なんだろうか? 柔道部といったら、体が大きいというイメージしかない。

 榊先輩の心配に不安な気持ちになる私に、一ノ瀬先輩が頭を優しく撫でてくれる。


「大丈夫だ。松栄は厳しいが非道な事はしない。多分、愛花は仲良くなれるんじゃないか?」


 そ、そうなのかな? 会ってみなきゃわからないし、前向きで行こう前向きに。

 こうして土曜日の朝早くに学校に行き、他校の柔道部員の皆さんを案内する事になった。


「姉妹校って言ってましたが、何て言う名前の学校なんですか?」

「今度来るのは聖蘭。そこ学校はスポーツ重視の学校で、様々な大会で名を馳せている」


 きっと青春の汗にまみれた、輝かしい日々を送ってるんだろうな。

 そんな人達がやって来るんだ、これは見逃せない。柔道をしてる所、絶対見よう。




 そして土曜日。時刻はもうすぐ6時。夕方じゃないですよ、朝の6時です。晴れた空が清々しく、校門の前でバスが来るのを今か今かと待っています。


「……いくらなんでも早すぎる」


 私の隣で眠たそうに欠伸をする一ノ瀬先輩。後ろ髪が少し跳ねてて、なんだかちょっと可愛いと思ってしまった。

 お昼前に来るのかと思っていたら、なんと朝6時に来ると連絡があってビックリ。

 剣道部の朝練は8時半だから、一ノ瀬先輩が出迎えるから朝はいいよと言ってくれました。だけど私も出迎えたいのでやりますとお願いしたら、なら一緒にという事で、今一緒に並んで待っている最中なのです。


「あ、あの車じゃないですか?」


 遠くから車が見えた。近付いて来るにつれて、その車が大型バスとわかる。


「ああ、あれだな。聖蘭の校章が描かれている」


 学校専属バス? あんな大きいバスが?

 そのバスは車用の校門を通り、私と一ノ瀬先輩は彼らを出迎える為に駆け足で移動。


「下りてきたな。一番前にいるのが、主将の松栄。御子柴を全国大会1回戦敗退にさせた、全国大会の覇者だ」


 なんと!? あの御子柴くんに勝っちゃう人ですか? そんな人いるんだ……榊先輩の心配そうな顔を思いだし、ちょっと怖くなってしまう。

 近付いてくる主将さんの姿に、思わず一ノ瀬先輩の後ろに隠れてしまった。


「久しいな一ノ瀬。今年もよろしく頼む」

「こちらこそ。久しぶりに会えて嬉しいが、今年は急な話で大変だったんだぞ」

「それはすまない。思い立ったら動くが吉と言うからな」


 握手をしてるのだろうか? 一ノ瀬先輩の背中の向こうから聞こえてくる、少しハスキーな声が主将さんの松栄さん。一ノ瀬先輩と随分親しそうだ。

 その後ろから続々と続く挨拶の波。礼儀正しく、大きな声で挨拶してくれるので聞いてて気持ちがいい。……一ノ瀬先輩の背後に隠れてるけど。

 だって今更出にくいよ! 挨拶の声からしてかなりの人数だと思う。緊張してきた。


「よう、一ノ瀬先輩。御子柴はいるんだろうな?」


 御子柴くんの名前を出され、体がピクリと動く。


「御子柴は今柔道場にいる」

「はっ、松栄さんに恐れをなして逃げ出さなかったのか」


 ……なんだろう。なんかものすごく悪意を感じるし、聞いてる私もムカッとした。

 御子柴くんは逃げ出すような人じゃないよ!


「やめろ薙定なぎさだ。御子柴は逃げ出すような奴ではない。俺の好敵手だからな」

「なっ、俺はあんな奴認めませんよ。松栄さんの足下にも及ばない」


 御子柴くんを褒めてくれる松栄さんに、みるみる好感度が高まっていく。なんだ。榊先輩が心配そうにしてたけど、いい人じゃないですか!

 挨拶するべく足を踏み出そうとしたら、


「あいつは俺が倒してやりますよ。百獣の王なんて異名を持っているようですけど、噂が一人歩きしてるだけで大した事ないに決まってる。現に去年の試合で松栄さんに1本負け。松栄さんが出るまでもねぇ」


 勢いよく言い放つ声は響き、彼のプライドの高さが伝わる。


「俺が御子柴を捩じ伏せる!」

「御子柴くんは負けません!」


 

 まるで御子柴くんが弱いって言われてならない。我慢出来なくて飛び出したら、おそらく話していた男の子は背中を向けていた。身長は私とあまり変わらないぐらい。

 私の言葉に反応し、その男の子が振り向く。


「あー? 御子柴なんぞ、俺のて……き、じゃ……………………………………………天使だ」



 つい後ろを振り向いて天使さんの姿を探したけど、何処にも見当たらなかった。




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