王城にて 大きくなりそうな面倒事と黒幕
ギメンの奴隷達が襲い掛かってくると、兄さんは魔力を吹き上げながら集団の中に飛び込んでいくのに対して、姉さんとリンリーはうんざりしつつ迎え撃っていた。ラカムタさんは、……特に変わらないかな。
「おらぁ!! そんなふ抜けた拳で俺を倒せると思うなよ!!」
兄さんは襲い掛かってくる奴らの拳や蹴りを避けも防御もせずに身体で受け止め、攻撃された事なんか関係ないとばかりに、そのまま逆に殴り倒していた。結構体格の良い獣人や鬼人の数人が、すごい勢いで吹っ飛んで建物の壁や庭の樹々に激突し動かなくなっていく。そんな状況に兄さんを厄介と思ったのか、バラバラに兄さんを襲わず兄さんの身体を何人かで押し倒しにかかる。……まあ、そんな事されても兄さんは、つかみかかってきた奴らを逆に片手で力任せに引き剥がし振り回して地面に叩きつけていた。
「ガルが暑苦しいわ。リンリー、大丈夫?」
「いえ、でも、なんというか……敵がうっとおしいです」
「……リンリーも言うようになったわね」
「えっ、あ、えっと、その……」
「今までのリンリーが大人しすぎたの。だから気にしなくて良いわ」
「わかりました」
姉さんとリンリーは、冷静に囲まれないように動きながら次々と襲い掛かってくる相手の攻撃をさばいて、頭部や首に心臓といった急所に打撃を叩き込んで意識を刈り取っていく。うん、なんというか容赦がない。リンリーって前はあんなに少しの事でワタワタしてたのに、よく動けるようになったな。ちょっと感動する。
「サムゼン殿達は、防衛に専念してくれ。向かってくる奴は俺が片付ける」
「申し訳ない。だが無理はしないでもらいたい」
「ヤートに倣って言うとだ、無理な事はしない。なぜなら、たかがこの程度の人数を撃破する事は特に問題にならないからだ!!」
……意外とラカムタさんも戦意が高揚してたみたい。ラカムタさん自ら奴隷達の集団に飛び込んで暴れながらも、ギメンの取り巻き達とサムゼンさん達が戦っていて鍔迫り合いなんかで動きが止まれば一瞬で近づき、横や後ろから取り巻き達を容赦なく殴り倒して、また奴隷達との戦いに戻り暴れるという恐ろしく強引なやり方で、兄さん・姉さん・リンリーよりもはるかに多くの奴らを倒していってる。相手の方が可哀想になるくらい、どんどんギメンの奴隷達が倒されていき気がつくと、立っているのは僕ら黒の竜人族と王様やサムゼンさん達にギメンとその取り巻きだけになっていた。…………僕は何もしていない。
「くっ、目の前の獲物を排除するという当たり前の事もできんとは、これだから低俗な亜人どもはつかえん。役立たず共が!!!! おい、強制的に動かせ」
「はっ!! ……生人形劇発動」
ギメンのそばに残った取り巻きの黒いフードを被った奴が手に持った水晶を使って魔法を発動させると水晶と奴隷の首輪から淀んだ魔力光が一瞬放たれ、手足が複雑骨折してる奴や意識を失っている奴など、どう考えても動けない奴らが動き始めた。……身体が勝手に動くこの感じは影結さんと同じか。
「ギメン、貴様!! 奴隷化だけでなく禁術にまで手を出すとは恥を知れ!!」
「ふん、奴隷や禁術など、ただの道具だ。使える物があるのならば使って何が悪い」
「なぜだ? なぜ、このような事を企てた?」
「バーゲル王、貴様の役目は終わったという事だ。昔から貴様の生ぬるいやり方には虫唾が走る。今を持って貴様らのような不純物を排除し、選ばれた普人族による支配を実現させるのだ」
サムゼンさんと王様とギメンが盛り上がっている。前世でもこの世界でも見た事なかったけど、こういう選民思想の奴って本当にいるんだね。あっと、一応確認しておいた方が良いか。
「ギメンだっけ? 影結さんに僕を襲わせたのはお前?」
「ふん、亜人ごときが私の名を口にするな。大人しく死んでおけば良いものを、貴様のような奴が私の目の前にいるなど絶対に許さん!!」
