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「カンニング?」

「そうだ。お前の答案があまりにも出来すぎていて、カンニングの疑いが掛かっている」

「してませんそんな事!」


 まさかカンニングしたと思われていたなんて。驚いて必死に否定すると、女性の先生が眼鏡を軽く持ち上げて甲高い声で叫ぶ。


「カンニングでもしなければ貴女が2位になれるはずかないでしょ! 私のクラスの堀田君はそれはもう落ち込んで、今日は早退してしまったのですよ」

「堀田君?」

「いつも2位だった生徒だ。彼は秀才で自尊心が高く、常に神代君を意識して頑張っていた。今回篠塚さんに抜かれかなり取り乱して早退させたそうだ」


 別の先生が説明してくれている間も、眼鏡先生は何やら文句を言っている。

 いつも2位だった人って、皆が言っていたガリ勉さんだよね? 確か全国模試でも上位で頭が良い人。私が2番になったら早退って、私悪くないと思うんだけど……

 だってテストは努力の結果だし、その人も次頑張ればいいだけの話だよね。


「だいたい貴女はいつも低位だったじゃないですか。素行も悪く、他の生徒や親御さんからの評判も悪い。それを記憶喪失だかなんだか知りませんが、いきなり2位などと……疑うのが通りでしょう。何より、貴女去年もカンニングをしたじゃないですか」


 キラリと光る眼鏡。

 去年って、愛花ちゃんしちゃったんだ……カンニングしても自分の身にならないよ!


「落ち着いて下さい先生。確かに篠塚さんは去年、過ちを犯してしてしまいました。しかし今回は状況が違います。彼女は記憶がなくなり、それ以来とても素晴らしい生徒になったではないですか」


 お腹がでぷんと出た、なんとも頭が寂しそうな感じの優しそうな雰囲気の先生が間に入った。この先生はこの学校の教頭先生。和むその微笑みに、忙しかった体育祭の準備に何度癒されたか。口癖は「まあいいじゃないですか」だ。


「自ら進んで教師の手伝いをし生徒会での仕事も頑張り、授業中の態度も良いと他の教師の方からも聞いております」


 おふ、褒められてる。なんだかこそばゆい。


「ですが教頭先生……」


 ギリギリと歯軋りが聞こえて来そうな眼鏡女先生は、恨みがましげに私を睨みつつも後ろに下がる。


「あー、いいですか?」


 手を上げ割り込んで来たのは、須藤先生と同じ無精髭で黒渕眼鏡の先生。なんだかすごく怠そう。


「俺は別に篠塚がカンニングしたとは思ってないんですよ。今回水戸先生の呼び掛けに応じたのは、篠塚に確認したい事があったからで」


 頭を掻きむしり、1歩前に出る。見下ろされるその視線と無言の威圧。大人だからだろうか。今まで受けたどの威圧感より重い。


「篠塚。以前に電車の中で女性を助けた覚えはないか?」

「え……えーと、どうでしょう?」


 全然関係ない話をされ頭がついていかなかったけど、頭の中で振り返る。

 電車で助けた女の人。いたかなそんな人。お爺さんやお婆さんに席を譲ったり、道案内したりした事はあったけど、女性を助けた事あったかな。落とし物を拾ったりとか? でもそれぐらい当たり前だし……

 首を捻り頭を悩ませてると、焦れたように黒渕眼鏡先生がヒントをくれた。


「気分が悪くなった時、ペットボトルのスポーツ飲料を貰ったそうだ」

「スポーツ飲料……あ、覚えてます。GW明けの登校日に女の人にあげた事ありました」


 初めて買ったペットボトル。忘れる訳ないじゃないですか。


「やはりお前か! ありがとな篠塚! 嫁さんは乗り物酔いが酷くて気分が悪くなると倒れる事もあるんだ。いやー、ホント助かった。ありがとう」


 バシッバシッと背中を叩かれ息が止まりそうになった。痛いです先生。手加減して下さい。でもあの女の人は黒渕眼鏡先生の奥さんだったんだ。世間は狭い。


「じゃあ俺の要件は終わったんで帰ります」

「ちょ、ちょっと氷室先生! 要件は終わっていませんよ。まだ篠塚さんのカンニングの疑いがっ」

「……うるせーなババア」


 小さく、本当に小さい声でぼそりと呟いた毒。隣にいた私にしか聞こえなかったのだろう。未だ怒鳴る眼鏡先生の言葉を、氷室先生は耳をほじりながら聞き流している。


「だいたい証拠もないのにカンニングと疑うのはどうなんですかねー?」

「それはっ……ですがどう考えてもおかしいでしょう!? 一年生の三学期の試験の結果は100番台だったんですよ? それがいきなり2番だなんて……」

「頭が空っぽになったから詰め込みやすくなったんじゃないんですか? で、証拠は? ないんですよね」


 顎を上げ呆れたような目で見られ、眼鏡先生は言い淀む。証拠なんてあるはずがない。だってしてないもんね。

 それでも眼鏡先生は認めたくないように「ですが」と繰り返しては、氷室先生にバッサリ切られる。この先生案外口が……


「ぼ、僕も……今回のテスト結果は腑に落ちません」


 集まった先生のうちの最後の一人、気弱な感じの男の先生が眼鏡先生の後押しをすると、嬉しそうに声を上げる眼鏡先生。


「ですよねぇですよねぇ。さすが先生はよくわかって下さいますわ」

「あ、でも、彼女がカンニングした、とは思っていません。その、怪しいなとは、思いますが……」

「貴方どちらの味方なんですか!」

「はぁ……めんどくせー」


 気弱な先生はチラチラと私を見ては、モジモジ体を捩っている。眼鏡先生に圧されつつ途切れ途切れに話すと、真っ直ぐに私を見た。



「私が腑に落ちないのは彼女の、篠塚さんの脳です」

「えっ」

「はぁ!?」

「いくら記憶喪失とはいえ、短期間のうちに本来の頭脳より良くなってしまうのが不思議で仕方ないのです。人は記憶を失うと全く逆の性格になるという話はよく聞きますが、短期間で優秀になるなんて……まだまだ人の脳は解明されていない。私は是非とも彼女の脳が知りたい!」


