黒の村にて 後片付けと人形
目が覚めると見慣れた天井だった。まあ、いつも寝ている部屋の天井だから見慣れているのは当たり前か。身体を起こして左右を見ると右に兄さんが左に姉さんが寝ていた。僕と兄さんと姉さんは同じ部屋で寝ていて、寝台が三つ川の字に並んでいる。そしてなぜか僕が真ん中で年下は端だと思うんだけどって言っても、兄さんの気にするなの一言でずっと僕が真ん中のままだ。
……とりあえずなんで僕が真ん中なのかっていう疑問は置いといて、兄さんと姉さんに同調して二人の体調を確認する。実は昨日の夕食の時の、父さんと兄さんと姉さんの親子の触れ合いという名の乱闘がすごい事になっていったみたい。
後になって聞いたら最初は父さんと兄さんと姉さんの三人で戦ってたんだけど、そこになぜかラカムタさんがやってきて父さんと殴り合いを始めた。そして突然の事に唖然としてた兄さんと姉さんに、二人の狩り仲間でライバルのロロワとポポカがそれぞれ殴りかかっていく。一対一が三つできて少しの間戦っていたら次々と村の他の大人と子供が加わっていき、最後には大人組の乱闘と子供組の乱闘に発展したらしい。
あまりに広場から聞こえてくる戦闘音がすごいから母さんと見に行くと、そんな風に乱闘してる集団が二つできていて驚いた。母さんも「あらあら」ってびっくりしてたね。どうしようか悩んでると村長が来て大きな声で乱闘してるみんなを一喝したけど、その一喝は「乱闘するならするで全力で戦わんか!!!!」だった。……そこは止めるところだと思う。結局、村長が強化魔法を発動させて大人組の乱闘に飛び込んでいくのをきっかけに、大人も子供も強化魔法を発動させて乱闘が再開された。
僕と母さんは中途半端に止めると後が面倒くさいかなっていう結論になり、家に戻って戦闘音と何かの破壊音が聞こえる中で夕食を続けた。その後、僕と母さんが食べ終わって居間でゆっくりしてたら、服がボロボロになって汚れだらけの父さん達が帰ってきたから乱闘の結果を聞くと、大人の方はラカムタさんが村長との最後の一騎打ちに勝って一位になり、子供の方は最後に兄さんと姉さんが残って相打ちになったらしい。さすがに疲れ切ったのか三人は食べかけの料理を詰め込むように食べると、さっと身体をふいて寝台に入って一瞬で眠った。
そんなわけで二人に同調して確認してるわけなんだけど、……うん健康そのものだ。兄さんと姉さんは、乱闘に加えて父さんとも戦ってたのに、なんで打撲とか内出血とかがないんだろ? それだけ竜人族の身体が頑丈で回復力があるって事か。喜ぶ事だから良かった良かった。さてと二人を起こして顔を洗おう。
「兄さん、姉さん、朝だよ。起きて」
「…………すぐ起きる」
「……私も……すぐ起き…るわ」
……絶対にすぐに起きない奴だね。まあ、最終手段で弱めの刺激する赤で起こせば良いか。二人をそのまま起こさず水場に行きバシャバシャと水で顔を洗えば、少しだけあった眠気もなくなる。サッパリして台所に向かうと母さんが朝食を作っていた。
「母さん、おはよう」
「おはよう、ヤート。ガルとマイネは?」
「すぐ起きるって言いながら寝てる。すぐに朝食なら無理やり起こして来るけど?」
「昨日の乱闘で疲れてるんでしょ。朝食まで寝かせあげて」
「わかった。父さんは?」
「昨日の後片付けを朝早くからしてるわ。朝食のために一度中断するはずだから、そろそろ帰って来るはずよ」
「戻ったぞ」
「おはよう、父さん」
「早いな、ヤート。おはよう」
「あなた、お帰りなさい。後片付けはどう?」
「瓦礫の撤去は終わったが、思ったより建物への被害が多いな。修理に少し時間がかかりそうだ」
「木材の破損や折れとかなら、僕の魔法で何とかできるから手伝うよ」
「昨日の乱闘に参加してないのに悪いな」
「早く元通りになる越した事はないから気にしないで」
