大神林の奥にて さらなる言い合いと門
また一刻(前世でいう一時間)が過ぎた。なんで過ぎたかと言うと、四体と世界樹の杖の写し身が僕の事を言い続けているからだ。例えば僕の食べる順番、散歩で疲れた時のしぐさ、景色を楽しんでる様子、会話の癖、接近戦の鍛錬で身体の動かす時の悪戦苦闘具合、…………事細かに見過ぎじゃない?
しかも誰かが一つの事を言うと他が追従したり派生して際限なく続いていく。というか戦いはどうし……いや、戦いに発展してない事は歓迎するべきだな。僕が照れを無視すれば丸く収まるんだからそれで良い。
『ふむ……』
「世界樹、どうかした?」
『あの子をお前さんに任せたのは正解じゃったと思ってのう』
「どういう事?」
『あの子が我の一部だった時でも、我が大神林の事を知ればあの子も知る事になった』
「まあ、一部だったからそうだろうね」
『じゃが、あくまで大神林の中の事しかわからん。あの子はお前さんと行動をともにするようになり様々な経験をして一個の独立した存在になれたのじゃ』
「うーん……一長一短だと思うよ。僕と行動するようになって魔石っていう面倒くさくて厄介な連中と関わる事になったからね」
『あの子にとっては自由に言い合えるという良い結果になった事が全てじゃよ』
「そういうものなんだ」
『そういうものじゃ……な?』
僕と世界樹が静かに話してると四体と世界樹の杖の写し身を中心に空気が張り詰める。視線を向けたらにらみ合いになっていて、いつ戦い始めてもおかしくない状況だった。
「ガアッ‼︎」
「ブオッ‼︎」
「アナタハ何モワカッテイマセン‼︎」
「…………ホントウニイイノハソレジャナイ」
『何でですか‼︎ 一番は何気なく空を眺めている時に決まってます‼︎』
「ガ、ガアッ‼︎」
「ブオブオッ‼︎」
「違イマス‼︎ 一番ハ森ノ中デ風ヲ感ジテイル時デス‼︎」
「…………モリノナカデオトヲキイテルトキモイイ」
…………理解したくない。理解したくないけど、これは僕のどういう時が一番良いかを言い合って対立してるのか?
『ふむふむ、本当に愛されておるのう』
「いくら愛されてるって言われても、騒ぎの原因にはなりたくないよ」
『それはそうじゃが、お前さんは騒動を止めれる力を持っておるから愛されても大丈夫じゃよ。周りから好かれる事で有頂天になり、自ら騒動を広げるものもおるからのう』
「……大神林にも、そういう奴がいるの?」
『騒ぎの芽は、どこにでも生まれる可能性がある。もちろん種族問わずにじゃ』
「そうなんだ…………お」
四体と世界樹の杖の写し身の方を注意しつつ、世界樹の妙に実感のこもった発言にどういう反応をしたら良いのか少し悩んでいると、周りの植物達から大神林に一人の普人族が入ったと教えてくれた。一応僕とは初対面の人かと聞いたら何度も僕と話している奴だって言われたから、サムゼンさんで間違いなさそうだね。
『状況が動き出すようじゃな』
「……世界樹の杖には十分な魔力を溜められたから帰るよ」
『待つんじゃ』
「うん? どうかした?」
『切り札はあるに越した事はないじゃろ?』
「もちろんそうだけど、時間的に世界樹の杖は今以上の進化はできないよね?」
『お前さんには、これを渡しておく』
世界樹が言うと僕の頭上にあるものが降りてきたので両手で受け取った。すると、それは金色に光りながら形を変えて僕の右手を伝っていき、僕の右上腕の服の袖で隠れる部分で腕輪となる。…………右手の動きに支障はない。
『それはいざという時のために、ただの腕輪とした眠らせておくと良い』
「…………ありがとう。これを使わないといけない時は確実に最悪の中でも、より最悪の時だね」
『事態解決のためには迷わず使うんじゃぞ』
「わかった。あ、帰る方法で一つ聞きたいんだけど良い?」
『何じゃ?』
「黒の村まで森を縮めて大丈夫?」
『…………まあ、今回は許可を出そう』
