大神林の奥にて 杖の進化と四体の成長
『……る……、へ……を……、き……おるか? へん……をせ……か。聞こえておるか?』
「う……」
『ふむ……、ようやく目覚めたようじゃの。いくら何でも集中のしすぎじゃぞ』
「え……?」
世界樹の声が耳に入り、僕は気がついた。…………何だ、これ? 僕は確かに世界樹の杖を背にして座ってる。でも、僕の内臓……、いや、精神が揺れて動けない。何か対応策をしないと……。う、グレアソンさんと戦った後よりも、ある意味きつい。どうしようもなくなっていたら、世界樹の声が聞こえた。
『これを飲むが良い』
世界樹が言うと、僕の目の前に金色に輝く雫が降りてきた。そして、その雫は僕の口の中に入ってきたから、僕は思わず飲み込み効果をすぐに実感する。言葉で表現するならグニャグニャと揺れていた僕の精神が形を取り戻したという感じで、まるで汗をかいた後の水浴びみたいにサッパリした。
「……今のは?」
『我の樹液だ。味はどうじゃ?』
「感じる余裕はなかったよ」
『そうか、ならば今一度飲んでみるか?』
「…………癖になっても嫌だからやめとく」
『何事も過ぎれば毒となると考えるならば正解じゃな』
「過ぎれば毒となる? ……僕は、さっきまで世界樹の魔力に触れていて、しばらくしてから気がつくと酔ってるみたいな状態になってたよね?」
『まあ、その…………』
「何?」
僕が少し語気を強めて聞くと、世界樹から気まずそうに目を逸らす感じが伝わってきた。
『枝により多くの魔力を吸収させている時に、枝の許容量が思いの外大きいとわかってのう。面白くなってしまったんじゃ。すまん……』
「…………良いよ。それだけの事をやったかいはあったんでしょ?」
『もちろんじゃ。成長した枝を見てやってくれ』
世界樹に促され後ろを向くと、若木状態だった世界樹の杖は立派な樹になっていた。この太さと高さだったら黒の村の周りにあってもおかしくない。一応、触って同調し状態を確認しても内部はギュッと詰まっていて空洞はない。枝振りや根の張り具合も健康そのもの。とても短時間で急激に成長したとは思えない。
「うん、魔力もかなり保持してるし良い感じだね」
『あなたのおかげです』
「…………今の声は世界樹の杖?」
『はい、成長した事で直接意思疎通ができるようになりました』
「成長したてで悪いけど、近いうちにお前を全力で使う時が来るかもしれない。もっと言えば最悪、使い潰す可能性もある。その時はごめん」
『たぶん今の私なら大丈夫なので気にしないでください』
「即答で大丈夫だっていう根拠を聞いて良い?」
『はい。根拠はこれです‼︎』
世界樹の杖が気合を入れると世界樹の杖の太くなった幹から深緑色に光る両手が出てきた。次に頭が出てくる。これは僕の方に頭から飛び込んでくる感じだね。僕の予想通り、水面に頭から飛び込む勢いで深緑色に光る若干透けている人型が、僕にぶつかった。
僕は座っていて回復したばかりで体勢も整ってない。つまり受け止められない。そしてそんな状態だから抵抗できず勢いに負けて地面に倒される。
「ウ……」
『あ、ごめんなさい。嬉しくて我慢できなかったの』
「……うん?」
地面に軽く頭をぶつけたから自分の状態を確認していると、声が聞こえた。もちろん声は深緑色に光る人型からだ。うーん……、倒れてる僕の上に乗ってるけど重さはそこまで感じない。あと見た目が大人になったり子供になったりと一瞬ごとに姿がブレていて、目鼻立ちや服装も曖昧だ。きっと、まだ写し身を作るのに慣れてないんだね。
「世界樹の杖……だよね?」
『はい。あなたのおかげで写し身を作れるようになりました。これはごく少数の強力な存在にしかできない事なのです』
「なるほど、つまりお前は成長したというより高位の存在に進化したんだね」
『進化‼︎ 良い言葉です。はい、私は進化しました‼︎ だから、あなたの望む力を発揮できます‼︎ 大丈夫です‼︎』
「そうか。今までも頼りにしてたけど、これからも力を貸してもらうよ。よろしく」
『はい‼︎』
僕と世界樹の杖の写し身が握手をしようとしたら、僕の身体に二本の蔓が巻きつきグンッと思い切り引っ張られる。視界が高速で流れた数瞬後、僕はガッシリ受け止められた。衝撃を殺すように受け止めてくれたのはディグリとミックで、二体は世界樹の杖の写し身を鋭い目でにらみつけている。あ、鬼熊と破壊猪も僕の前に出て世界樹の杖の写し身に威嚇し出した。まったく状況がつかめないけど、とりあえずだ。
「世界樹のそばに来て大丈夫?」
「ガア‼︎」
「ブオ‼︎」
「克服シマシタ」
「…………キアイ」
どうやら僕が世界樹の杖へと世界樹の魔力を誘導している時に、少しずつ近づけるようになったらしい。
『ほう……、本能の怯えを超えてくるとは興味深いのう』
「本能の怯え?」
『自分よりも大きいものを前にした時、ほとんどのものは怯えて動けなくなるものじゃ』
「まあ、そうだね」
『今の状況で言えば、その四体が対面しているのは大きさも魔力量も桁違いの我だ。いくら他で強くとも、動けなくなるのは自明の理』
「だから四体がここまで来れた事に驚いてたんだね」
『擬態を解いた我に自ら近づくもの達は、お前さん以外には久方ぶりじゃよ』
世界樹の嬉しそうな声が印象的だね。大神林っていう強力な存在が多数いるのに、世界樹自身が強すぎて、ずっと一人だったのか……。まあ、動けなくても大神林の全域を感知するくらいはやれる気がするから、そこまで寂しいとかはないのかな?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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