帰りの旅にて ベタと出会い
兄さんと姉さんが無茶をしてから破壊猪と妙に仲が良くなり、自然に隣を歩いたり途中で見つけた木の実をとってあげたりしていた。こんな状況に驚きつつも緊張感でピリピリしてた旅の初めより今の方がホッとできるから良い。あと心臓に悪いから誰かの事でハラハラしたくない。今思えば僕の行動を見てたみんなの気持ちが、こんな感じだったんたな。……はあ。
「兄さん、姉さん、今までごめん」
「急にどうしたの?」
「なんとなく謝りたくなった」
「気にするな。今更だ」
「そうよ。それに今でもヤートには驚かされるけど、昔に比べたら慣れてきてるわ」
「わかった。もう少し慎重になるよ」
心の中で今までの自分の行動を振り返りつつも、朝から今までで黒の村から来る時の二日分を移動した僕達の移動速度に驚いていた。僕がいたから他の年よりも移動速度が遅いかったから簡単には比べられないけど、たぶん今の僕達の移動速度は異常に速い。その理由は僕達の移動方法にあって僕達三人は、破壊猪の背に乗せてもらっているからだ。まあ、これは兄さんと姉さんが破壊猪と打ち解けたからできる移動方法だね。……それにしても破壊猪は朝食を食べてから僕達をのせて半日以上ずっと走ってるけど息も乱れてないし疲れた様子も見えないなんて本当に体力あるな。というか、むしろ僕達を気づかって遅く走ってる感じだ。
「疲れてない? 休む?」
「ブオ!!」
「わかった。大丈夫なら良いんだけど無理はダメだよ」
「ブ!!」
「…………ヤート、あなたが言っても、あまり説得力が無いわ」
「……そう?」
「そうだな。俺達の中で一番無理というか無茶をしてるのは、どう考えてもおまえだろ」
「……ブ」
僕は自分だとそんなに無理も無茶もしてるとは思ってないんだけど、ひどい言われ方だ。そんな風に僕達が話しながら移動してると、もう少しで平原地帯に入るという時に基本的に走りっぱなしだった破壊猪が地面を削り土埃をあげながら止まった。
「どうかした?」
「…………ブオ」
「……これは悩むね」
「ヤート、どうしたんだ?」
「なんか血の匂いがするってさ。それもかなり強め」
「何かがケガをしてるか戦ってるかって事よね?」
「僕もそう思うよ。それでどうしよう? 避けた方が面倒はないけど見ないふりするのは微妙」
「確かに、そうね」
「なら、見えるとこまで近づいたらどうだ?」
「私もまずは確認したいわ」
「じゃあ、ゆっくり静かに向かって」
「ブ」
平原地帯を血の匂いがする方向にゆっくり進んでいると、かすかに叫び声や金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。でもさすがに距離があってまだ状況がよくわからない。
「デカイ馬車と騎士の集団が盗賊に襲われてるみたいだな」
「この距離でよく見えるね」
「強化魔法の応用よ。ヤートも目を特に強化してみなさい」
「わかった」
姉さんに言われた通りに強化魔法を目に集中して使ってみる。おー、望遠鏡で遠くを見てるみたいに見えた。……確かに兄さんの言う通り騎士っぽい人達が大きな馬車を守りながら盗賊と戦ってて、状況は明らかに騎士の方が押されてる。やっぱりパッと見でも倍以上盗賊の方が多いから仕方ないか。…………盗賊に襲われてる馬車に出会うとか前世の本に出てくるようなベタすぎる状況だな。
「ヤート、どうする?」
「うーん、破壊猪でも走ってると急には止まれないから僕達が向かってる方に誰かがいても、それが盗賊なら巻き込んでも問題ないと思うよ」
「そうね。急には止まれないわよね」
「残った奴らは俺達が叩き潰せば良いよな?」
「それで良いと思う。それじゃあ、できるだけ盗賊を巻き込む感じで突進お願い」
「ブオ!!!!!!」
破壊猪は気合の入った声を上げると、低くかがんで身体全体からミチッとかギチッていう音が聞こえたりと手足だけなく背中の筋肉も盛り上がってくるぐらい力を溜めた。そして一回大きく息を吸うと爆走を始めた。
