王城への旅にて 妨害への期待と大人の勘
僕達は父さんとラカムタさんを置いて進んでるわけだけど、今のところ界気化した魔力を周りに放っても異常は見つけられない。サムゼンさんから聞いた教団の話だと外部の協力者が多いみたいで、もしかしたら王城への移動中に出会すかもって考えてたから少し拍子抜けだな。…………おっと、自分だけで完結するのは下策だよね。
「みんな、何か気づいた事ある?」
「ヤート……、何かあったの?」
母さんが言うと兄さん達に四体もピリピリし始めたから、すぐに否定しておく。
「違うよ。単純に何か気づいた事があったか聞きたいだけ」
「いや、ヤートが何も感知してないなら、俺達にわかるわけないだろ」
「兄さん、僕だっていつでも完璧にやれるわけじゃないよ」
「そうなのか?」
「うん、僕の感知できる情報の質や量にも限界があるから、みんなの感覚にも頼りたいんだ」
「そうか‼︎ ちょっと確かめるから待ってろ‼︎」
何か兄さんが嬉しそうに集中し出した。…………兄さんだけじゃない。他のみんなも集中している。どうしたんだろ?
少しの間、無言の時間が続いて兄さんが僕の方を向いた。
「ヤート、俺は何も感じなかったぞ‼︎ 母さんはどうだった⁉︎」
「私も同じね。マイネとリンリーはどう?」
「私のわかる範囲だと異常なしね」
「私も普通だと思います」
「なるほど……、サムゼンさんとヨナさんは、何かいつもと違う感じはあった?」
「……いや、何度か通った時と同じで妙な変化はないはずだ」
「私も、違和感はありませんでした」
母さん達とサムゼンさん達も問題ないと判断してる。特に黒の村と王城を何度も行き来してるサムゼンさんの変化はなしっていうのは大きいね。
「ガアッ‼︎」
「ブオッ‼︎」
「問題ハアリマセン」
「…………ナニモナイ」
「「ヒヒンッ‼︎」
四体と二頭の感覚にも引っかかるものはないみたい。現時点で僕達に教団からの妨害がないのは良い事だ。あとは王都に近づいた時・王都に入った時・王城に近づいた時・王城に入った時の、どこかできっと入ってくる妨害を待つばかりか。
「みんな、ありがとう。助かった。何か妨害があるまでは警戒を強めていこう」
「……ヤート君、妨害されてからの方が、より警戒を強めるべきなんじゃ?」
「妨害の第一波としての人の待ち伏せや罠があれば、それを無力化した後に僕が界気化で調べられるでしょ? ここで後手に回らされるのは避けたいから危険なのはわかってるけど、とにかく教団のこれからの動きに関する手がかりがないから情報源を得るためにも妨害に会いたい。あと情報を持ってそうな指揮役がいるなら、もっと理想的だね」
僕の発言を聞いて姉さんが不安そうに聞いてくる。
「…………ヤート、一応聞くけれど、そういう考え方は独特だっていうのをわかってるのよね?」
「うん、普通は界気化した魔力で周りの事を感知できないし、相手の考えや記憶も読めない。あと植物達の力も借りられない。要はいろんな手段を持ててる僕が例外って事だね」
「自覚できてるなら良かったわ」
姉さんが心の底からホッとしてる。他のみんなも同じ感じだし、僕はどれだけズレてるって思われてたんだ? …………まあ、心配してもらえてると考えたら、それはそれで良いかと思いつつ父さんとラカムタさんの事が頭をよぎる。
「母さん、父さんとラカムタさんが僕達と別れて時間が経つけど追いついてこれるの?」
「問題ないわ」
「でも、さすがに離れすぎてると思う。今更だけど途中に何か目印を残してくれば良かったな……」
「マルディもラカムタも勘が鋭いから大丈夫よ」
「断言できるんだね」
「村長とかネリダに聞いても同じ答えが返ってくるわ。ヤートとは違う面で絶対の信頼を勝ち取ってるのよ」
「そうなんだ」
母さんの迷いのない言い方に僕は安心できた。兄さんと姉さんも内心で心配してたのか小さくホッとしてる。気長に二人が追いついてくるのを待っていよう。
