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「間宮先輩から離れなさいよ!」


 私と間宮先輩の間に入り軽く押され、ギロリと睨まれた。


「騙されちゃ駄目ですよ、間宮先輩! この女は先輩に嫌がらせをするつもりなんですから!」


 指を指され西嶋さんが叫んでいるげど、なにを言っているのか理解出来ない。


「こーら。その突進癖直しなさい」

「いたっ。だって先輩この女がぁ」


 間宮先輩が西嶋さんの頭をチョップしたけど、痛がっているのわりには嬉しそう。間宮先輩の腕に絡み付いて、私に笑顔を向ける。


「先輩何処にいたんですか? 捜したんですから。ああ、一ノ瀬先輩とご飯食べてたんですね。ラブラブですもんね、先輩達」


 鼻で笑い、すごく嬉しそうに間宮先輩に話し掛ける。西嶋さんは本当に間宮先輩が好きなんだ。いいな、後輩に慕われるって。私も慕われてみたい。『篠塚先輩』と呼ばれて懐つかれた日にはもう……


「うふふふふ」

「き、気持ち悪っ」

「今日は愛花とお昼を一緒にしてたの」

「え……」


 妄想していたら西嶋さんの目が見開いていく。何度も間宮先輩と私に視線を繰り返し、口を震えさせ、


「どうして……」

「偶然出会って。今日は和樹が忙しいから私独りで食べると言ったら、一緒に食べましょうと誘ってくれたのよ」

「っ、図々しい女っ! 私だってまだ一緒に食べた事ないのに」


 憎らしげにまた睨まれたけど、そんなに眉間に皺を寄せていると本当にそんな顔になっちゃうよ?

 女の子同士でご飯を食べるのは初めてで、間宮先輩とのご飯は楽しかったな。


「また一緒に食べましょうね」

「そうね、食べましょう」

「なっ、駄目ですよ先輩! こんな性悪女と一緒にご飯を食べたら、折角の間宮先輩の美味しいお弁当が不味くなっちゃいます!」

「その心配はないかな」


 何処か遠くを見つめている間宮先輩。お弁当の事を思い出してるのかな。間宮先輩のお弁当は美味しいですと言いたかったけど、食べたはずのマッシュポテトの味が未だに思い出せない。どうしてだろう?

 それにしても、さっきから西嶋さんは随分ご立腹のようだけど、私なにか悪いことでもしたのかな?

 あ、もしかして一緒にご飯が食べたかったとか? そういえば、私も食べた事ないのにとか言ってたような。なんだそうかそうか。なら一緒に誘っちゃおう。


「西嶋さんも一緒に食べませんか?」

「誰があんたなんかと! 私は間宮先輩と二人で食べたいの」

「こら、いい加減にしなさい!」


 それもそうか。間宮先輩が好きなんだから二人っきりで食べたいはず。お邪魔しちゃいけないよね。

 と、考えていた矢先、西嶋さんの頭に間宮先輩の鉄槌が振り落とされた。


「いったぁあ。なにするんですかぁ?」


 うわ、軽い音じゃなく鈍い音が。すごく痛そうで、西嶋さんは涙目だ。


「愛花は鈴音の先輩なの。先輩に対してその態度はなに?」

「だ、だってこの女が……」

「し、の、づ、か、せ、ん、ぱ、い」


 両方のこめかみを拳でグリグリと……痛い痛い、見てるだけで痛いっ!


