決着後にて 確認と疑問
さっきまでのリンリーとの会話が聞かれていた事がわかって、リンリーは顔を真っ赤にしながらピシッて固まった。そんな中でカッターさんとエメスナさんがニコニコしながら近づいてくる。二人が近くに来るとリンリーはハッと気づいた後に、アタフタしながらカッターさんが手に持っているものについて質問した。
「おおお、お父さん!! 何を取ってきたの!?」
「そんなに慌てなくても大丈夫よ。良い雰囲気だったから、もっと話してても良かったわね。ねえ、あなた?」
「そうだね。僕から見ても良い雰囲気だったよ」
「お父さん!! お母さん!!」
うん、今の僕の家も仲が良いけど、この家も負けないくらい仲の良い家族だ。僕がそんな事を思いながら三人の様子を見ていると、一つうなずいたカッターさんが手に持っていた袋を渡してくれた。
「忘れる所だった。ヤート君、今の君にはこれが役に立つと思うよ」
「これは?」
「僕も竜人族にしては身体があまり強くなくてね。今でもたまに使っている弱い鎮痛の薬効がある薬草で作った軟膏だよ。ヤート君ならもっと薬効が強いものが作れるだろうけど、あまりそういった強いものはよっぽどの緊急事態以外は使わない方が良い。でも、これはそこまで強くはないから大丈夫」
受け取って中身を見てみると知っている薬草の匂いがした。へえ、この薬草にはこんな使い方があるのか。確かに僕の薬草の使い方は全部効果が強い奴が多いから、こういう日常生活で使えるものはあまりない。……はあ、やっぱりどうしても効果の高い方に目を向けがちになるのは、重病だった前世の影響かな? 使えるものに偏りがあるのは不味いから、これからはきちんと修正しよう。おっと反省の前にカッターさんにお礼を言わないと。
「カッターさん、ありがとう。今夜から早速使わせてもらうね」
「ああ、役に立てれば幸いだよ。ところでヤート君は、この後、森に行くのかい?」
「うん、父さんに聞いたら僕と三体が戦った広場がすごい事になってるみたいで、昨日協力してくれた植物とも絶対に治すって約束したから行くよ」
「身体の状態を考えて無理をしないようにね」
「元々無理はしないし、今は無理をしたくてもできない」
「それもそうか。ところでリンリーの事だけど」
「はい」
「君は気絶したリンリーを戦いの最中に忘れた事を気にしているみたいだけど、気にしなくて良いよ」
母さんと同じ事を言われた。でも、自分の子供の事を言ってるからより重く聞こえる。
「えっと?」
「ヤート君、竜人族は老若男女問わず戦う事を好むし、ケガをする事も恐れない。だから、例えリンリーがケガを負っても気にしなくても良い。なんと言っても竜人族は頑丈だからね」
「でも……」
「ヤート君から見てリンリーは弱く見えるかな?」
「…………リンリーが戦っているのを見たけど弱いとは感じなかった」
「娘をそういう風に思ってくれてうれしいよ。それじゃあ、リンリーを信頼してあげてほしい。どんな状況でも大丈夫だと、戦い抜けると生き抜けると信頼してあげてほしい。確かに大事な人に心配してもらえるのはうれしい事だ。でも信頼してもらえるのは、もっとうれしい事なんだ」
僕はリンリーに戦いの最中に忘れた事を謝った。それは僕が守れなかった事を謝ったって言える。だったら僕はリンリーを信じてなかったのかな? 村のみんなは僕より強いのに、何で守るって考えたんだろ? 僕がグルグル考え込んでるとエメスナさんが話しかけてきた。
「あらあら難しく考えてるみたいね」
「…………」
「ヤート君は今のまま進んでいけば良いの。ただリンリーがヤート君の背中を守るにふさわしい強さになるのを待っててあげて」
「それでリンリーといっしょにいれるならわかった」
「ヤート君はあなたが強くなるのを待ってくれるみたいよ。リンリー、良かったわね」
リンリーを見るとうつむいて微かにプルプル震えていた。よく見るとさっきカッターさんとエメスナさんに話しかけられた時よりも、なんでか顔が赤くなっている。
「リンリー、さっきよりも顔が赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
「それなら良いけど、そういえばリンリーはこの後時間ある?」
「えっと今日は家での用事があるので、すみません」
「そっか、また今度いっしょに散歩しよう」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「うん、わかった。それじゃあリンリー、カッターさん、エメスナさん、お邪魔しました」
