黒の村にて 説明と選抜
いくつか軽く試してシールが僕の魔法を発動できるとわかった。これなら兄さん達に存分に楽しんでもらえるね。兄さん達もワクワクソワソワしてるから、早速始めてもらおう。
「それじゃあ、シール、お願い」
『わかりました‼︎』
シールが魔法発動のために気合いを込めて魔力を制御していく。少しの間見守っているとサムゼンさんに呼びかけられる。
「ヤート殿、できれば黒の方々全員に聞いてもらいたいのだが……」
「そうなんだ。それならしょうがないか。みんな、魔法はあとでね。シールもいっしょに聞こう」
『……わかりました』
どことなく残念そうなシールや、明らかにガッカリしてるみんなもサムゼンさんの話を聞く姿勢を取った。
「楽しみを邪魔したようで申し訳ない」
「もともとの要件はサムゼンさんの話を聞く事だったから気にしないで。ねえ、ラカムタさん?」
「ヤートの言う通りだ。それでサムゼン殿、教団に関してはどうなったんだ?」
「以前ヤート殿から渡されたリザッバとやらの首飾りを持って総団長と副総団長が教団の本拠地に出向き、いろいろと揺さぶりをかけて交渉をしたのだが結果は完全な決裂となった」
苦々しく話してるサムゼンさんに一つの疑問を聞いてみる。
「前に教団にはたどり着けないって言ってなかったっけ? それなのにナイルさん達は教団の本拠地を知ってたの?」
「ああ、それは外部の協力者を叩いても教団が関わっているという確たる証拠が得られない。ゆえに教団の本拠地は知られていても、こちらから手が出せないという意味でのたどり着けないだったのだ。私の言い方が悪くて申し訳ない」
「そういう事か。うん、納得できた。話の流れを切ってごめん」
「いやいや、私もだ」
「これからサムゼンさん達はどう動くの?」
「最終的には数カ国とともに査察名目で教団の本拠地へ攻め込む事になったため、本当に信頼できると判断された少数精鋭により各国との情報共有と連携が構築されつつある」
「かなりの大事になってるね」
「……ヤート殿、これを」
僕の反応を確かめたサムゼンさんは懐から取り出したものを僕に両手で渡してきた。…………これは手紙だね。それも封蝋がされていて使われてる封筒も触っただけで高級品とわかる本格的な格式高いものだ。たぶん、この手紙を書いた人は位の高い人のはず。
「サムゼンさん、これは誰からの手紙?」
「バーゲル王からだ。ぜひ、目を通してもらいたい」
「わかった」
僕はたらいを置いている台の上にバーゲル王からの手紙を置き、封蝋を割って封筒から中身を取り出して読む。…………触っただけでわかる上質な紙に綺麗な文字で、季節のあいさつ、リザッバの首飾りに対する感謝、教団とのやり取りが決裂した事、調査団への参加要請、一度王城まで来てほしい事なんかが書かれていた。読んだ手紙を村長に渡しながらサムゼンさんに聞いてみる。
「サムゼンさん、今返事を書けば良い?」
「いや、この場で返答をしてもらえれば責任を持って王に伝えるのが私の役目だ」
「そうか、それじゃあ返事はいらないね」
「…………なぜか、聞いても?」
「サムゼンさんが帰る時についていくつもりだからだよ」
「おい、ヤート。本気か?」
ラカムタさんが困惑しながら聞いてきた。
「こっちからどんどん手をうたないと教団が何をしてくるかわからない。僕達を迎え撃つための準備をする時間をできるだけ削りたいんだ」
「ならほどな、そういう事なら納得できる。村長、良いか?」
「うむ、最速で接近し最大の一撃を叩き込んで来ると良い。サムゼン殿は、すぐに戻られるつもりかの?」
「いや、明日の夜明けとともに王城へ戻るつもりだ」
「では、存分に英気を養えるように歓迎しよう」
「感謝する」
出発は明日か。もう少し世界樹の杖へ魔力を溜めるのに、ちょうど良い時間ができた。ある程度、兄さん達に魔法を楽しんでもらった後に集中しよう。僕が魔法を発動しようとしたら、母さんが村長に近づいて行くのに気づく。
「村長、ちょっと良い?」
「何じゃ? エステア」
「ヤートに同行するものは決めてるのかしら?」
「そうじゃの。万全を期すためにラカムタ以外に狩人を何人かといったところじゃな」
「それなら今から狩人の一人と決闘をさせてもらうわね」
「…………何を考えておる?」
「簡単な話よ。私が決闘に勝ったらヤートに同行させてもらうわ」
母さんの発言に村のみんなはどよめくのを見て、母さんがどれくらい強いのか気になるな。少なくとも父さんと同格だとは思うけど……。
「エステア、待て待て」
「……マルディ、邪魔しないわよね」
「するわけないだろ。むしろ同じ考えだ。俺も狩人に決闘を挑もう」
「あらあら、良いわね。それじゃあ、やりましょうか」
父さんと母さんが戦う気満々で狩人達の方へ近づいて行く。……うわ、狩人達も二人のやる気に刺激されて戦闘態勢になってるな。これは止めるべき?
「オラァッ‼︎」
「兄さん?」
僕が対応を考えていると兄さんが強化魔法を全力で発動させて狩人に殴りかかった。兄さんに殴られた狩人は、突然の事に驚いてはいたけど、しっかりと防御して少し吹き飛ばされるだけで済ませる。うん、さすがだね。
「狩人に勝てればヤートといっしょに行けるんだよな⁉︎」
「失敗したわ。ガルに遅れを取ったなんて最悪よ‼︎」
「ヤート君といっしょに行く権利を絶対に譲ってもらいます‼︎」
「ハッハッハ、子供達には負けてられないな。エステア‼︎」
「そうね。マルディ‼︎」
ええ……、姉さんとリンリーまで狩人と戦い始めた。しかも、他のみんなも広場のあちこちで戦い始めてるし、これはどうなんだろ?
「村長、止めた方が良いよね?」
「構わんよ」
「良いの……?」
「わしはさっき万全を期すと言ったじゃろ? ならばより強いもの、もしくはよりヤートとの相性が良いものを選び出すのは至極当然の事。命が危険な状況になってないなら、このままで良い良い」
「わかった。とにかく監視だけしておくよ」
「うむ、頼んだ。それにしても、わしが今よりも若く村長でなければのう……」
村長の身体から徐々に魔力があふれてくる。基本的に竜人族は戦うのが好きだからしょうがないね。とりあえず、いつでも戦いを止めてケガを治せる準備だけはしておこう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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