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 やって来ました水撒きの時間。早めにお家を出たおかけで何時もより人が少く、静な電車内がちょっと寂しい感じかな。軽くランニングしながらの登校は思っていたよりキツくて、学校に着いた頃には息が上がっていた。そのうちマラソン大会なんてのにも出てみたい。

 玄関には人の気がなく、静な廊下で私の足音だけが響く……はずだったのに、後ろから足音が聞こえ、思わず振り返ると、


「おはよう」

「ひゃあ!!」


 心臓から口が出るかと思った。あ、逆だ。口から心臓が出そうなぐらい、後ろにいた人に驚いてまった。

 オールバックの細目のイケメンさん。以前に校門で服装検査をしていた人だ。確か名前がカツラさん? だったかな? 自信ないけど。


「お、おはようございます!」

「早いな。君は以前校門で会った覚えがあるが、名前を聞いてもいいか?」

「はい、篠塚愛花です」


 名前を言った瞬間、蛇に睨まれた蛙状態に。細い目が更に細くなり、重苦しい空気が……な、なんで。


「篠塚愛花? 君がか?」


 これは愛花ちゃんを知っているパターンですね。そして何か嫌な気持ちにさせた事があった感じ。そう思ったら、この威圧的な目にももう慣れっこです。


「記憶を無くしてしまって何もわかりませんが、私は篠塚愛花です。えっと、カツラさん……には何かご迷惑を掛けませんでしたか?」

「……葛城だ。直接ではないが、あまり良い噂は聞かなかったからな。記憶喪失という噂も聞いている」


 愛花ちゃんって実は人気者なんじゃないかな? そうじゃなきゃ噂は広まらないよね。


「何故こんな朝早くにいる」

「花壇のお花に水撒きをする為です」

「君は環境委員だったのか?」

「いえ、人手不足だそうなのでお手伝いをする事になったんです」

「何故君が?」

「水撒きがしたいからです!」


 無言でジッと見詰められて、ふと気付いた。水撒きの時間がなくなってしまう! 急がなきゃ!


「水撒きの任務がありますので失礼します」


 思わず敬礼し、自分の教室に鞄を置きに行く。雰囲気からか、葛城さんの前だと堅くなってしまう。風紀委員にピッタリだと思うよ。

 花壇に辿り着いたのはいいけど、肝心のホースがない。え、どうしよう。まだ環境委員の人は来てないみたいだし、水撒きが出来ない! 用具室にあるんだろうけど、場所がわからないからどうにもならない。や、役立ず……

 項垂れていると、何か物音がして振り向くと、そこにはホースが! しかもちゃんと水が出るように繋がってる。さっきまでなかったのにどうして?


