王城への旅にて 嫌な事実と存在感
父さんとラカムタさんが叩き潰した異常な集団を、みんなが集めてくれた。一応、死なないように最低限の治療をした後に、界気化した魔力を浸透させ記憶を探っていく。…………見るからに普通じゃない人の記憶だから連続したものではなかったけど、断片的に嫌な事がわかった。
「ヤート殿、何かわかっただろうか?」
「この人達は犠牲者だよ」
「…………犠牲者?」
「さらわれた後に過度の麻薬や拷問なんかで精神と思考が壊されて、さらに肉体改造もされてる。いや、これは改造とは言わないか。いろんな人体実験の結果、たまたま生き残ってしまった人達だね」
「それは……」
「感情の薄い僕でも本当に気持ち悪くなる実験ばっかりだったよ」
「……ヤート君、この人達は治りますか?」
「身体は治せるけど精神は無理。壊されてからの時間が経ち過ぎてる」
僕の断言に、みんなどう反応して良いのかわからないようだ。でも、そんな中、サムゼンさんは深刻さがまさっている。
「ヤート殿、さらわれたと言っていたな。このもの達は…………この国のものか?」
「ギリギリ読み取れた一番古い記憶の風景にあった植生が、この国かもしくは周辺のものだったから可能性はあるね」
「クッ……、この国にまだ残っていたのか‼︎」
サムゼンさんの握りしめた掌から血が滴り落ちた。…………もっと嫌な事実があって言い辛いけど、重要な情報だから伝えておかないとな。
「サムゼンさん、王都に教団の所属者か支援者がいるよ」
「…………やはり、そうか」
「うん、まず僕達を待ち伏せできるのは、少数精鋭の中に入れて僕達が来る事を知れる人は限られる。それにこれだけの人数を誘拐できて、実験のために抱え込むには場所も資金も大規模に必要。表、裏、どっちに属してる奴かはわからないけど、もしかしたら王城の中枢に食い込んでる奴かもしれないね」
「ヤート殿、徹底的に調べてもらう事は可能だろうか……?」
「そのつもりだよ。潰すって決めてるから」
「感謝する」
「それは王都にいる奴らを排除してからで良いよ」
サムゼンさんは僕の返答を聞いて噛み締めるようにうなずく。僕達もそんなサムゼンさんを見て気合を入れ直した後、王都への移動を再開するために準備を進めた。
「鎮める青と深眠粉も効いてるし、これで良しと」
「ヤート、厳重に囲んでるな」
「状況が状況だから、この人達を王都には連れて行けないでしょ? だから、こうやって街道から逸れたところに寝かせて周りを荊棘と高さのある草で囲めば、誰かに見つからずに済む。今の僕にはこの人達を治せないから、せめてゆっくり眠ってほしいなって思ったんだ」
「そうか……」
僕が説明すると父さんが優しく笑いながら頭を撫でてきて、その後にラカムタさんもグリグリ頭を撫でてくる。嫌じゃないんだけど首が痛くなるからラカムタさんには力加減を覚えてほしいなと思いつつ、移動前にやり残した事があるかを考える。…………そうだ。サムゼンさんに、これからの事を聞いておこう。
「サムゼンさん、僕達はこのまま王都に向かって良いの?」
「できれば目立たずに王のもとへと行きたいのだが…………」
サムゼンさんが僕達を見回しながら悩んでいる。うん、僕達は客観的に見て、欠色の僕・竜人族のみんなと竜人族に化けてるミック・存在感の塊の三体・騎士として有名なサムゼンさんに変わった経歴のヨナさんという目立つとしか言いようのない集団だからサムゼンさんが悩むのも当たり前だ。
僕は腰の小袋から黒影草の黒く細い葉を乾燥させた細い束を取り出し魔法を唱える。
「緑盛魔法・黒影衣」
魔法の発動とともに僕がつかんでいた黒影草の束は、ほとんど黒に見える濃い紫色の光の粒に変化し広がってから僕達の身体に降り注ぎ身体の表面を覆っていく。
「ヤート、これは何だ?」
「黒影草の魔力を借りて対象を認識されなくなる魔法だよ」
「あいかわらずお前の魔法は何でもありだな。効果の強さと持続時間を教えてくれ」
「相手から直接触られるとか本当に真剣に意識を集中されない限りわからないはずだよ。持続時間は効果が切れそうになったら僕がかけ直すから気にしないで。あ、でも、みんなが強く魔力や威圧を出したらバレるから、その点だけは気を付けてほしいな」
「つまり、静かにすばやく移動しろっていう事ね。サムゼン殿?」
「うむ、これなら大丈夫だろう。移動を開始する。目的地は王都の北にある門だ。そこで手引きをしてもらい王城へ入る事になっている」
「よし、身の回りの最終確認をした後に出発するぞ」
少ししてから僕達は移動を再開した。王都へ行き王城に入って王様と話して対教団の対応策を練る。…………言葉で言うだけなら簡単だけど、ここからは何が起きるかわからないから絶対に気を緩めない。それと僕にできる事なら全部やって必ず目的を達成してみせる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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