黒の村にて 家族と相談事
ふと気づくと白く光る大地と星降る夜空が広がる空間にいた。これは大神林の奥で見た夢と同じところか。という事は……。
『ヤートよ、久方ぶりだな』
「お久しぶりです。何かありましたか?」
『この先のヤートのそばに、この世界にはありえぬ存在が現れる』
「……そういう事ですか、わかりました」
『すまんな。今のわしには無事を祈る事しかできんのがもどかしい』
「大丈夫です。前にも言いましたが僕は一人じゃありませんから」
『そうだったな』
「はい、大丈夫です」
目が覚めて天井を見ながら考える。大神林の奥から帰ってきて初めて夢の中であの声を聞いた。……青の村に行くかもしれない今伝えてきたんだから、やっぱりそういう事なんだろうね。……起きて父さんと母さんに相談しよう。
起きて周りを見ると、兄さんと姉さんは部屋にはいなかった。二人が僕より早く起きてるなんて珍しいな。少し驚きながら顔を洗って居間に行ったら父さん達がそろっていた。兄さんと姉さんが僕の方を見ないのは少し気になるな。……それはそれとして、まずはあいさつか。
「父さん、母さん、兄さん、姉さん、おはよう」
「おはよう」
「……おう、おはよう」
「……ええ、おはよう」
「おはよう、ヤート。ちょうど朝食ができたから呼びに行こうと思ってたところよ」
「僕、寝坊した?」
「そんな事ないわ。ヤートはいつも通りよ。さあ、食べましょう」
僕が席に着いた後に、父さんが食べ始めてから僕達も食べ始める。父さん達の今日の朝食は顔ぐらいの大きさの干し肉の香草焼きと肉団子が入った汁物で、僕のはお皿に山盛りの野菜とリップル(リンゴみたいな奴)一個にミレンジ(ミカンみたいな奴)の果汁。
最近は前に比べると食べれる量が増えてきたからうれしいね。やっぱり流動食や栄養の点滴なんかよりも、ちゃんと歯で噛んで食事できるって良い事だ。野菜に母さん手製のタレがかかってるから味も感じれる。
「ヤート、今日の野菜にかけてるタレはどうかしら?」
「今日のも美味しいよ。もう少し辛めでも良いかな」
「そう、それじゃあ、またいろいろ試してみるわね」
「うん、楽しみにしてる」
僕が味と食感を楽しんでると、コホンって咳をしたから父さんの方を見たら、何か少し考えた後に父さんが僕に話しかけて来た。
「……あー、ヤート。今日は何か予定はあるか?」
「午前中に薬草畑の手入れがあるくらいだね」
「……という事は散歩に行くのか?」
「どうしようか迷ってる」
「そうか、それならいっしょに散歩しないか?」
「父さんと?」
「いや、家族五人でだ」
「えっ?」
今日は珍しい事が続く日らしい。そんな中でも家族五人での散歩をする事になるなんて驚きだ。僕が驚いていたら父さんが慌てだす。
「あ、いや、そのな、たまには家族でいっしょに過ごすのもどうかと思ってな。どうだ?」
「わかった。僕も父さん達とじっくり相談したい事があったからちょうど良かったよ。昼食食べたら散歩に行くで良い?」
「それで良いわね。何か食べるもの持っていこうかしら」
「森の中でいろいろ採れるから別に良いと思うよ」
「うふふ、楽しみね」
「そうだね」
うん、母さんが笑うと雰囲気が明るくなる。僕はこういう風に自然に笑えるようになるのかな? そんな事を考えながら母さんの顔をジッと見ていたら、母さんが自分の顔を触りだした。
「ヤート、私の顔に何か付いてるのかしら?」
「何も付いてないよ。ただ母さんの笑顔が良いなって、僕も母さんみたいに笑えるかなって考えてただけ」
「……あらあら、そういう事はリンリーちゃんに言ってあげてね。あとヤートも、その内笑えるようになるわよ」
「……なんでリンリーが出てくるのかよくわからないけどわかった。今度リンリーに会ったら言ってみる」
「リンリーちゃんが、どんな反応したのか教えてね」
「わかった」