「ありがとう」
僕は座っていた世界樹の根もとから離れて、大木になっている世界樹の杖に近づき触れる。四体と世界樹の杖の写し身が、そんな僕に気づいたから説明した。
「サムゼンさんが大神林に入ってきたから、そろそろ黒の村に帰るよ」
『それじゃあ私も戻りますね。…………決着はまた後日に持ち越しです』
世界樹の杖の写し身は四体へ言いたい事を言ってから本体の大木へ入る。どうなるのか見守っていると大木全体がカッと光り、その光がおさまると見慣れた世界樹の杖を僕は握っていた。…………何をどうしたら見上げる高さの大木が僕でも持ち運べる長さの杖まで変われるのか気になるけど、全部の面倒事が終わった後に教えて貰えば良い。僕は深呼吸を一回して集中力を高めて詠唱を始める。
「緑よ。緑よ。彼方の景色をここに」
僕の詠唱と同時に黒の村の門がボンヤリ見えてくる。これは単なる映像が見えているわけじゃなくて、黒の村の門という実際にある景色を世界樹の根もとと隣り合うように距離と空間を縮めて呼び寄せたものだ。…………安定しないな。黒の村なら僕と一番関わりが深いし大神林の中にあって、大木にまで進化した世界樹の杖の補助があればいけると思ったんだけど甘くはないか。
『やり始めたなら完遂するのが最も安全。ここは助力させてもらおう』
「自分で始めておいてうまくいかないのは、かなり情けないけど助かるよ」
世界樹と世界樹の杖がつながり、制御力の上昇と足りない魔力の補完をしてもらった。その結果、ボンヤリ見えていた黒の村の門が、はっきり見えるようになる。よし、道が繋がったね。
「緑よ。緑よ。道をここに。緑盛魔法・純粋なる緑を纏う門」
この詠唱で隣り合うだけで繋がってなかった空間に道ができ、さらに門を開く事で行き来が可能になる。四体を見ると、すでにいつでも移動できる体勢になっていた。僕は世界樹へ振り向く。
「いろいろありがとう。このお礼は絶対にするからね」
『気にせずとも良い……は、納得できないみたいじゃな。それならばお前さんの無理のない範囲のお礼を期待しておこう』
「うん、楽しみにしてて」
『お前さんには これからの無事を祈るとしよう。それと我の力がいるなら呼ぶんじゃぞ』
「わかった。その時が来たら遠慮なく。またね」
僕と四体は純粋なる緑を纏う門を抜ける。すると遠巻きに村長やラカムタさん達が僕達を見ていた。どうしたんだろと思いつつ、振り返り世界樹へ手を振った後に慎重に魔法を解除していく。
…………変な余波や反動が起きないよう慎重に作業したから時間はかかったけど無事に元の景色に戻った。念のため周りの植物達に変な感じはしないか聞いたり、周りを徹底的に調べても異常はない。よし、これで問題ないね。サムゼンさんを迎えに行こう。
「ヤート、待て‼︎」
「うん? ラカムタさん、どうかした?」
「どうかしたじゃねえ‼︎ 今のは何だ⁉︎ どうやって戻ってきた⁉︎ どこに行く気だ⁉︎」
「今のは世界樹と世界樹の杖に協力してもらって作った道と門。どうやって戻ってきたって言えば、単純に作った道と門を通ってきたよ。これから行くところはサムゼンさんが大神林に入ってきたから、その迎え。……他に聞きたい事ある?」
「あ、う、お、……ないな」
「みんなは聞きたい事ある?」
ラカムタさんは、どういう表情をすれば良いのかわからないって感じで百面相をしていた。みんなに聞いてみても、ものすごく複雑そうな表情をするだけで何も言ってこない。…………少し待ってみたけど、誰も何も言ってこないからサムゼンさんの迎えに行く事にした。みんな、どうしたんだろ? 何か珍しい事があったのかな?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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