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「げっ!?」
私が走って来たの気付いて、悠哉くんが酷く嫌そうな顔をした。ごめんね、今は気にしてあげられないんだ。逃げようとする悠哉くんを、慌てて呼び止める。
「待って悠哉くん! 一緒に走って!」
「はぁ!? 冗談じゃねぇ、なんで俺がっ」
「だって連れて行かなきゃならないのは私の『好きな人』なんだもん」
「尚更ふざけんな!」
「お願い、一緒に走って! 皆が頑張ってるのに、私だけ足を引っ張りたくないの!」
人込みを掻き分け逃げる悠哉くんに必死にお願いすると、急に止まり、深いため息つく。
「……今回だけだからな」
「っ、ありがとう!」
手を繋ごうとしたけど嫌がられたので、隣で一緒に走ることにした。嬉しい、悠哉くんが助けてくれるなんて!
私の他にも、借りてくる物を手にしてトラックに戻って来る人が。このままじゃ……
「遅せぇ! もっと速く走れねーのか!」
「はぁ、はぁ、ごめんね頼んだ私が、遅くて」
情けない。
折角悠哉くんが走ってくれてるのに、私の足が遅いせいで負けちゃう。もっと練習すればよかった。後悔ばかりしていると、
「ちっ、口閉じてろ! 舌噛むぞ」
「え、え? うひゃっあ!?」
いきなり体が浮遊感を感じ、視界が大きく動く。悠哉くんの顔が近く、私は悠哉くんの肩に担がれていた。これはあれだね、昔の人が米俵を担ぐ格好のやつだ。
「掴まってろ」
そう言うなり、悠哉くんは猛スピードで走り出す。
は、速い。口を開けたら絶対舌噛んでた。ガクガクと揺れ、落ちないよう悠哉くんの背中の服に掴まっていると、1番最初にトラックに戻ってきた人がいた。
えっ!? 抜いちゃったの!?
「すごいです、悠哉くっ、いひゃぁっ……」
「噛むから黙ってろって言ったろうがバカ!」
うぐ……舌が痛い。
「ちょ、なにあの人!? めっちゃ速いよ!」
「私服だから外部の人なんだろうけど……イケメンじゃない?」
《なんだなんだ、突如現れた謎のイケメン! 篠塚ちゃんを担ぎ上げ、ものすごいスピードで走る彼はいったい誰なんだぁぁあ!?》
あっという間にゴールにたどり着き、未だに担がれたままの私は、係りの人に拾った紙を見せる。ちゃんと書かれている物(人)を持ってきているかどうかを、チェックする為に。
「『好きな人』?」
「はい! 私の大好きな弟です!」
《なんと! 謎のイケメンは篠塚ちゃんの弟だった! 全然似てないぞ? しかし借りてくる物が『好きな人』で弟を連れてくるとは、かなり意外だ。てっきり俺はいちのっ、いって!》
放送席で盛り上げていた部長さんの頭を、一ノ瀬先輩がしおりを丸めた物で叩いていた。
「ほら、もういいだろ」
「ありがとう悠哉くん。悠哉くんのおかげで1番になれたよ。来てくれてありがとう」
肩から下ろしてくれた悠哉くんに、笑顔でお礼を言う。悠哉くんが見に来てくれた。悠哉くんがいなかったら1番になれなかった。嬉しくて嬉しくて、によによ顔が止まらない。
「別に……偶々近くに来たついでだ」
「ちょっと! あんなのズルいわよ!」
赤組のテントから女の子が叫んでる。西嶋さんだ。ズルいってなにがだろ?
「あんた走ってないじゃない! こんなの認めないわよ!」
「なんだあのうるせー女は」
「後輩の西嶋さんです。借り物競争で、順位が上だった人がアイスを食べられるっていう賭けをしていたんです」
そうだ! 悠哉くんのおかげで1番になれたから、アイスが食べられるんだ。やったーアイスアイス!
「ほぅ……つまりなんだ。テメーのアイスの為に俺は走らされたのか」
「ありがとうございます! 悠哉くんのおかげでアイス食べれます。それも3段重ね……痛い痛い痛い痛いっ!」
いきなり頭を掴まれ、力を入れられる。ミシミシッと音がしたようなしなかったような……
痛いっ、痛いよ悠哉くん! 握力強すぎるよ、頭砕けちゃう!
