黒の村にて 人形の反応と誰?
王城から村に戻って来て初めての散歩だ。一度家に帰って母さんに人形達の事を話したら、行って来なさいと送り出されたけど母さんも最初に人形達を見た時は顔を引きつらせてた。確かに木材が数本まとまって無理矢理人型になったような見た目だけど、そんなに見た目が変かな?
森に入って少し待ってても、鬼熊と破壊猪は来ないみたいだね。いまいちあの二体が、来る時と来ない時の差がよく分からない。まあ、考えても分からない事は置いといて、目の前の事に集中しよう。改めて人形達に同調して調べてみたら元の樹の材質で特に変わったものはないから、いつも僕が散歩してるような場所を案内すれば人形達それぞれが気に入った場所を見つけてくれるはず。見つからなかった時は、もっと詳しく同調して樹木として戻りたい場所を聞けば良いか。
……人形達と散歩していると、なんというかウキウキした感じが伝わって来た。その事に気づいて人形達の方を見てみると、ぎこちない動きで小さく跳ねたり、地面に落ちてた石で投げ合いをしてたり、お互いの動きを真似たりしていた。
「動くの楽しい?」
僕が聞くと人形達はビクッと身体を震わせるたり足をもつれさせながら、森に入った時と同じように列に並んで冷や汗をタラッと流してるような感じを出し始めた。…………なんでそんな怖がってるの? 僕が人形達の反応に困惑して黙っていると人形達の気配が、冷や汗をタラッと流してるような感じから脂汗をダラダラかいている感じに変わった。だから、なんで怖がってるの? とりあえず聞いてみよう。僕は列の先頭にいる人形に質問する。
「動くの楽しい? あとなんで僕を怖がってるの?」
僕に質問された人形は微妙にプルプル震えながら、必死に手足を動かして自分達の思いを伝えてきた。というか樹の人形でも身震いってできるんだね。興味深い。
カタカタ、カタタ、カタッタッタ。……カタ……カタ。
なるほど、やっぱり元が樹だから自分の意思で動ける今の状態が楽しいみたい。それに身振り手振りでの意思疎通も面白いらしい。あと勝手に動いてたから僕が怒ると思ったらしい。それくらいじゃ怒らないよ。それにしても、これはどうなんだろう?
「それじゃあ樹に戻りたい奴はいないって事?」
……カタタ、カ、タタ。
今はこのままでいたいと、……特に絶対に樹に戻さなきゃけないってわけじゃないから別に良いか。
「それなら、一度村に戻ろう」
カタ?
「村のみんなに、お前らがしばらくは人形の姿でいるって事を説明しないといけない。それに今説明しておけば、あとになって変な遭遇の仕方した時の混乱が少なくなるはずで面倒くさくない」
カタ!?
「それじゃあ戻ろう」
カタ!!
村に戻ってみんなに人形達の事を説明する。みんなは僕の説明を聞きながら人形達をチラチラ見ていた。
「特に何か害になるわけじゃないから、人形の姿でいても問題ないと思う。ダメならダメで僕が責任を持つよ」
「ヤートが問題ないと判断しておるなら、わしはかまわん」
「……良いの? 僕が言うのも変だけど、自分の近くに妙なのがいたら嫌じゃない?」
「大神林において新たな種族が生まれるのは別に驚く事ではないし、すでに生まれておるからのう。皆はどうじゃ?」
他のみんなからも「特に問題ない」や「こいつらの意思を尊重するべきだろ」っていう村長と同じような意見が出た。
「それじゃあ、こいつら連れてもう一回散歩に行ってくる」
「また唐突じゃの。どうしてじゃ?」
「こいつらをこの辺りにナワバリを持ってる魔獣に紹介してくる。エサとかで争いになる事はないけど、騒動になる前にね」
「それが賢明じゃな。気をつけるんじゃぞ」
「わかった。行ってきます」
みんなに見送られて森にもう一度入る。少し歩いたところで待ってみたけど、やっぱり今日はあの二体は来ないみたい。うーん、何となくこのままだと面倒くさい事になりそうな気がするから、今日中に人形達と顔合わせしてほしかったんだけど無理みたいだな。……確実に面倒くさい事になるって決まったわけじゃないし、そうなったらそうなった時って諦めよう。
……カタ?
「ああ、ごめん。いつもいっしょに散歩してる奴らを待ってたんだ。でも来ないみたいだから行こう」
カタ、カタタ?
「どんな奴かって言われたら、今いる大神林でも高位の力を持ってる奴らで鬼熊と破壊猪って言うんだ」
カタ!! カタタ、カタ!?
「別に危なくないよ。お前らといっしょで話のできる気の良い奴らだよ」
……カタ……カタ……カタ……カタ。
なんだろう? 自分で言っててよくわからない言い方だけど、急に人形達が人形らしい動きをしだした。……なるほど、植物も照れるみたいだ。このまま見てても面白いんだけど、ジッと待ってるのも時間がもったいない気がする。
「それじゃあ、主なところを回っていこうか」
……カタ……カタ……カタ……カタ。
声をかけても変化なしと、初めての照れで耐性がないから元の状態に戻るまで時間がかかりそうだね。しょうがないゆっくり行こう。この後、ものすごく時間が経った後で人形達が元に戻ったから、村の近くの魔獣達に紹介して水場と日当たりの良い場所を教えて村の近くで別れた。
あの人形達と別れて数日が経った。今日の作業が終わったら、どこを散歩しようか考えているとリンリーに声をかけられる。
「ヤート君」
「どうかした?」
「今日の作業が終わったら、散歩に行きませんか?」
「良いよ。行こう。門で待ち合わせで良い?」
「それで大丈夫です」
「それじゃあ、後で」
「はい、また後で」
作業を終わらせて門に着くと、リンリーはまだ着てないみたいだ。リンリーとならキレイな所を行きたいけど、鬼熊と破壊猪が来たら、いつもの散歩コースかな。
「ヤート君、おまたせしました」
「特に待ってないから大丈夫。行こう」
「はい」
リンリーが来て森に入ると遠くの方から地響きが近づいてくる。なんか久々だ。地響きがどんどん近づいてきて、もうもうと立ち上がる土埃も見えてきた。…………そういえばあの二体はあの巨体でかなり樹木が入り組んでる大神林の中を、どうやって土埃が上がるくらいのスピードで走ってるんだろ? 音からすると樹木をなぎ倒してるわけじゃないから不思議だ。今日聞いてみようかな。僕が妙な疑問を考えていると、目の前の茂みから二体がズバッと飛び出してきて、僕とリンリーの間を地面をガリガリ削りながら通り過ぎていって土埃に包まれながら止まった。
「ケホッ、久々にこの登場の仕方だけど、静かに来る時もあるよね? ゴホッ、リンリー大丈夫?」
「はい、心構えしてたので大丈夫です」
「良かった」
「ガアア」
「ブオオ」
「競争になった? なんで?」
「ガァア」
「何となくって、僕だけならともかくリンリーも巻き込んでるからね」
「ヤート君、私は大丈夫です」
「ブオ」
「はあ、それじゃあ行こうか」
「はい」
「ガァ」
「ブォ」
「私モイッショニ行キマス」
「…………うん?」
どう考えても聞いた事のない声が聞こえた。僕が振り返り聞こえた方を見たら地面がボコッと盛り上がっていて何かがチロっと動いている。僕達が何も言えずにいると、チロっと動いていたものが伸びて人型になった。
「私モイッショニ行キマス」
…………誰?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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