大神林の奥にて 斬撃と残る疑問
さて、僕の魔法と魔石の支配力で綱引きをしてるわけなんだけど、かなり僕の方の分が悪い。……この感じだと体力と魔力の消耗がなかったとしても、僕一人だったら完全にどうしようもなかったな。そう、僕一人だったらね。
「ガア!!!」
魔石が一瞬僕に気を取られた時を鬼熊が見逃さず強烈な爪の一撃を叩き込んだ。僕は魔石が怯んだ隙に魔石の支配力を少しずつ押し返していく。
「ギィィィィィ!!!!!」
「通スト思イマスカ?」
魔石はイラつきから反射のように僕を攻撃しても、ディグリがすぐに迎撃してくれた。もちろん破壊猪も次の一撃を入れる機会を虎視眈々と狙っている。……うん、三体と肩を並べて戦えるのはうれしいね。負ける気がしない。
「ブオオオ!!!」
「ギィ!!」
破壊猪の一撃が決まり、とうとう今の魔石の身体になっている硬金樹にビシビシッてヒビが入り倒れ始めた。ただでさえ僕達の連携攻撃でボロボロになってたからしょうがない。魔石も倒れ始めた事に気づいて唖然としてた。これを逃す手は無い。
「緑盛魔法・超育成・硬金樹」
唖然とした魔石の精神的な隙をついて僕は硬金樹を再び魔法で成長させる。そしてそのまま一気に魔石の支配を押し返し、魔石本体を硬金樹の表面に露出させた。なんかそんなに時間が経ってないのに魔石本体を久しぶりに見た気がする。それだけ魔石との戦いが濃かったって事か。
「ギィィィアアア!!!!!!」
硬金樹から押し出された魔石が射殺さんばかりに僕をにらんで触手を放ってくるけど、散々見たものだからディグリにあっさりと防がれ全て絡め取られる。
「モウドレダケ数ガアッテモ、攻撃ニナリマセンネ」
「ガア!!!!」
「ブ!!!!」
硬金樹に固定され触手もディグリに絡め取られて動けなくなった魔石に鬼熊の魔力の刃・破壊猪の鼻息弾が炸裂した。だけど、それでも魔石は砕けずディグリに絡め取られた触手を自切して新しい触手で自分を覆う。防御態勢になった魔石を見て三体がいっせいに攻撃をするけど、……あの状態になったら耐久力が上がって面倒くさかった。時間をかけて全員で削り切っても良いけど、さすがに疲れたしそろそろ倒しきりたい。僕は触っている硬金樹の根に前世のテレビで見たもののイメージを送る。
「緑盛魔法・樹刀村正」
触っている根が緑色に光り切っ先から柄頭まで硬金樹製の僕の背丈くらいの刀が生まれた。よし、イメージのままだ。僕はその樹刀をディグリに投げる。
「ディグリ」
「ハイ」
僕が投げた樹刀村正を受け取ったディグリは樹刀を下段に構えて魔石へと走り出す。魔石も近づいてくるディグリにはすぐに気づくけど二体の攻撃が激しく動きたくても動けない。ディグリは魔石が動けない間に三ルーメまで近づくと魔石に向かって全力も跳び、その勢いのまま硬金樹ごと魔石を斬った。キンッっていう音が微かにしただけのまさに一刀両断だった。
「ギィ……」
「本当ニ、シツコイデスネ」
一刀両断されながらも動こうとする魔石を見てディグリがつぶやく。二体も顔をしかめてるし僕も同じ気持ちだ。ディグリが小さくため息をつくとキッと魔石をにらんでから走って跳んだ。そしてディグリの身体が魔石とすれ違いざまにブレれると今度はキキキキキキンっていう音がした。見ると魔石はバラバラになっていてディグリが何度も斬った事がわかる。あれだけ頑丈でしぶとかった魔石が崩れて砂になって散っていくから今度こそ倒したって実感が湧いた。でも、それよりも……。
「疲れた……」
「ガア」
「ブオ……」
「……強敵デシタ」
僕は疲れて座り込んだし三体もそれなりに疲れたみたい。しばらく休んでいるとディグリが近づいてきて樹刀を返してくる。
「コレハ、返シマスネ」
「いいよ。僕じゃ使いこなせないだろうからディグリが持ってて」
「ソウデスカ。デハ、借リテオキマス」
僕はふと気になった事を聞いた。
「そういえば持てるのがディグリだけだから渡したけど、よくすぐに使いこなせたね」
「コノ樹刀ヲ持ッタ時ニ、頭ノ中ニ斬リ方ガ浮カンデキタノデ、ソノ通リニ斬リマシタ」
「なるほど」
どうやらディグリは初めて見る刀の最適な使い方を瞬時に見抜いたようで、さらに見抜いただけじゃなく実際に魔石を切った。すごい才能とかセンスがあるんだね。やっぱりこういう戦う事や生きるための能力や本能はこっちの世界の方がはるかに高い。改めて二つの世界の違いを考えながら休んでダルさがだいぶマシになったから、僕は植物達と約束した事を守るために動き出す。
まずは魔石になぎ倒された樹々を治療して、あと魔石に成長を邪魔されてた植物の状態改善もしないといけない。あ、それと擬態花と緑喰を回収しないといけない。……魔石みたいな周りの害悪にしかならない奴は、いなくなってもやらないといけない事を残すから迷惑だ。
「今いる場所が大神林の中程くらいなのに、魔石みたいな面倒くさい奴がいるのか。奥だとこれ以上って考えるとちょっと気が滅入る」
「ガ、ガアア」
「え? お前は大神林で魔石みたいなの見た事ないの?」
「ガ」
「それじゃあ、魔石は大神林の新種か大神林の外からきた奴って事? でも新種にしては異質すぎるし、森の外に魔石がいたらもっと騒ぎになって森の外から来る人達から何かしらの話を聞いてても良いと思う……」
僕が破壊猪の方を見ると首を横に振ってきた。
「ブオ」
「赤の村の方でも見た事は無いのか」
「ブ」
「気ニナリマスネ」
「うん、村に帰ったら色々聞いてみる」
「ソウシタ方ガ良イト思イマス」
「ただ次に同じような奴にあったら、できるだけ全力でさっさと倒しきる事だけは今決めた」
「ガア」
「ブオ」
「必ズ、ソウシマショウ」
はあ、魔石と関わったら全然すっきりしないでモヤモヤだけが残った。なんで散歩とか遠出したいだけなのに、こういう事になるのかな。あとは穏やかになってほしい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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