「やっぱり影結さんを送り込んできたのはお前か。……それと小物が大物みたいにするのは変だよ」
「貴様!! 私に向かってそんな態度をとる事が許されると思っているのか!!」
「なんでお前に一々認められる必要があるの? あとそれなりに敬ってもらいたいなら、相応の事をやってから言ってほしいかな」
「貴様ぁぁ!!!! 許さん、許さんぞ!!! 簡単には殺さんぞ!!!」
うるさい奴。でも、こいつ……なんか変だ。何が変と言われるたら説明できないけど、絶対になんか変だ。ギメンが怒り狂っているとフードの奴に生人形劇で操られた奴隷達が、また襲いかかってきた。ただ今度は僕の方にほとんど奴が向かって来て、ラカムタさん・兄さん・姉さん・リンリーは残りの奴らに足止めされている。さすがにラカムタさん達でも、殴り倒されてもすぐに起き上がってくるような異常な奴らは戦い辛いようだ。まあ、問題ないけどね。なんでかと言うと……。
「ガアアァァアアァ!!!!」
「ブオオォォオオォ!!!!」
鬼熊と破壊猪がいるからだ。あと少しで僕に手が届くというところで、二体が奴隷達に突進してきて吹き飛ばす。……不思議だ。なんでこの二体には、何もしていないんだろ? まあ、たいていの妨害はこの二体には意味がないから、何もしなかったのかもしれないけど不思議だ おっと、これ以上奴隷達が重傷になると、治すのが大変だから動きを止めよう。
「緑盛魔法・超育成・緑盛網」
鬼熊の突進や前足の振り回し、破壊猪の頭突きや踏み潰しで、瀕死と言っていいような状態になっていく奴隷達を庭の蔓植物や芝などの下草が拘束していく。でも、ほんの少しでも動ければ手足がちぎれても構わないという感じに暴れるから、念入りに関節を固定する形で拘束してもらう。それとラカムタさん達を足止めしてた奴らも、拘束して植物に僕の近くへ運んでもらった。それじゃあ応急処置になるけど、まずは内蔵の損傷とかを治療しないとね。いつものように腰の小袋から薬草団子を取り出して魔法を発動させる。
「水生魔法。緑盛魔法・強薬水液。それと薬水霧」
さっきの二体を見張ってた騎士達に使った薬水を魔法で緑色の霧に変えて、植物によって拘束されている奴隷達の鼻から体内に入れていく。液体にするより効果は落ちるけど、効果の低さは量で補えば良いし無理やり口を開ける手間がないからこっちの方が良い。応急処置が終わって、ギメンの方を見ると唖然としていた。
「……バカな」
……やっぱりこいつ変だ。この世界の常識で考えて、この程度で竜人族や高位の魔獣二体をどうにかできるわけないのに、なんでこんなに唖然としているんだ? 誰かにこれで大丈夫だって言われてた? …………もしかして。
「緑盛魔法・緑葉飛斬」
僕が新たに魔法を発動させると、僕の近くにある樹木がザワッと震えて葉が数十枚舞い落ち地面に落ちる寸前で空中にピタッと止まる。そして全てが不規則にでも僕の狙い通りにギメンとその取り巻きへと向かっていき、一度高度を上げると全ての葉がシュバババババババッと降り注ぎ土煙が起きる。そしてその土煙が晴れたら僕の予想した通りの光景になっていた。
「なるほど、なんか変だと思ってたけど、やっぱり黒幕はお前だったのか」
煙が晴れたそこには、緑葉飛斬を身体に受けたギメンとその取り巻き達が黒いフードを被った奴を守るかのように囲んでいた。そしてプツンと糸が切れたかのようにギメン達が倒れると、フードの奴は大きなため息をついた。
「はぁ、失敗したなぁ。こんなにあっさりバレるとは思わなかった」
聞いていて気持ちが悪くなるような軽薄な声だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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