「もしや……妖精さん!?」


 辺りには誰もいない。困っている私に妖精さんが助けてくれたんじゃ。そんな訳ないって思うかもしれないけど、天使さんがいたんだもん。妖精さんがいてもおかしくないはず。


「ありがとう、妖精さーん」


 見えないけどお礼は言わなきゃ。早速水撒き開始。朝の日差しにキラキラと輝く水しぶき。お花も気持ちよさそうだ。水撒きをしていると、なんと7色に光る虹が。


「きれー、こんな近くで虹が見れるなんて」


 ホースを振り回していたら環境委員の人がやって来て、一緒に水撒きをしました。何故か驚かれたけど。


「まさか本当に来てくれるとは思わなかったよ。前も種まき手伝ってくれたし、本当にありがとう」


 初めて真由ちゃんと会った花壇の種まきで、この人もその場にいたんだ。真由ちゃんと虫さんに出会った記憶しかない。


「環境委員は運動部の奴が多くて、朝練や自主練してる奴ばかりで朝の水撒きをしてくれる奴が少ないんだ」

「そうなんですか。私で良ければ毎日お手伝いしますよ?」

「そこまではさすがに甘えられないよ。委員に入ってるんだし、彼奴らにもさせないと」

「そうですか……」


 折角毎日水撒きが出来ると思ったのに。環境委員の人が落ち込んでる私に苦笑いし、


「そんなに落ち込まれるとは思わなかったな。水撒きなんてつまらないだろ?」

「いいえ! とっても楽しいです」

「そ、そう? なら週一ぐらいで頼めるかな?」

「お任せください」


 やったー! 週一で水撒きの仕事ゲット! 頑張るぞー。

 ウキウキで水撒きを終え、ホースを片付ける時に用具室を教えて貰った。


「此処にあったんですね。覚えておきます」

「え、知らなかったの? ホース使ってたから場所知ってると思ってた」


「妖精さんが助けてくれました」

「は? 鍵は職員室にあるから、ボードに名前を書いて先生に一言言ってから借りて」


 職員室まで行って鍵を戻し、鍵の借り方まで教えてくれました。これでいつでもお手伝いが出来ます。


「そういえば、篠塚さんは部活入ってないの? 俺は文化部だから、朝練とかないし委員の仕事出来るけど、部活あるならそっちを優先でいいよ?」

「え、部活?」


 そういえば愛花ちゃんは何の部活に入ってるんだろう? 何かの部活に入っているんなら、部活の人からなにか言ってくるはずだし。だってずっと休んでるからね。


「わからないです」

「ああ、記憶喪失だったもんな。んー、誰かになにか言われたりしなかったの?」

「いいえ、なにも」

「担任にでも聞いてみたら? まぁ、俺的には手伝ってくれた方が助かるけどね。今日はありがとう、またね」

 頭をポンポンされ、三年生のクラスがある方へと向かった。先輩だったんだ。

 部活かぁ。言われるまで気付かなかったけど、どうせなら運動部がいいな。学生時代の青春の汗、ライバルとの闘い。いいよね、いいよね、血がたぎるってもんだい!

 賑わう教室。自分の席に着けば、隣の田中くんが声を掛けてきた。


「おはよう篠塚さん。あのさ……お願いがあるんだけど」

「おはようございます。なんですか?」


 田中くんからお願いなんて珍しい。何処となく言いにくそうにしているけど、なにか困っているのかな? 田中くんにはいつもお世話になってるし、私に出来ることがあるならなにかしたい。


「どうぞ、なんでも言ってください」

「あ、うん。今週の土曜日一緒に練習しない?」

「練習?」

「二人三脚の練習。まだ呼吸合わない所あるし、練習した方が当日怪我もしないと思うから……あ、でも篠塚さんが嫌じゃなければだけど」


 怪我をしないよう気を使ってくれるなんて、なんて優しくて努力家なの。寧ろ私からお願いしなきゃダメじゃない。


「はい、お願いします! いっぱい練習して上手くなりましょうね」

「よかった。それでよかったらお昼ご飯とかも一緒に食べないかな? ほら、運動するとお腹減るし」


 おおっ。練習だけじゃなくてご飯も一緒に食べてくれるなんて。学校帰りの寄り道で、真由ちゃん達とファミレスに行った以来の外食。それも休日に! 満喫してる、人生満喫してるよ。


「喜んで! たくさん練習してたくさん食べましょうね」


 当日に図書館で待ち合わせをして、練習をしようと約束をした。なんでも、図書館の横は大きな公園があるんだって。待ち合わせの時間は10時だし、少し早めに行って図書館を見学してみようかな。


「よし、デートだ。デートに誘えた!」

「頑張れよ田中。俺達はお前を応援するぜ」

「絶対デートだと思われてないだろうがな」

「うるせっ、いいんだよ別に。篠塚さんが喜んでくれたらなんでもいいんだ」

「……泣かせるなよ田中」


「お前ら、席に着け」


 ホームルームのチャイムが鳴る前に須藤先生が来て、バタバタと皆席に着く。


「体育祭の色別が決まった」


 須藤先生の言葉にクラスはざわついているけど、色別ってなんだろう? 周りを見渡してみると、女の子達が一生懸命お祈りをしていたりしている。


「色別ってなんですか?」

「体育祭は赤、青、黄色の3色の色に分けられて競うんだけど、この学校は各学年に6クラスあるよね。だから毎年くじ引きで色を決めるんだよ。くじを引くのは三年の代表者で、このくじによって勝敗が決まる可能性もあるんだ」