 鼻息を荒くして力説され、背筋がブルリと震える。なんだろう、この先生危ない。さっきまで気弱だったのに今は早口で自分の世界に入ってしまっている。私を含め、他の先生も置いてきぼりだ。


「あー、あれは放っておいて、担任の須藤先生はどう思いますか?」

「…………」


 今までずっと傍観していた須藤先生。私の事をよく思っていないのは知ってるし、きっと疑ってるんだろうな……

 しょんぼりと肩を落としている私と裏腹に、眼鏡先生は期待の眼差しを須藤先生に向ける。


「確かに4月中まで篠塚の素行は最悪でした。教師の話は聞かないうえ暴言を吐く。他の生徒との揉め事も日常茶飯事で、常に各学年の担任の先生から苦情を貰っていました」


 ……愛花ちゃーん!

 須藤先生は他の先生からの風当たりがとても強かったんじゃないだろうか。恨まれても仕方ないかもしれない。これから名誉挽回しよう。


「学校の中だけじゃなく、外部からの苦情もあって本当に手を焼く生徒でした」

「そうでしょう……須藤先生の苦悩、同情致します」


 先生も人間。いくら生徒だからといっても、疎んじてしまう時ぐらいあるんだろうな。それだけ迷惑を掛けていたらノイローゼになってもおかしくない。須藤先生のお手伝いたくさんしよう。


「ですが」


 そこで1度口を閉じ、私に視線を送る。さっきは氷るような視線だったのに、今は無表情で何を思っているのかわからない。


「ですが、5月からの篠塚は真面目の一言です」

「え……」

「授業態度は良いです。生徒同士で争う事もないですし、篠塚を中心に勉強会を開く始末。おかげで今回の中間試験は、全体的にE組の成績は上がりましたよ」

「ほー、やるな篠塚」


 氷室先生が頭をわしゃわしゃしてくるけど痛い。髪の毛が抜ける!


「クラスでの篠塚の評判は上がるばかりではなく、生徒会の生徒に話を聞いても褒め言葉しか出てこなかったですね。ま、1部の生徒達には敬遠されていますが」


 あれ、これって……もしかして褒められてる? 須藤先生の口から出てくる言葉は批難する物じゃなく、褒めてくれてる。あの須藤先生が。


「先生や生徒だけではなく、用務員の方や警備員、そして最近は外部の人からお礼の電話がかかってくるようになりましたね」

「お礼の電話? それはいったい……」

「ああ、それはですね。うちの生徒が最近よく人助けをしたり、掃除をしているのを目撃したというお礼や感心の声を聞くんですよ。おかげでうちの学校の評判が上がって嬉しい限りですね」

「それと篠塚さんとなんの関係があるんですか? まさか篠塚さん一人が良い事をしているとでも?」


 人助けはわからないけど、通学路のゴミ拾いはよくやるな。駅でも落ちてる缶を拾ったりとか。綺麗になるのって気分いいよね。


「直接篠塚の名前が上がる時もありますが、何より駅員の方に顔を覚えられているようで。この近所の方も篠塚の事は知っています。色々とありましたから。だからこそ、素行がよくなったと安心の声や感心の声をよく耳にします」


 顔を覚えられているんだ。だから最初の頃は挨拶しても変な顔をされていたんだ。なるほど。学校だけじゃなくて、学校の外でも愛花ちゃんは有名人だったんだ。


「今の篠塚は兎に角人の手伝いをするのが好きで、何事も真面目に真剣に取り組みます。試験中もおかしな素振りはありませんでした。篠塚はカンニング行っていません」


 ポカンと口を開けた。だってあの須藤先生が私を庇ってくれてる。どうしよう……嬉しい。


「先生……」

「自分の生徒を贔屓しているだけじゃないんですか?」

「篠塚を贔屓? 有り得ないですね。今の篠塚の素行は記憶を失っているからであって、また記憶を取り戻せば以前のように戻るかもしれない。これからも監視はしますよ」


 監視という言葉に冷や汗が。ヘマは見せられない。

 でもこれは須藤先生にちょっとは歩み寄れたって事かな? チラッと須藤先生を見ても視線は合わず、眼鏡先生と睨み合ってる。怖いです。


「まあいいじゃないですか」


 そんな二人の間に入った教頭先生の笑顔に和む。


「証拠もないのに疑うのはよくありません。何より、我々教師が生徒を信じてあげられなくてどうするのですか」

「ですが教頭!」

「これ以上は許しませんよ、水戸先生」

「……っ」


 笑顔から厳しい顔へ。それ以上は眼鏡先生も追求して来なかった。




中途半端ですみません

モンスターまでいけませんでした

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