「痛い痛い!」
「なにが皆の足を引っ張りたくないだ。結局テメーがアイス食いたいだけじゃねーか」
「それは違います!」
私が大きな声で否定すると、驚いたのか手が頭の上から離れた。
「皆と一緒に頑張りたい。勝った喜びを分かち合いたいという気持ちに嘘偽りはありません!」
「……そうか」
「優勝して皆が喜んで、おまけにアイスまで食べられる。これぞ一石二鳥でひゅうぅぅっ」
「……なんかムカつく」
両頬を手のひらで挟まれ、タコ口にされてしまった。これじゃ上手く喋れない!
なんで悠哉くんは怒ってるんだろう? はっ、そうか! 悠哉くんもアイスが食べたいんだ。
「ひゅうひゃふんにもあいひゅかっへきまひゅっ!(悠哉くんにもアイス買ってきます!)」
「なに言ってんのかわかんねーよ、バカ……ぶっ」
怒ってた顔が、ちょっとだけ緩んだ。悠哉くんはアイスが好物だったんだね。頭の中でメモをしておこう。
「あ、あの……」
「あー?」
「ひっ、もう借り物競争は終わったので、次の競技の準備に入りたいんですがっ」
悠哉くんの威嚇に怯えた係りの人に言われ、悠哉くんは周りを見渡した。どうやら本当に二年生の借り物競争は終ったらしい。首が回せないから見えない。
《競技が終わっても続く姉弟喧嘩。随分仲が良いようだ》
「よくねーよ!」
仲良さそうですか!? そう見えるんですね、嬉しいです。感動を口に出来ないのが辛い!
準備の邪魔になったらいけないので、慌てて自分のクラスのテントに戻った。悠哉くんはもう帰ると言ってトラックで別れ、テントに入るなり女の子達に詰め寄られる。
「篠塚さん!」
「は、はい!」
「さっきの男の子が弟さんだって本当?」
「紹介して」
鼻息が荒い。そんなに興奮するとこの暑さだし、熱中症になっちゃうよ?
皆が悠哉くんのことをカッコいいと言う。悠哉くんは、他の女の子から見てもやっぱりカッコいいんだ。うふふ、お姉ちゃんは鼻が高い。
「自慢の弟なのです。1度悠哉くんに聞いてみますね。いいよって言ってくれたら紹介します」
「約束ね!」
嬉しそうなクラスの女の子には悪いけど、きっと悠哉くんに伝えたら『ぜってー嫌』の言葉しか返って来ない気がする
。
プログラムを見ながら、私がお手伝いをしなければならない時間になり、役員会のテントに走る。そこでなにかがあったのか、人が集まっていた。
「絶対新君にはこの衣装が似合うと思うの!」
「なっ……そんな服、絶対僕は着ませんから」
一人の眼鏡の女の子が段ボールから取り出したのは、不思議の国のアリスの主人公、アリスが着ていたような服。しかもフリルがいっぱい。うわぁ、可愛い。千葉くんがこの服を着たら悶えちゃうこと必須! でも、当の千葉くんはすごく嫌そうだ。
「そんなこと言わないで。ちゃんと新君が着れるよう、手配するから」
「やめてください! 僕男ですよ?」
「わかってるわよ。それでも新君には女の子の格好が似合うんだから、ね、お願い。先輩命令だからね」
「……っ、そんな」
眼鏡の女の子は衣装を持って嬉しそうにしているのに対して、千葉くんは今にも倒れそうなぐらい顔色が悪くなっていく。もしかして、あの服を着るのが嫌なのかも。どんなに可愛くても、男の子だもんね。
おふ……私も見てみたいと思ってしまった。ごめんね千葉くん。だけどこのままじゃ、千葉くんの体育祭の思い出が最悪になってしまう。そんな悲しい思い出だけは、断固阻止しなきゃ!