「痛い痛い痛いっ、ごめんなさいっ」

「謝るのは私にじゃなくて愛花にでしょ」


 もう撫子さんでもなく、ありのままの間宮先輩になってる。痛そうだけど仲が良さそうな二人で羨ましい。いいな、あんな風に戯れてみたい。痛そうだけど。


「うぅ……」

「鈴音の悪い所は思い込みが激しい所。昨日言ったじゃん、愛花は変わったよって」

「演技かもしれないじゃないですか」

「あれが演技だったら怖いわ」


 二人からでジッと見つめられ、取り敢えず笑っておく。


「二人とも私の大事な可愛い後輩なんだから、仲良くなって欲しいな」

「私も大事な後輩に入るんですか!?」

「勿論。今も昔も大事な後輩だよ」


 そんな風に思われてるとは思わなかったから、感動で涙が出そう。

 私が感動に震えていると、西嶋さんも微かに震えている。もしかして西嶋さんも感動して? と思ったら、顔に何か投げ付けられた。ハンカチだ。


「勝負よ、篠塚愛花!」

「え?」

「どっちが間宮先輩の一番の後輩か、勝負よ!」


 勝負。

 それはお互いが競い合い高め合い、絆を強くするもの。即ち、ライバル!! 私にライバルが出来る日が来るなんて!

 青春漫画であったような、

『お前やるな』『お前こそ』

 なんていう熱いやり取りが出来るかもしれない!


「あのね。そんな勝負やる訳……」

「受けて立ちます、その勝負!」

「やるの!?」


 当然です。友達が出来て嬉しかったのに、その上ライバルまで出来るんだよ。やるに決まってるじゃないですか。


「ふ、良い度胸じゃない。そうね……体育祭も近いことだし、体育祭の競技で勝負よ」

「いや、あんた達学年が違うから勝負になんないでしょ」


 体育祭で勝負出来るのはやる気が出てよかったんだけど、確かに間宮先輩の言う通り、私と西嶋さんは学年が違うから競えない。残念だけど別の事で勝負か。


「……あんた何の競技に出るの?」

「パン食い競争と二人三脚と借り物競争と綱引きです」

「パン食い!? あははははっ、あんたにお似合いな競争ね。あんたのまぬけ面の写真、撮っといてあげるわ」

「本当ですか? 嬉しいです! お願いします」

「………っ」


 ライバルなのに私の写真を撮ってくれるなんて、西嶋さんはなんて良い子なの。是非とも思い出にプリントして貰おう。

 あれ、西嶋さんがすごく嫌そうな顔をしてるし、間宮先輩はなんか笑ってる。


「ふ、ふん。まあ、いいわ。私も借り物競争に出るの」

「わあ、奇遇ですね」

「だから借り物競争の順位で勝負よ。相手より上位だった方が勝ち。なんか文句ある?」

「ありません!」


 借り物競争で勝負。これは負けられない。走る練習しなきゃ、もも上げもも上げ。


「私が勝ったら間宮先輩の一番の後輩は私。2度と先輩には近付かないで!」

「それは私が嫌だから却下」

「ぐっ。な、なら、なら……」


 間宮先輩が即断ってくれたからよかった。負けたくないけど、もし負けちゃって話せなくなるのは嫌だもん。

 西嶋さんは何を賭けようか悩んでいるようで、頭を悩ませている。別に何かを賭けなくても良いんだけど、うーん、何がいいかな。悩んでいると、間宮先輩が何か閃いたようだ。


「ならさ、勝った方に私がアイス奢ってあげる。3段重ねのやつね」


 アイス!? それも3段重ね!?

 まだアイス食べたことないのに、いきなり3段重ね。違う味を楽しめたり、落ちてしまうかもしれないドキドキ感を楽しめたり出来る、あの3段重ねアイス!


「それって……先輩とお出掛けするって事ですか?」

「うん。お休みの日に一緒に街まで行こうよ。美味しいアイスがあるお店知ってるから」

「……はい、はい! 絶対に行きます!」


 さっきまで不機嫌だった西嶋さんの目がキラキラしてる。よっぽど嬉しいんだね。わかるよ、その気持ち。アイスだけじゃなくて、お休みの日にお出掛けも出来るなんて。まだ、お家の周りと学校しか行った事がないから、すごく楽しみ。


