王城にて 不法侵入者と仮説
次の日になっても当然ゼビリランの事件の後始末は終わらない。教団へ攻め込むつもりなのに何もできずに淡々と時間は過ぎていくのは少し焦れる。それでもさすがに僕達だけ行くのも違うと思うし、そうかと言って王様達は国内を不安定にしたままで行動に移せないからしょうがない。
とりあえず僕達はいつでも動けるよう体調を保つため食事をしている。王様達からの最大限もてなすを受けて充実した食事内容なのは良い事だけど、料理人や給仕の人達は戦場に立ってる感じだと思う。なぜならラカムタさん達が骨つき肉の骨すらバリバリ噛み砕き、圧倒的な速さで皿を積み上げてるからだ。あとみんなほどじゃないけど僕も野菜と果物をモリモリ食べてるから、これはすごい金額が飛んでいってるなと考えていっしょに食事をしている王様に聞いてみた。
「王様、何か大神林産の植物でほしいものある?」
「ヤート殿、食事代という事なら気にしなくて大丈夫だ」
「そうなの? 大神林産の香辛料なら手持ちがあるし、地面を使わせてもらえば育てて数もそろえられるよ?」
「心配は無用。なぜならジーンアリスを始めとした貴族達から、かなりの食材の寄進があったからだ」
「そんなにたくさんの贈り物があるんだね」
「ああ、自分達の身近にいた教団の支援者を取り除いてくれたお礼なのだが、…………むしろ大量に消費しなければ王城の倉庫があふれる勢いで続々と届けられるため、黒の方々の食欲は渡りに船なのだ」
「なるほど。ラカムタさん、遠慮はいらないみたいだよ」
「そうか。王よ、とにかく量を優先してくれ。あの二体の分も考えると、できあがるまでに工程の多い料理は間に合わない」
「う、うむ…………、おい、料理人達へラカムタ殿の要望を伝えろ」
「あ、鬼熊と破壊猪は生でも大丈夫だから食べがいのある肉の塊を持ってきてくれると喜ぶよ」
「それも伝えろ」
さらに食べる速さが増したラカムタさん達を見て王様達が顔を引きつらせている中、伝令を受けた人がすばやく部屋を出て全力で厨房に走っていく。少しして厨房から僕達の様子を聞いた料理人達のやる気を感じ取れた。
そんな風にしばらく僕達が会話をしながら普人族では考えられない量を食べ終えていると、王城の地下に殺意と覚悟の感情が近づいているのに気づいたので食事を止めて席を立ち走り出す。後ろからラカムタさん達も慌てて立ち上がる音が聞こえてきた。
「ヤート、どうした⁉︎」
「誰かを殺そうとしてる奴が地下に近づいてる。たぶんゼビリラン関係だと思う」
「何⁉︎」
「先に行くね」
僕は強化魔法を発動して最短距離で走ってたんだけど、結構短時間で強化魔法を発動してないラカムタさん達に追いつかれて、僕の隣へ来た父さんに抱き上げられた。…………僕って足が遅いな。
「ヤート、どう行けば良い⁉︎」
「このまま直進して突き当たりを右に行ったら階段があるから降りて。その後はまたその時に言うよ」
「任せたぞ‼︎」
僕はうなずいて答えた後、父さんに抱き上げられたまま界気化した魔力を放ち状況確認を続ける。
かなり詳しく王城の構造を確認してた甲斐があったね。この世界でも最大級の建築物である王城の中を最短最速で移動し、もうすぐで地下への入り口が見えるところで追いついた。
「地下への入り口に向かってるあの三人が犯人だよ。ラカムタさん」
「わかった‼︎ そこの三人動くな‼︎」
ラカムタさんが大声で牽制すると三人は僕達の方を振り返り確認した後、どうするか仕草で話し合ってたけどそれは大きな隙だよね。
「お前ら油断してるにもほどがあるぞ」
「「「なっ‼︎ ヒュッ……」」」
ラカムタさんは一瞬で暗殺者だろう三人の前に移動して、三人の顎を一発ずつ拳で打ち抜き激しい脳震盪で昏倒させた。打撃音もしないのは、さすがだね。
「ラカムタさん、すぐに衛士の人達がやってくるから、それまで見張りつつ待とう」
「そうだな。ヤート、こいつらが身体に何か仕込んでないか調べてくれ」
「わかった」
僕は、まともに身体を動かせない三人へ界気化した魔力を流しつつ一人一人同調で確認していく。うーん、そばに寄った僕を人質に取ろうと、プルプル震えながら腕を伸ばしてくるのはさすがの根性だけど今の状況では無意味。腕をはたき落とした後に念には念を入れて誘眠草の煙を嗅がせて眠らせて、じっくり調べようと思ったらサムゼンさんが部下を連れて走り寄ってきた。
「ヤート殿、このもの達か?」
「うん、服装は王城勤務の文官の制服を着てるけど、どう考えても王城外の奴だね」
「根拠を聞いても?」
「袖口の中に小刀があって、指にはめてる指輪は小さな毒針が出るものだし、何より歯の中に自決用の毒がある」
「まず暗殺者と考えて間違いないな。…………やはりゼビリランを?」
「そうだね。この三人は二日前に王都に入っていて、受けた命令は王城の地下にいるものを全員殺せだよ」
「そうか……。やはり、この国には、まだ奴らの手先が隠れていたか‼︎」
サムゼンさん達は怒りで顔を歪めてたけど、僕としては事態が良い方向に進んでる証拠だ。
「そこまで怒る事じゃないよ。むしろ、この国にいる教団の支援者を追い詰めてるよ」
「ヤート、それはどういう意味だ?」
「前にサムゼンさんが、支援者の拠点に踏み込んでも教団へつながる証拠は破棄されて支援者自身も自決してるって言ってたでしょ?」
「そうだな」
「ゼビリラン達が捕まってから七日以上経ってるのに、そのゼビリラン達を始末するためにやってきたのが三人のみだよ? 明らかに行動を起こすまでに時間がかかってるし人員不足にもなってる」
「…………そう言われれば確かに」
僕の考えを聞いてサムゼンさん達は納得してくれた。まあ、サムゼンさん達の仕事が増えたから、もし教団の奴らがサムゼンさん達を後始末に忙殺させて時間稼ぎを狙っているなら成功と言えるけど、その事は僕の考えすぎかもしれないから黙っておく。…………うーん、いろいろ確かめる意味でも少し行動してみるか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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