母さんの料理が完成に近づくと良い匂いがしてくる。その匂いにつられたのか兄さんと姉さんは、目をこすったり欠伸しながら台ところに入ってきた。
「二人とも食べる前に顔を洗ってきなさい」
「……わか…った」
「ふぁ~、……すぐに戻るわ」
二人が顔を洗って戻ってきたら朝食を食べる。ちょっとだけ二人がまたケンカするんじゃないかと心配してたけど、ゆったりとした感じで食べ終わる。その後、僕と父さんは広場のそばで被害の大きい家の修理に向かって、兄さんと姉さんも別の方の手伝いに行った。
「おはよう」
「おう、ヤートか。散歩に行かねえのか?」
「みんな働いてて行きづらいから壊れた家を治すのを手伝うよ。樹の廃材ってどこかに集めてる?」
「それなら広場の真ん中に後で燃やすために集めてるぞ」
「…………あれだよね? どう見ても廃材の山になってるけど?」
「ははは……、そうだな。やりすぎたな」
僕のつぶやきが聞こえたのか、みんな僕から目をそらして気まずそうに頭をかいたり、不自然なくらい目の前の作業に集中したりしていた。広場の真ん中に行って廃材の山を近くで改めて見ると、本当に山のような量だった。……昨日、みんなどれだけ暴れてどれだけ壊したの? まあ、唖然としててもしょうがないからやろう。
「緑盛魔法・超育成・樹根触腕」
まずは樹根触腕で廃材を一つ一つを僕の手元に運び同調して、正しい木片の組合せを確認する。そして組合せがわかったところで、次の魔法を発動させる、
「緑盛魔法・超育成・樹体再生」
僕の魔法で傷んだ部分やバラバラになっていた木片が、緑色の光を発してから元に戻っていく。樹木は木材に加工されても力を秘めてて、その力を少し活性化してやれば元に戻る。ただ戻しすぎると芽や根が生えて樹木に戻るから、そこは気をつける。しばらく続けて廃材の山を全部使える木材に戻したら、四、五軒は建てられそうな量になった。…………みんな、周りの被害考えようよ。とりあえず移動させよう。
「緑盛魔法・超育成・樹木人形」
この魔法で数本で一体の人形になって自力で動いてもらう。直した木材を人形にしたら状態を確認する。
「キレイに直したつもりだけど、どこか問題あるところある?」
僕が聞くと人形達は一斉に首を横に振る。どうやらちゃんと直せたみたいで良かった。
「それじゃあ、自分が元々どこの家のどの部分だったかわかる?」
今度は一斉にうなずいた。これだったら元の家に連れていくだけで良い。あ、でも広場の近くの家だったら、自力で向かってもらった方が早いよね。
「それじゃあ今立っている場所から元の家が見えてる奴は、そこに行って木材に戻って」
広場に立っていた人形達の内の七割くらいが歩き出して元の家に向かい、家の住人に出会うとペコリとおじぎをして静かに木材に戻っていく。僕は残り三割くらいについて来てと言って歩き出した。歩きながらチラッと後ろを見ると人形達が二列になってついて来てて、なぜか途中ですれ違った村のみんなは人形達の行列を見て大人も子供も全員顔を引きつらせて後ずさりしてた。広場の近くの被害のあった家を一通り回るとほとんどの人形達は木材に戻ったけど、なぜか数体人形のままの奴らがいた。
おかしいなって思ったから同調して調べてみると、昨日の乱闘で出た廃材じゃなくてもっと前に廃材になった奴らだった。しかも元々家には別の部材で修理がされていて、元々の家に行ったところで自分達には居場ところがないため人形のままでいるらしい。
「それなら森に入って樹木に戻る?」
残った人形達に聞くと、少し考えるような間があり全員うなずいた。よし、それなら散歩に行こう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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