王城にて 時間をかけられない状況と強引な解決
ラカムタさん達や王様達が、良い感じに膠着状態を作って時間を稼いでくれてる。この間に徹底的にゼビリランの記憶を読み取って事態解決の手掛かりをつかむため、僕は界気化した魔力を全力でゼビリランに集中した。周りへの警戒が薄くなるのは、この際どうでも良い。
…………あー、ジーンアリスさんの家族は生きてるみたいだね。まあ、正確に言えば僕を始末した後にジーンアリスさんを捕まえて家族ともども痛めつけて楽しむつもりだから生かされてるって感じだ。こいつ本当にカスだな。
イラつきを抑えてゼビリランの記憶を読んでいると、ようやくジーンアリスさんの家族の監禁場所がわかった。その場所は王都で一番大きい教会にあるゼビリラン専用の区画。対外的には大神官であるゼビリランが日々の祈りに必要となる身を清めたり鍛錬を行うための場所とされてるけど、実情は王都における教団支援者の活動拠点となっている。気持ち悪い事この上ないけど、教会に所属している人全員が教団の支援者じゃないからマシだと思っておく。
…………さらに調べてジーンアリスさんの家族の他にも監禁されてる人達がいるとわかった。これは加減や騒動にならないやり方なんかを考えてる場合じゃないね。僕は新しくわかった事と僕が強引に解決するって決めた事をみんなに伝えた。当然ラカムタさん達から、もう少し考えるよう言われたけど意外にも王様から一般市民を巻き込まないならば全力でやって良いとの許可が出る。
あまりの思い切りの良さに僕の方から聞き返したけど、王様も王妃様も宰相さんも責任は自分達が取るとはっきりとした意志を伝えてきた。ここまでの覚悟を示されたんだから、僕も絶対に解決してみせると覚悟を決めて目立たないように腰の小袋から種を取り出し世界樹の杖の魔力を込める。
『僕の準備は終わったよ。あとは一瞬で良いからゼビリランの意識を僕とジーンアリスさんからそらして』
僕が伝えたと同時に空気が重くて冷たくなる。
「……あなた、いつまでヤートに剣を当ててるつもりかしら?」
母さんが言いながら一歩進むと空間が歪んだ気がした。母さん、存在感を出しすぎて王様達が倒れそうになってるよ……。でも、そのおかげでゼビリランが僕とジーンアリスさんから目を離したから、後でありがとうって言おう。
「緑盛魔法・純粋なる緑を纏う宿り木の矢」
僕は種をゼビリランに投げつけて魔法を発動させた。すると種は空中で急速に成長して矢になりゼビリランの右肩を貫く。そして一気にゼビリランから魔力を吸収し尽くした。
「「「ぐぎゃあぁぁあっ‼︎」」」
ゼビリランと側近が叫びながら倒れて身体を痙攣させる。
「ジーンアリスさん、離して‼︎」
「あ、ああ、すまない……」
「ディグリ、三人を縛って‼︎ 鬼熊と破壊猪は王様達の警護をお願い‼︎ ラカムタさん‼︎」
「おう‼︎ 来い‼︎」
ジーンアリスさんから離れてラカムタさんへ跳ぶと、ラカムタさんは僕を背負い外へと走り出す。
「ヤート、どこへ行けば良い⁉︎」
「城壁の上‼︎」
「任せろ‼︎」
城壁の上に運んでもらった後におろしてもらい、僕は王都全域に界気化した魔力を放つ。探すのはゼビリランと同じ世界を壊そうという考えを持った奴とその協力者だ。…………さすがに王都って呼ばれるだけあって人が多いね。万を超える人数の情報を受け取るのは、なかなかきついな。
「おい‼︎ ヤート、鼻血が出てきてるぞ‼︎」
「倒れるまでは続けないから止めないで」
「だが……」
『主人、主人の身体への負荷を軽くするので私を杖にしてください』
「わかった。緑盛魔法・世界樹の杖」
僕の腰に巻きついていた世界樹の杖が伸びて杖となる。そしてシールが僕の横に現れ僕へ緑の魔力を流してくれた。そのおかげで頭の中で高まっていた熱が引いて楽になったから界気化した魔力で受け取る情報に集中する。
……………………よし、王都全体を調べ切れた。僕は腰の小袋からある触媒を取り出して対象として狙いをつけた奴らに向けて魔法を唱えた。
「緑盛魔法・純粋なる緑を纏う深眠粉」
大規模魔法一回分の魔力を込めた魔法が発動すると、僕の掌の上の誘眠草を乾燥させて粉にし団子状にまとめたものが形を失っていき僕の頭上に白い煙の大きな塊ができる。そして掌の団子が全て消えてから手を上げて振り下ろすと、白い煙が多数にバラけて僕が対象に決めた相手に向かっていった。
…………再び界気化した魔力を放って各地の状況を確認すると、狙い通りゼビリランの同類が深眠粉にまとわりつかれて強制的に吸い込み深い眠りに落ちていく。
「ラカムタさん、僕をあそこの大きな教会へ運んでほしいんだけど」
「あそこに人質がいるんだな?」
「うん、衰弱やケガが激しい人もいるから早く治療してあげたい」
「それは構わないが、一度王達のところへ戻るぞ」
「そうか、説明をしないとダメだったね」
僕とラカムタさんは王様達のところへ戻り現状を説明する。
「王様、教団の支援者とその協力者は全員眠らせたから確保をお願い。場所は白く煙ってるからすぐにわかると思う。あと煙を吸わないようにね」
「うむ、了承した。ナイル、聞いたな? 頼む」
「了解よ。サムゼンは、このまま王達のそばで守護を続けなさい」
「は‼︎ お任せを‼︎」
こういう自分達の役割がわかってる感じは良いなって思っていると、ジーンアリスさんが僕と王様の方へ近づいてくる。
「私も教会へ行っても良いだろうか……?」
「僕は良いよ」
「ジーンアリスよ、その目で家族の無事を確かめてくるが良い」
「感謝する」
「用心のためにマルディも来てくれ」
「ああ、わかった」
ナイルさんや宰相さんの命令を受けて一気に騒がしくなっている中、僕達は教会へと出発した。ちなみに兄さん達もついてきたがってたけど、母さんが目の奥が笑ってない笑顔でここにいなさいって言うと兄さん達は少し震えながら大きく何回もうなずいていた。
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