「あんたなんかに負けないから。先輩とお出掛けするのは私なんだから!」

「はい! アイス絶対に食べたいです」

「なんでアイスなのよ。そこは先輩とのお出掛けでしょ。馬鹿じゃないの!?」

「間宮先輩とのお出掛けも楽しみですよ」

「なんでもう勝った気でいるのよ、図々しい女ね」


 難しい性格をしているな。なに言っても怒られる気がする。でも黙っていたら黙っていたで、怒られるからお手上げだ。


「間宮先輩、私絶対に勝ちますから。だから見ていてくださいね」

「うん、頑張ってね鈴音」


 嬉しそうに間宮先輩に頭を撫でられ、見ている私まで微笑ましくて笑顔になる。すると、またいきなり指を指された。


「首を洗って待っていなさい、篠塚愛花!」

「はい。お風呂に入って待っています」

「―――っ、あんたなんか大っ嫌い!」


 顔を赤くさせ、走って行ってしまった。受けて立ったつもりなんだけど、なんで怒ったんだろう。


「いやー、面白い後輩を持てて楽しいわ。鈴音の事はあまり気にしないでいいよ」

「はぁ」

「……似てるんだよね、鈴音と昔の愛花」

「えっ!?」


 愛花ちゃんは西嶋さんみたいな感じだったんだ。なんだか段々と愛花ちゃんのイメージがわかってきたかも。


「普通はさ、嫌な事があっても表面上は笑顔でそんな事ないよっとか言うじゃん? それで後から影で愚痴言ってさ。嫌ならはっきり言えばいいのに、嫌われたくないから言わなかったり周りに合わせたり。笑顔の裏でなにを思っているのかわからない。それって怖いよね」


 仲良くなれたと思っていても、実は嫌がられていたら悲しい。それだったら最初から嫌いだって言われた方がずっと……あっ、そうか。だから間宮先輩は……


「だから、面と向かって自分の感情をぶつけてくれる愛花が好き。私に甘えて猫被ってる所があるけれど、単純でわかりやすい鈴音が好き。ま、二人とも性格が良いとはいえないけどね。その辺は私もだからおあいこ」

「あの、今の私はどうですか?」

「ん? 今の愛花も自分の気持ちに正直でしょ。なんでも楽しそうにしてて、こっちまで楽しくなるよ」


 本当に楽しいですから。美味しいご飯を食べられて、学校に通えて友達が出来て話せて。そんな楽しい日々を過ごせるなんて、最高に幸せ者です。


「……多分これから昔の愛花の事で色々あると思うけど、負けないで。特に安立美織には気をつけて」

「え、安立先輩にですか?」


 まさか安立先輩の名前が出るなんて思わなかったから驚いていると、間宮先輩も驚いた顔をした。


「知ってるの!?」

「は、はい。昨日放課後に会って、途中まで一緒に帰ったんです」

「ちっ、もう接触してきたか」


 よくわからないけど、なんだか悔しそうだ。間宮先輩は安立先輩と顔見知りなのかな?

 そんな事を考えていたらチャイムが鳴った。


「愛花よく聞いて。安立美織は直接何かをする訳じゃないけど、油断しないで。決して呑まれないよう、自分の考えをしっかり持つんだよ」

「え?」

「兎に角、惑わされないようにね」


 教室の分かれ道で間宮先輩は何度も念を押し、自分の教室へと向かった。

 呑まれないようにとか、惑わされないようにとかよくわからない。愛花ちゃんと仲が良かったって安立先輩は言っていたし、優しそうな感じだったのに。どうして間宮先輩はあんなに心配するんだろう。


「篠塚」

「あ、先生」


 廊下で考えていたら、ふわふわの無精髭の須藤先生がいた。髭はない方がいいと思う。


「なにをしている。サボるつもりか?」

「まさか! 例え高熱が出ても這いつくばって授業を受けます」


 吐血しても休むなんて嫌なのに、熱ごときで授業をサボるなんて勿体ない。あ、でも皆に移したりしたら大変。絶対に風邪引けないや。


「……生徒会の仕事、頑張っているようだな。一ノ瀬や榊から聞いている」

「楽しいです生徒会のお仕事。皆のお役に立てるよう頑張ります」

「人の役に、か。そういえば、朝の花壇の水撒きに人手が足りないそうだ」

「え、水撒き!?」

「誰か手伝ってくれる奴がいたらいいんだが……」

「はい! 私が手伝います!」


 人手が足りないならお手伝いします。というよりしたい、水撒きが。お花たちに命の水をあげるお仕事。ホースからキラキラと輝く水に、生き生きと咲き誇るお花。絶対にやりたーい!


