大神林の奥にて 増える疑問と夢での会話
豊穣木の力で早くも心なしか元気になってきている植物達に魔石の事を聞いてみる。
「ねえ、魔石の……魔石って言うのは僕達が戦ってた奴の事なんだけど、いつからここにいたのかってわかる?」
僕が聞くと植物達はみんなでザワザワと話し合ってる感じになる。少し待ってざわめきが無くなると広場から見える範囲で一番大きな樹から思いが伝わってきた。……気づいたらいつの間にか広場の真ん中いたと。
「あの魔石の身体になってた樹は元々生えてた奴?」
……なるほど樹自体は元々生えてた奴か。うーん、という事は魔石は元から樹の中にいたか、もしくは植物達が気づかない内に樹に入ったかのどっちかって事になる。…………元から樹の中にいたという事は種の時から中にいたって事になるけど、さすがにそれは無いと思うからたぶん気づかない内に樹の中に入ったんだろうな。
問題はどうやって樹の中に入ったのかっていう事だね。森っていう密接につながった一つの集団に魔石みたいな異物が外から入り込んだら絶対に気づくはず。という事は突然樹の中に現れたって事? 普通ならありえないって言い切るけど、王城で戦ったハザランの召喚魔法みたいな奴なら可能かもしれない。でも、術師から遠く離れた場所での召喚や何かの中への召喚ってできるのかな? ……ダメだ。仮説ばかりで疑問が増えるだけだ。
「……はあ」
「ワカラナイ事ハ、置イテオキマショウ。今ハ魔石ガイタ事ヲ、覚エテオケバ良イト思イマス」
「……そうだね。これだとまた兄さん達に難しく考え過ぎだって言われるな」
前に兄さん達に言われた事をディグリに言われて、こういう癖みたいなものを変えるのは難しいなって苦笑していると二体が話しかけてきた。
「ガ」
「何?」
「ブオブオ」
「うーん、確かにまだ疲れはあるかな。でも、旅には問題ないよ」
「ガア、ガ」
「ブオ」
「おお……っと、だからやるならやるって言っててば」
「ブ」
破壊猪の牙に服を引っ掛けられ放り投げられて、いつものように破壊猪の背にまたがるように着地した。なんで毎回いきなりなんだろ? 僕が断るって思ってるのかな? よっぽど変な事を言わない限りは断らないのに。
まあ、魔石との激しい戦いの後だから休む事は必要か。破壊猪が僕を背中に乗せたままゆっくりうずくまったから、僕は破壊猪の大きい背中に寝転んだ。チラッと見たら鬼熊とディグリもすでに休んでいた。
ドックン、ドックン、ドックン。
サー、サー、サー。
リィーン、リィーン、リィーン。
音が気持ち良い。破壊猪の大きくゆったりとした心臓の鼓動、森の中を吹き抜ける風に揺れる木の葉の音、……三つ目の微かに聞こえる鈴みたいな音は何だろう? ほとんど寝ぼけながら音が聞こえる方を見たら豊穣木だった。
なるほど豊穣木が周りの植物を癒している音か。……ダメだ。戦いの疲れと良い感じの音と破壊猪の体温が合わさって眠い。せめて警戒だけ……はしておかなくちゃ……いけないのに、とにかくね……むい。あ~、ね……む…………。
『白きものよ。感謝する』
なんとなく温かい水中を漂うのに似た感じの中で誰かの声が聞こえた気がして目を開けると、僕はボンヤリと白く光る大地が見渡す限り果てしなく続いていて、空は夜でいくつもの流れ星が途切れず流れ落ちるという現実だったらありえない場所にいた。僕は身体の状態を確認しながら思った事をポツリとつぶやいた。
「夢……かな?」
『その通りだ。白きものよ』
「誰ですか? あ、自分から名乗るべきですね。僕はこんな見た目だけど黒の竜人族のヤーウェルトです。周りのみんなからはヤートって呼ばれてます」
『ずいぶんと落ち着いているな。白きものよ』
「身体に問題がないから慌てる必要がないって思っただけです。それと事実ですが、その白きものっていうのはやめてください。僕の名前はヤーウェルトです」
『これは礼を逸したな。すまぬ。ヤートと呼んで良いか?』
声からは笑ってる感じが伝わってくる。村長とかヘカテ爺さんが僕とか子供達を相手にする声と同じかな。
「はい、それであなたは誰ですか?」
『わしの名はある事情があり今は言えん。いずれヤートと我は必ず出会う。その時に話そう』
「そうですか、いずれですね。わかりました」
『すまんな』
「大丈夫です。それじゃあ、その事情も聞いたらダメですよね?」
『本来なら話すべきではあるが、今はヤートにわしの名を教えて呪的な繋がりを作り、さらにわしの事情を教えてその繋がりを太くする事は色々と危険を招く事につながる故にすまぬ。だが、いずれ出会った時には必ず全てを打ち明けよう』
今度は声から本当に申し訳なさそうな感じが伝わってくる。ものすごく優しい人みたいだ。
「わかりました。それでは今回は何用でしょうか?」
『ヤート達が魔石を滅してくれた事への礼だ』
「やはり魔石は僕達とは合わない存在ですか?」
『そうだ。魔石は正しくこの世界に生きるものにとって完全な異物なのだ。あの魔石のような存在は周囲の害悪にしかならない』
「それなら三体と協力して倒せて良かったです」
『重ねて礼を言おう。感謝する。ただ同時に忠告しなければならん』
「忠告……?」
空間がピリッと張り詰めて、これから伝えられる事の重要性を物語っている。
『そうだ。これから何度かあの魔石のような存在に出会い戦う事になるだろう。心せよ』
「やっぱり、そうなりますか」
『気づいていたか……』
「なんとなくですけどね」
『辛い戦いになるはずだが、わしにヤートを助ける事はできん。……すまぬ』
「僕一人ならダメかもしれないですけど、僕には頼れる家族や仲間がいるんで大丈夫です」
『無理はせぬようにな』
「大丈夫です。僕はできる事しかしません」
『そうであったな。さて、そろそろ目覚めの時間だ。いずれ会おう。息災でな』
「はい、楽しみにしてます。またいずれ会いましょう」
僕が別れのあいさつをすると目には見えないけど、すごく大きく静かな存在が急速に離れていくのを感じる。そして離れていくのと同時に、白く光る大地や星降る夜空が霞んでいく。この空間はきれいだからもったいない。リンリーに見せたかったな。そんな事を考えながら僕の意識は覚醒していった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。




