王城にて 新しい出会いとあいさつ
あれから一晩が経ち、ハザランへの尋問で依頼主が誰かわかったみたいだ。王城に泊まった僕達に、朝一番でサムゼンさんが教えてくれたんだけど、……正直なところ全く興味が無い。
「サムゼンさん、僕達にその事を教えて良いの?」
「ああ、バーゲル王よりも許可が出ている。むしろ王からは、ヤート殿達にできるだけ早く正確に伝えるように言われている」
「なんで?」
「ヤート殿達は興味が無いとは思う。しかし、次に襲ってくるかもしれないもの達の情報共有のためだと思ってほしい」
「そういう事なら聞くべきだね。ラカムタさんは、どう思う?」
「……俺も興味は無いが、聞いておいて損は無いだろうな」
「兄さん達は?」
「ラカムタのおっさんと同じだ」
「私も同じ」
「私もそうです」
みんなも一応聞くべきだって思ってるみたいだから話を進めよう。
「サムゼンさん聞かせて」
「わかった。まず、今回の件の首謀者だが、バゼヌルと言うものだ」
「どんな人?」
「この国の侯爵で、この国でも特に力を持っているものの一人だな。前々から複数の事件・事故に関わっていると思われていたが、中々証拠をつかませない奴だった。しかし、今回の事でようやく処罰ができそうだ」
「そうなんだ。おめでとう。それでこの国が少しは平和になれば良いね」
「ああ、それにもうすぐ総団長が戻ってくるから、より万全にバゼヌルを処罰できるだろう」
「総団長?」
「この国の国防の要となる最も強い方で今は他国に出向いている。そもそも総団長がいれば今回の件で、ヤート殿達に手間を取らせる事もなかった」
「……それってたまたま総団長がいない時に王族が襲われたって事?」
「…………腹立たしいが、たまたまや偶然では無いだろうな。バゼヌル本人かはわからないが、ハザランを招き入れたものがいる」
「いろいろ面倒くさいね」
「本当にその通りだ」
サムゼンさんは僕達に王族襲撃事件の全容とこれからの事を説明した後に戻って行った。あとサムゼンさんが別れる時に「総団長を見ても冷静でいてほしい」って言ってたけど、どういう意味なんだろう?
気になりつつも緊急でするべき事は無いから王城の庭を散歩している。もちろん鬼熊と破壊猪もいっしょだ。うん、自然の景色も良いけど庭師が時間と経験を費やして作られた庭園も良いね。
途中で兄さん達と合流して木陰で休んでたら僕に誰かの影が重なった。その人――誰かわからないけど――の方を見ると話しかけられる。
「あなたが黒の竜人族のヤーウェルト君かしら?」
「うん、こんな見た目だけど僕は黒の竜人族のヤーウェルト。周りのみんなからはヤートって呼ばれてる」
「私はナイルよ。ナグレシェトファイルっていうのが本当の名前だけど、長いし言いにくいからナイルって名乗ってるわ。あなたも短い方で呼んでちょうだい」
「わかった。よろしくナイルさん」
「……あなた、変わってるわね」
「欠色だからね」
「見た目の話じゃなくて中身の話よ」
「えっと?」
「普通はね、私と初めて出会う人はみんな後ろの子達みたいな感じになるの」
ナイルさんが僕の後ろを指差したから見てみると、兄さん・姉さん・リンリー・ラカムタさんがものすごく変なものを見たような顔をして固まっていた。
「みんな、どうしたの?」
「……ヤート、お前よく普通に話せるな」
「会話なんて誰でもするでしょ?」
「そうじゃねえ‼︎ なんでヤートがこんな変な奴と普通に話ができるかって聞いてんだよ!!」
兄さんがナイルさんをビシッと指差す。……兄さん、人を指差すのはしない方が良いと思う。それにしてもナイルさんが変? うーん? ナイルさんは身長ニルーメ(前世でいう二メートル)を超える大きな人で、身長だけじゃなく筋肉も発達していてうらやましいくらいの身体の持ち主だ。体格が良すぎるのが変と言えば変だけど、……ただ体格が良いだけで兄さんがここまで言うわけないし何だろ? 性別は普通に男の人だし、……どこか変かなぁ?
