決戦にて スッキリしない感じと不意に聞こえた声
間違いなく、間違いなく世界樹の杖砲があの芋虫を飲み込んでる。声も聞こえなくなってるし、何か反撃の準備を整えてるような気配もない。全力で勝つために放った魔法だから、このまま消滅してくれれば良いな……。
世界樹の杖砲を撃ち終わり空を貫く深緑色の光線はなくなった。芋虫の姿は…………ない。界気化した魔力で周りを感知しても、植物達へ確認しても本当にどこにもない。ちょっと信じられなくてさらに広く詳しく探そうとしたら、身体から力が抜け世界樹の杖に寄りかかってしまう。
「ヤート‼︎」
「ふー……、ふー……」
『主人、大丈夫ですか?』
「……シールに協力してもらったとは言え、さすがに間をあけずに大規模魔法を連発するのはやりすぎだったね」
『いえ、必要な事だったと思います』
「攻める時は一気にっていう考えには賛成だが、ヤートの場合は消耗が大きすぎるぞ……」
みんなに心配されるのは今さらだからしょうがないとして、今はそれよりも確かめたい事がある。
「ラカムタさん、父さん、母さん」
「どうした?」
「あの台地へ戻りたいんだけど良い?」
「……なぜだ?」
「あの芋虫がいた場所を調べたいんだ」
「…………わかった。だが、先に休め。疲れていたら何が起こっても動けないからな」
「うん」
ラカムタさんからナイルさんへ話が伝わり、僕達は警戒を続けながら休憩をとった。でも、みんなの表情に喜びはなく、どことなくスッキリしてない。近づいてくる兄さんも同じみたい。
「ヤート……」
「兄さん、どうしたの?」
「ヤートは、どう思ってる?」
「ものすごくフワッとした言い方だけど、言いたい事はわかるよ」
「どうなんだ?」
「はっきり言って納得できない。確かに僕はシールと協力して勝ち切ろうと思ってたけど魔石の親玉って言って良い奴が、あんなにあっさりやられるかな?」
僕の疑問を聞いたラカムタさん達も重々しくうなずく。
「今はヤートでも見つけられないけど、どこかにいるって事か?」
「魔石やリザッバは大神林の奥でも大霊湖でも大霊穴でも、倒したかもしれないっていう目の前の状況を素直に喜んでたら痛い目に会う、そんな面倒くささというか耐久力があったからね。僕や植物達のわからないところに隠れてると考えた方が安全」
「まあ……そうだよな」
しっかり休憩をとったおかげで動けるようになった。念のため界気化でも自分の体調を確かめてみるけど問題はない。これなら僕の役割である探知を十分こなせるね。
「ヤート、いけるか?」
「うん、大丈夫」
「よし、それじゃあ出発だ」
僕達は、あの芋虫の気持ち悪い声のせいで上半分が消し飛んでいる台地へ歩き出す。休憩中の話し合いによって、まず一度台地の頂上へ登ったもの達が先行し別の芋虫がいるという最悪の可能性の有無を確かめる事になっている。今のところ芋虫と似たものは感知できてないけど、まったく油断はできないからこれくらいの用心は当たり前だ。
「しかし……、すっかり形が変わってるな」
「ラカムタ殿、あの台地の形だけじゃないわよ。あちこちに大きなヒビ割れ、えぐれがあって歩きにくい事この上ないわ」
「まあ、歩きにくいで済んでる分、マシなはずだぞ。汚泥が湧き出てるとかもありえる」
「本っ、当に気持ち悪いわね。それにあの芋虫は何なのかしら? 少なくとも私はあんなのがいたなんて今まで聞いた事がないわ……」
「それは俺達、黒も同じだ。数えきれない種類の生き物がいる大神林でも、あんな奴は知らない。ヤートは何かわかった事はあるか?」
「あいつの記憶とか考えを界気化で読み取ってないから何とも言えない」
「それはそうだな。ヤート、重ねていうが、あいつに界気化はしなくて良いからな」
「うん」
「ヤート、気をつけるのよ」
「大丈夫だよ。母さん」
本気でまずい事態の時はやるつもりだけど、わざわざみんなの心配を増やす必要はないから黙っていよう。…………たぶん母さんには僕のこの考えはバレてるね。
特に問題らしい問題は起きずに上半分が消し飛んだ台地……長いな、元台地で良いや。元台地に登ってこれた。高さが半減した頂上は、がれきが散らばっている殺風景なところだけど、目を引く場所もある。それは不自然に大きく空いてる穴。どう考えても、あの芋虫がいた痕跡だね。
『…………な…………だ』
「うん?」
「ヤート君、どうかした?」
「今、何か聞こえなかった?」
「え? 私は何も聞いてないわ。みんなは?」
ナイルさんが聞いてけれたけど、みんなは首を横に振ってくる。僕の空耳かな?
『……だ……な……う……だ』
「空耳じゃない。何かいる」
「ヤート、そいつはどこにいる⁉︎」
異常を察知したみんなが僕を中心に円陣を組み、背中越しにラカムタさんが聞いてくる。
『……だん……な……うえ……だ』
「弱々しくてはっきりとはわからない。でも、上? ……え?」
辛うじて聞き取れた上と単語が気になり上を向くと、今まさに光線が放たれようとしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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