22
騎馬戦は赤組の粘り勝ち。御子柴くんに倒された数が黄組の方が多く、少しずつ数を減らされ負けてしまった。
次の競技は三年生の騎馬戦。見たかったけど、三年生を配置まで誘導した後は、その次の競技が二人三脚の為、移動しなきゃならないのだ。
「あ、パン食いの子だ」
三年生の人に声を掛けられ、軽く頭を下げ挨拶する。会う人会う人に「パン食い競争の子だ」とか「担がれてた子だ」とか言われ、終いには、
「姫ちゃんじゃん」
姫ちゃんってどういう意味なんだろう?
二人三脚に出る人が集まる場所に行くと、もう既にペア相手と一緒にいる子や、三年生の騎馬戦を見たいが為に遅れてくる子もいた。
「頑張ろうね」
さっきまで騎馬戦で闘っていたのに、もう次の競技に出なきゃいけないなんて大変だ。
「頑張りましょうね!」
「おー田中じゃん。さっきのお姫様だっこカッコよかったぜー。まるで王子様だ」
ケラケラと笑う他クラスの男の子達。おお、田中くんがカッコいいと褒められてる。そうだよね、あの時の田中くんカッコよかったもんね。
「俺だったらあんな恥ずかしい事出来ねーな」
「マジで。いやー田中王子すげーわ」
「惚れられちゃうんじゃねーの?」
クスクスと笑う人もいて、皆が田中くんに注目する。田中くんは悔しそうに眉を潜めているけど、褒められてるのにどうしてそんな顔をするんだろう? 心なしか周りの空気も重くなったような気がする。
「……ごめんね、篠塚さん。恥ずかしい思いさせて」
「え? 恥ずかしくなんかないですよ? 田中くんが褒められて嬉しいです」
「え?」
俯いていた顔を上げ、驚いたような顔になり私を見つめる。
「だって本当に王子様みたいでしたから。私を助ける為に駆け付けて運んでくれて、とってもカッコよかったです」
「篠塚さん……」
「それに騎馬戦の時もカッコよかったです! あの御子柴くんの鉢巻きを取っちゃうなんてすごいです! 私興奮しちゃってずっと拍手しちゃってました」
あの時の田中くんの活躍を思い出し、また興奮の熱が上がる。落ちそうになっても鉢巻きを放さずにいた根性。すごすぎです!
「確かにあれはすごかったよなー」
「田中のおかげで青組に勝てたしな」
クラスの皆が田中くんを称える。
「いや、あれは他の奴が御子柴を引き付けてくれたから取れただけだし。俺一人じゃ勝てなかったよ」
「囮役の俺のおかげだな」
「バーカ。すぐに御子柴に倒されてたじゃねーか」
重かった空気が軽くなり、笑い合う。皆が一丸となってたもんね。
田中くんは手の甲で口元を隠し、
「ありがとう篠塚さん。俺もっと頑張るよ」
どうしてお礼を言うのかわからなかったけど、なんだか嬉しそうだったからよかった。私も田中くんみたいにもっと頑張ろう。
三年生の騎馬戦が白熱した闘いだったらしく、離れていたのでよく見えなかった私に、後で動画を撮っていた女の子が見せてくれた。
的確に指示を出す一ノ瀬先輩。時には攻撃的に、守るべき時はきっちり防御する采配。世が世なら、軍師になれたんじゃ。最後は青組の大将との一騎討ち。一ノ瀬先輩より少し大きい大将に、負けず劣らずの動き。隙をついて鉢巻きを奪い取り、黄組の勝利で終わった。一ノ瀬先輩カッコよかったな。
そしていよいよ私が参加できる最後の種目、二人三脚だ。
《次の競技は二人三脚。野郎共、どさくさに紛れて変な所触るんじゃねーぞ》
順番に並び、3組ずつスタート。皆たどたどしく走り出したけど、躓いたり、足にくくりつけたタオルが取れたりと悪戦苦闘。
「ちょっと変な所触んないでよ!」
「しょうがねーだろ、競技なんだか!」
なんだか放送部の部長さんの言葉を意識してなのか、ギクシャクしてるみたい。これはチャーンス!