「朝早くだぞ。起きられるのか?」

「いつも6時起きでしたが、30分早く起きます。体育祭に向けてランニングもしようと思っていますし、丁度いいですから」


 学校に行く道中、軽くランニングしていけば体力付くんじゃないかな。朝早くだからあまり人はいないだろうし、途中もも上げとかすればバッチリだ。


「環境委員には伝えておく。やれるかどうか見物だな」

「はい、見ていて癒されるような花壇にしたいと思います」

「…………」


 ぐふふ。思いがけないお仕事が舞い込んできちゃった。水撒きしたい。早く朝にならないかなー。

 楽しみが増えて足取りが軽くなり、スキップで教室に戻った。


「……本当に、記憶喪失なのか」





 学校から帰ると、玄関に悠哉くんの靴があった。珍しい、いつも遅いのに。今日は部活なかったのかな。


「ただいまです」

「あー」


 リビングにはいなく、キッチンでゴソゴソなにか探しているみたい。


「なにしてるんですか?」

「母さんが今日は遅くなるから適当に食えってよ」


 そう言って振り返った悠哉くんの手には、まさかお目にかかれるとは思わなかった、あの幻の食品が。


「ゆ、悠哉くん……それは」

「ん? カップ麺。食いたきゃそこにあるから好きなの選べば」


 キッチンの下の戸棚には、幾つかのカップ麺が入っていた。これがカップ麺。実物を見るのは初めてで、まさか食べられるなんて! ラーメン食べた事がなかったから嬉しい!

 なに味にしようかなー。やっぱり無難に醤油かな。でも味噌も捨てがたい……うーん、悩む。よし、間を取って塩味にしよう。

 悠哉くんの見よう見まねで、カップ麺の蓋を半分だけ開けてお湯を注ぐ。これで3分待ったら出来上がり、と。なんて簡単。さすがインスタント。待っている間に服を着替えてちゃおう。


「ふぁ……良い匂い。いただきます……っ!!」


 軽く冷まして口の中に入れた途端、ラーメンの味が口の中に広がり体を暖める。美味しい! こんなに美味しい物がたったの3分で? そんな馬鹿な。


「カップ麺を作った人は天才です!」

「喜びすぎじゃね?」


 感動です。世の中には感動出来ることがいっぱいあって嬉しい。

 あ、でもカップ麺はあまり体によくないって聞くから食べ過ぎないようにしなくちゃ。


「カップ麺はあまり体によくないので、次にお母さんが遅くなった時は私がご飯を作りますね」

「てめーの飯の方が体と心臓に悪いわ」

「そ、そんなことないですー。おにぎりなら作れます!」

「飯炊けんのかよ」


 ぐぅ……。炊き方すら知らない。

 黙ってしまった私に、悠哉くんは鼻で笑う。悔しいから、お母さんにこっそり炊き方を教えて貰おう。そして悠哉くんをビックリさせちゃうのだ。

 ふふん、待っててね悠哉くん。


「うわ、なんか悪寒がした。風邪か?」

「えっ、風邪!? 熱は? 薬、薬。病院に行きますか!?」

「落ち着け、うぜー。んな大した事じゃねーよ、大袈裟すぎ」


 大袈裟だと言うけれど、風邪は最初が肝心とも言いうよね。

 林檎があったから食べやすいようにすりおろしてあげようかなって思ったら、滑って指を傷付けてしまった。


「このバカ! 慣れねー事するからだろうが」


 怒られた後、絆創膏を貼っている間に悠哉くんが林檎をすりおろしてくれた。そして今、私がすりおろし林檎を食べています。美味しい。



 あれ?

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