黒の村にて 招待と拒絶
その日は珍しく一人で短めの散歩をした後に家に帰って、軽く薬草の加工をしながらのんびりしていると父さんに呼ばれた。
「ヤート」
「何?」
「今、ラカムタが来てるんだが、お前に用があるらしい」
「僕に用? なんだろ?」
父さんと玄関に行くとラカムタさんがいたんだけど、気になるのは表情が少し曇ってる事だね。
「ラカムタさん、こんにちは」
「おう、休んでるところに悪いな」
「大丈夫だよ。それで僕に何か用?」
「まあな。……お前に村の外からの客が来ている」
「村の外からの客って言ったらサムゼンさん?」
「まあ、会えばわかる。いっしょに来てくれ」
「……わかった」
ラカムタさんに連れられて広場に行くと、すでに人だかりができていてその中には村長もいた。……とりあえずピリピリした感じじゃないから、面倒くさい事にはならなそう……かな。人だかりの近くまで行きラカムタさんが村長に声をかけた。
「村長、ヤートを連れてきたぞ」
「ご苦労じゃった。さて、お前さんの望みの相手が来たぞい」
ラカムタさんに返答した村長が誰かに声をかける。僕の位置からは、人が邪魔で見えないけど誰だろ? 疑問に思っていたら、人だかりが割れて青の竜人の子供が僕の方に歩いてきて、さわやかな感じで僕に話しかけてきた。
「やあ、交流会以来、久しぶりだね」
「イリュキンか、久しぶり」
「うん、元気そうで何よりだ」
「お前もね。どうして黒の村に?」
「君を招待しに来たんだ」
「招待?」
「そうなんだ。実はね「「ちょっと待ったああぁぁぁ!!!」」」
イリュキンが事情を説明しようとしたら、僕とイリュキンの上の方から大声が聞こえてきた。この声は兄さんと姉さんだね。広場にいたみんなが上を向くと、ちょうど兄さんと姉さんが降ってきて僕とイリュキンの間に着地した。そして二人が着地した時に、土煙と広場の土が派手にまき散らされて僕を含め広場にいたみんなが汚れた。
これはどうしようか考えてるとピキピキっていう音がして、音が聞こえた方を見ると村長とラカムタさんが額に青筋を浮かべながら怒ってて、村長が兄さんをラカムタさんが姉さんの頭をつかんで引きずって行く。
「ちょっ、村長、離せよ!!」
「わざわざ遠いところから訪ねてきた客人を汚すとは何事じゃ!!」
「そうよ!! 離してよ!! ラカムタさん、ヤートを守らないといけないの!!」
「黒の竜人同士の事だったら拳骨で済ませるが、他色に迷惑をかけた今回は説教だ!!」
「「離してえぇぇぇ!!」」
広場に残った全員で兄さんと姉さんが引きずられて行くのを唖然と見てた。……あれ? そういえば……。
「兄さんと姉さんは、どこから跳んできたんだろ?」
「「「「「「「あ!!」」」」」」」
「リンリーは知ってる?」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
僕の疑問にみんながハッとして、僕の隣にいたリンリーにみんなが驚く。兄さんと姉さんが連れて行かれた後に僕の隣りに来たんだけど、みんな気づいてなかったの? まあ、リンリーは動きも気配も静かだからしょうがないかな。
「えっとですね。さっきまで子供六人で森の中にいたんですが、突然ガル君とマイネさんが「「ヤートが面倒くさい事に会う気がする!!」」って二人同時に叫んだ後に強化魔法を発動させて村の方に跳んで行ったんで私が先に二人を追いかけてきました。他の子ももう少ししたら村に帰ってきます」
「そうなんだ。離れた森の中から跳んで、僕とイリュキンの間に着地するとか二人とも器用だな。まあそれはそれとして汚れをなんとかしよう」
青の竜人達・黒の女性陣・黒の男性陣の順に水場に行き身体をきれいにした後で、青の竜人達は村長の家に案内されて僕達はそれぞれの家に戻っていった。しばらくして落ち着いた後に村長の家にラカムタさん・僕・兄さん・姉さん・リンリーが呼ばれて、改めて話し合いになった。ちなみに兄さんと姉さんは怒られすぎたのと広場の片付けでげっそりしてる。
「それでは改めて私達が黒の村を訪ねた要件なんですが、ぜひヤート君を我らの青の村に招待したいからです」
「ふむ、招待する理由を教えてもらえるかのう」
「理由は交流会の時に水守のヌイジュが襲った事への謝罪です。交流会で水守達が起こした事を報告したところ、青の村長と当代の水添えがヒドく憤慨しまして水守達をボコボコにしました」
イリュキンが説明するとイリュキンの後ろに控えていた人達の何人かが青い顔でうつむいていた。……そんなにヒドかったのかな?
「そしてすぐにヤート君に謝罪するという流れになったのですが、今は時期的に悪く青の村長と当代の水添えは村を離れる事ができません。それで話し合った結果、青の村に招待してはどうかという事になり、交流会で顔を合わせた私がヤート君にその旨を伝える役目を任されました」
「そういえば青の村はあれの時期じゃったか。それでは青の村長と当代の水添えが、来れないのは仕方ないのう」
「はい。それでヤート君、どうかな?」
「ヤート、行く必要ねえぞ」
イリュキンが僕に聞いてきた時に兄さんがブスッとした顔しながら反対してきた。
「ヤートを襲った奴みたいな奴が他にもいて、そいつらにまた襲われるかもしれねえ。そんなところにヤートを行かせられるか」
「私も同じ意見よ。さっきイリュキンが時期が悪いから青の村長と当代の水添えのお二方が来れないって言ってたけど、それだったら時期をずらせば良いだけじゃない。なんで襲われたヤートが青の村に行かないといけないの?」
「……ガルドの意見には青の竜人を信じてほしいとしか言えないし、マイネリシュの意見は青の竜人の私から見てもその通りだね」
兄さんと姉さんの意見を言うと、その完全な反対の意思を受けて部屋の雰囲気が重くなり沈黙に包まれた。チラッと見たらリンリーも兄さんと姉さんに賛成なようだ。……村長とラカムタさんは、とりあえずは中立な感じかな。少し沈黙が続いた後に村長が僕に確認してきた。
「ヤートはどうじゃ?」
「別に襲われた事は何とも思ってないから謝罪は別にいらないかな」
「……そうか」
僕の意見を聞くとイリュキンは暗い表情になる。うーん、このままだとこの話し合いが変にこじれそうだから全部言った方が良さそうだな。
「ただ、赤の村までの旅はいろいろな景色が面白かったし赤の村の周りも散歩してたら面白かった。だから新しいものを見てみたいっていう意味では青の村には行ってみたいとは思う」
「ヤート……」
兄さんと姉さんから不満な感じが伝わってくる。それを見たラカムタさんが苦笑すると、この場を動かすように意見を言った。
「わざわざ来てもらって悪いが、なにぶん急な話だからな。少し黒の方で話し合う時間をくれるか?」
「は、はい、青の村長と当代の水添えからも黒の都合を最優先するように言われているので大丈夫です」
「そうか、それじゃあ、いったんこの話しはここまでにしよう」
ラカムタさんの意見で解散する事になった。僕・兄さん・姉さん・リンリーは家に帰るために、ラカムタさんはイリュキン達を泊まる所に案内するために別れた。……うん、家に帰る途中での兄さん達の視線が痛い。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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