幕間にて 赤の少年のその後とこれから 後編
クトー視点の幕間は今回で終わりです。次回からヤート視点に戻ります。
イギギのおっさんと話してから、おっさんに教えてもらった崖によく行くようになった。そこで考えるのは、あいつ……ヤートとの決闘とヤートに言われた事。
『…………不思議な事を言うね。一番決闘をバカにしてるのおまえなのに』
『決闘は一定以上の強さを持つもの同士が、お互いの強さを見せる場なんだよね? 僕は欠色で、肉体的にも魔力的にも弱い。これは横槍入れてきたイリュキンも知ってた……というか、この場にいる全員知ってるはずだ。じゃあなんでお前は、一定以上の強さを持つもの同士がやるべき決闘を弱い僕に挑戦してきたんだ?』
『肉体的にも魔力的にも弱い僕を決闘を受けさせる。…………そんなにお前は僕の事を殺したかったのか?』
『違うのか? じゃあ、さっきから聞いてるけど、なんで?』
『それは何? もし、お前の初めの一撃に対応できなかったら、僕は良くて瀕死の重傷、悪かったら……当然死んでたはずだ。とても殺意がなかったとは思えないけど? 弱い僕に決闘受けさせて、殺そうとする。お前が一番決闘をバカにしてると思うけど?」
何度も思い出してもひどい。決闘や戦いって呼べない俺が一人で騒いで負けただけだ。それにヤートに聞かれた事に何も答えれてない。俺は何であんな乱れた気持ちで戦おうとした? 俺は何がしたかったんだ? …………何回考えてもわからねえ。自分で自分がわからねえのはブレてたって事か?
…………はは、本当に決闘をバカにしてるのは俺だったな。でも、こうやって何回もひどい自分を思い出して頭に焼き付ければ、これ以上ひどい自分にならないようにできるはず。おっさんが言ってた向き合うって言うのがこれで良いのかわからないけど、今日はこれぐらいにして帰るか。
村に戻ると空気がピリピリしていた。戦いがあった? 俺は急いで村の広場に走って行ったら、ばあちゃんが俺のいた方とは違う方の森をじっと見ていた。それと広場には青の大人が何人か倒れていて、同じ青の奴らから手当をされている。……あいつらは確かイリュキンの周りにいた奴らだよな? 青が何と戦ったんだ? 疑問に思いながら近づいて行くと、ばあちゃんが俺に気づいて安心した顔をする。
「無事だったようだね。安心したよ」
「ばあちゃん!! 何があったんだ!!」
「…………青の水守の一人が暴走したらしい」
ばあちゃんの機嫌が悪い。かなり不味い状況みたいだな。それにしても暴走? なんだそりゃ? あとおっさんが広場に居ねえ。……まさか!?
「暴走してる奴の相手はおっさんなのか?」
「違うよ。イギギや黒の顔役に青の連中は少し前に森の中に入ったところだよ」
「じゃあ暴走した奴は誰が相手してるんだ?」
「…………ヤートだ」
「は?」
聞き間違いか? ばあちゃんがヤートって言ったような……。俺の顔から思った事を感じたのか、ばあちゃんは頭をガシガシかきながら言ってくる。
「お前の聞き間違いじゃないよ。その暴走した水守のバカは、他の水守を叩きのめした後にヤートに襲いかかっていったそうだ」
「なんで……?」
「そこで手当を受けてる水守によると、ヤートに交流会から去るように迫ったらしい。だけど、ヤートが相手にしなかったらキレたようだね」
「……ひどいな。……俺と同じくらい」
「お前のは、まだ子供同士のケンカで済むから遥かにマシだ。それに比べて大の大人が暴走して子供に襲い掛かるとはねぇ……、それも他色の領域でやらかすんだから始末に負えない。…………あたしも舐められたもんだよ」
俺に説明しててさらにイラついてきたのか、ばあちゃんの身体からちょっとずつ魔力が漏れ出して来る。あとばあちゃんを中心に空気がどんどん重くなって息苦しくなる。特に手当を受けてる水守の奴らの顔色が悪い。
「ばあちゃん、俺が言うのも変だけど落ち着いてくれ」
「おっと、すまないね。まあ、とにかくヤートのところに向かった奴らから、何か連絡があるまでは門に待機する奴を追加して残りは広場で待つよ」
「「「「「おう!!」」」」」
ばあちゃんが言うと広場にいる奴らが返事をして、すぐに動けるように身体をほぐしたり座って目を閉じてじっと集中しだした。腹が減ってたら何も出来ないから、俺は干し肉でも食べてるか。
「「「「「「…………」」」」」」
何も変わらないまま時間だけが経って空気が重くなった広場で、全員が黙って何か状況が変わるのを待っている。そんな中、門の方が騒がしくなり門にいた一人が広場に走り込んできた。
「黒の子供が森から戻って来たぞ!!!!」
「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」
その声が聞こえた瞬間に全員が門に向かって走りだす。門の方の気配は柔らかい。ヤートは無事に保護されたみたいだな。あとの問題は暴走した奴が一緒かどうかで、もしヤートが保護されただけなら森の中を探す事になる。というか、ばあちゃんが一人で探し出してボコボコにしそうだ。
門に着くと森から帰ってくる集団が見えた。その中でヤートは周りを囲まれながら歩いていて、おっさんが青の竜人を肩にかついている。どうやらおっさん達が間に合ったみたいだ。まあ、ヤートの戦い方と魔法なら時間稼ぎにはピッタリか。俺がどういう状況だったか考えていると、おっさんがばあちゃんに近づいていった。
「そいつが暴走した奴かい?」
「そうだな」
「最悪な事になる前にイギギ達が間に合って良かったよ。よく間に合わせてくれたね」
「……いや、俺達は間に合ってない」
「なんだって?」
「俺達がヤートと合流した時には、こいつはヤートに背負われてた」
「ヤートが倒した?」
ばあちゃんがありえないっていう顔をしていた。
「ヤートによると竜人息の連発で自爆したらしい」
「大人の竜人息の連発を乗り切ったと……」
「そういう事だ。いっしょに破壊猪ともいたが、破壊猪は殺気立ってなかったから、戦ったのはヤートだけだろう」
「……何にしても、ほぼ独力で乗り切ったって事だね」
「そうなるな」
「たいしたものだ」
ヤートは大人の……それも暴走した奴に無傷で勝った。……俺にできるか? たぶん逃げるだけならできる……はず。でも勝てるか? 周りの俺と同年代の奴らも同じような事を考えて鋭い目をヤートに向ける。それを見たヤートは不思議そうに首をかしげていた。
身体と魔力は弱いのにやってる事は強いヤートは何なんだ? 俺にできない事をやるヤートは何なんだ? いや、俺は俺でヤートはヤートだ。……それでも何なんだ? 俺がグルグル考えていると、ばあちゃんが隣に来て俺の肩に手を置いた。
「クトー」
「……なんだよ。ばあちゃん」
「お前は、まだまだこれからだ。身も心も強くなれる」
「…………」
「おや、強くなる自信が無いのかい?」
「強くなる!! 絶対に!! だから次は勝つ!!」
「いろいろ悩んでるようだけど、前向きな良い顔になったね。それでこそ、あたしの孫だ!!」
笑ったばあちゃんに背中をバシッて叩かれてよろけたけど踏んばって立つ。ばあちゃんにもおっさんにも俺は強くなれるって言われた。だったらそれを信じて今はヤートを追いかける事しかできないけど、絶対に追いついて追い越してやる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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