決戦にて 叩き上げと見逃せない好機
遠くにある上半分が消し飛んだ台地からはい出てくる奴が見えた。あれは……芋虫か? でも、大きさが大霊湖の大髭様と同じかそれ以上なんだから普通じゃないし、そもそもあんなドス黒い瘴気を身体から出してる奴がまともなわけがない。
『オアアア』
クッ……、今、あいつは僕を見た。しかも間違いなく笑ってた。僕が遮断膜に込めてる魔力を割いて攻撃をするべきか悩んでいると、ラカムタさんが僕の肩をつかんでくる。その手は少し震えていた。
「おい、ヤート‼︎」
「……何? ラカムタさん」
「ヤートの事だから、いろいろ考えてるとは思うが言っておくぞ。絶対にあいつを界気化で探ろうとするな」
「だけど、何をしてくるかわからないと対応が……」
「あんな異常なものは探らなくて良い。俺にはヤートみたいに探知系の能力はないが見ただけでわかった。ほんの少しでも、あいつに繋がった奴は確実に蝕まれる」
ラカムタさんが胸を押さえて気持ち悪そうにしてる。見回すと他のみんなも似たような感じになってるから、次の選択肢を取れなくなっても遮断膜は解くべきじゃないね。そうして次の行動に移れないでいたら、今度は母さんが近づいてきた。
「良い? ヤート。私達は自分の身くらいなら自分で守れるから、私達を守ろうっていう考えは後回しにしなさい」
「え、でも……」
「私達はヤートに守られるために、この場にいるんじゃないの。私達の事よりも、あいつをどうにかする方法を考えて」
『オアア』
母さんが僕へ語りかけてる時に、またあいつの声が聞こえ、すぐに意識を戻すと、あいつは僕を見ながらバネを縮めるように身体を曲げていた。
『オアアアアッ‼︎』
「まずいっ‼︎ 緑盛魔法・超育成・純粋なる緑を纏う樹根撃拳‼︎」
ガギィィィンッ‼︎
あの大きな芋虫が僕に向かって笑いながら身体を跳ばしてきたから、僕はとっさに強化した樹根撃拳を生やして下から叩き上げ、芋虫の進路を上へそらした。衝突音が気になって樹根撃拳を見てみると、ギチギチに根を編み込まれて強化している表面が叩き上げるというごく短時間の接触で削れてボロボロになっていた。
芋虫らしい見た目のブヨブヨ感は嘘か。…………うん? なんだ? 空中から魔力の高まりを感じて見上げると、空中で回転してる芋虫の口に魔力が集まっていた。
「口をこっちに向けさせないで‼︎」
僕は急いで樹根撃拳に芋虫の頭部の横辺りをつかんでもらい、芋虫の顔を空へと向けさせる。次の瞬間、芋虫の口から強力な魔力の光線が放たれ空を貫く。…………僕が数多くの植物達から力を貸してもらって引き起こせる現象を単体でやれるとか、どれだけの魔力を持ってるんだ?
「ヤート、今だ‼︎」
「え……?」
「力を使って鈍くなってるから攻撃しろ‼︎」
父さんに言われて芋虫を見たら口から煙を出して動かなくなっていた。……そうだ。僕は力の総量ばかりに気を取られて大事な事を忘れてた。どんなに力のある存在でも、その力を振り絞れば反動が来るのは当たり前の事だったね。
「シール‼︎」
『準備はできています』
「上に投げて‼︎」
「『緑盛魔法・超育成・純粋なる緑を纏う 樹根撃拳‼︎』」
最初の樹根撃拳に動けなくなっている芋虫を高く投げてもらう。次に僕とシールが協力して魔法を唱えると、周りの森に何本も樹根撃拳が生えてくる。そして全ての樹根撃拳が落ちてくる芋虫を迎え撃つように拳部分を握り込んだ
「全力で殴って‼︎」
ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ、ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ‼︎
『オア、ア……』
芋虫はあらゆる方向から樹根撃拳に殴られても、全身に力を入れ硬くなる事で耐えていたけど殴打数が増えるごとに全身の硬化は解けていき、数分後には殴られるだけになっていた。……ここで押し切るのが正解だね。
「シール‼︎」
『心得てます』
「『我が望む砲身となれ‼︎』」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ‼︎
「『緑よ。緑よ。 繋がりをここに 。力をここに。循環をここに。加速をここに。励起をここに。臨界をここに』」
樹根撃拳の殴打が続いてる中、僕とシールは世界樹の杖に砲身を作る。そして芋虫が樹根撃拳に殴り飛ばされた時に周りの植物達からも力を貸してもらい桁外れの魔力を込めた。最後に空から落ちてくる芋虫へ砲身の照準を合わせる。…………うん、芋虫に動きはないし、遮るものも何もない。
「やるよ」
『はい、いつでも大丈夫です』
「『集めし力を解き放て 。緑盛魔法・世界樹の杖砲』」
『オ……ア……』
僕とシールがためらいなく魔法を発動させると、さっき芋虫が吐いた光線に劣らない深緑色の光線が世界樹の杖の砲身から放たれ、芋虫の全身を飲み込んだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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