決戦にて 開幕戦と落ちてきたもの
全ての準備を終えた僕達は陣形を整えてたたずんでいた。今回の陣形は、まず僕とリンリーが乗ってる破壊猪と兄さんと姉さんが乗ってる鬼熊が中心で、ディグリ・ミックは二体の後ろにラカムタさん・父さん・母さんは二体の前にそれぞれ並んでいる。次に各国の騎士達だけど、ナイルさん達は僕達の右前方に黄河さん達は僕達の左前方に位置して、インダスさん達は僕達の右後方でチグリスさん達は僕達の左後方にいる。
始めは正面突破を狙う事から矢印のような陣形で行こうとした。でも、今回の敵はどんな攻撃をしてくるかわからないため、どの方向から攻められても一定の戦力で迎撃できる空から見下ろしたらサイコロの五に見える陣形を選んだ。…………うーん、すでに向こうから僕達が進軍間近だと見えてるはずなのに何の反応もない。一応、強化魔法で視力を上げて観察しても動く影すらないのは不気味だね。
「ヤート君」
「何? ナイルさん」
「会議で話してた事を準備してて」
「……わかった」
ナイルさんに言われてからラカムタさんを見るとラカムタさんもうなずいてくれた。周りを見ても、みんなうなずいてくれるからいつでも良いみたい。僕は腰に巻き付いている世界樹の杖に触れて魔法を発動させる。
「緑盛魔法・世界樹の杖。リンリー、また僕の身体を任せて良い?」
「大丈夫です。絶対にヤート君を支えてみせます」
「うん、頼りにしてる」
僕はリンリーに身体を預けながら杖になった世界樹の杖を構えて目を閉じて静かに集中していく。
「私達の目的は教団の全てをはっきりさせる事。もし、邪魔が入ったり明らかにおかしいところがあれば、すぐさま排除と捕縛に切り替えるわ‼︎ さあ、進軍開始よ‼︎」
「「「「「オオオオオオオオッ‼︎」」」」」
ナイルさんの号令と同時に僕達は進み始めた。
しばらく土煙を立てながら進み、教団の本拠地を守る砦のような町の詳細がわかる距離までやってくる。僕は集中しつつも界気化した魔力を向けていてある程度町の様子を把握していた。屋内にいても伝わってくるくらいの地響きがあるのに、それでも町の外壁に人影一つ見え…………、いたね。僕はみんなに注意を促す。
「ラカムタさん、外壁の上に三人いるよ」
「俺も確認した‼︎ 全員、俺達への出迎えだ‼︎ 気を引き締めろ‼︎」
さて、どんな攻撃をしてくるのかな? 常に純粋なる緑を纏う遮断膜は発動させてるから精神攻撃は防げる。相手もその事を理解していると考えたら……、まずは物量で押してきそうな気がする。
「不敬な愚かどもが軽々しくこの地に近づくな‼︎」
「天罰を降す‼︎」
「大罪を胸に沈め‼︎」
外壁の上の三人が叫ぶと外壁の周りの地面から大量の泥が吹き出して僕達の方へ向かってくる。ああ、こいつらリザッバと同類か。それなら問題はない。会議で提案した通りリザッバみたいな死教を倒すのは僕の役目だから、僕は目を開けて魔法を発動させた。
「緑よ。緑よ。実をここに。緑盛魔法・純粋なる緑を纏う大浄化」
「「「何っ‼︎」」」
世界樹の杖の先に深緑色の実が三つなり、その実は独りでに泥へと飛んでいき全ての泥を無害なものに変えていく。うーん……、こいつらはリザッバに勝った僕達に同じような攻撃方法が通じるって何で思ったんだろ? ……疑問はあるけど、今は次の魔法の準備をしよう。
「この程度を逃れて良い気になるな‼︎」
「もはや手加減はせんぞ‼︎」
「楽に死ねると思うな‼︎」
「「「来いっ‼︎」」」
城壁の上の三人が叫ぶと今度は外壁の向こう側、つまり町の中からいくつもの魔石が飛び出てきた。今までは一体ずつだったけど、今回は…………二十体くらいか。これも特に問題ない。
「緑よ。緑よ。力をここに。励起をここに。臨界をここに。緑盛魔法・純粋なる緑を纏う光線」
「「「「「「ギャギャアアアアアアア‼︎」」」」」」
「「「バカなっ‼︎ 神の卵が‼︎」」」
僕の魔法の発動とともに世界樹の杖が枝を伸ばし葉をつけた。そして一枚の葉につき数十本以上の深緑色の光線が空へ伸び、ある程度の高さまで上がると軌道が曲がり各魔石を貫いていく。魔石は周囲にあるものを取り込んで力を増す厄介な存在だけど、何も取り込んでない状態なら怖くはない。
僕の純粋なる緑を纏う光線に貫かれてボロボロと崩れていったり爆散する魔石を見て、城壁の上の三人が叫んでるのが聞こえた。…………魔石が卵? 気持ち悪い。あ、まだ形を保ってる魔石が何体かいるな。この気持ち悪さを晴らすために、さっさと消し飛ばそう。
「緑盛魔法・純粋なる緑を纏う魔弾」
魔法の詠唱が終わると僕達の頭上に数百の深緑色の魔弾が現れて発射していき、次々残った魔石を撃破していく。そしてついでに城壁の上の三人にも魔弾を浴びせていった。
「「「「ギギャアアアアアアア‼︎」」」」
「「「貴様っ‼︎」」」
破壊された魔石の破片が飛び散る中、このまま押し切るため新しく魔法を唱えようとした時に世界樹の杖にコツンと何かが当たる。僕達の方にまで魔石のかけらが降り注いでくるんだから純粋なる緑を纏う魔弾で派手にやりすぎたなと思っていると、世界樹の杖の枝の間をカッ、カッという音をたてながら落ちてきて僕の顔の前を鈍く光るものが通り過ぎる。
思わず掌で受け止め見ると、魔石の欠片から小さい指輪が剥き出しになっていた。
「ヤート君、何が落ちてきたんですか?」
「…………」
「ヤート君?」
リンリーが僕に呼びかけてるけど、僕には答える余裕がない。なぜなら僕は界気化した魔力で指輪の持ち主の最後を読み取ってしまったからだ。
「お前ら……」
「ヤート君、どうしたんですか⁉︎」
「お前ら、この人達を食わせたな?」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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