大神林の奥にて 魔獣と植物
魔石と戦ったところから何日もかかって、ようやく大神林の最奥に着いた。……疲れた。とにかく疲れた。
旅自体は植物や動物の変化が面白くて景色も良かったから楽しかったんだけど、鬼熊と破壊猪が、ちょっとした事で何度も一触即発のにらみ合いをするから精神的に辛かった。途中からディグリもイライラしてたから、また僕一人で先に行こうかと思うくらいひどかったね。まあ、そんな良くない思い出も、この最奥の景色を見たらどうでも良いか。
林立する見上げても樹上が霞んで見えない巨木・ものすごく濃い緑の匂い・光を放ち漂う霧と見えて感じる全部がすごい。黒の村の周りの森より色んなものの桁が違う。うまく言えないけど、存在感がすごい。僕が圧倒されていると三体が僕の前に出てきた。
「「「…………」」」
「どうしたかしたの?」
僕が聞いても三体は何も答えなくて、ただ鋭い視線を森の奥に向けている。わけが分からず三体を見てたら、三体の視線を向けている方向が微妙に違う事に気づいた。……三体はそれぞれ何かを見てる? 僕がそう考えて三体が見ている方の気配を探ろうとした時に空気が変わった。
「ガア!!」
「ブオ!!」
「ケンカヲ売ルナラ、買イマスヨ?」
三体が威圧を始めたと同時に、三体が見ていた方向からも激しい威圧が飛んで来る。…………そうか景色がすごくて舞い上がってたけど今いるのは大神林の最奥で、ここは鬼熊が元々いた場所なんだ。
つまり鬼熊と同等かそれ以上の奴がいるところ。しかも鬼熊・破壊猪・ディグリみたいな高位の魔獣が連れ立っている事は異常事態と言っても良いから、最奥に住んでる魔獣達が警戒して意識を向けてきたのに三体が反応したわけか。
まずい。僕が威圧をされてるわけじゃないけど、覚悟を決める前に三体とその三体と同じような奴らの威圧のしあいに巻き込まれた。僕は黒の村のみんなから図太い神経とか言われるけど、これは無理。
「ゥプ」
思わず地面にうずくまって吐きそうになるのを必死に耐える。たぶん王城でハザランが、ラカムタさんと二体に精神をへし折られた時はこの感じをモロに受けたんだろうね。気を抜いて気絶できたら楽なのかもしれないけど、そのまま死ぬ事もあり得るから耐えるしかない。
……耐える? これが終わるまで? このままで? できる? できない? このままじゃダメだ。あれ? 僕達の周りの植物達から人で言うと額に青筋が浮かんでる感じがしてくる。
まず巨木達から莫大な緑色の魔力が放たれて、次に下草や花なんかからも巨木達に比べて量は少ないけど同質の魔力が放たれ森が緑色に光り始めた。そして辺り一帯に緑色の魔力が満ちると、植物達がその意思を示す。
「ウェェ」
魔獣達の威圧に巻き込まれた植物達が、ふざけるなって逆に魔獣達を威圧しだした。要は植物達が魔獣達にキレたんだね。まあ、突然天変地異みたいな馬鹿げた威圧に巻き込まれたんだからしょうがないとは思うけど、できればやらないでほしかった……。魔獣達の威圧に続いて植物達の威圧が放たれたから僕は耐えれず吐いた。あー、これは休憩の時に食べたものを全部吐いた。たぶんこれ以上は胃液しか出ない。
「お……」
「「「…………」」」
三体に落ちついてって言おうとしても吐いて朦朧としてるから、かすれてまともに声が出ない。最悪の事態を避けるため、なんとか体調を戻そうと腰の小袋から気つけの薬草を探していると嫌な予感がして、それはすぐに現実になる。
何が起こったかと言えば、お互いを威圧してた三体と大神林の最奥の魔獣達が計ったかのように今度は植物達を威圧しだした。鬼熊・破壊猪・ディグリ 対 大神林最奥の魔獣達の威圧のしあいが、威圧しあってた魔獣達 対 魔獣達の威圧に巻き込まれた植物達に変わり、そこから大神林最奥にいる全魔獣達 対 大神林最奥の全植物達に規模が膨れ上がった。これは他のところにも絶対に影響が出てるって考えながら、僕は限界を迎え目の前が真っ暗になり気絶した。
…………温かい。えーと、何があったんだっけ? 頭がグラグラするし、口の中が酸っぱい。それに喉がピリピリする。とりあえず目を開けるか。
「…………」
目を開けて確認してみたら、僕は破壊猪にもたれかかっていた。通りで温かいはずだね。でも、僕はなんで寝てたんだ? 考えていると、すぐそばにいたディグリに話かけられた。
「大丈夫デスカ?」
すぐそばにいたのにディグリに気づけなかった。かなり感覚が鈍ってて体調が良くないみたいだ。それを察したのかディグリが、申しわけなさそうな顔をして熟した水蜜桃を見せてくる。
「食ベレソウナラ、少シデモ食ベテクダサイ」
「あ……か……」
声が出ないからうなずいて返事をして、水蜜桃を受け取って食べた。この果物は前世の桃みたいに甘く水分が多いから今の僕にはうれしいね。……とりあえず一個は食べれた。食欲はあるし、これなら体調が戻るのは時間の問題かな。僕が体調を確認していると鬼熊が森の奥の方から歩いて来る。どうやら辺りを見て回ってたようだ。その後、三体に謝られた。
「ガァ……」
「ブォ……」
「モウシワケアリマセン……」
三体から僕が寝てた理由を聞かされて全部思い出した。…………魔獣の本能はしょうがないかなって思うけど、次からは覚悟する時間をくれるか、もう少し威圧は弱くしてほしいよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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