……うん、すごい加速だ。加速の衝撃に耐えられなくて、僕が振り落とされそうなったけど何とか兄さんに支えてもらって破壊猪の背中にしがみつく。前を確認する余裕はないけど、この速さだったら本当にすぐにボゴン!! ガゴン!! グシャッ!! ……本当にすぐだった。ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!! いつもより長い地面を削る音が止まって破壊猪から降りると、騎士や巻き込まれなかった盗賊が唖然とした顔を僕達に向けていた。
「おっしゃ、叩き潰すぜ!!」
「私も運動してくるわ」
「ほどほどにね」
「おう」
「ええ」
「ブオ」
兄さんと姉さんが突っ込んで行ったから、僕はケガ人の治療かな。
「こんにちは。ケガ人がいるなら治療できるよ」
目の前にいる人が護衛で一番偉い人だと思うけど、僕と暴れてる兄さんと姉さんを交互に見てるだけだった。
「聞いてる?」
「あ、ああ、助太刀感謝する。ケガ人の治療は盗賊を倒してから頼みたい。この状況で下がらせるわけにはいかん」
「兄さんと姉さんにまかせておけば、すぐに終わるよ?」
「いや、しかしだな。さすがに子供に任せるわけには……」
「あんな感じだから気にしなくて良いよ」
僕に言われて……団長さんで良いか。団長さんが兄さんと姉さんを見ると、兄さんは持ち前の腕力と耐久力にものを言わせて、多少の攻撃を受けても一切無視して相手の懐に跳び込みぶん殴り、その殴られた盗賊は吹き飛ばされて他の盗賊も巻き込んでいく。姉さんはというと盗賊の攻撃をキレイに避けながら反撃で盗賊の顎や心臓と言った急所に的確に打撃を当てている。そんな姉さんにやられた盗賊は、その場に糸が切れたように倒れてピクリとも動かなかった。破壊猪は、あんまり動いてないけど盗賊達が斬りかかってくるのがうっとうしそうに軽く頭部を振って盗賊にぶつけている。軽くぶつけてる感じなのに盗賊は兄さんに殴られた奴より飛んでるね。
「大丈夫でしょ?」
「……そのようだな」
団長さんは破壊猪は別として見た目が子供の兄さんと姉さんの戦闘力に引いてるみたいだ。竜人族は強いっていうのは当たり前の認識だと思ってたけど違うのかな? 僕が考えてると兄さんと姉さんが背中合わせに立った。
「相変わらず雑な戦い方ね」
「あ? マイネみたいに弱くねえだけだ」
「……どういう意味かしら?」
「ふん、そのままの意味だ。急所を狙わなきゃいけねえって事は、急所を狙わなきゃ倒せねえくらい攻撃が弱いって事だろ? 俺はそんなに弱くねえからな、急所に当てなくても十分倒せるんだよ」
「…………無様に倒れたいようね。それが望みなら今すぐ叶えてあげるわ」
「やってみろ」
……わざわざ、ここまで来てケンカする必要ないでしょ。兄さんと姉さんは沸点が低すぎるよ。盗賊は自分達を無視して突然にらみ合いだした兄さんと姉さんに多少困惑しながらも周りを囲んでいく。へえ、意外と冷静だね。それを見て団長さんが慌てだした。
「いかん!! おい!! すぐに援護に行け!!」
「特に行かなくて良いから騎士の人達には馬車の護衛に専念させておいて」
「何を言っている!!! 兄弟を見捨てる気か!!!」
「見てればわかる」
「しかし……」
身内の僕があまりにも落ち着いてるため団長さんが反応に困ってた。
「ガル、今言った事を訂正して。そうすれば許してあげるわ」
「マイネ、寝言は寝てから言え」
「もう良いわ。土を舐めさせてあげる」
「やれたら良いな」
「死ね!! ガキどもが!!!」
明らかなスキと見て盗賊達が兄さんと姉さんへ同時に飛びかかっていく。無意味なんだけどね
「邪魔よ」
「うっとおしい」
当然、兄さんと姉さんはあっさりと迎撃したけど、絶対二人の機嫌が悪くなってるからやりすぎる奴だ。
「マイネ、ちょっと待ってろ。片付けてくる」
「ガルこそ、引っ込んでて」
「「…………強化魔法」」
うわ、強化魔法使うとか盗賊がかわいそすぎる。まあ、運が悪かったと思って諦めてもらおう。
「ほらね、兄さんと姉さんにまかせておけば、特に何の問題もないでしょ?」
「……ああ、そうらしい」
その後、五分もしない内に盗賊達は全滅した。さて、ケガ人の治療をしますか。
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