「頑張って1位になりましょうね、田中くん!」
「えっ、あっ、うん」
あれ、緊張してるのかな? 田中くんの表情が堅い。
足首にタオル巻き、前の人達が走り出すのを待つ間、さっき田中くんを褒めてた人が声援を送ってきた。
「頑張れよ田中王子! 今度はどんなカッコいい事してくれんのか楽しみだぜ」
その男の子はまたケラケラと笑い、その周りの男の子達もニヤニヤ笑っていて、なんか嫌な感じがする。応援してくれてるんじゃないのかもしれない。
「田中くん気にしたらダメですよ!」
「う、うん、そうだね。あんな奴らはどうでもいいんだ。……もし変な所を触れちゃったりしたらどうしよう。嫌われるかも……」
ブツブツと呟いていてまだ表情は堅い。なんとか緊張を和らげてあげたいのに、どうしたらいいかわからない。
あ、そうだ!
「田中くん田中くん、こっち見てください」
「え? って、篠塚さん!?」
借り物競争で悠哉くんが怒った時に、ちょっとだけ笑ってくれたあの顔。自分の手のひらで両頬を押さえタコ口にすると、田中くんが目を見開いて驚く。
「どうです? リラックス出来ましたか?」
「………ふふ、はははははっ。篠塚さん、おかしっ」
お腹を抱えて笑い出す。どうやら緊張が和らげたみたい、よかったよかった。
「ありがとう篠塚さん。篠塚さんには助けられっぱなしだ」
「それは私の台詞ですよ。いつも助けられてますから。二人三脚では一緒に頑張りましょうね。田中くんと一緒なら心強いです」
「……うん、頑張ろ」
スタートラインに立ち、ギュッと田中くんの肩を掴み前を向く。ピストルの合図と共に右足を踏み出した。いつもなら、ピストルの音に驚いていたのに、不思議と動揺する事なく走り出せたんだ。これも田中くんのおかげかもしれない。
「いちっに、いちっに」
調子良く走れているけど、他の人達も呼吸が合った走りをしていて現在2位。カーブに差し掛かった時、前で走ってた人達を繋いでいたタオルが外れてしまいストップ。今がチャーンス!
「田中くん今です!」
「うん、ペースを上げよう!」
1位だった人を抜き私達が1位! このままゴールだっ! と行き急いだ私は、足を踏み出すタイミングをミスってしまった。
「危ないっ!」
前に倒れそうになった私を支えてくれた田中くんは、倒れないように胸下に腕を回して持ち上げてくれた。
そのおかげで倒れはしなかったものの、隙を付かれ抜かれてしまう。
「ごめんね、田中くん!」
「………え、うん」
怒っているのかな?