「ナイルさんのどこが変なの?」
「いや、しゃべり方がどう考えてもおかしいだろ!!」
「えっ? 兄さん、ナイルさんは普人族だよ?」
「お、おう、それがどうした?」
「普人族は竜人族の何百倍も多いんだから女の人の話し方と仕草をする男の人ぐらいいるでしょ? それのどこが変なの?」
「「「「「…………」」」」」
あれ? また、みんなが唖然としてる。なんで? 僕がみんなの態度に首を傾げていると、突然ナイルさんが笑い出した。
「ク、クク、……アハハハハハ!!!!」
「ナイルさん、どうしたの?」
「あなた、最高ね!! すごく面白いわ!!」
「そう?」
「そうよ!! 私と話してそんな感想が出るなんて、あなた面白すぎるわ!!」
「普通だと思うけど……」
「良いわ!! あなたの事をもっと知りたくなったわ!!!!」
「良いけど、ここで話す? それとも場所を変える?」
「もうすぐ今回の件の会議があって、その後に軽い食事会があるから、そこで話しましょう」
「わかった」
「また後でね」
ナイルさんが離れて行っても兄さん達は呆然としてるままだった。ちなみに鬼熊と破壊猪もナイルさんを見て呆然としていて、なんでか聞いてみたら今まで見た中で一番普人族離れした見た目で仕草も妙に感じるとかで、とにかく変っているかららしい。……そんなに変なのかな?
侍従の人が食事会の準備ができたと教えてくれたからナイルさんについて考えるのをやめて会場に移った。会場の前の庭で鬼熊と破壊猪と別れて入ったら、真っ先にナイルさんが近づいてくる。すぐそばまで来られると僕とは身長差があるから見上げて首が痛くなりそうだな。
「ヤート君、さっきぶり」
「そうだね、ナイルさん」
「あなたは果実水で良いかしら?」
「うん、お酒は飲んだ事あるけど、まだ美味しさがわからない」
「ふーん、子供らしい一面もちゃんとあるのね」
「大人でもお酒を嫌いな人はいると思う。だから、そこだけで子供らしいって言われても困る」
「……確かにそう言われればそうね。私の部下にもお酒が苦手な子がいるわ。あなたは大人と子供のどっちとして対応されたい?」
「そういう事には興味が無いから、ナイルさんのやりやすい方で良いよ」
「それなら大人として対等に接するわ。正直に言うとヤート君の活躍は聞いてるし実際に話してみても、子供として見にくいのよね」
「ナイルさんが、それで良いなら大丈夫」
「うふふ、ありがとう」
…………なんか周りからの視線をすごい感じる。まあ、ニルーメ(前世でいう二メートル)を超える大男と欠色の白い竜人族の子供の組み合わせは、珍しいからしょうが無いんだけど気になる。
「見られるのは嫌いかしら?」
「僕が欠色でナイルさんとの組み合わせが珍しいのはわかるけど、見られるのはそこまで好きじゃない」
「誰かがあなたに危害を加えたりとか、あまりにもひどい態度とかされたら、私がお・は・な・ししておくから安心してね」
ナイルさんが、手をゴキっと鳴らしながらパチッと片目を閉じてきた。そしてそれを見ていた何人かが青い顔して、そそくさと僕達から視線を外して離れて行く。……ナイルさん、あの人達に何したの?
「兄さん達が怒り狂うと地形が変わるし、ナイルさんの方が絶対に穏便だろうからお願いするよ」
「あらあら、やっぱりあなたは愛されてるわね。さすがに愛着のある場所の地形が変わるのは嫌だから任せてちょうだい。さてと、それはそれとして改めて自己紹介しましょう。この国の騎士団の総団長のナグレシェトファイルよ。気軽にナイルって呼んでちょうだい、よろしくね」
ナイルさんが、そう言って手を出してきた。握手か、どうしよう。……変にごまかしてもしょうがないから、はっきり言った方が良いよね。ナイルさんは差し出した手を見て固まっている僕を見て不思議そうな顔をする。
「ナイルさん、ごめんなさい。握手はできない」
僕が言った瞬間に流れてた演奏も止まって、空気がビシッと固まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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