黒の村にて 動き出した事態とさらに必要なもの
なんだかんだで食事も状況確認も進み、僕は気になっていた事を聞いた。
「サムゼンさん、その教団っていうのは、例えばどんな事件に関わってるの?」
「一番わかりやすいのは、王城へハザランを手引きした事だな。それと総団長が王城を離れるように画策したのも間違いなく奴らだ」
「ああ、なるほど、あの時の不自然な状況は、やっぱり裏があったのか」
「他にも禁制の麻薬の蔓延、人身売買や人体実験など、一般人なら直視できない事を各地で実行している」
僕はサムゼンさんの話を聞いて思った事を口にした。
「それだけの事を各地でできるなんて、ずいぶんと大きい組織なんだね」
「いや、教団自体はそこまで大きくはなく、外部の協力者が徹底的に支え仕えてるという感じだな。だから各地で暗躍する協力者を一人二人捕らえたとしても教団にはたどり着けない……」
「もぬけの殻とか?」
「いや、我らが協力者の拠点に踏み込んだ時には拠点にいたもの全員が自害していて証拠品なども処分されていた」
「…………なんていうか狂信的だね」
「まったく理解ができない集団だが、恐ろしく統制が取れていて活動の隠密性も高い」
サムゼンさんの口調は苦々しさにあふれていて、顔も厳しい表情になっている。
「今までも教団の関与を臭わす微かな状況証拠しか見つかってないんだ。一つでも何か教団の関与を示す物証があれば突破口になるのが……」
「うーん、リザッバは僕の魔法で文字通り消しとばしたから何も残ってないんだよね。こんな事なら決着の仕方を変えるべきだったな」
「ヤート殿、異常者相手に加減をする必要はないから、それは違う。むしろ消し飛ばしたのは最善だ」
「それはそうなんだけどね……。うん?」
サムゼンさんの話を聞きながら悩んでいると、僕の服が後ろから軽く引かれた。見るとミックだった。
「ミック、どうかした?」
「…………コレ」
ミックが両手を伸ばしてきて、その掌には見た事のない紋章が刻まれた首飾りを乗せていた。
「ミック、これは?」
「…………ムシリトッタ」
「リザッバからって事?」
僕が聞くとミックはうなずく。……そうか、ミックはリザッバに貫かれたり逆に蔓で拘束したりと、一番接近してたからリザッバから首飾りを奪えたんだね。僕はミックからリザッバの首飾りを受け取りサムゼンさんに渡した。するとサムゼンさんはクワッと目を開き驚いている。
「これは……、間違いなく教団の紋章だ」
「サムゼンさん、それはリザッバの身につけていたものだから、リザッバが教団関係者なら黄土と大霊穴での事件に教団が関与したっていう証拠になるんじゃない?」
「フ……、フフ……」
「サムゼンさん?」
サムゼンさんが自分の掌にあるリザッバの首飾りをギュッと握りしめて肩を震わせだしたから呼びかけると、サムゼンさんは突然立ち上がった。
「フハハハハハハハハッ‼︎ これがあれば教団を追い詰められる‼︎ ヤート、感謝する‼︎」
「それはミックが取ってきたものだから感謝ならミックに言ってあげて」
「おお、そうだな‼︎ ミック殿、僭越ながら王に代わり感謝を申し上げる‼︎ 本当にありがとう‼︎」
「…………イイ」
「村長殿。せっかく食事の席を設けてもらったのに申し訳ない。王城へ戻らなければならなくなった」
「ふむ、善は急げというし心置きなく行かれるが良い」
「感謝する‼︎」
サムゼンさんは僕達に深く礼をすると黒の村の門へ全速力で走り出した。とにかく少しでも早くリザッバの首飾りを届けたいという感じの勢いで、本当に困ってたというのがよくわかる。…………これは僕も準備を急いだ方が良さそうだな。僕は一通り食べ終わると立ち上がり村長に話しかけた。
「村長、僕も準備があるから行くね」
「……どこに行く気じゃ」
「大神林の奥だよ」
「なぜ、行く必要がある?」
「世界樹の杖に魔力を溜めるためだね」
僕が腰に巻きついてる世界樹の杖を触りながら答えると、みんなの視線が世界樹の杖に集まる。そんな中、ラカムタさんが僕に聞いてくる。
「ヤート、村に帰る途中でも世界樹の杖に魔力を溜めていたよな? それに溜めるなら黄土の村でやっていた事を黒の村でもすれば良いはずだ。なぜ、わざわざ大神林の奥に行く必要があるんだ?」
「確かに村でもやれるけど、いつ事態が急変するかわからないし、もっと多くの魔力をできるだけ短時間で溜めるには大神林の奥が最適」
「…………ヤートはそうとう状況が悪化すると考えてるんだな。村長、ヤートを行かせてやってくれ」
「そうじゃのう……」
村長は何かを考えてから僕に確認をとってきた。
「ヤートが大神林の奥にいる時にサムゼン殿が村へと来た場合、ヤートはわかるのか?」
「それは植物達が教えてくれるから、サムゼンさんが大神林に入ってくればすぐにわかる」
「例えわかっても、すぐには村へと戻って来れんじゃろ?」
「それも、たぶん大丈夫。戻ってこようと思えば、すぐに戻れるはずだから」
「……本当じゃな?」
「ここで村長に嘘をつく理由がない」
「…………確かにな。良いじゃろう。行ってくるが良い」
「うん、ありがとう。それじゃあ行ってきます」
僕は村長に礼を、みんなにあいさつを言ってから村の門へと歩き出すと、またディグリに抱き上げられて鬼熊の背に乗せられた。そして僕を乗せた鬼熊が歩き出せば、他の三体も並んで歩き出す。今回も僕に力を貸してくれるみたいだ。
「また、協力してくれるんだね。ありがとう」
「ガア」
「ブオ」
「貴方ヲ助ケルノガ私ノ役目デス」
「…………トウゼン」
本当に心強いね。よし、最大限の準備をしてこよう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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