幕間にて 赤の少年のその後とこれから 前編
赤の竜人の少年クトー視点の幕間で今回は前編になります。
ちなみにヤートとクトーが戦ったのは第14話~第16話になります。
身体が麻痺して動かない俺を囲むようにあいつが仕掛けた魔法の植物が生える。この後の事がどうなるかはわかってる。わかってるけど止められない。あいつの手が植物の一つに触れようとする。やめろ。やめろ!! どれだけ叫ぼうとしても声は出ないし、意味がない事はわかってる。
だが、この先を受けたくない。ちくしょう。また、くらっちまう。嫌だ!! やめろ!! 射つな!! 結局、結末は変わらなくてあいつの手が植物に触れた途端に無数の種が俺に射ち放たれる。ゆっくりと近づいてくる種が見える。前以外からも近づいているのも感じる。クソッ、クソッ、負けるのは嫌だ。負けたら意味がねえ!! 嫌だ!!!!
「嫌だ!!!!」
叫びながら跳ね起きた。ちくしょう……、あの時の夢を、何もできなかった夢を見ちまった。手を見れば爪が食い込むぐらい固く握っていて身体中に寝汗もかいている。何度も何度も夢で見て頭から消えない。クソ……。悔しさで奥歯をガリッと噛んでいたら、ため息が聞こえてきた。
「フゥ……、相変わらずのようだね。クトー」
「ばあちゃん……」
「ひどい顔だね。寝てる間もうなされてたよ」
「…………」
「まだ乗り越えられそうにないかい?」
「ほっといてくれ」
「朝飯ができてるから食べな」
「……いらねぇ」
「そうかい。…………クトー、溜め込んじゃないよ。それにお前は一人じゃないって事を覚えておきな」
ばあちゃんに俺を心配させている。それが情けなくて、たった一回の負けから抜け出せない自分が嫌だ。どれだけ忘れようとしても、何で負けたのかっていう思いが浮かんでくる。俺は強いのに何で負けたんだ? わからなねぇ……。ばあちゃんといっしょにいる気になれなくて家を出た。
「ちくしょう。なんでだ……」
歩いていても悔しさと疑問しかない。決闘は強い奴が絶対に勝つ。俺とあいつだったら、絶対に身体も魔力も俺の方が強え。もう一回戦えたら俺が……。
「それじゃ」
あいつの声が聞こえて近くの樹に身体を隠した。……何やってんだ俺は!! 何で隠れた!! このまま、あいつの前に立ってもう一回決闘を挑めば良いだけだろうが!! ちくしょう動けよ!!
「あ、ああ、…………ヤート!!」
「何?」
「あのな……、お前はクトーについて、どう思う?」
「あいつの事? ……別に何も」
「……何もないのか?」
「ないよ。どうでも良いからね」
「そうか……、呼び止めて悪かったな。ゆっくり読んでくれ」
「うん、ありがとう」
イギギのおっさんとあいつの会話が聞こえて頭が真っ白になる。俺の事がどうでも良い? 決闘したのにか? 離れていくあいつの背中が見える。何も考えれなくて、ただ拳を握って飛び掛かろうとしたら、あいつが見えているのに動けなかった。いつの間にか、おっさんが俺の前にいて両肩をつかみ動けなくしてたからだ。
「クトー、やめておけ」
「離せよ。おっさん。もう一回あいつと決闘をするんだ」
「……今のお前じゃヤートには勝てん」
「うるせえ、やってみねえとわからねえだろ!! 離せ!!」
「それなら何でヤートの声がした時に隠れた?」
「何でって……」
おっさんに聞かれた事に何も答えられない。
「それにお前は俺が近くのを気づけなかったな? そんな状態のお前を戦わすわけにはいかん」
「うっ……」
「今のお前には決定的に欠けている事がある。それがわからない限り勝つのは難しいぞ。だから今は戦うな」
「…………」
勝てないって言われて、戦うのを邪魔されてホッとした自分がいる。俺は強えのに戦うのが当たり前なのに、何でホッとしてんだ!! なんだよこれ!! これじゃあ俺がまるで……。色んな思いが混ざって頭の中がグチャグチャになっていたら、頭にポンって手が置かれた。
「クトー、お前はまだ若い。焦るな。悩んでる事や分からない事は俺でも誰でも良いから聞け」
「うるさい!!」
「クトー!!」
ばあちゃんの次はおっさんにも心配される。ちくしょう。嫌だ。なんだよこれ? 俺はどうしたんだ? わけが分からなくなっておっさんの手を跳ね除けて村の外に出る。とにかく一人になりたかった。
「クソッ、ちくしょう」
ひたすら森の中を走いたら、景色がぼやけて何かにつまずき転んで地面に顔をぶつけた。痛みに顔を触ったら自分が泣いている事に気づいて目を全力で押さえる。
「うう、泣くな。泣いたらダメだ。なぐな。なぐ……な」
泣くのは弱い奴だ!!!! 俺はずっと勝ってきたんだ!!!! 赤の村の子供の中じゃ絶対に一番だ!!!! 前の交流会でも他の色の奴らには勝ったんだ!!!! 勝ってきたんだ!!!! 勝って……きたんだ。俺は強いはず……なのに、あいつに負けた。何で負けた? 身体も魔力も俺の方が上なのに負けた。身体と魔力じゃないのか? わかんねぇよ……。あいつは何だ。ちくしょう。ちくしょう……。
「うあぁあああーーー!!!!」
一回流れ出たらもうダメで涙も声も我慢できなかった。生まれて初めて泣いた。あいつに負けたのが悔しい。あいつにもう一回挑戦できない自分が悔しい。ばあちゃんやおっさんに心配されるのが悔しい。強いままで入れない自分が悔しい。色んな悔しさが後から後から出てきて止まらなかった。
気がつくと仰向けになってぼおっと樹々の間から空を見ていた。その空を鳥が一羽、横切って行くのを見たら腹からグーって音がした。こんな時でも腹が減る事に笑えてきたけど、喉が痛くてかすれた息しか出ない。食べるものを探すために起きても身体が重く足を引きずるように歩いていたら、また転んだ。でも、今度はどこにも痛みが来なかった。
「まったく、探したぞ」
おっさんが転びそうになった俺を受け止めてくれたからだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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