 なるほど。だからあんなに一生懸命お祈りをしていたんだ。勝ちたいもんね。


「A組とD組が赤。B組とF組が青。C組とE組が黄色になった」


 須藤先生が言い終わった瞬間、教室が黄色い歓声が響き渡った。


「きゃー! 一ノ瀬先輩と同じ色よー!」

「やる気出てきた。これで一ノ瀬先輩と話せるチャンスが来るかもー!」

「神社でお祈りした甲斐があったわ」


 勝ちたい訳じゃなくて、そういう意味でお祈りしてたんだ。さすが一ノ瀬先輩、人気ハンパないです。私も嬉しかったりするし、これはますます変な所を見せられないぞ。

 クラスの半分の女の子達は嬉しそうだったけど、中には肩を落とす人達もいた。


「あーあ、榊先輩とは別々かぁ……」

「新君とは別でガッカリ。初めての体育祭だから色々教えてあげたかったのになー」


 落胆の声が所々から聞こえ、中には「間宮先輩と別れた」と嘆く男の人も。そういえば、生徒会の人達や間宮先輩がどのクラスなのかも知らないや。皆よく知ってるね。改めて知った生徒会の人達の人気。そんなすごい人達に囲まれて仕事をしていた愛花ちゃんもすごいよ。

 色別でやる競技もあって、今年は綱引きとリレーらしい。確か、田中くんはリレーに出るって言ってたような。三年生に紛れてのリレーなんて大変だ、これは絶対に応援しなきゃ!




 田中くんとの約束の日。前以て調べておいた図書館の開館時間に合わせて電車に乗り、私は図書館の前に辿り着いた。図書室に入ったことはあっても、たくさんの本がある図書館は初めてで、心弾ませながら足を踏み入れようとした時、


「な、なにあれ」


 視野に入ったのは、巨大な遊具。すべり台は勿論、ブランコやつり橋のような遊具、綱で出来た網のような遊具が1つに纏まった巨大な遊具がそこにはあった。

 え、なに此処遊園地? もしかして小さな遊園地だったりするの? そうだよ、だってこんなに子供の夢が詰まった遊具があるんだから間違いない! しかも遊具の販売機が近くにないからにして無料っぽい。これはもう遊ぶしかないでしょ!


 興奮した私は、小さな子供達の邪魔にならないように色んな遊具で遊んでいた。時折、子供達のお母さんからの視線が痛かったけど、気にしません!

 田中くんが来たのは、バネのついたイルカの遊具に揺られていた時だった。


「……お、おは、よう。なにしてるの、篠塚さん」

「イルカの遊具に揺られています」

「うん、見たらわかる。楽しい?」

「はい、とっても!」

「そう……ならいいけど」


 田中くんの笑顔がひきつっている気がする。なんでだろう?

 田中くんが来たので、持参したタオルを足首に巻き、早速二人三脚の練習開始。直線は調子良く走れていたのに、カーブをしようとするとどうしても躓いてしまう。


「大丈夫!?」


 躓いた時に括られていない足を擦りむいてしまい、膝から血が出てしまった。愛花ちゃんの体なのにー、ごめんね愛花ちゃん!


「背中に乗って。水のみ場まで行って傷口を洗おう」


 背中を向けてしゃがんでくれるけど、歩けない程じゃないし悪いよね? 断ろうと思ったけど「早く」と急かされて、田中くんの好意に甘えることにした。


「重くないですか?」

「全然! 軽いぐらいだよ」


 おんぶなんて初めてで、自分の視界よりも高く、私を背負っているのにスピードは速くてすごい。ちょっと楽しかったりして。

 水のみ場で傷口を洗って、田中くんはスポーツバックからスプレータイプの消毒液を取り出し、付けて貰った。準備万端ですごいな。そこまで考えてなかったよ。


「大丈夫? 痛くない?」

「大丈夫です、ありがとうございます。ごめんなさい、私が何回も躓くから、田中くんに迷惑を掛けてしまって」

「ううん、迷惑なんて思ってないよ。それにまだ息が合わないから練習してるんだし、躓いたぐらいでそんな顔しなくていいよ」


 落ち込む私を慰めるように、優しく頭を撫でてくれる。さっきのおんぶといい、田中くんはいつも私を助けては元気をくれる。


「どうして、田中くんはそんなに私に優しくしてくれるんですか?」


 学校の皆は嫌な顔をするか、遠巻きに見ているだけ。でも愛花ちゃんの噂を聞けば、それが普通なんだと思ってたし気にしなかった。だのに、田中くんは最初から私に優しかったのは何故なんだろう。