しばらく父さんとラカムタさんが追いついてこないまま進んだ時に僕の界気化した魔力で異常を感知した。僕達が今爆走しているのは王都へと続く街道なんだけど、今の速度で数分かかるくらいの先に僕達へ敵意を向ける集団がいる。
「みんな、この先に待ち伏せがあるよ」
「待ち伏せだと……? ヤート殿、それは我らに対してなのか?」
「うん、明らかに僕達を意識してる。…………まあ、まともな奴らじゃないだろうね」
「それは……どういう?」
「サムゼンさんの話によると、僕達が王城へ向かうのはごく限られた人しか知らない事でしょ? それなのに変な集団が僕達を待ち受けてるのはおかしい」
「まさか、こちらの情報が漏れている?」
「それか、もともとこの街道で網を張ってたかだね」
「…………おのれ」
サムゼンさんが小さくつぶやくと腰の剣を抜いた。そして黒曜馬に合図を出し不審な集団へと突撃していく。
「私の役目は王城まで案内するする事。つまり露払いも私の役目だ‼︎」
「単騎先行はまずいかな。ディグリ、頼める?」
「オ任セヲ」
「安全第一でね」
「ハイ、速ヤカニ終ワラセテキマス」
ディグリが先行したサムゼンさんを追いかけていく。ディグリとサムゼンさんと黒曜馬なら、よっぽどの搦手がない限りは戦力に問題はない。あと心配するべきは……狙撃と奇襲かな。僕は世界樹の杖に触りシールに障壁の準備をお願いした。
「ヤート、私達はどうすれば良い?」
「周りの警戒だね。待ち伏せに意識を向けさせたところを別の手段でって事は敵もやってくると思う。僕が感知して先手は取らせないつもりだけど万が一もあるから、みんなも警戒をお願い」
「うっしゃあああ‼︎ 任せろ‼︎ ヤート‼︎」
兄さんがものすごく盛り上がっている。今の会話の中で盛り上がる要素があった? ……いや、今は目の前の事態解決が先だ。遠目に戦っているサムゼンさん達が見えてきたから改めて変な集団を観察すると、その異常さは一目でわかる。不健康な肌色、ギラギラした目、サムゼンさん達の攻撃を受けても襲い掛かる執念、淀んだ気配、どれをとっても不気味。できるだけ速く無力した方が良さそうだね。
「緑盛魔法・世界樹の杖。純粋なる緑の魔、…………うん?」
魔法を発動しようとした時、僕達の後ろから強大な気配が近づいてくるのに気づいた。え? この速さは何? というかこの進路は危ない‼︎
「みんな、今すぐできるだけ上に高く跳んで‼︎」
「は? お、おい……、ヤート?」
「良いから速く跳んで‼︎ サムゼンさん達も巻き込まれるから跳んで‼︎」
僕の真剣さが伝わって、みんなは疑問を持ちつつも高く跳んでくれた。すると数瞬後に僕達の下を二つの物体が土煙を上げながら高速で通り過ぎ、サムゼンさん達が戦っていた集団に向かいそのまま完全に叩き潰していく。僕達が着地する頃には全てが終わっていて、異常な集団は地面にめり込んでいるものや手足が変な風に曲がっているものなど、全員が致命傷で身体が微かにけいれんするのみになっていた。もちろん、この蹂躙劇をしたのは父さんとラカムタさんの二人だ。
「えっと……、父さん、ラカムタさん」
「ヤート、離れていて悪かったな」
「僕は一人じゃないから大丈夫。よく追いついてこれたね」
「ああ、ヤート達が変な奴らに会うとわかったから、全力で走ってきただけだ」
「会うのがわかったって遠くから見てたの?」
「いや、見てなくても勘でわかる。なあ? ラカムタ」
「そうだな。…………チッ、まだいるのか。ヤート、少しみんなと待っていてくれ。マルディ、行くぞ」
「おう」
そう言って父さんとラカムタさんは、またビュンッといなくなり遠くの方で破壊音が聞こえてきた。あー、やっぱり狙撃か奇襲要員がいたんだね。それにしても…………勘ってすごいな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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