決戦前にて 本拠地への考察と取り合い
みんなの回復を待っている中、純粋なる緑を纏う遮断膜の内側から教団の本拠地と本拠地の正面を守る砦のような町を見る。…………まあ、どう見てもおかしいの一言だ。
僕達のいる合流地点は荒れ地で起伏があまりないひらけた地形なんだけど、本拠地のあるところのみ台地になっている。しかも、その台地は三方が切り立った崖になっていて、残りの砦のような町に面しているところだけなだらかな斜面になって降っているという、まさに守るに易く攻めるに難いと言った感じだ。
周りを見渡しても同じような台地はないのに、何でここだけ台地になってるだろ? 誰かがここを意図的に台地にしたって言われても納得してしまうくらい不自然なんだよね。
それに本拠地とか町に住んでる人達の飲水とかはどうしてるのかも気になる。一時的な遠征とかなら水生魔法でも良いけど、定住するなら自然の水源が必要になるのにそれもない。地下水かなって調べてみても水脈は無かった。あと食料の問題もある。ここから見る限り畑はないし、この荒れ地だと狩りの対象になるような大きい生物もいない。およそ定住できる要素がないのに何で本拠地があるんだ?
ナイルさん達の話だと、それなりの数の人が生活しているらしいんだけど界気化で確認できない。気持ち悪い奴を感知しすぎないように界気化へ制限をかけてるから、そのせいとも言える…………けどすっきりしない。これは自滅覚悟で最高精度の界気化を放つべきかなって考えていると数人の足音が僕に近づいてくる。振り向くとナイルさんが、ナイルさんと同じくらいの大柄な人達と普通の体格の人達を引き連れていた。
「ヤート君、今時間あるかしら?」
「うん、大丈夫だよ。回復してない人がいるの?」
「どの子も順調に回復してるから違うわ。要件はこの子達の紹介よ」
ナイルさんが後ろにいる人達を手で指したから視線を向けると、全員が僕に興味津々という目で見てくる。
「この子達は各国の騎士団総団長とその副団長や副官よ」
「うーん……、総団長さん達は、いろんな意味でナイルさんと同じ感じだね」
「あら、わかる? この子達とは昔から競い合ってた仲なの」
「見るからに強そうっていうのはわかるから、やっぱりそうなんだ」
僕が感心してると、ナイルさんの後ろにいる総団長の一人がナイルさんの肩をガシッとつかむ。
「ちょっとナイル‼︎ 私達の事を早く紹介しなさいよ‼︎」
「ヤート君に興味津々だからって興奮しすぎよ。落ち着いてちょうだい」
「ナイルさん、僕から自己紹介した方が良い?」
「あー……、まずはこの子達の紹介をさせてもらうわ」
そう言ってナイルさんは、肩をつかんでいた人を前へ押し出す。
「この子は烈華国の黄飛河仙で、あそこにいるのが副官の長瑠江よ」
「あなたがヤート君ね。ナイルからおもしろい子がいるって聞いてたから楽しみにしてたの。瑠江ともども、よろしく」
「僕は黒の竜人族のヤーウェルト。みんなからヤートって呼ばれてます。こちらこそ、よろしくお願いします」
「私の事は気軽に黄河って呼んでね。言葉もナイルと話すみたいで大丈夫よ」
「うん、わかった」
黄河さんは綺麗な黒髪をまっすぐ腰まで腰まで伸ばしていて、服装は……前世の何かで見た昔の中国人っぽい見た目って言えば良いのかな? 艶のある青色の良い素材を使って作られた拳法家みたいな服で動きやすそうだ。僕に軽く頭を下げている副官の長さんは黒髪をお団子状にまとめていて、丸眼鏡をかけている。この世界に眼鏡があって驚いたよ。服装は黄河さんと同じく拳法服みたいな感じなんだけど、長さんを見てると学者とか医者みたいな雰囲気だから騎士してるのに違和感がある。
まあ、でも、人は見かけによらないともいうし実際はバリバリの武闘派かもしれないと考えてたら、突然ガバッと抱き上げられた。
「いやーん、想像してたより、ずっと可愛いじゃない‼︎ 持ち帰りた、きゃっ‼︎」
僕を抱き上げた黄河さんのみっちり詰まった胸や腕の筋肉を感じていたら、何かが黄河さんの腕を弾き僕から両腕を外させると僕はグイッと引っ張られギュッと抱きしめられる。うーん、この人の筋肉も見た目通り……いや、見た目以上に筋肉が詰まってる感じだね。
「ナイル‼︎ 何するのよ‼︎ 痛いじゃない‼︎」
「それはこっちの台詞よ‼︎ ヤート君が可愛いのは認めるけれど、いきなりヤート君に変な事しないで‼︎ 私だって我慢してるのに‼︎」
「ナイルは、これからだって会おうと思えば会えるでしょ。私達は今を逃したらヤート君と簡単には会えないんだから譲りなさいよ‼︎」
「教団の本拠地が見えるところにいるんだから状況を考えなさい‼︎ あとヤート君を持ち帰りとか、そんなうらやましい事は絶対にさせないわよ‼︎」
「それなら私の腕を弾く前に口で言えば良いじゃない‼︎ ナイルこそヤート君を離して‼︎」
二ルーメ以上の巨漢であるナイルさんと黄河さんが僕を取り合う。これは、どういう状況なんだろ? それに僕が可愛いって思う感覚も、ちょっと理解ができない。副官のエレレクアさんと長さんを見ても、申し訳なさそうにしてるだけで二人の口論を止めてくれないし、どうしよう。…………まあ、二人は口喧嘩を楽しんでる感じだから、このまま身を任せても良いか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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