大神林の奥にて 嫌な匂いと異常な存在
「「「…………」」」
自分以外の同行者の空気がピリピリしてるこういう状況を息がつまるって言うんだろうね。一応水辺で休んでる時ににらみ合って先に進めないなら、勝手に僕一人で森の奥に行くから案内はいらないって言ったらにらみ合いはしなくなったけど常に空気が悪い。
なんで三体は仲が悪いんだろ? 特に争うような理由は思い浮かばないから相性が悪いのかな? ちなみに今僕は自分で歩いていて三体は僕の周りを囲んでる。理由は休憩が終わってまた破壊猪が僕を背中に乗せようとしたらケンカになったからだ。まあ、どっちかと言えば自分で歩く方が好きだから良いんだけど、このピリピリしてる空気は何とかならないかな……。
ピリピリしてる空気を無視しながら歩いていると、森の様子が変わり樹々が村の周りの奴より大きく太くなっていく。見るからに一つ一つが生命力に満ちているのが同調しなくてもわかる。僕が十人くらい並んだら一周できるかな? 表面も良い感じに苔に覆われるし樹齢何年くらいだろ?
「大きいな……」
「ガア。ガア」
「そうなんだ」
どうやら鬼熊が言うには、森の奥に行けばもっと大きな樹がいくつもあるらしい。これよりもっと大きい……、前世のテレビとか本で見た屋久杉みたいな感じかな? もしかしたら同調して話ができたら、どんな風に世界が見えてるのか聞いて見たいな。
「……ウレシソウデスネ」
「そうかな?」
「ハイ、足取リガ軽クナッテイマス」
付き合いの浅いディグリに指摘されるくらいだから、僕はよっぽどわかりやすいみたいだ。
「ブオ」
「うん、先は長いんだよね?」
「ブオ?」
「すごく楽しみ。早く森の奥を見てみたいな」
「……少シ待ッテイテクダサイ」
僕がそう言うと三体が離れて何かを話し合いだしたから、僕は目の前の樹や地面の草に花なんかと同調していたら不意に嫌な匂いが森の奥から一瞬ただよってきた。チラッと三体を見たら真剣にまだ何かを話し合ってて、匂いには気づいてないみたい。話し合いの邪魔したら悪いから静かに嫌な匂いのした方へ歩いて行く。
森の中の清々しい空気や花や実の良い匂いに慣れている僕には、このどんどん強くなってくる嫌な匂いは中々キツいけどなんか気になるから近づいていく。でもさすがにこれ以上匂いが強くなると最悪吐くかもしれないから、腰の小袋から乾燥させた薬草の葉を何枚か取り出し口と鼻に当てて魔法を発動させる。
「緑盛魔法・緑香面」
薬草の葉が変形して即席のマスクになる。ふー、これで匂いはだいぶマシになったし先に進もう。それにしてもこれだけの匂いがするのに周りの植物が普通の状態で、何もザワザワしてないのは不思議だ。あと匂いが強くなるにつれて周りの樹が細く小さくなってるけど異常じゃないのかな? ……行ってみたらわかるか。
しばらく歩いてると魔獣が何体も倒れていて、魔獣の身体から緑色の管が出ていた。その管はよく見ると波打って吸い取るような動きをしており森の奥に続いていた。観察している間に魔獣の身体はどんどん縮んでいく。なるほどこの匂いは魔獣の肉が溶けてる匂いで、緑色の管は魔獣の肉を溶かす溶解液を注いで溶けた肉を吸い取るための注射器の役割をしているわけだ。
……という事は今僕がいる場所は食獣植物の捕食範囲に入ってるのか。周りを見ても緑色の管が僕に狙いを定めていたから、僕は管が襲いかかってくる前に魔法を発動させる。
「緑盛魔法・超育成・緑葉飛斬」
先制攻撃で管をズタズタに細かく切り刻む。植物は再生能力が強いからこれくらい念入りにやらないとね。僕は緑葉飛斬を身体の周りで旋回させながら僕を捕食しようとする食獣植物の元へと走っていく。……やっぱり近づけば管というか正確には触手か、触手の数が増えてくる。それならそれで僕も緑葉飛斬の数を増やすだけだ。
そうして触手を切り刻みながら進んでいると触手の動きが変わり、突き刺そうとしていたのが僕をからめとろうする動きに変わる。それに対して僕は緑葉飛斬の数をさらに増やして旋回範囲も広げて、さっきよりも細かく切り刻みながら触手をたどっていくと、今まで見ていた大きな樹々と比べてもさらにふた回りくらい大きいねじれて歪んだ樹が見えてきた。
……ここは不自然だ。大きな樹の周りは地面が露出して何も植物が生えてない。確かに大きな樹の枝葉に日光を遮られて他の植物が育ちづらい事はある。でも、地面に近い下草が生えなくなるなんて事は森の中じゃそうそうありえない。何より樹の幹から何本も触手を出している樹が普通の樹の訳がない。
「緑盛魔法・超育成・射種草・緑葉飛斬」
この異常な樹を見た時からとにかくなんでかイライラするから、緑葉飛斬で触手と枝葉を切り刻みながら射種草の種を幹に射ち込む。本当になんで僕はこんなにイライラしてるんだろ?
「ギャイイイアアアア」
僕の魔法が効いたのか、幹の途中が割れて口のようになり嫌な叫び声をあげた。この声を聞いてこの異常な樹は僕の敵だって事を確信した。樹の方も僕を敵とみなしたのか閉じられていた目が開きギロリとにらみつけてくる。そして新たに幹から出した触手を他の樹々に突き刺すと、触手を刺された樹はみるみる枯れていき逆に異常な樹の僕の魔法がつけた損傷が回復していく。
なるほど、この異常な樹は自分以外の存在を栄養としてしか見てない。たぶん普段から土中の栄養を独占してるから、あの樹の周りに何も植物が生えてなくて少し離れた樹々も弱々しい訳か。これでイライラする理由がわかった。この異常な樹――そうだな魔樹とでも呼ぼうかな――この魔樹は動物や魔獣どころか周りの植物も食物にして何一つ共生の要素がないただただ周りに害を与えるだけの存在だ。そんな奴に気の良い植物や動物に魔獣を殺されてたまるか!!
こうして他者と共に生きる白き竜人の少年と他者を喰らい尽くす魔樹の戦いが始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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