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黒の村にて 握った手と温かさ

 青のイリュキン達が爆走しながら黒の村を出発して数日が経ち、いつもの日常がだいたい戻ってきた。このだいたいというのは少し前と違う事があるからで、それは……。


「ヤート君、この後に散歩へ行きませんか?」

「うん、良いよ。それじゃあ作業の後で汚れてるから、家に帰って身体の汚れを落として着替えた後で門に集合で良い?」

「はい、それで大丈夫です」


 こんな風にリンリーが前より良く誘ってくるようになった。リンリーが積極的になるのは良い事だと思うけど、なんでここ最近明らかに変わったのかな? 不思議に思いながら水場で身体をキレイにして家に入ると姉さんがいた。


「ヤート、お帰り」

「ただいま、姉さん」

「この後はどうするの? 散歩?」

「うん、着替えてからリンリーと散歩に行く」

「最近よくリンリーと散歩に行ってるわね」

「うん、よくリンリーに誘われてる。……姉さんは、最近リンリーが積極的になった理由ってわかる?」


 僕が聞くと姉さんは少し考えてから、うんうんとうなずく。


「まあ、想像はつくわね」

「そんなに考えなくても思いつく事なんだ……」

「そうね。簡単に言えばリンリーは負けたくないのよ」

「……リンリーは何かと戦ってるの?」

「リンリーが戦ってるのは、お姫様、お城にいた女薬師、あとはイリュキンとね」

「お姫様と戦ってるって言うのは王城でバチバチしてたし、僕が薬師の女の人と話した後はなんか変だったから何となくわかるかな。でも、リンリーがイリュキンと……? うーん、想像がつかない」

「確かに私も意外だったわ。あのイリュキンがねぇ……」


 姉さんが僕を見ながら、面白くて仕方がない感じで笑ってる。何が面白いのかわからないけど、これは聞いておかないといけない。


「勝負の内容はわからないけど、リンリーは勝てそう?」

「客観的に見て一番攻めてるのがリンリーで、一番有利な状況なのもリンリーっていう感じかしら。でも、戦いは何が起こるかわからないのも事実よね」

「僕も何か協力した方が良い?」

「そういうのじゃないしヤートが協力する事はないわよ。……そうね、ヤートはリンリーといっしょにいてリンリーの話をよく聞いてあげれば良いわ」

「……わかった。この後、いっしょに散歩に行くからリンリーの話を聞くよ。僕の見た目はどう? おかしくない?」

「……うん、大丈夫ね。いってらっしゃい」

「ありがとう。いってきます」




 身なりが整ってるか姉さんに見てもらい問題ないって言われたから、姉さんにあいさつして家を出て門に着くとリンリーがいた。


「リンリー、お待たせ。また、待たせてごめん」

「いえ、大丈夫です。私が早く来すぎただけなんで」

「そうは言っても毎回リンリーを待たせてるから、次は僕ももっと早く来るよ」

「私は待つのは好きなんで気にしないでください」

「それでも、できるだけ早く来るよ。それじゃあ散歩に行こう」

「はい。…………私が待ちたいのはヤート君だけです」

「何か言った?」

「い、いいえ!! 何も言ってないです!!」

「そう?」

「そうですよ!! さあ、出発しましょう!!」

「わかった」


 歩き始めた時にリンリーが何か言ったと思うんだけど、気のせいだったみたいだ。……そういえば、これはいつからだったかな? 僕が立ち止まって()()()()()()()()()()()()()()()()を見ていたら、リンリーが不思議そうに聞いていきた。


「ヤート君、どうかしたんですか?」

「僕とリンリーが手を繋いで散歩するようになったのって、いつからだっけ?」

「あ、えっと、そう……ですね。いつからでしょう? いつの間にかですね」

「そうかリンリーも覚えてないか。一番初めにリンリーと手を繋いだ時は覚えてるんだけどな」

「確か王城に行く前でしたね」

「うん、カッターさんとレメスナさんにあいさつした時だったね」

「そうですね。あの……」

「何?」

「ヤート君は、私と手を繋ぐの嫌ですか?」


 繋いでる手を見た後にリンリーが真剣な顔で聞いてきた。何でそんな事を聞くんだろう?


「リンリーの手は温かいから嫌じゃないよ」

「……ありがとうございます」


 リンリーがうつむいて小さな声でお礼を言ってきた。僕は嫌じゃないって事とリンリーの手が温かいって事の事実を言っただけなのに、今のはお礼を言われるような事なのかな? あと繋いだリンリーの手がさっきより温かくなった。……リンリーの体温が上がってる。


 同調はしてないけど見た感じ病気とかじゃなさそうという事は、リンリーは照れてるのかな? …………なんとなく照れてるかどうかは聞かない方が良い気がするから黙っておいて、その代わりうつむいて照れてるっぽいリンリーに僕からも聞いておこう。


「僕からも聞いて良い?」

「何……でしょう」

「最近はナイルさんと握手した時よりは同調を制御できるようになったけど、それでも少しは無意識に同調する事もある。勝手に自分の事を知られてリンリーは僕と手をつなぐの嫌じゃないの?」

「……私もヤート君と手をつなぐのは嫌じゃないです。それに同調されるのも私の事をもっと知ってほしいので嫌じゃないです。あとヤート君の手もすごく温かいですよ」

「…………ありがとう」


 なんだこれ? 顔がカッと熱くなってリンリーの顔が見れない。僕も照れてるのか? 恥ずかしいのか? うわっ、なんだこれ!? 初めての事でどうしたら良いのか、わからなくなってリンリーと同じようにうつむいて小さい声でお礼を言った。……さっきのリンリーはこんな感じだったんだね。


「ゴホン!!」


 僕とリンリーがお互いに照れてうつむいたままでいると誰かの咳が聞こえてきた。ビクッとして聞こえてきた方を見たら門番のネリダさんが、なんとも言い難い微妙な顔を僕とリンリーに向けていて頭をガリガリかいていた。


「お前ら……そういうのは誰もいないところでやれ」


 しまった!! 今は門にいるんだった!! 慌てて周りを見ると、村のみんながニヤニヤしたり微笑ましいものを見る感じで僕とリンリーを見ている。それに気づいたリンリーの手から伝わってくる体温がまた上がった。


「う……」

「リンリー?」

「うわああああああーーーーーー!!!!!!」

「リンリー!?」


 リンリーが今まで聞いた中で一番大きな声を出しながら僕の手を引いて森の中に走っていく。そして門を過ぎたあたりで後ろからネリダさんの声が聞こえた。


「暗くなる前に戻れよー」


 …………恥ずかしくて戻れないかもしれない。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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