決戦後にて 史上初かもしれない出会いとこれから
「さてと……」
あいつを倒してから一ヶ月くらい経ったある日、両腕が完治した僕は村での仕事を終わらせた後に村の門から外へ出た。
「「「「「ヤート‼︎」」」」」
名前を呼ばれて振り返ると黒のみんなが息を切らしながら集まっていて、その中からラカムタさんが僕へ近づいてくる。
「……何?」
「どこに行く気だ?」
「今日は大神林の世界樹に会ってから、向こうの世界樹にも会いにいくつもりだよ」
「今日中に戻ってくるのか?」
「うーん……、そこは考えてない」
「……そうか。向こうに泊まっても構わんが、その場合は一度戻ってこい」
「わかった。それじゃあ、行ってくるね」
「おう」
僕はみんなに見送られながら村を離れた。この僕が村から出ようとするたびにみんなから見送られるのは、なんか恥ずかしいから止めてくれないかなって考えながら村から少し離れたところまで歩き四体と合流すると、門での様子を見ていたのかディグリが苦笑した。
「相変ワラズ過保護デスネ」
「ガア……」
「ブオブオ」
「…………アレハショウガナイ」
「まあ、原因は僕だからね……」
実はあいつを倒してから二週間くらい経った時に、ふと両腕も良くなってきたから久しぶりに向こうの世界樹に会いに行くかと思い立ち、みんなに何も言わずに村を出てそのまま向こうで一夜を明かしてしまったのがきっかけで、みんなが僕の行き先を絶対に聞き出そうとし始めたというわけだ。本当になんでこうなったかな?
「ガア?」
「いや、今日は僕の魔法で移動する。散歩は向こうに着いてからだね」
「ガア」
「ブオ」
「ワカリマシタ」
「…………ワカッタ」
「シールも、それで良い?」
僕が呼びかけるとシールが現れて僕に微笑んだ後、ディグリを鋭い目で見た。
『大丈夫です。主人のお気のままに』
「……チッ」
『本当に品がないですね』
「キサマゴトキニ言ワレタクハナイ」
あの僕を世話する権利争奪戦以来、ディグリとシールの張り合いがすごい。あの時はけっきょく勝負が激しくなりすぎたせいでラカムタさん、父さん、母さんが仲裁に入り日替わりで僕の世話をする事になったんだけど、順位とか格付けとかが決まるまで続けさせた方が良かったのかな? でも、あの時の勝負が続いたらシャレにならない結果になってもおかしくなかった。…………まあ、僕が止められる範囲なら僕が止めれば良いか。
「そろそろ移動しても大丈夫?」
「構イマセン」
『私もです』
ディグリとシールはお互いをにらんだまま良いって言ってきた。一応、鬼熊、破壊猪、ミックに本当に良いのって首をかしげて聞いてみたら、三体はディグリとシールから少しずつ離れていってるもののうなずいてきたから移動しても大丈夫らしい。
「緑盛魔法・世界樹の杖。緑よ。緑よ。彼方の景色をここに 。道をここに 。緑盛魔法・純粋なる緑を纏う門。よし、それじゃあ行こう」
僕達は一部が不穏な雰囲気のまま門を通り抜けたけど、大神林の世界樹の前へ出たら不穏な雰囲気はなくなり五体ともビシッと固まった。
『ヤートよ、久しぶりじゃな』
「うん、世界樹、こんにちは。変わりはない?」
『我に変わりがあるとすれば天変地異くらいしかないのう』
「確かに、それくらいじゃないと世界樹はビクともしなさそう」
『そうじゃな。我自身が動く事など想像できんよ』
「それなら動いてみる?」
『…………なんじゃと?』
僕が聞いたら世界樹と五体は唖然とする。周りの樹々達も驚いてるね。
「向こうの世界樹が動けたんだから世界樹も動けると思う」
『ふむ……』
「それに世界樹は確かに大神林の中心だけど、別に世界樹がいなくても他の力のある樹々達がいるから大神林はなくならないはずだよ」
『確かにのう。もし大神林に何か起こったとしても、また戻ってくれば良いだけじゃな』
「うん、その時は僕が全力で調整する」
『…………』
「どう?」
『良いじゃろう。向こうの世界樹にも会ってみるのもおもしろい。ヤート』
「わかった。世界樹の杖を触れさせるね。シール、手伝って」
『は、はい』
大神林の世界樹に世界樹の杖を当て世界樹を同調と界気化した魔力で調べていく。そしてシールの補助を受けて大神林の世界樹用に、これから発動させる魔法を調整した。
「それじゃあ始めるよ」