掛け声がなくなり、田中くんは無口になってしまう。
懸命に追い掛けるも追い付けず、私達は2位でゴールした。
「はぁ、はぁ……ごめんなさい。あの時私が倒れそうにならなかったら……」
「……柔らかかった」
「え?」
田中くんの顔は真っ赤になっていて、私の声が届いていないみたいにボーッとしている。目の前で手を振ったり手を叩いたりして、漸く目が合った。
「あ、違うんだ! わざとじゃないんだ、あれは不可抗力でっ」
「なにがですか?」
突然慌てる田中くんに首を傾げ、私が倒れかかったせいで抜かれた事を謝ると、
「そんなの気にしないでいいよ。転ばなかったし、怪我がなかったんだからよかった……その、俺こそごめん」
「どうして田中くんが謝るんですか?」
「えっ!? そ、それは……その」
歯切れが悪く戸惑う。なんだろう、さっきから挙動不審な動きをする田中くんが面白い。結局どうして謝っているのかわからないまま、二人三脚は終わった。
「篠塚さん」
「はい?」
「次のリレー見てて。篠塚さんが見てくれてるだけで、勇気が湧くんだ」
「はい! 勿論応援もしますよ」
私の競技は全部終わったから、役員の仕事をしなきゃいけない。午後の競技の得点を計算したり、来年の為に今日1日どんなトラブルがあったか簡単に纏めたりと、座って出来る仕事だから応援出来るはず。
《今年の体育祭も、とうとう最後の種目。体育祭の花形競技、男女別学年混合リレー!! 泣いても笑ってもこれが最後だ。全力で挑め!!》
最初に女の子が走る。集まっている集団の中に、間宮先輩がいた。
「間宮先輩頑張ってくださーい!」
テントから声を上げて応援すると、私に気付いた間宮先輩が手を振ってくれた。
敵対チームだけど応援してもいいよね。間宮先輩の走ってる所が見れるんだもん。
各学年二人ずつ、トラックを半周し最後のアンカーの人が1周する事になっている。皆速そうな人ばかりで、選手じゃないのに私までドキドキしちゃう。
一年生がスタートラインに立ち、ピストルを持った先生が腕を上げ、高い音が響くと同時に一年生が走り出す。一生懸命黄組を応援していると、前の席の山本さんがバトンを受け取った。
「頑張れー山本さーん!」
仕事を中途半端にしたまま夢中になっていると、最後のアンカーにバトンが渡る。赤組のアンカーは間宮先輩。黄組のアンカーの人と並んだ。応援しにくいよ!
普段大和撫子みたいなおしとやかな間宮先輩が、必死に走ってる。素の間宮先輩だ。
《赤組と黄組のアンカーが並んだぁぁ! 赤組のアンカーは学園が誇る、大和撫子で噂の間宮桜子! 黄組のアンカーは女子バスケ部のエース樋口円香! さぁ、勝利の栄光ははどちらの手に!》
「頑張れ、頑張れー!」
間宮先輩!
とは言えないので心の中で叫ぶ。その願いが通じたのか、間宮先輩が黄組の人を抜きそのままゴールテープを切った。
歓声が湧き、汗だくになった間宮先輩はゴール前のテントにいた私の頭を撫でくれた。
「ありがとね、愛花」
にっと歯を見せた笑いをした間宮先輩は輝いていて、皆が間宮先輩から目が放せない。カッコいいです間宮先輩! 女の子なのにカッコいい!
《女子のリレー結果は赤組の勝利で終わった。最後はむさ苦しい野郎共の闘い。テメーら、情けねー走りを見せるんじゃねーぞ!》
放送部の部長さんすごいな。朝からずっと喋りっぱなしだもん。明日声が出なくなっちゃわないか心配。
一年生の男の子達が走り出す。抜けたのは青組。
このリレーは陸上部の人が出るのは禁止で、他の運動部の人が出るんだって。何年か前に、陸上部ばかりの人が出て一方的な試合になってしまったのが原因らしい。だから陸上部の真由ちゃんは出ていなかったんだ。
そしてバトンは二年生に。田中くんの出番だ!
「田中くん田中くん田中くーん!!」
声が枯れちゃうかもと思うぐらい大きな声を出して応援。青組の人を抜いて1位になって、私は嬉しさのあまり跳び跳ねた。
上手く相手の人にバトンが渡ったのはよかったんだけど、次の相手が悪かった。うん、出るよね当然。
「うぉぉおおおおっ!」
雄叫びと共に走り出したのは青組の御子柴くん。最早、人としての能力を越えてしまっている気がする。
《あっという間に御子柴が黄組を抜き去り、距離が開いていく。この男を抜ける奴なんているのかぁ!?》
バトンは三年生へ。黄組のアンカーは一ノ瀬先輩。ぐんぐん青組に追い付いていく。トラックを半周した時には、あれだけ距離が開いていたのに。すごい……一ノ瀬先輩すごい!
「一ノ瀬先輩勝ってー!」
周りの女の子は勿論、男の子達も声を上げる中、大きな声で叫ぶ。
喉が潰れてもいい。明日声が出なくなってもいい。一ノ瀬先輩に届け、少しでも力になりたい!
