決戦にて 追いつめ方と呼び寄せ
突撃してくるあいつを迎撃するため、まずは伸ばしたままの樹根槍と百枝槍を向けたけど両方ともあいつの殻に突き刺せないし傷もつけられなかった。見た目でわかる大きさだけでなく殻の硬度も上がってるわけか。まあ、それならそれでやりようはある。
「世界樹、シール、やるよ」
『うむ。ヤートがどのように我の力を使うか見させてもらおう』
『……主人に失礼ですよ?』
「シール、僕は気にしてないから大丈夫だよ。緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う魔槍」
『オアッ!』
あいつの進路上に、今最大限に込めれる量の魔力を使った魔槍を一本生み出した。当然あいつは危険性を察知して避けようとしたから、僕は新しい魔法を発動させる。
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う緑盛網、樹根触腕」
『オアアアッ!』
「逃がさないよ」
突き刺すための樹根槍と百枝槍を拘束するための緑盛網と樹根触腕に変え、あいつの身体に巻きつけ動きを止めた。そして僕は世界樹の杖を振り魔槍を発射する。
ズドンッ!
僕が限界ギリギリまで魔力を込めた魔槍は圧倒的な速度と威力を発揮して、あいつの身体をあいつが消える前に貫いた。
『オアッ!? アアアア……』
『……ほう、相手の選択肢を奪い、相手の能力を超えれば問題なく当てられるというわけだな』
「うん、危険を察知して、この世界の外側に消えるなら消えきる前に当てれば良いだけだよ」
そう、僕があいつに見せつけるように最高威力の魔槍を生み出したのは、あいつに世界の外側へ消える用意をさせるためで、さらにそんな状況から緑盛網と樹根触腕により縛られると消えるしかなくなる。あとは単純で、あいつが消え始めたら準備してあった魔槍を放って貫けば良いというわけだ。
『オアアア……』
あいつが身体から体液と殻をまき散らしながら消えていく。見た目的には、このまま死んでもおかしくないけど、世界の外へ行って回復と強化をするわけだから特に喜びもせずに、あいつの体液で汚染された場所の浄化がてら次の魔法を詠唱する。
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う祓い」
『オアッ、オアアアアアアアアアアッ‼︎』
明らかに消える速さが遅くなっているあいつのそばに深緑色の実を一つ落とすと、あいつの体液で汚染された場所だけでなく魔槍で貫かれて大きく損傷している殻も浄化されて小さくなっていく。割と長く僕の魔法をうけたあいつは二回りくらい小さくなった時にようやく消えた。
「よし、あいつへ順調に痛手を与えられてる」
『ふむ……、我の身体も安定しつつある事を考えれば、まだあのものを追い詰められるな』
「そうだね。たぶん…………あと一、二回、重傷を負わせられれば僕の狙い通りなると思う」
『この世界のためにも失敗は許されん』
あれからあいつに二回目の重傷を与えたけど行動に変化はなく再び消えようとする。極限まで魔力を込めた魔槍を至近距離で炸裂させ身体の四割くらいを消し飛ばしたから、そろそろあいつも苦しくなっているはずなのに予想が外れたらしい。少し残念に思いつつ三回目の準備に入ると、あいつは新しい行動をした。
『…………オアアアアアアアアアアッ‼‼︎︎』
あいつは消えるのを止め、顔をのけぞらせ上を向くと今までで一番大きな叫び声をだした。…………まるで何かへ呼びかけるような叫び声なわけだけど、あいつが呼びかける奴なんて一つしか思い浮かばない。
「なんだ⁉︎」
数瞬後、僕の予想が当たりみんなと戦っていた魔石達があいつに向かっていく。そして、僕の魔法でボロボロになっているあいつの身体にぶつかり、そのまま一体化した。さすがに身体の四割ほどを身体を吹き飛ばされたら世界の外側へ移れないのか、まずは身体の治療を優先したみたいだね。
まあ、みんなが魔石をかなり倒していて数が少なくなっているから、この場にいる魔石を取り込んでもそこまで回復できないだろうし、そもそも回復させる気はない。
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う魔弾、緑葉飛斬」
新たに生み出した魔弾と舞い落ちてきて刃と化した数百枚の世界樹の葉が、あいつに殺到していく。これなら、みんなと戦って生き残った魔石を全部吸収して身体を治しても、それ以上に僕の魔法があいつの身体を壊せるから問題ない。
『オアアアアッ‼︎ アアアアアアッ‼︎』
僕の魔法に対抗して、あいつが身体を丸めたり硬くしたりしてきたけど、魔弾と世界樹の葉を散らしたり一点集中したりと攻撃箇所に幅を持たせているし、みんなもあいつへの攻撃に加わってくれたおかげでより削れるから大丈夫だ。
『オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ‼︎』
とうとう僕達の攻撃に耐え切れなくなり、あいつがのたうち回りながら叫び始める。初めて見る行動に攻撃しながらも警戒していると、あいつの頭上の空間が波打ち空中に穴が開いていた。そしてその穴から大量の魔石が流れ出てくる。
あいつへの攻撃をみんなに任せ、僕は穴から出てくる魔石達を攻撃したけど、いくら破壊しても後から後から絶えず出てきて、僕達の攻撃を抜けた魔石達があいつを覆うようにまとわりついていく。……これは仕切り直す意味でも、全力をつくすべきだね。
「緑よ。緑よ。力をここに 。実をここに。繋がりをここに。循環をここに。加速をここに。励起をここに。臨界をここに」
「ちょっ、全員離れろ‼︎」
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う大浄化」
深緑色の実を十個生み出し、四つをあいつの周りに落とし六つをあいつが開けた穴に入れて魔法を発動させる。十個の実の相乗効果で放たれた深緑色の光が収まると、あいつを覆っていた魔石は砂となり空中の穴から出てくる魔石の数も激減していた。あいつの今の状態を例えるとすれば、消耗して限界が近いから食べて飲んでるところを邪魔されて満足に食事ができないって感じかな?
