王城にて 保護者と守護者
地下から運び出した黒い箱をサムゼンさんが用意してくれた台車に乗せて王城まで運んでもらう。輸送や管理なんかはサムゼンさんが部下達へ念入りに指示してくれたから問題はないので、僕達は次の箱があるだろう場所に向けて移動する。今までのバタバタで忘れてた分、できるだけすばやく回収しよう。
数刻(前世でいう数時間)かけて僕が感知できたものを全て回収すると一番初めに回収した黒い箱と同じものが他に七個あった。つまり王都には合計八個もの爆発物が仕掛けられていたという事で、僕が無力化した八個の箱が並んでいるのを見て王様達は愕然としている。
「これだけのものを今まで見過ごしていたとは……」
「ゼビリランの専用区画と同じで、作成から設置まで全部仲間内で終わらせられると情報は外部に漏れないし、箱の魔力の吸収量が少ないせいで魔力欠乏とかの目立つ被害者が出てなかったから王様達が気づかなかったのもしょうがないよ」
「それはそうなのだが、ここまで良いようにやられるのは統治者としては論外なのだ。…………これはやはりサムゼンの意見の通り調査や監視の専門家の育成が急務だな。それとハズラ、各国に我が国の現状を伝えよ。例外なくすべての場所の調査をするように念を押せ」
「…………ヤート殿のような広範囲の探知を可能とするものがいなければ厳しいかと」
「わかっている。しかし、教団へ攻めようとしている今、獅子身中の虫を放置するわけにはいかんのだ……」
「……御意」
言うのは簡単だけど実現するのは難しいっていうのをわかっているからか、ずっと王様や宰相のハズラさん達の表情は厳しい。
「…………ヤート殿、この箱はこれで全部だろうか?」
「今のところ僕が把握できたものは、この八個で全部だよ。でも、この後もう一度王都を詳しく調べるつもり。見逃しがあったら意味がないからね」
「王都のあらゆる場所への侵入許可は王命で出しておく。また人員が必要となった場合は適時言ってほしい」
「うん、全力を尽くすよ」
王様達が今後の方針を決める会議をしている中、僕は王城の奥庭に近い場所の城壁の上に来ていた。サムゼンさんも会議に参加してるから城下に行けないので城壁の上から界気化で違和感を探っている。…………こういう大きく動けない時に、ふと僕だけで教団へ攻め込もうかなっていう考えが頭をよぎるね。
『主人が行きたいなら連れて行きますよ?』
横を向くと世界樹の杖の写し身であるシールが浮かんでいた。虚勢も大袈裟な自信も見せず、ごく当たり前の事として言えるのは頼もしいな。
『あの四体もついてくるでしょうし、教団の撃破はいけると思います。どうしますか?』
「うーん……、教団に時間を与えたくないっていうのは前から同じだけど、足並みを揃える事も大事だってわかってる。…………僕はどうしたら良いかな? 母さん、影結さん」
僕が質問を投げかけると、母さんが城壁の下から飛び上がってきて僕のそばに着地して、影結さんも近くの影からズズズっと出てきた。
「そうねえ……、私もヤートなら殲滅は可能だと思うわ。でも、例え四体がいっしょだとしても、あなただけで突出する行動はとってほしくないわね」
「お前という最大戦力の奇襲の有効性は戦術に疎い私でもわかる。しかし、私も反対だ。状況が動くまで今は静かに待つべきだな」
「…………やっぱり、そうなるよね」
「ヤート……、自分だけの考えで動かずに今回もちゃんと聞いてくれてうれしいわ」
「仮に教団へ突撃しようとしたら私が連れ戻すという事は覚えておけ」
『まったく、この二人は失礼ですね。主人なら勝ち切れるに決まっています』
シールがどこまでも人間らしい仕草と表情で怒るのは面白い。とはいえ、このまま怒らせるわけにもいかないから僕の考えも言っておこう。
「勝った後の根回しが必要だから勝つだけじゃダメって事だよね?」
「そうなのよ。ヤート達が爆発物の回収に行ってる時に王様達の話を聞いてみたけど、普人族の世界はいろいろ複雑みたい」
「あとは、いきなりお前が最前線に出ると被害の規模が想像できない点も大きいな」
「それは…………確かにそうね」
「村を出る時にも言ったけど、僕は必要だって判断したらやるだけだよ?」
「できるだけ私達が敵を排除するから我慢して」
「むしろ私が教団へ潜入して暗殺しても良い気はするな」
「影結さん、僕に突擊はダメって言ったのに、それはひどいよ」
「…………冗談だ」
影結さんは影に覆われてるから表情が見えないけど、声の感じとか伝わってきた思いは絶対に本気だったよ。母さんも苦笑してるから気づいてるはず。でも、母さんは影結さんに何も言わず話の流れを変えた。
「そういえば、まだ自己紹介をしてなかったわね。私はヤートの母親のエステアよ。これからもヤートを気にかけてくれるとうれしいわ」
「私の名は影結という。ヤートには私の尊厳と自由を取り戻してもらった大きな恩がある。その恩を返さない内は私から去るつもりはない」
「そう……、これからも息子をよろしくお願いします」
「…………わかった」
母さんが、ものすごく真剣に頭を下げたから影結さんは戸惑ってたけど、すぐに母さんと同じくらい真剣な声で返答する。僕が二人のピンッと張り詰めた雰囲気に話しかけられないでいると、母さんがバッと身体を起こす。その顔を好戦的な表情になっていた。
「ところで、あなたはかなりの使い手ね。ぜひ、手合わせをお願いしたいのだけど」
「…………ふ、良いだろう。私も竜人族の力量には興味がある。願ってもない誘いだ」
母さんは少し左半身を前に出すように構えて、影結さんは全身と足もとの影を波打たせる。そして二人の間で無言のやり取りがあったのか、ほぼ同時に奥庭に飛び降り格闘戦を始めた。ラカムタさん達や王様達は突然始まった二人の戦いに慌てたけど、なぜか僕を見た後に安心したようなため息を吐きラカムタさん達は二人の戦いの観戦を始め、王様達は会議を再開した。
…………いろいろと納得できないこのモヤッとした気持ちは何だろ?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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