たまに父さんが会話に入りつつ主に母さんと話しながら食べ進めてても、その間兄さんと姉さんは一言も話さないで僕を見てる。青の村に行くかどうかが原因で、こんな感じになってるんだとは思うけど、僕の方から何かした方が良いのかな? ……わからないし、そろそろ食べ終わるから薬草畑に行こう。
「ごちそうさま。それじゃあ薬草畑に行くね。お昼には戻るから」
「適度に休みながら作業するのよ」
「うん、また後で」
僕は父さん達に見送られて家を出た。……それにしても家族五人そろっての散歩か、どんな感じになるのか楽しみだ。
「それじゃあ行くか」
「そうね」
「うん」
「「……」」
家で昼食の後片付けが終わるったら、いよいよ家族五人での散歩だ。五人そろって歩いてると村のみんなに見られて、門から村の外に出る時も門番のネリダさんに驚かれた。まあ、基本的に竜人族は大人は大人と、子供は子供と集まって行動するからしょうがないんだけどね。森に入ると僕のいつものように二体を待つために立ち止まっていると父さんが聞いてきた。
「ヤート、立ち止まってどうした?」
「あ、言い忘れてた。ごめん。鬼熊と破壊猪を待ってる」
「……あの二体か、今日は来そうか?」
「どうだろ? わからない」
「約束してるわけじゃないのね」
「うん、二体にも二体の生活があるから」
「いつもいっしょにいるものだと思ってたが、そういえばそうか」
そのまま少しの間二体を待ったけど来なかった。
「うーん、今日は来ないみたいだから行こう。でも、もしかしたら途中で来るかもしれないから一応覚えてて」
「ヤートが普段お世話になってるから、ぜひお礼を言いたいのよ。だから、途中からでも来てほしいわ」
「その内、会えるよ」
僕の両隣を父さんと母さんがいて、兄さんと姉さんはその後ろを歩く。いつもなら僕の隣は兄さんと姉さんだから、隣にいるのが父さんと母さんなのは変な感じだ。でも相談するにはちょうど良いか。父さんと母さんに旅をしてみたい事や夢で言われた事を話して、それはたぶん青の村に行ったら大神林の奥で会った魔石みたいな奴に出会うかもしれないという考えと、それでも青の村に行きたい事を話した。
「……親としては正直止めたいが、止めれんな」
「そうね。止めたいけれど、ヤートはヤートだものね」
「俺は反対だ……」
「私もよ」
父さんと母さんは賛成してくれてるけど、兄さんと姉さんは反対みたいだ。
「ヤートは面倒くさい事が嫌いなんでしょ。それなら何で面倒くさい事が起こりそうな青の村に行くのよ!!」
「うん、確かに僕は面倒くさい事は嫌いだよ。でも、今じゃないともっと面倒くさい事なりそうな気がするから行こうと思ってる」
「お前がやる必要ねえだろ!! 青の村で起こるっていうなら青の奴らにやらせたら良いだろうが!!」
「魔石を見たら、そんな事を言えない」
「どういう意味?」
四人に僕が見た魔石に印象を伝える。
「魔石は、この世界をダメにする。というか見た瞬間にはっきりと嫌なものだってわかるから見逃せないよ」
「それでもお前がやる事ないだろ!! ……お前は欠色で俺達より身体も魔力も弱いんだぞ」
「大丈夫。いろいろ考えてるから」
「……だったら、その考えてる事を私とガル相手に見せて」
「それは兄さんと姉さん二人と戦えって事?」
「「……」」
僕が聞いても兄さんと姉さんは答えずに、意志のこもった目で僕を見てくる。……やりたい事があるなら、やれるだけの力がある事を見せるのが筋って言えるし、父さんと母さんも苦笑しながら僕達を見てるだけだから良いか。
「わかった。初めての兄弟ゲンカをしよう」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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