大神林の奥にて 魔獣の本能と大きな存在
やっと体調が戻った。強薬水液で栄養と水分を補給しながら休んでたのに、まさか体調を戻すのに丸一日かかるとは思わなかったね。まあ、それだけ魔獣達と植物達の威圧が強烈だったって事か。やっぱり気絶する前にも思ったけど、僕自身の精神的な強化をできるようにしておかないと、いざという時に足手まといになるな。
でも、その方法が思いつかないんだよね。植物で精神的な強化? 薬草には緊張をほぐす効果のあるものもあるけど、精神的な強化とは違う気がする。何かあったかな? おいおい考えておこう。それよりも、まず確認する事があった。
「ねえ、僕達というかディグリ達を威圧してきた魔獣達とはどうなったの?」
「ガ、ガア」
「お互いに相手にしないようにしたね。戦いにならなくて良かった」
「ブオブオ」
「いや、戦ったら勝つのは俺だ。じゃないからね」
「ソウデスネ。勝ツノハ私デス」
「「「…………」」」
……なんか三体はにらみ合いしてるのが普通って感じになってるね。でも、こういうのが何回も続くと面倒くさい事に発展するから、今の内に聞いておいた方が良いか。
「ディグリ達は、なんでそんなににらみ合うの?」
「ガア」
「ブオ?」
「オフタカタガ、ニランデクルカラデス」
「えっと、にらみ返さないっていうのは?」
「ガ」
「ブ」
「アリエマセン。負ケテモイナイ相手ニ、ナゼ目ヲソラス必要ガアルノデスカ?」
「「「…………」」」
確か動物のケンカだと先に目をそらした方が負けだったな。でも、三体くらいの高位の魔獣になると感覚が鋭いから基本的ににらみ合うくらい接近するのを避けて……って、そうか僕っていう集合場所に高位の魔獣同士が出会ってるから、にらみ合いにならない方がおかしいって事のか。三体が身近な存在とは言え、こんな簡単な事を思いつかないのは、やっぱりみんなの言う通り僕の感覚がズレてるみたいだね。
今後のために反省はするとして、三体のにらみ合いが本能的なものだから解決が難しいのがわかった。しいて言うなら、はっきりと三体の間で順位を決めるって事だけど、それは確実に命をかけた戦いになって絶対に三体も三体が戦った場所も無事には済まないから戦ってほしくない。…………三体のにらみ合いには慣れて、最悪の場合なったら僕が止めるしかないか。よし、とりあえずの結論は出た。あとは……そうだ。
「僕達が森の中を歩くのは良いのかな? 相互不干渉だったら、ここで引き返した方が良い?」
「ガア、ガア」
「縄張りに入らなかったら問題ないと」
「ガ」
「それなら匂いとか、爪や牙の跡に注意が必要だね。匂いは任せるよ」
「ブオ」
「行こう」
「ワカリマシタ」
僕が歩きだすと、すぐにディグリに持ち上げられ鬼熊の背中に乗せられた。理由はなんとなくわかるけど、一応聞いておこう。
「なんで?」
「安全ノタメト、アナタガ病ミ上ガリダカラデス」
「ガア」
「身体の状態は確認してる」
「念ノタメデス」
「ブオ」
三体から絶対に譲らないっていう意思が伝わってくる。
「……わかった」
「ソウイエバ、ココデノ目的ノヨウナモノハアルノデスカ?」
「目的か、……最奥で一番大きな樹が見たいかな。わかる?」
「ガ」
「それじゃあ案内お願い」
「ガ」
僕達は、僕が背に乗った鬼熊の左右を破壊猪とディグリが挟む並び方で歩き始め、とうとう最奥に足を踏み入れる。そして思ったのは最奥に入った時から見られてるというか探られてるなって事だ。まあ、天変地異みたいな騒ぎの原因になった三体が入ったからしょうがないとは思う。ただ僕にも最奥の魔獣達の意識が向いてるのが不思議だ。
「僕も探られてるよね? 僕の特徴と言えば欠色だけど、欠色は近くで見ないとわからないから関係ないはず。なんでだろ?」
「……オソラク、私達ガ守ッテイルカラデスネ。……チッ」
「「…………」」
「三体とも、ずっと探られてるからってイライラしないで落ち着いて」
「ガア」
僕がなだめてようとしたら鬼熊に違うって言われた。
「そうじゃないって何が?」
「ブオ」
「僕がどうしたの?」
「アナタガ、アイツラ二観察サレテイルノガ気ニ入ラナイノデス。……ヤハリ、直接身ノ程ヲ教エテオクベキデショウカ」
「僕なら大丈夫だよ」
「デスガ……」
「王都や王城で普人族に見られてた時よりは、全然マシだから気にしなくて良い。それじゃあ、巨樹を見に行こう」
「「「…………」」」
三体から微妙に納得できていない雰囲気が伝わってくるけど、このまま話してたら面倒くさい事になりそうだったので強引に話を終わらせる。なんだかんだで優しい三体は、自分達のイライラよりも僕の楽しみを優先してゆっくりと慎重に最奥の森を進んでいき特にこれといって面倒くさい事は起きなかった。
しばらく進んでいると最奥の魔獣達の僕達を探ってくる感じがピタリと無くなり三体の足が止まる。巨樹があるところに着いたのかな? でも、目の前には崖があるだけでって、そうか方向転換か。そんな事を考えていると不意に声が聞こえた。
『よくぞ来た。歓迎しよう』
なんか聞き覚えがある声だ。…………ああ、夢の中で話してた声に似てる気がする。あと声が聞こえた時から鬼熊がガチガチに筋肉が固まって緊張しだした。呼吸も若干荒くなっている。チラッと見たら破壊猪とディグリも同じ感じだ。三体がここまで緊張するなんて、どんな存在かな?
「誰? どこにいるの?」
『我はお主の目の前におるものだ』
「目の前?」
目の前って崖がそびえ立ってるだけなんだけどな。周りを見ても話しかけてきた誰かの影も形も無い。僕が首をかしげていると、微笑ましいものを見るような感じの誰かの声が、また聞こえてくる。
『目の前にあるものに触ってみよ』
僕の目の前にあるのは崖だね。その崖に触れって事なのかな? とりあえず鬼熊から降りて崖まで歩いていく。三歩くらい歩いて三体の足音が聞こえないから不思議に思って振り向くと三体は崖を凝視していて、崖にこれ以上近づきたくないっていう感じが三体の身体からあふれでていた。…………何が起こっているのかわからない。でも崖に触るっていう道筋があるから、それに従おう。崖が手を伸ばせば届くところまで歩き崖に触れた。
「えっ!!」
『ようやく、わかったようじゃのう』
触ると崖だと思っていたものから、圧倒的に巨大な生命力を感じる。それにこの感じは植物だ。目の前の崖だと思っていたものは、想像すらできない大きさの樹だった。僕が驚いて呆然としていると、楽しげな巨樹の笑い声が最奥の森に響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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