《迫る一ノ瀬! 逃げる岩木! その二人を追い掛ける河内! これぞ体育祭の最後に相応しい闘いだ! 勝つのは誰だぁぁぁぁっ!!》
ゴール間際、とうとう一ノ瀬先輩が青組のアンカーの人と並んだ! 息をするのも忘れてしまい、手を握って一ノ瀬先輩を見つめる。
神様仏様天使さん! どうか一ノ瀬先輩に勝たせて!
そして試合は、
《ゴーーーールッ! 勝者一ノ瀬和樹ぃぃっ!! 1歩差で青組を打ち破り、勝利をもぎ取ったぁぁあああ! なんだお前、出来すぎだろぉ!》
感動で前が見えない。止めどなく溢れる涙を拭いながら、私は声を出して泣いていた。
未だに鳴り止まない声援。一ノ瀬先輩へのエールが耳に入る。その時、優しく頭を撫でる手の温もりを感じた。
「泣きすぎ」
リレーが終わり、役員テントに戻ってきた一ノ瀬先輩が、苦笑いで自分の席に置いてあったタオルで私の顔を拭う。
「汚れちゃいますよ。自分のタオルで拭きます」
「いいから。たく、鼻水まで垂らして幼稚園児みたいだな」
面白そうに笑う一ノ瀬先輩だけど、鼻を拭われる度に青ざめていく。
ひぃっ、一ノ瀬先輩のタオルが私の鼻水で汚れてしまう!
「洗って返します!」
「気にするな」
「気にします! 絶対絶対タオルは洗って返します!」
一ノ瀬先輩の手からタオルを奪い取り、威嚇するように睨むと何故か微笑まれた。
「聞こえてた」
「え?」
「愛花の声援。勝ってって聞こえて、あの声援のおかげで前に1歩踏み出せたと思う」
届いていたんだ、私の声が。
「でもそれは私だけじゃなくて、他の人も応援していたし、先輩が頑張ったからですよ」
「うん、頑張れた。皆が応援してくれて、最後に愛花の声が背中を押してくれたんだ。ありがとう、愛花」
間宮先輩のように優しく頭を撫で微笑んでくれる。止まっていた涙がまた溢れだし、一ノ瀬先輩に借りたタオルはもうビショビショだ。
「泣き虫」
「だってだって嬉しいんです。先輩の力になれた事が」
「うん」
「皆と一緒に頑張れた事も、一生懸命走れた事も全部全部嬉しくて、人はこんなに感動出来るんだって思って……」
「……うん」
「私、生まれてきてよかった」
「はは、大袈裟」
大袈裟なんかじゃないよ。
前の私が病気に絶望しても諦めず、手術も頑張って薬の副作用にも耐えて、必死に必死に生へ執着したから、今の私がいるんだ。
もう本当の私の体はなくなってしまったけど、愛花ちゃんとして、私は今生きている。
ありがとう、天使さん。
愛花ちゃん。貴女がどうして自分から死を選んでしまったのか、私にはまだわからない。そこまで思い詰めちゃうぐらいに辛かったのかわからない。だから、貴女が捨ててしまった命、大切に生きるよ。これが愛花ちゃんへの恩返しになればいい。
「……愛花」
泣き止まない私を、一ノ瀬先輩はずっと頭を撫でてくれていた。
「…………」
「可愛い後輩が泣いてたら、そりゃ慰めもするでしょ。和樹の悪い所でもあるけどね」
「…………」
「気にする事ないって。和樹が好きなのは、桜子なんだから」
「……変わらない」
「ん?」
「記憶がなくなっても、愛花の本質は変わらない。真っ直ぐで綺麗なんだよ。そんな愛花が私は好きで……怖かった」
優勝は青組。黄組は2位だったけど、私はとても満足していた。
体育祭の思い出にクラスの皆と写真を撮ったり、生徒会の皆や真由ちゃん達、先生とも撮った。思い出がいっぱいでにやけちゃう。
体育祭の片付けを終えた私は、真由ちゃん達と一緒に帰る。
