大神林にて 母親の強さと父親の助言
「おりゃあ!!」
「はっ!!」
兄さんと姉さんが僕の目の前で戦ってる。……おかしいな。僕の力を見せる機会だったのに、なんでだろ? あれ? 僕が二人のケンカを唖然として見てると、父さんと母さんが僕の隣に来た。
「父さん、僕かなりやる気だったんだ……」
「そうだな。俺から見てもそう見えた」
「兄さんと姉さんも、やる気になってて途中から自分の方が僕と真剣に戦おうって考えてくれたんだとは思うよ。だからって……だからってさ、どっちが僕と戦うかを決めるのに僕を忘れるくらい集中する事はないと思う……」
「その、なんだ……、まあ、こういう事もあると言うか何というかだな……」
僕が兄さんと姉さんのケンカをヘコみながら見ている今の気持ちを言うと、父さんが僕を言葉を選びながら慰めてくれた。
「ヤート、大丈夫よ。私とマルディはちゃんと見てたわよ」
「……うん、ありがとう。母さん」
「前にヤートがこの広場で三体と戦ってたってマルディから聞いたけど、ちょっと信じられなかったの。でも、今のヤート動きを見て本当の事だってわかったわ」
僕は母さんに兄さんと姉さんの言動から思っていた事を聞いてきた。
「……母さん、僕は戦わない方が良いのかな?」
「ヤートに貫きたい事があるなら、戦わないなんてあり得ないわね」
「確かにそうだな」
「でも、兄さん達に心配かけてるみたいだし……」
「その心配を軽くさせるために、ヤートは自分の強さを見せようとしたんだろ?」
「そうなんだけど、こういう状況になったら見せようがないよ。……はぁ」
僕が時間が経つごとに激しさを増す兄さんと姉さんの戦いを見てため息をついたら、母さんが僕の頭をなでてきた。
「母さん?」
「ヤート、ちょっと待っててね。マルディ、ヤートをお願い」
「ああ、わかってる」
母さんはそう言うと激しく戦ってる兄さんと姉さんに近づいていく。そして母さんの魔力が膨れ上がる。
「ガル、マイネ、あなた達からヤートに戦う事を言ったのに、なんで二人だけで盛り上がってるのかしら?」
「「えっ?」」
あれ? なんか母さんが怖い。特に怒鳴ってるとかじゃなくて淡々と言ってるだけなのに、なんか圧力があって怖い。あ、兄さんと姉さんが後ろに下がり始めた。
「あの状態のエステアは久々だな」
「母さんって怒ると怖いんだね」
「ヤート覚えておけ、普段静かな奴ほど怒った時なんかの振れ幅は大きいものだ」
「そういえばリンリーも王城でハザランを派手に殴ってた」
「……ヤート、もう一つ覚えておけ。女は怒らせるなよ」
父さんがものすごく実感を込めて僕に言ってきた。経験者は語るって事だと思うけど、父さんに何があったんだろ?
「とうさ……」
「…………」
父さんに聞こうとして顔を見たら、何も聞くなっていう感じの顔をしてた。……同調が無くても意外と分かるものなんだね。とりあえず父さんに何か聞くなら別の事だね。
「もしかして母さんって父さんより強い?」
「…………いろんな意味で戦いたくない相手ではあるな」
特に父さんが尻にひかれてる感じは無かったんだけど、なんとなく母さんの方が上みたいだ。前世の世界でもこの世界でも、家庭内では女の人の方が上なんだね。僕が感心してると母さんが兄さんの正面に一瞬で移動した。
「ちょっ、母さん、まっ、ぎゃあ!!」
「マイネ、どこに行くのかしら?」
「ひっ、えっと、これは、その……」
母さんの手がブレて兄さんが吹き飛ぶ。たぶん母さんのビンタを受けたっぽい。それで姉さんが森の中に逃げようとしたら、母さんに正面へ回り込まれ肩をガッシリつかまれて動けなくなっていた。しかも、姉さんが母さんの顔を見ながら少しプルプル震えてる。……僕の方から見えないけど、母さんどんな顔してるんだろ?
「よし、それじゃあヤートは俺とだ」
「兄さんと姉さんは大丈夫なの?」
「エステアに少しお灸をすえられてるだけだ。気にするな」
確かに母さんは兄さんと姉さんがギリギリ反応して防御できるくらいに手加減してる感じだけど、防御しても吹き飛ばされる一撃を何回をバシバシ当ててるのが少し? ……僕の思う少しと、父さんの言う少しって同じかな? 僕が少しの定義について考えてたら、父さんが腕を軽く伸ばして掌を僕に向けてきた。
「まずは軽く手合わせだ。来い」
前世のテレビで見たボクシングのミット打ちみたいな感じか。うん、せっかく魔法で身体を強化してるんだしやってみよう。僕は両拳を顎の前まで上げて左足を一歩前に出すボクシングっぽい構えをして小さく身体を揺らした。父さんは僕の構えを見て小さく笑うと掌をクイって動かしてきたから、僕はできるだけ素早く接近して左手を真っ直ぐに軽く力まないように父さんの掌に打ち込んだ。
パンッ!! 当たり前だけど強化してても僕の軽い打撃じゃ父さんはビクともしないな。
「面白い構えと打撃だな。続けてみろ」
パンッパンッパパンッ!! パパンッ!! どんどん何も考えず父さんの掌に打ち込んでいく。
「ヤートが父さんと……」
「あら? よそ見してる暇があるのかしら?」
「えっ? しまっ、うぎゃあ!!」
なんか兄さんの叫び声が聞こえた気がするけど、打ち込んでるのが楽しくなってきたし、まあ良いか。その後しばらく間、僕が父さんの掌に打ち込む音と、兄さんと姉さんの叫び声が広場に響いていた。
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