「うーん、俺がしたいから。篠塚さんが困ってたら助けたいし、笑っていて欲しい……だから、なにか困った事があったら俺に言って。絶対に力になるから」


 優しかった笑顔が真剣な表情に変わり、ジッと私を見る。ドキッとした。田中くんのこんな表情は初めて。いつも優しく笑う田中くんがこんなに真剣で私を見るから、どうしたらいいかわからなくて頷くしかなかった。


「もうすぐお昼だし、ご飯にしようか。なにか食べたい物ある?」


 食べたい物ならいっぱいあるけど、すぐに思い付く物がない。


「近くにお好み焼き屋があるんだけど……」

「お好み焼き!? 食べたいです!」


 思わず挙手してしまったのは仕方がない。

 粉物の王様。いや、王様はたこ焼きなのかな? わかんないけど、香ばしいソースとマヨネーズが絡み合い、青のりがたっぷり乗ってその上で鰹節が踊る日本の代表的な料理、お好み焼き! ものすごく食べたい。

 さっきまで私の頭の中は真剣な表情をした田中くんでいっぱいだったけど、今はお好み焼きでいっぱいになっていた。


 田中くんに連れられて来たお店は、昔からある懐かしい感じの雰囲気があり、店内は座席だ。畳なんて初めてでちょっと嬉しい。

 メニューを見てもなにがいいからわからないから、取り敢えず田中くんと同じものにして、田中くんが鉄板の上で焼き始めた。うわぁ、ホットケーキみたい。


「よっ、と」


 上手にひっくり返し、拍手喝采。すごいすごい、私の分も綺麗に焼いてくれる。手慣れているのか、形を崩す事なく焼き上げ、お好み焼きにソースを塗りマヨネーズを網上にかけていく。パラパラと鰹節を振りまき、ゆらゆらと踊る鰹節に魅入ってしまった。


「後は食べやすいように切って食べて」

「すごいです! 田中くんはお好み焼きの達人ですね」

「はは、篠塚さんも慣れたら出来るようになるよ」


 本当かな? 私も出来るようになるんなら是非やってみたい。


「はふっ、はふはふっ!」


 切って貰ったお好み焼きを口に入れると、焼きたての熱で噛めずはふはふしてしまう。美味しい! 


「こんな風に篠塚さんと食べれるなんて思わなかったな」

「……以前の私とは仲は良くなったのですか?」

「あまりね。以前の篠塚さんはクラスに馴染もうとしなくて孤立気味だったんだ。高飛車だったんだけど群れる事を嫌うっていうか、友達を作ろうとはしなかったね。だから余計周りから浮いてたと思う」


 友達がいないって聞いてたけど、愛花ちゃんは寂しくなかったのだろうか。私は元々友達がいないから、自由に動く体があれば幸せだった。今は友達が出来て、誰かと一緒にご飯を食べたり話したりする楽しさを知ってしまったから、一人は寂しいと思う。


「一年の時は同じクラスじゃなかったけど、その時は友達がいたっぽいんだ。篠塚さんは目立ってたから、女子のグループにいたのを見掛けたことがあったよ」


 なんと! 一年生の愛花ちゃんには友達がいたんだ。じゃあ今はどうしてその子達は傍にいないんだろう? 喧嘩でもしてるのかな。


「うーん、気になるなぁ……」

「一年の頃の事を知りたいなら、御子柴に聞けばいんじゃない? 同じクラスだったはずだから」

「御子柴って、副会長の御子柴くんですか?」

「そう、その御子柴。篠塚さんと同じで、目立つ一年の一人だったよ」


 まさか御子柴くんが同じクラスだったなんて。確か御子柴くんも田中くんと同じように、最初から私に敵意を向けなかった。驚いてはいたけど、嫌悪するような素振りもなくて。もしかしたら、一年生の時は愛花ちゃんと仲が良かったのかもしれない。