『…………オアアア』
まともに回復できてないあいつがか細い声を出す。…………うん? 何かの音が聞こえた気がしたため急いで周りに感知範囲を最大にした界気化した魔力を放つと、いろんな方向から僕達の方へ高速で向かってきている物体を複数感知した。
「みんな、ここに高速で飛びながら近づいてきてる奴らがいるから注意して」
「ヤート、敵だな?」
「間違いなくね。あいつらは……、もう来たのか」
飛んでくる奴らが何なのか説明しようとしたら、第一波が見えてくる。
「……あれは魔石で合ってるはずよね?」
「そうだよ」
「え? でも、どれも異常に大きいわよ……?」
「僕達が大神林、大霊湖、ここで魔石を倒さなかったら、あの大きさになってる」
「つまり、成長した魔石って事か?」
「うん、この世界の外から呼べる魔石の数が僕の魔法で激減したせいで身体を回復できない。だから、あいつはこの世界に潜んでた魔石を呼び寄せたんだと思う」
「はっ、こそこそしてた奴らが集まってくるなら、ちょうど良い。まとめて倒すぞ‼︎」
ラカムタさんの声に他のみんなも声を出して答えてた。僕達はサッと話し合い飛んでくる魔石を優先して倒すと決める。あいつに関しては警戒を続けるけど、今のところ重傷で動けないから後回しにしても問題ないはず。
「ヤート、お前は警戒に集中しろ‼︎」
「飛んでくる魔石は私達に任せてね‼︎」
「うん、わかった」
それからそう時間が経たずに、みんなと魔石達の戦いが始まった。…………いや、違うな。魔石達は戦おうとはせずに、何としてもあいつのもとへ来ようとしてる。本当にあいつの回復が目的みたいだ。させないけどね。
みんなが全力で迎撃して、この世界のあちこちから飛んでくる魔石達の第四波まで撃破した。…………いくら何でも多くない? どれだけこの世界は入り込まれてるの? 僕が魔石達の執念を感じていると、それは起こる。
『オアアア……、オアアアアアアアアアアッ‼︎』
「何だ⁉︎」
「あいつが空中の穴に飛び込んだぞ‼︎」
「ラカムタさん、ごめん……。あいつにあんな力が残ってるとは思わなかった」
「いや、あいつの考えを読むなと言ったのは俺だ。ヤートの責任じゃない。それより魔石達も、あの穴に飛び込んでるな……」
せっかく、あいつを追い詰めてこの世界の内外の魔石達を排除できてたのに失敗した。今、世界の外であいつらが何をしているかは簡単に想像ができる。
「ラカムタさん」
「ヤート、どうした?」
「あの穴の向こうで、あいつは残った魔石と融合してる」
「そうだな」
「あいつが、こっちに戻ってきたら僕は後先考えないで全力で魔法を使うよ」
「…………わかった。思いっきりやれ。それと俺達の助けがいるなら、いつでも言うんだぞ」
「うん、ありがとう」
ピキッ。
ラカムタさんと話してると音がしたので見上げたら、空中に開いた穴に次々とヒビが入っていく。まるで大きな存在が自分より小さな出口を無理やり通ろうとしているみたいだという僕の予想は当たったようで、限界を迎えた空間がガラス板ように割れ、ずる……と何かがはい出てきた。
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