「待ってください!」
割って入った私に皆が注目する。千葉くんを守るように、眼鏡の女の子と千葉くんの間に入ると、他の女の子達がヒソヒソと話だした。
「貴女は?」
「二年E組の篠塚愛花です」
「ああ、貴女が。なにかご用ですか? 今私は、新君と大事な話をしているんで邪魔しないでください」
「本人が嫌がっているのに、無理矢理着せてはいけないと思います!」
一瞬にして白けたような目で見られた。眼鏡の女の子だけじゃなく、野次馬の男の子からの視線を感じ、居たたまれなくなってしまう。
「……先輩」
振り返れば少し驚いたような、それでいて今にも倒れてしまうんじゃないかっていうぐらい、弱っている千葉くんが。守らなきゃ。後輩を、千葉くんを守らなきゃ!
「新君にはこの衣装が似合うの。皆だってこの衣装を着た新君が見たいわよね?」
「見たい! 絶対似合うって」
「似合う似合わないは関係ないです。千葉くんが着たくないのに無理矢理着せてしまったら、体育祭の思い出が嫌な物になってしまう……折角高校最初の体育祭なのに、そんな思いをさせたくないんです!」
「…………」
「だ、だって、折角夜更かししてまで作ったのに……」
「えっ!? 手作りなんですか!?」
豪華にフリルが付いたエプロンとスカート。裾には小さなお花が刺繍され、とても手作りとは思えない。
「すごいです! こんな素敵な衣装を作っちゃうなんてすごすぎです!」
「ま、まあね。演劇部の衣装係だし、拘りを持って作ってるから」
「演劇部の方だったんですか」
色んな衣装を作ってるんだろうな。どんな演目があるんだろ? 生の演劇とか見てみたい。迫力がある事間違いなし。
はっ、ダメだダメだ。話がずれちゃった。
「えっと、名前教えて貰ってもいいですか?」
「三年F組仁川よ。演劇部の部長を務めてるわ」
「仁川先輩も、似合うから明日から坊主にして来てくださいって言われたら嫌ですよね?」
「いきなりなによそれ!? 嫌に決まってるでしょ!」
仁川先輩の後ろに坊主の先生がいたので、例えてみました。
「千葉くんも同じ気持ちです。嫌なものは嫌なんです」
「……っ、わかったわよ」
諦めてくれたのか、衣装を段ボールに詰め込む。他の女の子達も小さな声で呟いたりしているけど、此処は譲れません。それにしても演劇か……どうせなら千葉くんには、
「英国騎士の格好とか似合いそうです」
「え?」
「千葉くんがあの端正な衣装を着てサーベルなどの剣を持ったら凛々しくてカッコいいだろうなぁ」
着ぐるみも可愛いだろうけど、可愛い格好が嫌いみたいだしね。フェンシングの格好とかも似合いそう。
「………いい。それいいわ!」
「え?」
「確か演目でそういった衣装があったはず! 探しに行くわよ!」
そう言うなり、演劇部の部長さんはお供の女の子達を連れて走って行きました。あれ? もしかして口に出てしまっていたんじゃ……
冷や汗が頬をつたう。
「せーんーぱーいー?」
「ひぃっ!」
肩を掴まれ、地を這うような低い声が。やってしまった。折角女の子の格好はしなくてよくなったのに、今度は英国騎士の格好をさせられてしまう。似合うと思うけど、千葉くんは着たくないのならさっきと同じだ。余計な事を言っちゃったよー!
「ご、ごめんね。今から走って追い掛けて止めてくるからっ」
「………いいですよ。女装させられるより、ずっとマシですから」
声のトーンが戻り、千葉くんは苦笑いしていた。うぅ……失敗しちゃったな。
「それより、助けて頂いてありがとうございました」
「えっ」
「先輩が止めに入ってくれなかったら、きっと女装させられていました。本当に、ありがとうございます」
いつも不機嫌な顔だった千葉くんが、柔らかく微笑んでくれた。か、可愛いっ! 抱きしめたい!
「先輩?」
「なんでもないですっ。千葉くんが走る時は絶対応援しますね!」
「ありがとうございます」
危ない。思わず抱きしめちゃう所だった。ちょっとは先輩らしい事が出来たといいな。
「なになにー? 揉め事?」
「どうかしたのか一ノ瀬」
「いや、俺の出る幕はなかったようだ」
「んー? 意味わかんないんだけど」
そして千葉くんの出る競技、『貴方も華麗に変身』が始まった。殿様だったり猫ちゃんだったり、まさかの原始人なんかもあったりでとても盛り上がった。そしてついに、千葉くんの出番!
