決戦にて 強化された魔法と滑った口
戦いの場に戻ってきた僕に、あいつは最大限の憎しみや怒りを向けてくる。…………なるほど、上空から光線を撃たれた時は姿を確認する余裕がなかったけど、こうしてじっくりと観察したら初めて巨大な芋虫の姿を見た時とは違う状態になってるのがよくわかる。
ブヨブヨな肉感だった肌は鈍く光るよくわからない材質の殻に覆われている。どうやら、あの芋虫だった奴は蛹状態になっているみたいだね。…………あの殻は刺々しく攻撃的な見た目から全身を武器で覆ったと考えた方が妥当か。世界樹の成長は……まだ止まってない。うーん、結果が読めないから少し困るな。
「母さん」
「何かしら?」
「あいつの殻は硬かった?」
「…………最接近して打ち破る事に全神経を集中すればいけると思うわ。ただ、あんな得体の知れない相手に隙をさらしたくないからやってないの」
「うん、それで正解だよ。かあ」
『オアアアアアアッ‼︎』
「緑盛魔法・純粋なる緑を纏う加護」
あいつと戦ってた母さんから詳しく聞こうとしたら、あいつが光線を溜め無しで放ってきた。なるほど芋虫の時に必要だった溜めをなくせるくらい強くなってるせいで受け止めるのは難しいな。純粋なる緑を纏う加護の障壁に少しずつヒビが入りおされている僕を見て、みんなが思い思いの遠距離攻撃を仕掛けあいつの邪魔をしようとしたけど全く効果がない。あの蛹状態の殻の防御力は予想以上だな。
「ヤート‼︎」
「みんな、離れてて」
「バカ野郎‼︎ 二度もお前を置いて行けるわけないだろうが‼︎」
「違うよ。これから発動させる魔法が、どんな感じになるかわからないから離れてほしいんだ」
あ、あいつが光線の出力を上げようとしてる。時間がないので僕は振り向かずに呼びかける。
「まだ安定してなくて悪いけど、いける?」
『無論だ。我の力を好きなだけ使え』
「ありがとう。シール、補助をお願い」
『お任せを』
「いくよ。緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う加護」
『オアッ‼︎』
「へえ、こうなるんだ」
僕の魔法には、いくつか段階がある。一つ目は僕一人で唱える通常の魔法、二つ目は植物達の力を貸してもらい発動する魔法、三つ目は僕とシールが協力して唱える同時詠唱。そして今やったのは僕がシールに助けてもらい世界樹の力を借りて行う魔法だ。
これにより世界樹の魔力が起点になっている世界樹の杖へ流れ込み、純粋なる緑を纏う加護が純粋なる深緑を纏う加護に上書きされる。効果は、ヒビが入って崩壊寸前だった障壁が瞬時に元に戻り、あいつの光線を全く問題なく受けきれている点から考えると十倍以上って感じかな。ここは防御だけでなく攻撃も試しておこう。
「次に魔法を詠唱させるよ」
『いつでもどうぞ』
『どこまでやれるか楽しみだ』
「そうだね。緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う魔弾」
『オアアアアアアアーーーーーーーーーーッ‼︎』
うるさいな……。まあ、逃げ場をなくなるように空中に数千の強く深緑色に光る魔弾が現れたら叫びたくもなるか。それにしても純粋なる深緑を纏う加護を発動したままでも、純粋なる深緑を纏う魔弾の発動に何の問題もない。やっぱり世界樹と呼ばれてもおかしくない存在にもなれば力の総量がすごいんだなと驚きながら、僕は世界樹の杖をあいつに向かって振り下ろし魔弾を発射した。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガーンッ‼︎
半分くらいの魔弾の直撃を受けたためか、あいつからの光線の放出は止まる。視界を遮ってる爆煙を残りの魔弾を旋回させて吹き飛ばすと魔弾の爆発痕があるだけであいつはいなかった。これは世界樹の杖砲を撃った時と同じか。みんなが僕と同じように判断し周りを警戒し始める中、僕は目を閉じて最高精度の魔力を周囲へ流していく。
…………地中に反応はない。じっと警戒をしていたら魔弾の密度が低いところ、具体的に言うと世界樹を挟んだ反対側の空中で風と光が不自然に歪んでる部分を感知した。怪しいと思い魔弾で狙おうと、ちょうど穴が空中に開いたので、その穴に数百発の魔弾を叩き込む。
『オゴアアアアアッ‼︎』
空中に開いた穴から爆発音が響いた後、あいつが空中の穴からずり落ちてきて地面でビタンビタンとのたうち回っていると、みんなが音の方を振り向く。あいつの全身から煙が出てるから僕とシールと世界樹の魔法は有効みたいで良かった。
「ヤート、何があった‼︎?」
「あいつが、世界樹の向こう側に穴が開いたから、そこに魔弾を撃ち込むとあいつがずり落ちてきた」
「またか‼︎ あの野郎、上から光線を撃ってきた後も穴から出てきたんだぞ‼︎ ただ透明になってるとかなら俺達にはわかるはずなのに、あいつはさっきまでいた場所からどうやって移動してるんだ‼︎?」
「たぶん、この世界の外に出て世界の外側を移動した後に、もう一回、穴を開けてこの世界に入ってきてるんだよ」
「世界の外に出る? なんだそれは?」
「うーん、この世界が一つの家って考えたらわかりやすいかな? あいつは扉から出て家の周りを移動して窓から入ってきたみたいな感じ」
「そんな事が……?」
「実際にあいつはやってるからね」
「ううむ……」
「ヤート、この世界の外側っていうのは、どんなところなの?」
父さんが考え始めると、次に母さんが僕に聞いてくる。
「さすがに見た事がないからわからないよ。別の世界があるのかもしれないし、世界と世界の間の狭間の空間があるのかもしれない」
「別の世界……? 私には少しも想像できないわね」
「この世界へ生まれる前に僕が生きてた世界があるから、他にもいろんな世界があってもおかしくないと思うよ」
「は……?」
あ、僕に前世がある事をポロッと言っちゃった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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