『うむ』
「緑よ。緑よ。牙をここに。爪をここに。鱗をここに。翼をここに。我の望む姿をここに。緑盛魔法・超育成・世界樹竜化」
『オオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーー‼︎』
僕の魔法が発動すると変化は劇的で、大神林の世界樹は僕達ごと空高く浮かび上がりその形を変えていき向こうの世界樹が竜化した時のような姿になる。ただし、大神林の世界樹の方が数倍大きい。
『フハハハハハハハハハハハッ‼︎ これほど高鳴る事があるとは‼︎ 向こうの世界樹がいる場所はあちらだったな‼︎』
「あ、黒の村に寄ってくれほしいんだけど」
『どうした?』
「大神林に変化があったら黒のみんなが驚くから説明しておこうと思って」
『良かろう‼︎』
僕達が頭の上に乗った大神林の世界樹が羽ばたくとあっという間に黒の村の上空に着いたから飛び降り、村のみんなにこれから大神林の世界樹と向こうの世界樹に会ってくると説明した。僕の説明を聞いていたみんなは村の上空にいる大神林の世界樹を見上げて顔を引きつらせてたけど、たぶん問題ないはず。
僕が再び大神林の世界樹に引き上げてもらい頭の上に戻ると、大神林の世界樹は向こうの世界樹のいる場所へ飛び始める。おお……、あいつと戦ってる時は見る余裕がなかったけど、空を飛ぶ景色はこんなふうなのか。
『ヤートよ、感謝するぞ』
「僕も楽しんでるから気にしないで」
『そうかそうか‼︎』
「…………うん?」
『ほう、あれか』
五体は緊張したままだけど、僕は僕で大神林の世界樹は大神林の世界樹で空を楽しんでたら僕達へ高速で近づいてくる気配に気が付く。でも、大神林の世界樹が嬉しそうにしてるなら問題ない。すぐにその予感は的中し向こうの世界樹が竜化した姿で飛んでくるのが見え、向こうの世界樹は大神林の世界樹のそばで停止する。
『ヤート、久しぶりだな』
「うん、久しぶり」
『その竜は……』
「大神林の世界樹だよ。せっかくだから会ってもらおうと思ってね」
『そういう事か。大神林のかた、お初にお目にかかる。会えた事、誠に光栄だ』
『こちらもだ、向こうのかた。我も嬉しいぞ』
植物である世界樹達は自分で動いて出会う事が不可能だったから、もし同族を感じてたとしても今までは会えなかった。でも、今日この場所で会えた。もしかすると、この世界が始まって初めての事かも知れないね。
『ヤートよ、好きに飛んでも良いか?』
「うん、世界樹達は動けるんだから自由にしたら良いよ」
『そうか、感謝する‼︎ それでは向こうのかた、どこまでも飛ぶとしよう』
『ああ、大神林のかた、どこまでも付き合うぞ』
『『フハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎』』
世界樹達が並んで飛び始めると嬉しそうな笑い声が世界に響き渡ったけど、きっとこの声なら世界のみんなも嫌な気分にならないと思う。それに地上から世界樹達が楽しそうに飛んでるのを、これから何回も見れば慣れてくれるはず。
改めて考えると、今日の世界樹達の出会いは僕がきっかけで起きた事だ。こんな変化を別の世界から転生したズレてる僕でも起こせるなら、これからも良い事が起こせるかもしれないね。いや、もしかしたら僕の知らないところで、僕の影響が出ていてもおかしくない。よし、これからいろんなところを見て回ろ…………あ、ラカムタさん達に怒られない範囲にした方が良いね。
明日からの散歩が楽しみだ。
318話をもって、「ひ弱な竜人」は完結となります。
まだまだ書きたいものはあるので筆を置く気はありませんが、とりあえず初の長編を完結できてホッとしています。
本当に長い間、読んでいただき、お付き合いしていただきありがとうございました。
読者の方々、感想をくれた方々には感謝の言葉しかありません。
完結しましたが、またひ弱な竜人で書きたい話を思いついたら書こうと思っています。
また新作小説
「一度死んだ男は転生し、名門一族を追放された落ちこぼれの少年と共存する 〜俺はこいつが目覚める時まで守り抜くと決意する〜」
https://ncode.syosetu.com/n5109gu/
を更新中ですので、ぜひ応援してもらえると嬉しいです。




