帰りの旅にて 騒がしさと合流
「だいたい、あの時だって無闇に突撃したガルが悪いんでしょ!!」
「あれは、その前にマイネが半端なところで止まったから、俺が突撃しなきゃいけなくなったんだろうが!! 俺のせいにすんな!!」
「なんですって!!」
赤の村を出てから兄さんと姉さんの口ゲンカが止まらない。にぎやかな旅になるなって思ったけど、はっきり言って騒がしい。
「兄さん、姉さん、仲が良いのはわかるんだけど、もう少し静かにならない?」
「ちょっと待てヤート!! なんで俺とマイネが仲が良いんだよ!! マイネからはケンカしか売られてねえ!!」
「それは私のセリフよ!! ケンカを売ってるのはガルよ!!」
「ふざけんな!!」
「なによ!!」
「悪いのはマイネだろ!!」
「悪いのはガルよ!!」
ほぼ同時に同じような事を言ってる。この二人は絶対に仲良いよね。
「兄さんと姉さんは、ケンカするほど仲が良いって奴だね」
「「……ふん」」
今度は無言でにらみ合って同時に顔をそむけた。うん本当に仲が良い。
「ヤート」
「何? 兄さん」
「こっちは黒の村の方じゃねえよな。どこに向かってるんだ?」
「破壊猪のところ。急に帰る事になったから、あいさつしようと思ってさ」
「ああ、なるほどな。でも、会おうと思ってすぐ会えるのか?」
「うん、だいたい向こうから来る」
僕が兄さんに言うと計ったようなタイミングでドドドドドドドドッていう地響きが聞こえてきた。
「兄さん、姉さん、三歩後ろに下がって」
二人が後ろに下がると、すぐに僕と二人の間を破壊猪の巨体が土煙を巻き上げながら通り過ぎ少し離れた場所で止まった。毎回思うけど、ゆっくり近づいてくれば良いのになんで走ってくるんだろ? まあ、それはそれとして……。
「昨日はいろいろ迷惑かけて、ごめん」
「ブオ?」
「どうしたって、昨日はどう考えても僕が原因で巻き込んだんだから、お前に謝るのは当然だよ」
「ブオ!!」
「そう? それじゃあ、そういう事にしておく」
「ブ!!」
「ヤート、なんて言ってるんだ?」
「五体満足だから気にするなってさ」
「そうか……、考え方がお前と似てるな」
「そう言えば、そうかな?」
僕と破壊猪が似てるか……。似た者同士だから気があったのかもしれないね。
「ブ?」
「ああ、今日は散歩じゃないんだ」
「ブオ?」
「そうじゃない。今日はお前にあいさつをするために来たんだ」
「ブブォ?」
「そう、あいさつ。実は今日が、ここに来れる最後になる」
「ブオ!!」
「大神林に帰る」
「ブ……」
僕が大神林に帰るって言ったら破壊猪が動かなくなった。どうやら何かを考えてるみたい。……何でだろう? 変な事になりそうな予感がする。
「ブブオ!!!!」
「…………僕は特に問題ないけど、お前は大丈夫? この森と大神林はかなり環境が違うよ?」
「ブオ!!」
「……お前がそれで良いならわかった」
「ブオ」
「よろしくね」
結論が出て僕が歩き出すと破壊猪も僕と並んで歩き出した。
「おい、ヤート」
「何、兄さん?」
「今日、大神林に帰るんじゃないのか?」
「帰るよ」
「なら、なんでそいつはお前と並んで歩いてるんだ?」
「いっしょについてくるってさ」
「は……?」
「ヤート、ごめん。もう一度言ってくれないかしら。破壊猪はなんて言ったの?」
「大神林までついてくるってさ」
「はぁぁぁぁーーーー!!!!」
「えーーーー!!!!」
兄さんと姉さんが驚いてる。当然、僕も驚いてる。仲良くなった実感はあるけど、まさか着いて来てくれるとは思わなかった。確か魔獣について書いてある本に魔獣は基本的に一度住み着いた縄張りから離れる事はなくて、もしそこから離れるとすれば生存競争に負けた時だけだろうって書いてあった。しかも、その場合はケガや栄養不足で高い確率で移動の際に野垂れ死ぬ事になるはずだとも書いてあった。でも、破壊猪には絶対に当てはまらいない。なぜなら現時点で破壊猪は健康体そのもので、栄養も僕が緑盛魔法でなんとかすれば良いしね。あとは旅の最中に他の魔獣に襲われる事も問題といえば問題だけど、魔境って言われる大神林でも生存競争に勝って上位に食い込めそうな破壊猪がいっしょだから心配する必要もない。……こうして考えたら何の問題もないな。それじゃあ改めて旅の出発だね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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