「なにあれー!!」
「え、あれ千葉くん!? めっちゃカッコいいじゃん!」
「いつもとイメージ全然違うけど、アリだよアリ!!」
「後で写真撮って貰おうよ」
映画や小説で出てくるような革命時代の衛兵の服。近衛胸甲騎兵というらしい。放送部の部長さんが言っていた。
惜しくも三位だったけど、競技が終わった後とても嬉しそうだったからよかった。女の子達に囲まれてたけど。
「すごい人気だったね。三位おめでとう」
「運動は苦手な方なので、嬉しかったですね」
競技が終わり、委員会のテントに戻ってきた千葉くん。疲れた様子だったからお茶を用意して、二人で一息ついていると、怒った顔の西嶋さんがテントの中に入ってきた。
「さっきの借り物競争は無効よ。あんなのインチキだもん」
まだその事で怒っていたんだ。そんなにアイス食べたいのかな。
「……なんですか、貴女は? 此処は部外者は立ち入り禁止ですけど」
「うっさいわね、あんたと話してないわよ」
おふ。千葉くんと西嶋さんの間に火花が見える。喧嘩はダメだよと言ったら怒られてしまったので、見守るしかない。
「先輩に対しての礼儀はないんですか」
「ふんっ、そんなのあの女には必要ないわよ」
「敬語の1つも使わず、目上の人をあの女呼ばわり。貴女1度、幼稚園からやり直した方がいいですよ」
「な、なんですってぇぇっ!!」
顔を真っ赤にさせた西嶋さんが千葉くんに近寄る。まさか私の時のように、なにかぶつける気なんじゃっ!
慌てて止めようとした時、西嶋さんの様子が変わった。
「あ、あんた男じゃない!」
「はぁ?」
「やだ、近寄んないでよ」
千葉くんに近付いた瞬間、逃げるように私の背後に回った。どうしたんだろ?
「あはは、鈴音ちゃんは男性恐怖症だからねー。女顔の新でも無理なんて相当重症みたいだね」
現れた榊先輩。そうか、男性恐怖症だから怯えてるんだ。そういえば前にも、田中くんや一ノ瀬先輩に対して逃げ腰だったような。
「女顔って、先輩……」
「女顔だろうが男には代わりないじゃない!」
「えっ……」
私の服にしがみつく姿がなんか可愛い。妹がいたらこんな感じなのかも。頭を撫でたら怒るかな?
「提案なんですが、間宮先輩と西嶋さんと私の3人で、アイスを食べに行きませんか?」
「はぁ? 同情のつもり?」
「そうじゃなくて。西嶋さんとも仲良くなりたいんです」
「……バカじゃないの。なんであんたなんかと」
掴んでいた手を放し、俯いたまま黙ってしまった。残念、仲良くしたかったな。
「……あんたがどうしてもって言うなら、行ってあげなくもないけど」
小声だったけど確かに聞こえた。
「はいっ、どうしても一緒に行きたいです!」
やった、間宮先輩にお願いしてみよう。人数が多い方が、絶対楽しいし美味しいよね。
あれ? なんか西嶋さんの顔がおかしな事になってる。眉を潜め、下唇だけを付きだした変な顔。折角可愛いのに台無しだ。
「あれね、鈴音ちゃんの照れた顔なんだって」
小声で榊先輩が教えてくれたけど、あの顔が照れた顔なんてわからないよ!
「桜子が言ってたんだけどさ、照れた顔を見せるのが恥ずかしいから我慢してるみたいだよ? 面白いよねー」
我慢する必要なんかないのに。西嶋さんは奥手なのかな? 照れた顔なのだとわかったら、なんか可愛らしく思えちゃう。
「べ、別にあんたなんかと行きたくないけど、間宮先輩と行きたいから一緒に行くんだからね。そこの所、勘違いしないでよ!」
「はい。楽しみにしてます」
ほんのり顔を赤くさせ、西嶋さんはテントから走り去って行った。
後輩って可愛いんだな。またあの照れた顔が見たい。癖になっちゃいそうだ。
「新?」
西嶋さんの走り去った方向をずっと見つめたまま、動かない千葉くん。
「鈴音ちゃんに色々言われたから、不機嫌になっちゃった?」
「……初めて男扱いされました」
「あれ、そっちー?」
「西嶋……鈴音さん」
その後暫くの間、榊先輩の声が届いていないかのように、千葉くんはただ立ち尽くしていた。
「まさかこんな展開になるなんてね。いやー意外も意外だわ」
よくわからなかったけど榊先輩いわく、見守っててあげなと言われたので、先輩らしく見守ってあげたいと思います。なにを見守るんだろうか?