「いやー今年は盛り上がったよね。ほぼ生徒会長のおかげだけど」
「だよねー。会長が出る度に女の子の声援がすごかったもん」
夕焼け色の空。3人が並んで歩く道には、長い影が手を繋いでいた。
「とっても楽しかったです。来年も頑張ります」
「来年は同じクラスだといいよね」
「あ、それいい。愛花ちゃんと同じクラスだったら毎日楽しそう」
「私も、私も同じクラスがいいです!」
とても疲れた1日だったけど、精一杯頑張った達成感で、帰り道はずっと笑顔だった。
来年は真由ちゃん達と同じクラスだったらいいな。そしたら、お昼ご飯食べたり勉強したりして、もっともっと楽しい学校生活になるのに。
家に着くとお母さんが出迎えてくれて、悲鳴を上げた。
「な、なんなのその格好!? 傷だらけじゃない!」
綱引きのせいで体操服は汚れ、肘や膝が傷だらけなのに驚いたお母さんが慌てふためく。
「なんだようるせ……はぁっ!? なんだその傷は!」
「綱引きで引きずられちゃいました」
笑って話す私に、悠哉くんの雷が落ちた。
「バッカ! なんで目を放したら怪我してんだよ! さっさと風呂入って汚れ落としてこい!」
無理矢理お風呂場まで連れていかれ、シャワーを浴びる。
傷が染みるぅぅ。でもこれは頑張った証だから耐えるんだ私。
シャワーを浴び終えた私に待っていたのは、温かいご飯と、
「自分でしろ」
悠哉くんが持ってきてくれた救急箱。包帯や消毒液はわかるけど、自分で使った事がない。いつもはされる側だったもんね。消毒液ってどれくらい使うんだろ?
「……たく、貸せ」
私の手から消毒液を奪い、コットンに染み込ませ軽く押し付ける。洗ったせいか染みたりせず、全部の傷に消毒液を付けてくれた。
「あ、私パン食い競争1番だったんですよ。これも悠哉くんが練習に付き合ってくれたおかげです」
「ふーん、よかったな」
「あら、何の話?」
ご飯の準備をしていたお母さんが顔を覗く。あ、お母さんにも伝えなきゃ!
「聞いてくださいお母さん。悠哉くんが体育祭を見に来てくれたんです!」
「な、バカ!」
「え、悠哉が?」
目を丸くし、凝視しするお母さんに悠哉くんは慌てだす。
「ちげーよ! たまたま……そう、たまたま近くを通り掛かったから」
「……近くを通り掛かったから見に行ったの? 悠哉が?」
「あー、だからっ」
何をそんなに慌てているんだろう?
「しかも借り物競争に出てくれて、私を担いで1位になったんです! 悠哉くんとっても速かったんですよ」
「えっ!?」
「テメーはもう黙れ!」
口を塞ぎ喋れなくされ、そんな私達をお母さんは微笑ましげに笑う。
「ふふ、見たかったわその場面。さ、ご飯にしましょう」
「……ちっ」
眉を潜める悠哉くん。何か悪い事でも言ったのかな? 褒めただけだよね? あ、そうだ!
「悠哉くんこれ」
「あ?」
「パン食い競争でかぶり付いた食パンです。勝てたのは悠哉くんのおかげなので、お礼にあげます」
「いるか!」
おふっ、更に怒られちゃった。しょうがないから明日の朝食べよう。ご飯もいいけど、トーストもいいよね。
お母さんが作ってくれた特製ハンバーグ。お皿を並べるお手伝いをして、その日の夕食は体育祭の話で盛り上がった。
面倒臭そうだけど聞いてくれる悠哉くん。楽しそうに聞いてくれるお母さん。今日1日本当に楽しかった。
私は今日の思い出を、一生の宝物にしようと決めた。
「悠哉くん、お礼に背中を……」
「いらねぇ!」




