大神林にて 深緑とにらみ合い
地面から生えてきた奴は見た目は精巧に彫り込まれた女性型の木の彫像って感じで木葉が長髪のように腰までまとまっていて、どう考えても初対面のはずだけど僕は気配に覚えがあった。
「……ひょっとしてこの前、森の中で別れた人形の一体?」
「ハイ、ソノ通リデス」
「また、ずいぶんと見た目が変わったね」
「変デショウカ?」
「すっきりしたと思ってさ」
「アリガトウゴサイマス」
植物らしからぬ優雅でなめらか動きで礼をしてくる。それで……えっと、どうしよう。
「…………」
「何カ、気ニナル事デモアリマスカ?」
「なんて呼べば良い?」
「私シノ事ハ、「ディグリ」トオ呼ビクダサイ」
「「ディグリ」…………、深緑?」
「安直デショウカ?」
「自分に合ってるって思うんでしょ?」
「ハイ」
「それなら、それで良いと思うよ」
「アリガトウゴザイマス。トコロデ、私シモ散歩に加ワッテモ良イデショウカ?」
「そうだった。リンリー、鬼熊、破壊猪、ディグリもいっしょに来ても大丈夫?」
「……私はかまいません」
「ガア」
「ブオ」
「大丈夫って事なんだけど、ディグリは移動できるの?」
僕がこう聞いたのは、ディグリは形こそ人型になっているけど足元は地面につながったままだったからだ。僕に聞かれたディグリはブルッと胴体を震わせると地面につながっていた部分がバキバキと変形を始めて、あっという間に足を作って地面の上に立ち元々つながっていた部分は地面に潜っていった。
「切り離しても大丈夫なんだ」
「地面トツナガッテイタ方ガ楽デスガ、コノ状態ニナッテモ特ニ問題アリマセン」
「なるほどおもしろいね。色々ディグリに聞きたい事はあるけど、ここでじっとしてても時間がもったいないから歩きながら話そうか」
「わかりました」
「ガア」
「ブオ」
「ハイ」
二人と三体で歩き出す。久しぶりの大神林での散歩だ。行った事のない場所を散歩するのも良いけど、やっぱり自分のよく知っている場所を散歩するのは良いね。……そう言えばどこに行くかを決めてなかった。
「みんな、どこか行きたい場所ある? それとも適当に散歩する?」
「久しぶりの散歩なので、目的地を決めずにゆっくりは歩くのが良いと思います」
「それもそうか。それで良い?」
鬼熊・破壊猪・ディグリも特に反対はないようで、今日の散歩は近場をブラブラする事になった。僕が歩きだすとリンリーが僕の前に出て、僕の両斜め後ろに鬼熊と破壊猪がそれぞれ移動した。要は僕を中心にリンリー達が陣形を組んでいて、ディグリはその陣形の外側にいる。
「……ねえ、この陣形は何?」
「なんとなくです。ヤート君は気にしないでください」
「ガア」
「ブオ」
リンリー達はディグリを警戒してる? なんで? 疑問に思いつつも食べ頃の果実や薬草なんかを採りながら散歩を続ける。しばらく会話が一切ない散歩していると、休憩場所にしている森の中の広場に着いた。そうしたらリンリーに手を引かれて広場の端に連れて行かれリンリーに硬い声で「ここにいてください」って言われた。ちょっと混乱しながら成り行きを見てたら、リンリー・鬼熊・破壊猪とディグリが広場の中央で向かい合っていた。
「ディグリさん、あなたはヤート君をどうするつもりですか?」
「ドウイウ意味デショウカ?」
「もしヤート君に危害を加えるつもりなら、私は絶対に許しません。滅ぼします」
「ガアアァ」
「ブオ、ブオォ」
リンリー・鬼熊・破壊猪がディグリをにらみつける。リンリーはともかく鬼熊と破壊猪の二体ににらまれたら、かなり迫力があるはずなのにディグリは平然としていた。……なんでにらみ合いになってるんだろう?
「私ガ、主ニ危害ヲ加エル? アリエマセンネ」
「なぜですか?」
「私達ハ、主ニ動ケル身体ヲ与エテモラワナケレバ、ソノママ木材トシテ朽チテイク運命デシタ。ソンナ運命ヲ変エテ身体ヲ与エテイタダイタノニ、ソノ大恩アル主ニ危害ヲ加エネバナラナイノデスカ?」
「それを信用しろと?」
「妙ナ事ヲ言イマスネ。ナゼ、アナタ達ニ信用サレナケレバナラナイノデショウカ? 私ハ、私ノ望ミト役目ヲ果タスダケデス」
「それはいったい……?」
「主ニ仇ナスモノハ許サナイ。主ヲ守ルノハ私達植物デス」
ディグリの言葉と共に周りの植物がザワッと騒ぐ。ディグリは僕と同じように植物に力を借りれるみたいだね。まあ、元々植物なんだから当たり前と言ったら当たり前か。それを見たリンリー・鬼熊・破壊猪の身体から魔力が吹き上がり始めた。……これたぶん村で騒ぎになってる気がする。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
 