午前中の競技も残り最後の1つ。私が待ちに待った、そうパン食い競争だ! 悠哉くんにも手伝って貰ってたくさん練習したし、今度は自分の力で1位になるぞー!
パン食い競争で使われるパンは、1枚の食パンが袋に入った物を使う。かぶりつきやすいように斜めにぶら下げているから、これは本当に1位になれるかも。
《次の競技も目が放せないぞ! か弱い女子達がパンに食らいつく姿は悶えるに違いない! さあ、食らいつけ、勝利を手にする為に!》
「する訳ないじゃんねー。パンにかぶりつくなんて恥ずかしいもん」
え、そうなの?
準備が終わるまでの間、座って待っていた女の子達が次々に頷く。まさか、そんな……誰も一生懸命にならないんて。
落ち込んでいると、マイクから高音の音が聞こえ、皆一斉に耳を塞いだ。
《あー、あー、パン食い競争で1位になった女の子には、漏れなく俺がハグしちゃうから頑張ってねー》
途端に目の色を変え、闘志を燃やす女の子達。これだよ、私が求めていたものは! 自分の力を出し切って勝負するこの緊張感。堪らない! ありがとう、榊先輩!
「またなんでそんなこと……」
「だってー、やる気のない子の走りなんて見てもつまんないじゃーん」
《なんとパン食い競争の1位の女子には、生徒会のチャラ男こと、榊啓介からの熱い抱擁が待っている! これは女子にとって嬉しい特典だ!》
パン食い競争が始まり、こぞって女の子達がパンにかぶりつく。上手く噛めなかくて揺れるパンに悪戦苦闘だけど、皆諦めることなく真剣にかぶりついている。まるで飢えた猛獣のように。
そして私の出番がきた。練習の成果を見せる時、悠哉くんや御子柴師匠との練習を思い出すんだ。
「よーい……」
ピストルが鳴った。借り物競争の時と同じで、少し出遅れてしまったけど負けない。パンが揺れる前にかぶりつくんだ。
《な、なんだ今のはー!?》
パンが揺れる前に素早くかぶりつき、最下位だった私が1位に躍り出た!
《なんて無駄のない流れるようなかぶりつき! 思わず見とれてしまったぞー!》
「あはははははっ、ひーっ、愛花ちゃんサイコー!!」
《そしてそのままゴール!!》
ゴールテープを切ったってことは、私が1位なんだよね? 私が1位……自分の力で1位になれたんだ!
「やったー! 1位になれたー!」
戦利品の食パンは、練習に付き合ってくれたお礼に、悠哉くんか御子柴師匠にあげよう。歯形ついてるけど。
「お、お疲れ篠塚……良いかぶりつき、だったぞ、ぶぶっ」
「1番おめでとう。すごかったね、なんていうかすごかった」
「ありがとうございます!」
クラスのテントに戻ると、褒めてくれたりおめでとうと言ってくれる。頑張った甲斐がありました。
《午前の部の競技は全て終了。此処で途中結果を生徒会会長、一ノ瀬和樹から発表して貰う。お前らー、ちゃんと聞けよー!》
《1位、青組171点。2位、黄組149点。3位、赤組140点。まだまだ巻き返せる。諦めず全力で頑張ってくれ》
「青組つえー」
「これは午後の競技頑張らねーとキツいな」
黄組は2位なんだ。一ノ瀬先輩の言う通り、まだまだ挽回出来るだろうし、午後の競技も頑張ろう。
さーて、お昼お昼。お母さんの手作りお弁当ですよ。え、榊先輩のハグ? お弁当の方が大事です!




