決着後にて 痛みと謝罪
うぐぐ、痛い。身体中が痛い。完全に筋肉痛だ。目が覚めてすぐに痛みを感じるから、けっこうな重傷だ。……それにしても筋肉痛の痛みってこんな感じなんだね。前世での病気の痛みよりは痛くないけど動きたくない。でも、このまま天井見てるわけにもいかない。どうしようかなって僕が迷っていると母さんが部屋に入ってきた。
「ヤート、目が覚めたのね。身体はどう?」
「身体中が痛い」
「筋肉痛ね。治さないの?」
「反省のために、しばらくこのままでいるつもり」
「反省?」
「初めはリンリーが目の前に倒れてるのを見たらカッとなって三体と戦い始めたんだけど、リンリーが倒れてたからもっと考えないといけなかったのに、途中からリンリーの事が頭から消えてた。あと森にかなりの被害を出てるはずだから治さないといけない。本当にダメだよね」
「確かに周りが見えなくなるのはいけない事ね。でも、初めて全力で戦ったのならしょうがないわよ。私もそうだったわ」
「母さんも?」
母さんの言葉は意外だった。今まで母さんが慌ててるところとかは見た事がない。
「そうよ。いつの間にか目の前の相手の事以外何も頭に浮かばなかったわね」
「……もし次があるなら、その時はもっと上手くやる」
「自分で冷静に振り返って反省できてるんだから大丈夫よ。ヤートならできるわ。ところで起きれそう?」
「…………もう少し待って」
「あ、それと、リンリーはそんなに気にしてないと思うわ」
「そう……かな?」
「リンリーも竜人族だから、きっとそうよ」
母さんと話した後に壁に手を付きながらノロノロと水場に行って顔を洗いサッパリして居間に行くと、父さん・兄さん・姉さんがいた。
「父さん、兄さん、姉さん、おはよう」
「ああ、おはよう」
「おう」
「ええ、おはよう」
「ヤート、身体は大丈夫か?」
「身体中が痛くて動きたくない」
「運動し過ぎの筋肉痛か?」
「そんな感じ。筋肉痛がどういうものか思い知ってる。ところで父さん、森の被害はどれくらいだった?」
「…………なかなかすごい事になっているな」
「そうなんだ。後で治しに行くよ」
「わかった。森を確認している奴に伝えておく。……ヤート」
「何?」
「…………いや、何でもない。食事にしよう」
父さんが何か言いたそうだし、兄さん・姉さんは微妙な顔をしてる。僕が不思議に思っていると母さんが料理を運んできた。正直食べるのも辛いけど、食べて栄養を取らないと治らないから我慢だ。なんとか母さんが用意してくれた奴を食べ終わって一息つくと立ち上がる。
「ヤート、もう出かけるの? もっと休んだら?」
「痛いけど動いてた方が多少は楽な気がするから、ゆっくり森を確認しながら散歩でもしてる」
「そう、無理はしないでね」
「元々無理はしないよ。それに今は無理したくても痛くてできない」
「それもそうね。森に入る前にリンリーのところに行くんでしょ?」
「そうするつもり。姉さんはリンリーがどうしてるか知ってる?」
「今は家にいるはずよ」
「わかった。それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
父さん達に見送ってもらって家を出てリンリーの家に向かう。……いつもならすぐなのに、今日は遠く感じる。身体中が痛くてゆっくり歩いてるからしょうがないんだけどね。はあ、母さんにはこのままでいるって言ったけど治したくなってきた。…………今は我慢だ。
村の中をゆっくり歩いていると村のみんなに声をかけられる。そうすると全員にまず大丈夫かって言われた。まあそれは良いんだけど、なんでか村のみんなも父さん達と同じような微妙な顔をしてる。あと村の子供達が何か言いたそうにしてた。本当に何だろう? 気になって僕から聞いてみても、みんななんでもないって言ってくるから謎だ。僕がみんなに何かしたか考えてるとリンリーの家に着く。扉を軽く叩いて待っているとエメスナさんが扉を開けてくれた。
「あら、ヤート君、おはよう。身体はもう良いの?」
「おはようございます。身体中痛いけど、動いてた方が多少は楽な気がするから動いてる」
「そういう事。リンリーなら居るから中へどうぞ」
「良いの?」
「うふふ、遠慮しないでどうぞ」
「はい」
中に入るとカッターさんとリンリーもいたからあいさつをする。
「おはようございます」
「ヤート君、おはよう。その様子だと身体の調子は悪そうだね」
「うん、身体中が痛い」
「なるほど、それならあれが良いかもしれない。ちょっと待ってなさい」
そう言ってカッターさんは奥の部屋に歩いて行った。何かを取ってくるみたいだけどなんだろ? おっと、その前にリンリーにあいさつしないとね。
「リンリー、おはよう」
「ヤート君、おはようございます」
リンリーが笑ってあいさつしてくれた。…………ホッとする。言語するとしたらポワポワって感じかな。でも、そんなリンリーをあの時は忘れてたんだよね。……はあ、本当にダメだな。謝らないと。
「リンリー、ごめん」
「き、急に謝るなんて、どうしたんですか!!」
「鬼熊と破壊猪の大声でリンリーが倒れた時、頭の中でブチッて音がして三体に戦いを挑んだんだ。あ、戦う前にリンリーを近くに樹に寄りかからせたんだけど、その後は戦いに集中してたのかリンリーの事は浮かばなかった。あの時は本当なら動けなくなってたリンリーの事を第一に考えなくちゃいけなかったのに、僕はそれができなかった。本当にごめん」
「……ヤート君はあの三体との戦いはどうでした?」
僕はリンリーに聞かれて改めて三体との戦いを思い出してみる。
「……うれしかったと思う」
「どうしてですか?」
「あの三体は僕の事を気にかけてくれたから、僕に対しては本気になってくれなかった。でも、途中から三体が僕を全力を出す相手だって認めて戦ってくれた。それが本当にうれしかったと思う」
「私は羨ましかったです」
「え?」
「途中から目が覚めてヤート君のあの三体との戦いぶりを見てました。全力を尽くしていて私から見てもとても楽しそうでした。私が途中から参戦できる感じじゃなかったのでそれが羨ましかったです。だから……」
「ごめん」
僕が謝るとリンリーは首を振り、僕の目を見てきた。
「だから、次は私もいっしょに戦います。絶対に戦います」
「…………僕の事を怒ってないの?」
「はい、私が気絶してただけなんで怒る理由がありません」
「でも、途中からリンリーの事忘れてた」
「それは戦いに集中してたのでしょうがないですよ。重傷を負ったわけでもないので気にしないでください」
「母さんにも、同じような事を言われた」
「でも、あんな楽しそうな戦闘がすぐ近くであったのに除けものにされたら怒ります。だから、次があったら絶対に私も戦います」
「わかった。その時はいっしょに戦おう」
「はい」
「話は終わったかな?」
「うふふ、すっかり二人で良い雰囲気ね」
カッターさんとエメスナさんに声を掛けられた。どうやら僕とリンリーの会話を聞かれてたみたいで、それを察したリンリーは顔を真っ赤にしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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