決戦にて 退避と最悪に気持ち悪い声
ズドンッ‼︎
振り下ろされた拳が大きな衝撃と破壊音を生じさせる。でも、確かに衝撃と音は大きかったけど命をかけた一撃にしては小さいという違和感があった。それに拳に込められていた魔力は地表に炸裂する事なく台地の内部へとまっすぐに伸びていっている。
「ふははっ、ははははははははははははっ‼︎」
僕の純粋なる緑を纏う波紋ごと自分の足もとを打ち抜いた奴が僕達を見ながら高笑いを始めた。なんというか長い間目指していた目的を達成したっていう感じで、ラカムタさん達の魔法を受け止めてズタボロになっている奴も瀕死の状態で笑っているから間違いなさそうだね。
「これで……、これでようやくあの方が目覚める‼︎ もう誰にも止められんぞ‼︎ はははははははははははははははっ‼︎」
「どういうこ、と⁉︎」
ラカムタさんは笑っている奴につかみかかろうとしたけど、突然僕達が今立っている台地が揺れ始めたので動きを止めた。地震……じゃないな。この世界では地震を体験した事ないけど、こんなズズン、ズズンって一定に揺れるのは絶対に地震じゃない。むしろ巨大な生物の心臓の鼓動って言われた方が…………、ああ、そうだ。ついさっき僕は界気化した魔力で台地の中に大きなものがあるのを感知したんだった。
ピシ……。
この音がするなら考えてる時間はないと判断して、みんなに呼びかける。
「みんな、台地が崩れるから降りるよ」
「ヤート、何が起こってる⁉︎」
「今は移動が先」
「いや、あの二人が……」
「あの二人は力を使い果たしてて何もできないから無視して良い。急いで‼︎」
「わ、わかった‼︎ ヤートは俺が抱える‼︎ 他は全力で走れ‼︎」
「ははははははっ‼︎ そうだ‼︎ 貴様らにできるのは逃げる事だけだ‼︎ だが、いつまで逃げれるかな⁉︎ 少しでも長く生きれるよう祈るが良い‼︎ ははははははは……」
台地の斜面を降っていく僕達へ後ろから声がかけられたけど、その声は台地の頂上が崩落する音に巻き込まれて聞こえなくなった。斜面のあちこちにもヒビがはいってきてるから、これは台地自体が崩れ始めてるね。
本当になりふり構わず走って僕達は台地のふもとで待機していた人達と合流し、さらに台地から距離を取っていく。ラカムタさんに抱えられながら台地を見てたけど、何か巨大な存在の鼓動みたいな振動で全体的に崩れていってるのは変わりない。
問題なのは振動の間隔が、どんどん短くなっている事。僕の界気化した魔力でも全体像は確認できてないものの台地の上であいつは、これであの方が目覚めるって叫んでたし大きな奴が潜んでいたみたいだ。こういう緊急事態だと態勢を整えるために安全な場所まで避難するのが重要なんだけど、どれだけ離れたら良いのかわからなかったため走りながら話し合って、もともとの各国騎士団の合流地点まで戻る事にした。
到着後すぐラカムタさんに降ろしてもらった僕は、最高精度の界気化した魔力を崩れていってる台地へ向けて放ち情報収集に専念する。みんなも何が起きているかはわかってないものの鋭い視線で台地を見ていた。
『オアア……』
一際大きく台地の上部が崩れた時、気持ちの悪い声が聞こえてくる。あの魔石の声や変化したリザッバの声も気持ち悪かったけど、この声は気持ち悪さの度合いが違う。何をどうすれば、こんなに澱んで粘り気のある声が出せるのか不思議なくらいだ。そうして情報収集を続けていると、僕は悪い予感がしたので地面に世界樹の杖を刺して叫ぶ。
「みんな、僕より前に出ないで‼︎ 植物達も僕の後ろへ移動して‼︎ シール‼︎」
『ここに‼︎』
「受けきれないと意味がないから全力でいくよ‼︎」
『はい‼︎』
「「ヤート‼︎」」
「ガル、マイネ、今は前に出るな‼︎」
「ヤートの邪魔になるわ‼︎」
兄さんと姉さんは僕の余裕が無くなっている事を感じて僕を守ろうと前に出かけたけど、父さんと母さんが二人を止めてくれて引き戻してくれた。今は本当にありがたいね。僕が集中しながら二人に内心で感謝してると、僕の魔法がきっかけで生まれた植物達も続々移動してくる。
『オアアアアアア』
…………声がハッキリしてきた。思ったよりも覚醒が早いみたいで、これ以上準備に時間をかけられないか。
「シール‼︎」
『いつでもいけます‼︎』
「『緑盛魔法・純粋なる緑を纏う遮断膜‼︎‼︎』」
各国騎士団の合流時から発生させていた遮断膜に、僕とシールで効果を相乗させた魔法を全力で重ねがけして僕達と移動してきた植物達を守るための大規模な膜を作った。そして次の瞬間、それは起こる。
『オアアアアアアアアアーーーーーー‼︎‼︎‼︎』
「ぐ……」
今までで一番大きな澱んだ気持ち悪い声が崩れていく台地から響き渡り、重ねがけした遮断膜が軋んでいく。かなりの防御力になっていて二桁の魔石の攻撃なら余裕で耐えられるはずなのに、ここまで押されるのか……。この声が僕達に対する攻撃なのかはわからないけど、音量と音圧が少しずつ小さくなってるからこのまま耐え抜く事に意識を集中する。
なんとか気持ち悪い声がおさまるまでの数分間を耐え切れた。遮断膜の範囲外を見たら声の影響で大きなえぐれやヒビ割れができている。僕は気持ち悪い声をのせいで上半分が消し飛んだ台地から視線を外さずに、みんなに呼びかけた。
「みんな、大丈夫?」
「…………ああ、なんとか無事だ。確実にヤートの魔法がなかったら全滅していた。俺達を守ってくれてありがとな」
ラカムタさんが応えてくれた後、他のみんなからも応えがあった。界気化した魔力で、みんなの体調を確認してみても異常はない。戦力の低下は防げたから良かったとしよう。問題は……。
「ラカムタさん、そういうのは全部終わってからだよ。みんな、気を抜かないでね」
「ここからが本番と言いたいんだろ? わかってる……」
僕の隣にきた父さんの声には最大限の警戒心がにじみ出ていて他のみんなも、僕と同じ今まさに巨大な何かがはい出てきてる台地のを見て戦闘態勢になってる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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