「御子柴くんに聞いてみます」


 月曜日に会ったら聞こうと決め、残りのお好み焼きを食べきった。お好み焼きの次はたこ焼きが食べたい。あのまるまるっとした可愛いたこ焼きが食べたい。

 お好み焼き屋さんから出て、また公園に戻り練習に励む。次第に転ばなくなって、スピードも上がった気がするから、もしかしたら上位を狙えちゃうかも。うふふ、練習した甲斐がありましたよ。

 次いでにと、走り方も教えて貰えちゃいました。サッカー部だからずっと走りっぱなしなんだって。すごいなぁ。


 夕方になり、田中くんはお家まで送ってくれた。


「今日は楽しかったよ。また学校で」

「来週の体育祭頑張りましょうね」


 田中くんが見えなくなるまで手を振り、家の中に入った。

 今日のお礼の為に、田中くんにはなにかプレゼントしたい。なにがいいかな。女の子からのプレゼントといえば、甘いものが定番。なら、クッキーなんてどうかな?

 作ったことないけど……


「あら、おかえり……って、なにその格好!?」


 服を汚し、膝や肘に怪我をした私に驚くお母さん。練習したら怪我の1個や10個、出来て当然だよね。頑張った証なのです。

 お風呂で傷口にお湯が染みり、悲鳴を上げそうになるのを堪えながら、御子柴くんの事を考えていた。

 榊先輩や千葉くんは私に対して嫌悪感を抱いていた感じだったけど、御子柴くんと一ノ瀬先輩は普通に話し掛けてくれていた。今思えばおかしいよね? 迷惑を掛けていたはずなのに。何か訳があるのかもしれない。これは絶対に月曜日に聞かなきゃ!


「よーし、頑張るぞー!」


 と、思った翌日。予想外の敵が私の行動を妨げた。


「いったーい!」


 ベッドから起き上がろうとした朝、身体中に痛みが走り起き上がれなかった。

 なんで? なんでなんで!? まさか、まさか病気にっ!?

 足を動かそうとする度に激痛が走る。そんな、折角健康な体になったのに……


「うるせーな、なんだよ」

「悠哉くん! 体が、体が痛いんです! 動かそうとすると痛くて痛くてっ」


 病気になってしまったのかと怖くて涙が溢れてしまう。もう2度と歩けないのかな? 体育祭楽しみにしてたのに。また、入院生活なの?


「ただの筋肉痛だろ。昨日1日練習して走ってたんなら、運動不足だったテメーの体が筋肉痛になんの当たり前だろうが」


 き、筋肉痛!?

 これが筋肉痛なんだ。痛いけど、普段使わない筋肉を使ったって事だよね。ちゃんと筋肉を使えてる、運動した証だ!


「やった、筋肉痛です! 始めてですよ、て痛い痛い痛い痛い痛いっ」


 寝たきりだった私が筋肉痛……動ける体っていいな。痛いけど。


「幸せです」

「……病院に行った方がいいんじゃね」

「いえ、私は健康です! 運動のし過ぎで筋肉痛になっただけです。筋肉痛ですよ、運動したんです私! いたたたっ」

「頭見てもらえ」


 頭? 美容室に行けよと言うことかな? 前髪が長いぐらい気にしないし、お金が勿体ない。体育祭の当日は前髪をピンでとめて、西嶋さんみたいにツインテールにしよう。


 筋肉痛に悩まされつつも、心配してくれた人に、


「運動のし過ぎで筋肉痛になったのです」


 と、言えるのがとても嬉しかったのでした。

 筋肉痛は2、3日続き、体育祭の準備で慌ただしくて、御子柴くんに愛花ちゃんの事を聞くのをすっかり忘れてしまっていた。



 そして、待ちに待った体育祭の日がやって来た。



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[気になる点] 脱字:無かった 「……以前の私とは仲は良くなったのですか?」 [一言] スプレーした後で絆創膏はしなかったようで。お湯がかかれば沁みるでしょう。
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