「はい」
「また、おいで」
「ええ、いつでも歓迎よ」
リンリーの家を出て村の門に行き門番の人にあいさつして森に入ると狩人達に出会った。みんな疲れてるのか声に張りがない。
「なんか疲れてるね。森で何かあったの?」
「ヤートか、身体はもう良いのか?」
「全身筋肉中で痛いけど、動いてた方が多少はマシな気がするから動いてる」
「そうか……、これからお前が戦ってた広場に行くなら気をつけて行け」
「父さんにも聞いたけど、森の中はどんな感じ?」
「まあ、なんというか、ものすごく騒がしいぞ」
「騒がしい? よくわからないけど、とりあえず行ってみるよ」
「ああ、日が暮れるまでには帰ってこい」
「わかった。それじゃあ」
「ヤート」
「何?」
「……いや、なんでもない」
また、何か言いたそうな微妙な顔をされた。今日は会う人会う人全員に同じ顔をされる。本当になんだろ? まあ気にはなるけど広場の確認を優先しよう。
森を進むと狩人の人達に言われた森が騒がしいの意味が分かった。広場に近づいていくにつれて植物の様子が以前とは変化していて、具体的に言えば全ての植物が太く・大きく・強くなっていて、ワサワサと急激に成長していた。この感じだと広場を中心に、植物が変化しているみたいから、あきらかに僕と三体の戦いが原因だね。
歩きながら急激に成長している植物に同調して調べてみると大きくなっているだけで、広場から離れたところの植物は魔獣化などの変質はしていない事がわかった。ただ広場の方に進んでいくほど、変化の度合いが大きくなっているみたいだから安心はできない。あと森に入っても鬼熊・破壊猪・ディグリが近づいてこないのは気になる。今思えば父さんや狩人の人達に、この事も聞いておけば良かった。いろいろ気になる事はあるけど、まずは広場を確認しよう。
そしてもう少しで広場に着くという時に、目の前の植物がザワザワと動いてギャギャギャギャと声を出しているのを聞いた。うん、完全にこの辺りの植物は変質してるね。
動いて声を出している植物を同調で調べていると、あちこちから蔓が伸びてきて僕の身体に巻き付く。特にギリギリと締め付けられてはないから、服の裾をクイッと引かれた感じかな。その証拠に僕が蔓から放してと頼めば、あっさりと放してくれる。伝わってくるのは僕に何か用があると言う事だ。
「僕に何か用?」
「ギギ」
僕が聞くと広場の方がガサガサと植物に覆われていく。どうやら植物達は僕に広場に行ってほしくないみたいだ。……ああ、狩人のおじさんが疲れてたのは、この動く植物達に広場に行くのを邪魔されたからか。この成長の速さなら切り払っても引きちぎっても、すぐに元に戻って邪魔されたはず。大神林の植物は元々頑丈だしそれは疲れるよね。
「なんで広場に行ったらダメなの?」
僕の質問に植物達は蔓や葉を動かして形を作っていく。これは……鬼熊と破壊猪? それに人型だからディグリかな?
「あの三体がどうかした?」
僕が三体について聞くと周りの植物達から怖いという感情が伝わってくる。植物は他の種族に比べて感情が落ち着いているから、ここまではっきりと強い感情を伝えてくるのは珍しい。僕が驚いていると三体を表していたものが一つにまとまって、よくわからないものになった。……あの三体に何かあったわけか。
「あの三体に何かあったなら僕は行かなきゃいけない。通してほしい」
植物達からは僕への心配と迷いが伝わってくる。本当にこの世界は良い奴が多くてうれしくなる。
「心配してくれるのはうれしいよ。でも、今の事態の原因は僕にもあるから通してほしい。それに僕と三体の戦いで出た被害はできる限り治すって約束してるから、その約束を守りたい」
僕の事を心配して周りの植物達が真剣に話し合っている感じが伝わってきて、僕は結論が出るまでじっと待つ。そして広場の方を覆っていた植物がゆっくりと時々止まりながら引いていく。行かせたくないけど僕が広場に行く事を認めてくれたって感じかな。
「ありがとう。僕はできない事はしないし無理もしないから、三体といっしょにすぐに戻るよ」
植物達に見守れられながら広場に向かい、見えてきたのは広場の外とは比較にならないくらい成長した植物とその植物に覆われている鬼熊と破壊猪だった。……あの決着の時の被害は何を引き起こしたんだろ?
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